2016年08月17日
【論理思考】『「超」入門!論理トレーニング』横山雅彦
「超」入門!論理トレーニング (ちくま新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも人気だった「ロジカルシンキング本」。著者の横山雅彦さんは英語教育の専門家であり、英語のロジカルな部分を用いて「日本語での論理思考」を指南してくださっています。
アマゾンの内容紹介から。
「伝えたいことを相手にうまく伝えられない…」とお嘆きの諸君!グローバル社会において日本人が備えなければならない課題は、英語そのものではなく、英語の「心の習慣」である「ロジック」を学びなおすことだ。本書では、日常のちょっとした会話やメールなどで、論理思考を「コミュニケーション」として使いこなすためのコツを伝授。最強かつ最重要な「知の技法」を体得しよう!
なお、上記未読本記事のときにはなかったKindle版も、もうすぐ配信予定です!
Debate / Security & Defence Agenda
【ポイント】
■1.英語を使わない近代化を果たした日本日本の近代化が始まったのは、言うまでもなく、明治維新期です。このとき、当時の知識人たちは,前代未聞の離れわざをやってのけます。特殊英語的な概念に漢語を当てはめ、近代文明受け入れに必要な語彙を、わずか十数年で生み出したのです。それらが、冒頭に述べた1万あまりの新造漢語です。「政治」「経済」「社会」「文明」「文化」「宗教」「思想」「自由」「宇宙」「自然」など、現代社会を語る上で欠かせない語彙のほとんどすべては、このときつくられたものです。(中略)
さらに、漢語にならない概念はカタカナで表記し、そうしてできあがった新しい日本語が「現代国語」です。
「現代国語」は、まさに奇跡の産物でした。非西洋文化圏においては、近代化の恩恵に浴することができるのは、英語を学び、それを高度に使うことができるごく一部のエリートに限られます。ところが、日本では、現代国語のおかげで、国民レべルでの近代化に成功したのです。
■2.ディベートの根幹にある「三角ロジック」
●クレーム日本語で「クレーム」というと、「文句」とか「異議申し立て」のことですが、ディべートでは、「主張」あるいは「意見」という意味です。ただ、何でも言えば主張になるというわけではなく、「論証責任」を含んでいることが、その条件になります。論証責任とは、"How and why ?"(どのように、なぜ?)を論証する責任です。●データデータとは、「事実」です。まずひとつ、事実を述べるのです。「事実」は、無数に存在します。「アメリカは1776年に建国した」も事実なら、「横山雅彦は男性だ」も事実です。とにかくひとつ、事実を挙げます。●ワラントワラントとは「根拠」のことです。「この映画は面白そうだ」というクレームと「宮藤官九郎の脚本だ」というデータの「つながり」がはっきりしないのです。(中略)
「宮藤官九郎の脚本だ」をデータにするなら、ワラントは「宮藤官九郎の脚本にハズレはない」しかあり得ません。「これまで見てきた宮藤官九郎作品にハズレはなかったから、今度も面白いに違いない」という論法です。
■3.論証できないことを意見として口にしてはいけない
ディベートにおける「ロジック」とは、「場」や「関係性」を一切考慮しない「形式論理」のことです。相手が口にした論証責任に対しては、機械的に"How and why ?"と説明を求め、自分も口にした論証責任は果たす。ディべートは、形式論理の世界で戦われる「言葉のボクシング」です。その訓練ができていなければ、「場」も「関係性」もないのです。(中略)
「言論の自由」とは、「何を言ってもいい」ということではありません。英語の世界では、論証できないことを意見として口にしてはならないのです。論証責任を果たさない言論を、英語ネイティブは「無責任な放言」として、心の底から軽蔑します。論証責任を果たす限りにおいて、どんな意見もひとつの意見として尊重する。それが、本当の「言論の自由」です。
■4.反論の2つの仕方
●反駁「反駁」は、相手が立てた三角ロジックのデータかワラントを突く方法です。データかワラントに新しい論証責任があれば、それを果たすよう求め、事実や根拠に間違いがあれば、それを指摘します。データかワラントが崩れれば、結果的に三角も崩れます。そうすることで、相手のクレームに反対するわけです。●アンチテーゼ「アンチテーゼ」は、いったん相手の三角ロジックを認めた上で、「しかし、私はそうは思わない」と、新たなクレームを立てる方法です。アンチテーゼとは「反対命題」のことです。反駁ができないとき、あるいは上り強力な立論が可能なときに使う反論の方法です。ボクシングにたとえるなら、「打たせて勝つ」戦法です。反駁は三角のデータかワラントを崩す試みですが、アンチテーゼは三角自体は認めた上で、より大きい三角をぶつけて勝とうとします。ここでも、大切なのは、クレームの正しさではなく、論証の強さ、説得力の大きさで競うということです。
■5.グローバルな英語的ロジックから見ても誤解を与えないメールの書き方
