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2016年09月20日

【心理学】『使ってはいけないエセ心理学 使ってもいい心理学』妹尾武治


使ってはいけないエセ心理学 使ってもいい心理学
使ってはいけないエセ心理学 使ってもいい心理学


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事にてご紹介した「心理学本」。

著者の妹尾武治さんは「心理学博士」だけあって、当ブログでレビューした過去の2冊の著作同様、本書も「エビデンス」ベースで展開されており、説得力がありました。

アマゾンの内容紹介から。
なぜ、心理学はこんなにも人気でこんなにもうさんくさいのか? 世にはびこる俗説のウソ・ホントを最新科学で解き明かす。

有名なテクニックにも、実は「オモテ」や「ウラ」があったとは!?





suspension bridge / Junior-10


【ポイント】

■1.見た目が魅力的でないと、吊り橋効果は逆効果!?
 まず、魅力的な見た目の女性の方が、魅力的ではない見た目の女性よりも評点が高くなった。これは悲しいことだが、当然の結果である。次に、魅力的な見た目の女性の場合には、120秒走った条件での評点の方が、15秒しか走らなかった条件の評点に比べ数値が2割以上も高くなった。
 しかし、おもしろいのはここからである。魅力的な見た目ではない女性の場合、120秒走った条件の方が、15秒しか走らなかった条件に比べて、4割も評点が低くなったのだ。
 つまり、走ることで生じたドキドキ感は、魅力的な見た目の女性に対してはプラスに働く誤帰属がなされる。一方で、魅力的ではない見た目の女性には、ドキドキ感がマイナスに働き、魅力の評点が低くなるのである。


■2.「フット・イン・ザ・ドア」は確固たる心理現象
「フット・イン・ザ・ドア」とは、相手に何かを依頼するときに、相手が承諾しやすい小さく簡単な要求から始めて、要求を徐々に大きくしていくという折衝技術のことである。(中略)
 フット・イン・ザ・ドアの心理学実験による検討は1966年のジャーナル・オブ・パーソナリティ・アンド・ソーシャル・サイコロジーに掲載された論文にまで遡る。著者は名門スタンフォード大学のフリードマンとフレーザーであった。その後、1999年にバーガーがフット・イン・ザ・ドアについての解説総論を書くまでに、バーガーによれば100件を越える論文がこの現象についての実験的な検討を加えている。そして、そのほとんどでフット・イン・ザ・ドアが実際に存在する心理現象であると報告されているのである。


■3.「脳トレ」の効果は「脳トレ」がうまくなること
 筆者らは、さらにトレーニングとしてくり返し取り組んだ「脳トレゲーム」の課題の成績の向上は確かにあることを確認している。つまり、脳トレを行うことで、課題の成績は向上するものの、人間の認知処理能力一般にはその効果が波及していかないということである。脳トレで鍛えられるのは、とても限られた、脳トレの中に閉じられた能力でしかなかったのである。
 たとえば、バスケットボールの練習をくり返せば、運動能力全般が高まることは簡単に想像できる。しかし、脳トレの効果をこれにたとえるならば、バスケの練習をくり返しても、運動能力全般は高まらず、あくまでもバスケが上手くなるのみというような特殊な状況が生じたようなものである。


■4.海馬は鍛えても大きくなるだけではない
 しかし、この論文に記載されていることを精査すると、実際にはタクシードライバーの脳は大きくなる一方ではないのだ。彼らの研究結果によると、タクシーの運転歴は、海馬の後方部分の大きさとは正の相関を示す(脳体積の計測手法の1つ、VBMによる)が、海馬の前方部分の大きさとは負の相関を示したのである(図3-6)。筆者らは、海馬の後方部分は既知の空間記憶に関連しており、海馬の前方部分は新規に体験する空間の処理に関係していると述べている。
 つまり、既知の空間記憶を大量に保持せねばならないロンドンのタクシードライバーは、海馬の後方部分を肥大化させて、より多くの記憶を保持し、活用していると考えられるのである。
 ロンドンのタクシードライバーの海馬の大きさは、決して大きくなるだけではないことをここではぜひ覚えておいてほしい。


■5.年を取っても脳細胞は減らない
 たとえば、「老化に伴って脳細胞が劇的に減る」という言説は完全に誤りである。健康な70代〜80代の脳と20代の脳の脳細胞の数はほとんど同一である(大きな個人差はあるが)。体が健康であれば、脳は決して若者に劣らないのである。それどころか、老人の脳でも新しい神経のネットワークが活発に形成されていることが、近年科学論文でくり返し報告されている。
「老化すると脳のシナプスの柔軟性が下がり、新しい学習が困難になる」という言説もまったく科学的なサポートがない。むしろ、老人でも活発で柔軟なシナプスの働きがあることが近年くり返し報告されている。
 心理学で明らかにされているのは、年を取ると脳が衰えるわけではなく「自分はもう老人である」というネガティブな発想が、種々の課題に対するやる気を阻害し、結果的に種々の課題に対するパフォーマンスを下げてしまっているということである。


