2016年09月05日
【実践的マーケティング】『空気のつくり方』池田 純
空気のつくり方
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、昨日の「未読本・気になる本」の記事にて取り上げた「マーケティング本」。確かに「横浜DeNAベイスターズ」を対象とした作品なのですが、選手の名前すらほとんど出てこないのに、某リアル書店では「プロ野球」コーナーにあって、探すのにてこずりましたw
アマゾンの内容紹介から一部引用。
本書は、池田氏がこれまで仕掛けてきたアイディア、球団のあり方など、ベイスターズ改革の全貌、そして池田式マーケティングの極意である、商品が売れる「空気のつくり方」を1冊にまとめたものです。
球団改革の"空気"はいかにして生まれたのか。実例と、ビジュアルでご覧いただけます。
なお、お買い得なKindle版のご用意もあります!
P1000520 / shiori.k
【ポイント】
■1.コントロール可能な領域に力を注ぐプロ野球というスポーツは、過去の歴史上、どんなに強いチームでも、2回に1回ないし3回に1回はシーズンを通すと負けていることになります。ともすれば、3分の1ないし2分の1の確率でお客さま(リピーター)を失いかねないのです。
であるならば、コントロール可能な領域に徹底的に力を注ぐべきです。たとえべイスターズが試合に負けたとしても、球場を訪れたこと自体で満足できるような「ボールパーク」にするのが集客の王道です。最高に楽しいボールパークで非日常の雰囲気を味わってもらう。勝っても負けても、100%の確率で、楽しかった気持ちを持って帰ってもらう。
■2.KPIを定め、それに注目する
日々、さまざまなデータに触れ続けていると、「今もっとも重要視すべきデータは何か」「それさえ見ていれば方向性を見出すことができる」という数字に気づけるようになっていきます。こうした経営上もっとも重要な指標は、マーケティング用語では「KPI(Key Performance Indicators =重要業績評価指標)」と呼ばれています。
たとえばべイスターズにおいては、私はある時期、球団HPのDAU((Daily Active Users =1日にHPにアクセスしたユニークユーザー数)をもっとも重要な指標としていました。あらゆるデータを見続けた結果、その数字に軸を置いてモノゴトを見渡していけば、ファンの空気が感じ取れ、チケットの売れ行きもおおよその予測がつくということを確信できたからです。
■3.SNSをFacebookのみにしているワケ
現在のところ、べイスターズの常設SNSはFacebookしかありません。インスタグラムもLIN(βで運用テスト中)も常設していなければ、ツイッターの公式アカウントもありません(新商品や在庫状況などをお知らせする「グッズ情報」のアカウントのみ)。社員からは「やってみましょうよ」という提案を何度も受けてきましたが、私はブレーキをかけ続けてきました。
なぜかというと、短文や写真で表現しなければならないタイプのSNSは、おもしろくなければ、拡散も限定的で、SNSのオープンな特性を生かしきれないからです。そして、そのおもしろさはどうしても、投稿を担当する個人のセンスに頼る部分も大きくなってしまいます。(中略)
やるからには担当者個人に依存することなく組織として取り組み、常にセンスのある、おもしろい情報発信を続けることで、球団のブランディングにつなげていくことが求められます。しかしそれは、ひじょうに難易度が高い作業です。少なくとも今のべイスターズにその余力はありません。それが、私がFacebook以外のSNSにべイスターズとして容易に手を広げない理由です。
■4.LTV(顧客生涯価値)を意識した施策を取る
べイスターズは2015年12月、球団創設5周年企画の一環として、神奈川県内のすべての子どもたちにべースボールキャップを配布しました。その数は総計約72万個にも上ります。この取り組みに投じたコストは億単位です。(中略)
キャップをもらった子どものうち何人がファンクラブに入ってくれて、平均何年間会員でいてくれるか。さらにその子どもが平均何人の大人を球場に連れてきてくれることにつながるのか。こうした数字を足し合わせていくことでLTVも高まっていくことになります。
キャップの配布に際して、これらの数値(予測期待値)を綿密に試算しました。それらの結果、コストはどうにかカバーできる試算も成り立ち、実施を判断したわけです。
■5.球場で出す飲食物にもこだわる
べイスターズでは2016年から、ビール以外にも「べイカラ」(から揚げ)や「BAYSTARS DOG」(ホットドッグ)などの、べイスターズがこだわったオリジナルの飲食物を提供しています。から揚げやホットドッグは定番化した、アレンジの加えにくい料理であり、オリジナリティを出すのに四苦八苦しながらも、素材を変えたり、ミシュランで星を獲得しているシェフに協力を仰いだりしながら、少しでもおいしいものをご提供したいと思い、開発を重ねました。
ミシュランのシェフが考案した、球場で食べられるから揚げ。そう聞くだけで想像カがかき立てられ、おいしいビールとともに食べてみたくなってもらえるはずです。それに続いて、横浜名物の「しゅうまい」がミシュランのシェフの手にかかったらどんなものになるのか? そんな無理難題もお願いしています。おいしくないものを安く提供するより、100円高くなってしまってでもおいしいものを提供したい。そう考えて、本物を提供することにこだわっています。
【感想】
◆私は野球に疎いというか、結婚して以来10年以上、テレビで野球観戦したことがないくらいなので、そもそもベイスターズがこんなに弱い(今現在3位ですが、過去5年間は5位か6位)ということを知りませんでした。しかしそれ以上に驚いたのが、そんなに弱いにもかかわらず、横浜スタジアムでのホームゲームにお客さんが殺到していること。
