2016年12月28日
【失敗?】『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド
失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、私たちが目をそらしがちな「失敗」について掘り下げた1冊。タイトルには「組織」とありますが、むしろ個人に関する指摘も多いので、幅広い読者層に受け入れられそうです。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
なぜ、「10人に1人が医療ミス」の実態は改善されないのか?
なぜ、燃料切れで墜落したパイロットは警告を「無視」したのか?
なぜ、検察はDNA鑑定で無実でも「有罪」と言い張るのか?
オックスフォード大を首席で卒業した異才のジャーナリストが、医療業界、航空業界、グローバル企業、プロスポーツリームなど、あらゆる業界を横断し、失敗の構造を解き明かす!
なお、単行本の定価より400円以上お得なKindle版も配信されていますので、そちらもご検討を。
思わず付箋も貼りまくりました!
【ポイント】
■1.飛行機事故と医療事故の共通点とは?車輪の問題にこだわり続けたマクブルーム機長と、気管挿管にこだわり続けたアンダートン医師。どちらも認識力が激しく低下していた。機長は燃料切れの危機に気づかず、医師は酸素欠乏の危機に気づかなかった。機長は車輪問題の答えを探すのに必死で、医師は気管チューブを挿入するのに必死だった。迫り来る惨事はまったく無視された。
航空機関土は機長に残燃料を知らせたが何の反応も得られなかった。看護師のジェーンも、気管切開の準備をしたが医師たちに無視された。どちらももっと明確に伝えるべきかと苦悶したが、権威ある相手を前に萎縮した。社会的圧力、有無を言わせぬ上下関係が、チームワークを崩壊させたと言える。
■2.人はウソを隠すのではなく信じ込む
シュルツは上述の著書で、イノセンス・プロジェクトのピーター・ニューフェルドにすばらしい取材を行っており、彼の言葉を次のように引用している。容疑者の無罪が証明され、我々が裁判所を出るとき、検察側によくこう言われます。「我々はまだあなたのクライアントが有罪だと思っている。いずれ再審請求する」。それで何もないまま数ヵ月が過ぎて、最終的に向こうから言ってくるんですよ。「訴訟の取り下げに同意しよう。しかしあなたのクライアントが潔白だからじゃない。時間が経ちすぎて、もう証人を見つけるのが難しいからだ」(中略)本当に大勢の検察官や刑事が同じような態度をとります。それで最後にこう言うんです。「言葉ではうまく言えない。論理的な説明はできないが、私はあなたのクライアントが絶対に有罪だという確信がある」
■3.本当は逆効果だったスケアード・ストレート・プログラム
これまで8000人に及ぶ青少年犯罪者が、刑務所の硬い木の椅子に座り、目の前の囚人たちに怯えながら、残酷な現実を学びました。このユニークなプログラムは目覚ましい効果を上げています。参加地域の報告によれば、ローウェイ州立刑務所を訪れた子どもたちの80〜90%が、その後更生しているということです。これは驚くべき成功率で、従来の更生手段とはほとんど比較になりません。(中略)しかし、このスケアード・ストレート・プログラムには、ひとつ大きな問題があった。実は、効果がなかったのだ。のちの厳密な検証によって、刑務所を訪問した子どもたちの再犯率は高くなることが明らかになったのである。スケアード・ストレート・プログラムは、青少年をまっすぐに更生させるどころか、さらに歪めてしまった。明らかな失敗であり、子どもたちをいろんな意味で傷つけることにもつながった。
■4.失敗を糧とする成長型マインドセット
モーザーの実験結果は、本書のさまざまな考察を裏付ける。個人でも組織でも、失敗に真正面から取り組めば成長できるが、逃げれば何も学べない。考え方の違いは脳波に如実に表れるのだ。
失敗から学べる人と学べない人の違いは、突き詰めて言えば、失敗の受け止め方の違いだ。成長型マインドセットの人は、失敗を自分の力を伸ばす上で欠かせないものとしてごく自然に受け止めている。
一方、固定型マインドセットの人は、生まれつき才能や知性に恵まれた人が成功すると考えているために、失敗を「自分に才能がない証拠」と受け止める。人から評価される状況は、彼らにとって大きな脅威となる。
■5.究極の失敗型アプローチ:事前検死
近年注目を浴びている「失敗ありき」のツールがもうひとつある。著名な心理学者ゲイリー・クラインが提唱した「事前検死(pre-mortem)」だ。これは「検死(post-mortem)」をもじった造語で、プロジェクトが終わったあとではなく、実施前に行う検証を指す。あらかじめプロジェクトが失敗した状態を想定し、「なぜうまくいかなかったのか?」をチームで事前検証していくのだ。(中略)
事前検死は非常にシンプルな手法だ。まずチームのリーダー(プロジェクトの責任者とは別の人物)は、メンバー全員に「プロジェクトが大失敗しました」と告げる。メンバーは次の数分間で、失敗の理由をできるだけ書き出さなければならない。その後、プロジェクトの責任者から順に、理由をひとつずつ発表していく。それを理由がなくなるまで行う。
【感想】
◆冒頭の付箋画像でもお分かりのように、非常に充実した1冊でした。そのカバーしている範囲も、よくある「失敗が隠蔽される組織」のお話から、後半では「失敗を活かす」お話まで、結構幅広いもの。
当ブログでもそれなりに「失敗本」をカバーしている関係で、エピソード自体は既知のものもありましたが、改めて整理し直せた感じです。