【感想】

◆本書に登場するテクニックや学説は、その多くが当ブログでは登場済みのものでした。

ただし本書は、それらすべてについてエビデンスに当たっており、その効果のほどや実情について検証しているのがミソ。

たとえば上記ポイントの1番目の「吊り橋効果」については、確かに「効果が認められる」ものの、それは「容姿に左右される」ようです。

……実は以前ご紹介したこの本でも、本件について検証しており、当時はネタバレ自重したのですけど、1年以上経ちましたから、まぁいいかな、と。

恋愛の科学  出会いと別れをめぐる心理学
恋愛の科学  出会いと別れをめぐる心理学

参考記事:【モテ】『恋愛の科学  出会いと別れをめぐる心理学』越智啓太(2015年07月31日)

それ以前に、何故に同じ実験を「男性を用いて」行ってくれなかったのか、小一時間(ry


◆続く「フット・イン・ザ・ドア」も、当ブログの読者さんならお馴染みのテクニックでしょう。

フット・イン・ザ・ドア・テクニック(ふっと・いん・ざ・どあ・てくにっく)とは - コトバンク

初登場が1966年とは知りませんでしたし、1999年までに100件の論文が書かれていたというのもビックリです。

本書では、そのフリードマンとフレーザーの実験について、詳しく紹介していますが、これらについては、確か『影響力の武器』にも載っていた記憶が。

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか
影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

参考記事:【速報!】『影響力の武器』の[第三版]を[第二版]と比較してみました(2014年07月14日)

その『影響力の武器』で言うなら、「フット・イン・ザ・ドア」と並んで(と言うか「対にして」)紹介されることが多いのが、「ドア・イン・ザ・フェイス」テクニック。

ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(どあ・いん・ざ・ふぇいす・てくにっく)とは - コトバンク

実はこれ、『影響力の武器』の著者である、ロバート・B・チャルディーニらが最初に論文として発表した(1975年)のだそうで、こちらも同じく「科学的にその効果が証明されている」とのこと。


◆一方、上記ポイントの4番目の「ロンドンのタクシードライバーの海馬が大きい」というお話は、「脳は鍛えれば大きくなる」例としてよく取り上げられますし、私もそう思っていましたが、実はそんなに単純な話ではなかったようです。

要は「海馬の後方部分」が大きくなる反面、逆に「海馬の前方部分」は小さくなるということ。

引用部分の冒頭の「この論文」とは、ユニヴァーシティ・カレッジ・オブ・ロンドンのマグワイアらによって、PNASという学術誌に2000年に報告されているものですから、もう発表されてから16年も経っているのに、私は知りませんでした。

ちなみに海馬の「後方部分」は「既知の空間記憶」に関連し、「前方部分」は「新規に体験する空間の処理」に関連している、という部分を踏まえてこの動画を見ていただきたいのですが(再生は15秒ほどです)。



最後の部分の「しかし研究によれば、合格して勉強を終えた者が、新たにルートを覚えるのは難しいという」という一節が、「なるほど、それでか……」と腑に落ちるという。


◆ただ、ここまでハードに脳を鍛え上げるケースはマレでしょうし、そもそも鍛えねばならないほど空間記憶を使うこと自体あまりないでしょう。

むしろ、上記ポイントの5番目にあるように、「年を取っても脳細胞は減らない」というお話の方が、個人的には励まされます。

ここでも指摘されているように、「加齢は記憶力を弱める」という思い込みの方がはるかに悪影響があり、確かにこういった思い込み(「女性は数学が苦手」等)の影響力の強さは、類書でも紹介されていました。

皆様におかれましては、どうせ思い込むなら、むしろ「自分はできる」とポジティブに思い込んで、今後も仕事や勉強に打ち込んでいただければ、と。


最新科学で心理ネタ・脳ネタを斬った1冊!

使ってはいけないエセ心理学 使ってもいい心理学
使ってはいけないエセ心理学 使ってもいい心理学
第1章 使ってはいけない心理テクニック
第2章 使ってはいけない脳科学
第3章 使ってはいけない勉強の心理学
第4章 使ってはいけない教育の心理学
第5章 使ってはいけない無意識の心理学


【関連記事】

【科学的?】『おどろきの心理学 人生を成功に導く「無意識を整える」技術』妹尾武治(2016年02月22日)

【科学的?】『脳がシビれる心理学』妹尾武治(2014年10月21日)

【モテ】『恋愛の科学  出会いと別れをめぐる心理学』越智啓太(2015年07月31日)

【速報!】最強のビジネス本「影響力の武器」の[第二版]がいよいよ登場!!(2007年08月18日)


【編集後記】

◆サイドバー等でご紹介していたアルクさんの「Kindle本半額セール」ですが。

【50%OFF!】「アルク語学学習本半額セール」開催中!【Kindle】(2016年09月02日)

セールは「9月9日まで」のはずが、いつ見直しても半額のままだったので、ずいぶん延長しているんだな、と思ったら、どうも別途セールが始まり、それが「9月22日まで」のようです。

Amazon.co.jp: 【50%OFF】アルク秋の語学書キャンペーン(9/22まで): Kindleストア

対象作品はほぼ同じようなので、お買い得作品等は、引き続き上記記事を参考になさってください。


人気blogランキングご声援ありがとうございました!

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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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