普通はチームが強くなるにつれてお客さんが増えるもので、例えばこの本は、「いかにパイレーツが強くなるったか」を明かした本なのですが、勝率に比例するように、観客数も伸びていました。
ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法
参考記事:【野球】『ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法』トラヴィス・ソーチック(2016年04月07日)
ところがベイスターズは「弱いのに大人気」。
2015年の年間稼働率は約90%であり、アメリカのMLBですら90%を超えているのは「30チーム中4チームだけ」であることを考えると、その人気ぶりは世界的に見てもトップクラスと言えるでしょう。
そして、ベイスターズがこうした「最下位争い」を続けてきたにもかかわらず、なぜスタジアムが連日満員なのかを明かしたのが、本書というワケです。
◆実際、上記ポイントの2番目以降をはじめとして、本書のほとんどがこの「集客施策」で占められておあり、付箋貼った個所もわんさか。
そのほとんどが「マーケティング」的なものであり、プロ野球球団の社長さんがどうしてここまでマーケティングに詳しいのかと思ったら、著者の池田さんは、住友商事や博報堂を経て、DeNAに入られた方とのこと。
どうりで、上記ポイントでも「KPI」とか「LTV」なんてフレーズが、サラッとでてくるワケですよ。
とはいえ、自分や球団を過信されているのではないことは、上記ポイントの3番目のSNSの例でも明らか。
普通SNSを活用する、となったら、なんでもかんでも手を出しそうなものですが、あえてFacebookに絞っている、というのは「目からウロコ」でした。
……逆にご自身が代理店にいらしたら、「これからはインスタグラムですよっ!」とか言って、積極的に使わせていたかもしれませんけどw
◆なお、上記ポイントの5番目では食べ物について触れていますが、その冒頭にあるように「ビール」にもこだわりがありました。
なんと球団オリジナル醸造ビールまで手掛けているのだそうです。
3/29(火)よりオリジナルビール『BAYSTARS ALE』横浜スタジアム場内発売 | 横浜DeNAベイスターズ
5/27(金)球団オリジナル醸造ビール第二弾『BAYSTARS LAGER』発売決定! | 横浜DeNAベイスターズ
これらはいずれも、ビールの本場であるアメリカ・ポートランドやドイツを訪問したり、日本の名だたるクラフトビールをほとんど試した上で作り上げたのだとか。
また、リンク先にラベルの絵柄も載っていますが、このデザインにもこだわっている模様。
◆さらに、割愛した中で触れておきたいのが、スタジアムに作られた「DREAM GATE」です。
これは、以前は搬入口として使用されていたセンターバックスクリーン下をぶち抜いて、新たに装飾し直したもの。
可能な限りそのゲートをいつも開け放ち、横浜公園の側からグラウンドが見渡せるよう改修したことで、試合前に選手たちが練習している様子などを公園から気軽に見ることができるようになりました。
ニュース | 横浜スタジアムにフォトスポット『DREAM GATE』オープン | 横浜DeNAベイスターズ
しかも、2016年シーズンからは、試合開催日の早朝にグラウンドを無料開放しているそうです。
ニュース | 横浜スタジアムをキャッチボールの為に無償開放『DREAM GATE CATCHBALL』実施 | 横浜DeNAベイスターズ
ググったら、実際にグラウンドでキャッチボールをされた方の記事もありました。
横浜スタジアム朝キャッチボール!平日グラウンド無料開放イベントに行ってきた♪写真付体験記
皆さん楽しそうw
◆そんなワケで、本書のコンテンツは、野球のみならず「集客」をお考えになる方なら、かなり広範囲に活かせると思います。
逆に「野球ファン」の方は、あまりに野球の話がないので、読んでも面白くなさげ(ベイスターズファンを除く)。
そう考えると、私が本書を買ったリアル書店も、もうちょっと本書の置き場所を何とかして欲しいものです。
ただし、この件については、サラッと流しているというか「ハマスタ友好的TOB」とか書かれているので、ドロドロしたお話を期待している方は、肩透かし(?)を食らうこと必至!?
いわゆる静かにしろ案件、横浜DeNAベイスターズが横浜スタジアムの運営会社を買収へ : 市況かぶ全力2階建
……集客と関係ないから全然いいんですけどねw
いずれにせよ、マーケティング本は数多くありますが、実際にここまで成功している例というのは、結構珍しいと思います(後はUSJくらい?)。
マーケティング本好きなら、マストな1冊!
空気のつくり方
第1章 最下位なのに満員なのはなぜ?
第2章 顧客の空気を知る
第3章 世の中の空気を知る
第4章 組織の中に戦う空気をつくる
第5章 コミュニケーションのつくり方
第6章 センスの磨き方
【関連記事】
【野球】『ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法』トラヴィス・ソーチック(2016年04月07日)【超集客力?】『日本全国 超繁盛店の すごい集客』日経レストラン(2012年12月03日)
【オススメ!】「外食の天才が教える発想の魔術」フィル・ロマーノ(2008年03月20日)
【オススメ】『ビジネスをつくる仕事』小林敬幸(2013年10月21日)
【編集後記】
◆上記で登場した『ビッグデータ・ベースボール』ですが、現在Kindle版が、カドカワさんの「IT&サイエンスフェア」の対象となっています(一部終了開始中)。ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法 (角川書店単行本)
中古価格とKindle版が同じくらいなので、送料と「20%ポイント還元」分を合わせた500円ほど、Kindle版がお得ということに!
ご声援ありがとうございました!
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