もちろん初見の方なら、興味深いものが多々あると思いますし、この機会にまとめて学んでいただければ、と。
◆さて、まずは上記ポイントの1番目にある「緊急時での失敗」から。
どちらも「迫り来る危機」に気が付けなかったのですが、それにはある「理由」がありました。
それは「時間感覚の麻痺」。
当事者たちが感じていた時間は、実際の時間よりもはるかに短く、その結果間に合うと思っていた作業が手遅れになってしまいました。
よく、「集中していると時間の経過はあっという間」とか言いますけど、まさにそれ。
ただし、この航空業界と医療業界との間には大きな違いがあり、医療業界では「言い逃れ」の文化が根付いているのだそう。
それに対して、航空業界は1度事故があると徹底的に検証されますから、「失敗」が活かされやすいワケです。
◆とはいえ、医療業界でも意図的に失敗を隠す、というより、失敗を失敗とは思っていないケースも多いらしく。
実際、医療事故が起こった際には
「最善を尽くしましたが、期せずしてこういうことが起こるんです」などと言うのだそう。
また、上記ポイントの2番目では、冤罪となったケースでの検察側の対応が描かれていますが、「裁判では負けたが自分は間違っていない」と考えているのが明らかです。
よく冤罪事件で「検察が控訴した」とか聞くと、面子を保つためなのかと思っていましたが、どうやら本気でその容疑者が犯人だと信じている模様。
本書では、手術中に急にアレルギー反応を起こした患者のお話も出てくるのですが、アレルギーに詳しかった麻酔外科医が、手袋の交換を申し出ても、執刀医は「手術を始めてから1時間半も経っているからそれはない」と拒否します。
普通、手術室では執刀医の判断に逆らってはいけないため、その後もその執刀医は頑固に拒否し続けたのですが、たまたま麻酔外科医は自分の父親を医療過誤で亡くしており、強硬手段に出た結果、患者は助かったという(詳細は本書を)。
もし似たようなケースが起きていたとしたら、「99.9%」執刀医は自分の意見を通し、患者は助からなかったでしょう。
◆一方、上記ポイントの3番目に出てくる「スケアード・ストレート・プログラム」の失敗は少々複雑です。
このプログラムがどういうものかを紹介するエントリーがあったので、そちらをご覧いただくとして。
【衝撃動画】身がすくむほどのド迫力! アメリカの非行防止プログラムがマジで怖い!! | ロケットニュース24
まず更生率が8〜9割、というのは、そもそもアンケートに回答した中だけのもの。
つまり、その後更生していない家族なら、回答自体をしていない可能性が高いです。
おまけに、このプログラムに参加した子どもたちの多くが、そもそも非行少年でも非行予備軍でもなかったとのこと。
さらには、「もしこのプログラムを実施していなかったら?」という「反事実」の検証もしていませんでした。
ただ、ストーリー的にも、こういうプログラムに効果がある、と言われたら、自然に受け入れられそうなのが怖いところです。
◆なお、本書の終盤部分では、失敗からあえて学ぶお話が登場。
上記ポイントの4番目にあるように、「成長型マインドセット」と言えば、今年話題となったこの本を忘れるわけにはいきません。
マインドセット: 「やればできる!」の研究
参考記事:【オススメ!】『マインドセット: 「やればできる!」の研究』キャロル・S. ドゥエック(2016年01月18日)
そして同じくこの本の著者であるダックワース女史も、本書では登場しています。
やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける
参考記事:【グリット?】『やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』アンジェラ・ダックワース(2016年09月12日)
要は、本書は盛りだくさんであり、お買い得感が高いということ。
これはオススメせざるを得ません!
失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織
第1章 失敗のマネジメント
第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む
第3章「 単純化の罠」から脱出せよ
第4章 難問はまず切り刻め
第5章「 犯人探し」バイアス
第6章 究極の成果をもたらす マインドセット
終章 失敗と人類の進化
【関連記事】
マッキンゼーが選んだ『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』の10個の原則(2011年06月23日)『錯覚の科学』が想像以上に凄い件について(2014年08月19日)
【オススメ】『小さく賭けろ!―世界を変えた人と組織の成功の秘密』ピーター・シムズ(2012年04月05日)
【オススメ!】『マインドセット: 「やればできる!」の研究』キャロル・S. ドゥエック(2016年01月18日)
【グリット?】『やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』アンジェラ・ダックワース(2016年09月12日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。ブログ飯 個性を収入に変える生き方
私を『世界一やさしい ブログの教科書 1年生』でご紹介してくださった、染谷昌利さんのブロガー本。
中古が普通に高いところ「65%OFF」ということで、Kindle版の方が1000円以上お買い得です!
ご声援ありがとうございました!
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