(1)冒頭に「大変お世話になっております」という定型文を置く。
(2)演繹型で書く。
(3)「イエス・バット」は使わない。
(4)「結論として」「結論は」などという言葉で、クレームを明示する。
(5)結びに「よろしくお願いいたします」という定型文を置く。
(6)「笑」は使わない。
(詳細は本書を)
【感想】
◆本書のメインテーマとはやや外れるのですが、実は私にとって一番「目からウロコ」だったのは、序章の「現代国語と英語の関係」でした。上記ポイントの1番目のように、明治維新期に独自の発達を遂げたのが「現代国語」です。
そもそも「わずか200年前の同じくにの言葉を『古文』と呼び、まるで外国語のように、その語彙や文法を学び直さなければならない国は、日本以外、世界中どこを探してもない」のだそう。
そしてこの「現代国語」によって、私たち日本人は、「最小限のロジカル化(英語化)をもって、『国の個性』を保ちながら、最大限に近代化の恩恵をこうむって」います。
ただしその副作用として、著者の横山さんいわく「日本人を永遠に英語が苦手な国民にしてしまった」のだそう。
ちなみに横山さんご自身は、英語がご専門ですし、TOEFLではほぼ満点を出している方なのですが、そこに至るまでの苦労を踏まえて、「日本人にとって、真の意味での英語習得は、まさに苦行」と断言されています。
それがゆえに、私たちが学ぶべきは「英語」ではなく、英語の根本である「ロジック」を「現代国語」の中での運用方法である……というワケで、第1章以降に続くという。
◆そこでまず押さえておかねばならないのが、上記ポイントの2番目の「三角ロジック」です。
この「三角ロジック」こそが、英語ネイティブの心の習慣であり、彼らは無意識のうちに、この「三角ロジック」に従ってモノを考えている、とのこと。
ワラントのない事実は、データと認められませんし、データとワラントのないクレームもありえません。
要は、クレームとデータとワラントは「三位一体」であり、本書内では、以降各事例ごとに、必ず「クレーム」「データ」「ワラント」を頂点とした三角形の図が掲載され、それぞれ「具体的にどの部分か」が付されています。
ただし、上記ポイントでは触れていませんが、当たり前すぎるワラント(「人名は尊い」等)は省略されるケースもあるのだそう。
本書の第3章では、各事例ごとに、「演繹型」と「帰納型」について、さらに「書き言葉」と「話し言葉」の合計4パターンで回答されていますので、ご参考まで。
◆一方、第4章の「ロジカル・スピーキング」では、その練習問題として、「大学入試の自由英作文問題」を推奨しています。
とはいえ、実際に英語で解答するのではなく、日本語でOK。
なお、いくつか問いがあるうち、「あなたは、電子書籍が紙書籍に取って変わられると思いますか」という問題は、「賛成」「反対」ともに、なかなか興味深いものでした(詳細は本書を)。
ただ、最後に登場した長文の東京外語大学の問題では、大学側が公開した解答例に不備(間違い?)があったり、そもそも「外語大」ゆえのポジショントークがあったりと、色々と気になることが……。
私たちが英語を自由に使いこなせるようになるのは、やはりまだまだ難しそうです。
◆また、上記ポイントの5番目の「メールの書き方」も、まとめ部分だけなので、詳細は本書をご覧ください。
(1)や(5)の挨拶文はさておき、(3)の「イエス・バット」とは、俗にいう「イエス・バット法」とは違いますのでご注意を。
ここでの「イエス・バット」とは、否定文で問われたときに「はい」と答えつつ否定文が続くことで、「(行ったこと等が)ないんですか?」と聞かれて「はい、ありません」と答えるようなケースを指します。
さらに最後の「笑」については、内田樹先生いわく、Twitterで「笑」とか「w」とかが一瞥して目に入ったら、読むのをやめるとのこと。
その理由は、「どれほどロジックが鋭利でも、『笑』がついた言葉は、『言った本人によって簡単に否認されるし、言葉自体がダブルミーニングになっている』から」だそう。
……私自身多用していますので、気を付けなくては。
論理的に読み書きしたい方なら、要チェックです!
「超」入門!論理トレーニング (ちくま新書)
序章 現代国語と英語の関係
第1章 ロジックの英語とハラ芸の日本語
第2章 ロジカル・コミュニケーションのポイント
第3章 三角ロジックの応用―ひとりディベート
第4章 ロジカル・スピーキング
第5章 メールの書き方
終章 ハラ芸の論理
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【編集後記】
◆どこのセールなのか未確認なのですが、当ブログでも人気だったこの本が、「50%OFF」&「20%ポイント還元」で激安となっております。仕事が速い人は「見えないところ」で何をしているのか?
中古もそこそこ高いのに、Kindle版の方が実質700円弱もお得という……!?
ご声援ありがとうございました!
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