2016年08月05日
【「1万時間の法則」の真実】『超一流になるのは才能か努力か?』アンダース・エリクソン,ロバート・プール
超一流になるのは才能か努力か?
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、昨日ではなくその前の「未読本・気になる本」の記事にて人気だったスキルアップ本。いわゆる「1万時間の法則」の元ネタとなった研究を行ったアンダース・エリクソン教授が、研究結果に基づく「正しい見解」を述べているという点で、見逃すことのできない作品です。
アマゾンの内容紹介から。
チェス、バイオリン、テニス、数学…。世界のトッププレーヤーを研究して分かった、ある共通の要素とは?ドイツのマックス・プランク研究所にいた著者は、研究所の目と鼻の先にあるベルリン芸術大学を訪れた。そこには、他の学生を圧倒する能力を持ち、世界的ソリストへの道を約束されたバイオリニストと、将来は教員になる道を選んだバイオリニストがいた。彼らの能力、ひいては人生を分けたものは一体何か。生まれつきの才能か、それとも積み重ねた努力か―。「超一流」の全てを解き明かすことになる、三〇年以上におよぶ研究が始まった。
なお、本日からお買い得なKindle版も配信されたようです。
あまりの濃い内容に、思わず付箋も貼りまくりましたよ!
Chess III / tillwe
【ポイント】
■1.目的のある練習の4つのポイント(1)目的のある練習には、はっきりと定義された具体的目標がある
(2)目的のある練習は集中して行う
(3)目的のある練習にはフィードバックが不可欠
(4)目的のある練習には、居心地の良い領域(コンフォート・ゾーン)から飛び出すことが必要
(詳細は本書を)
■2.上達する練習は楽しいものではない
重要な発見の1つが、学生たちが能力向上に重要と答えた活動のほとんどについて、非常に負担が大きく、あまり楽しくないと感じていたことで、例外は音楽鑑賞と睡眠だけだった。トップクラスの学生から将来の音楽教師まで、誰もが能力を向上させるのは大変であり、そのために必要な活動を決して楽しんではいないことを認めた。つまり練習が好きで好きでたまらず、他の生徒より意欲が低くても練習量に影響しないという者は1人もいなかったのだ。学生たちにとことん集中して猛烈に練習する意欲があったのは、そんな練習が能力を向上させるのに不可欠だと考えていたからだ。
■3.講義やセミナーを受けてもほとんど何の効果もない
デービス率いる研究チームが実施したある非常に影響力の大きい研究では、さまざまな教育的「介入」、すなわち講座、会議などの集会、講義、シンポジウム、医療ツアーなど医師の知識を高め、技能を改善することを目的とするありとあらゆる活動を調べた。その結果、最も効果的な介入はロールプレイ、ディスカッション、問題解決、実地訓練など何らかのインタラクティブな(相互作用的)要素を含むものであることがわかった。(中略)
対照的に最も効果が低かったのは講義中心の介入、すなわち参加する医師らが講義を聴くだけの教育的活動で、残念ながら継続医学教育で最も多いのがこのタイプだ。このように受動的に講義を聴くのは、医師の技能にも担当患者の治療結果にもまったく有意な効果がないとデービスは結論づけている。
■4.自分の動きに意識を集中する
これが練習の効果を最大限に高めるコツだ。ボディビルや長距離走など、トレーニングの大部分が単純に何かを繰り返す作業のように思えるスポーツでも、1つひとつの動きを正しくやることに意識を集中すると上達が加速する。長距離走選手の研究では、アマチュア選手は走ることの辛さや疲労感から逃れるために楽しいことを考えたり空想にふけったりする傾向があるのに対し、トップクラスの長距離選手は自らの身体に意識を集中させ、最適なペースをつかみ、レースの間それを維持するのに必要な調整をしていく。ボディビルあるいは重量挙げで、今の能力では限界というウエイトを挙げるときには入念に準備をして、完全に集中しなければならない。どんな活動でも能力の限界に挑戦するときには、100%の集中力と努力が必要だ。そしてもちろん、筋力や持久力がそれほど必要とされない知的活動や楽器演奏、芸術活動などは、そもそも集中せずに練習してもまったく意味がない。
■5.何が上達の足を引っ張っているのか特定する
まず具体的に何が上達の足を引っ張っているのか把握しよう。いつ、どんなミスをしてしまうのか。コンフォート・ゾーンから大きく飛び出るぐらい努力して、最初にほころびが生じるのはどこか見きわめよう。それからその弱点の改善に特化した練習方法を考えよう。何が問題かがわかれば、自分で直せるかもしれないし、経験豊富なコーチや教師のアドバイスを求める必要が生じるかもしれない。(中略)
この手法が効果的なのは、なんとかうまい方法が見つかるのを期待しながらさまざまな手を試すのではなく、上達を阻んでいる具体的な問題に的を絞って改善するからだ。一見当たり前のことのようであるし、また頭打ちの状態を打破するのに驚くほど効果があるにもかかわらず、このやり方はあまり認知されておらず、経験豊富な教師でも知らない人が多い。
【感想】
◆本書は私のような「スキルアップマニア」には、たまらない内容でした。とにかく事例が豊富で、そのほとんどが、キチンとした研究結果に基づくもの(巻末に計26ページの「ソースノート」有り)。
それゆえ、結論についても説得力があり、なるほど「超一流」になれるか否かは、こういう部分で違うのか、と納得できました。
特に本書が指摘している点で大事なのが、練習の「量」もさることながら、その「質」にフォーカスしていること。
上達する練習とは、上記ポイントの1番目にある「コンフォート・ゾーンから飛び出す」ものであることは、本書内で何度も強調されていました。
ショッキングなのは、「コンフォート・ゾーン内の練習」を長期間続けているだけでは、上達どころか劣化していくらしく……。
◆そこで避けられないのが、いわゆる「1万時間の法則」との絡みです。
そもそもこの法則は、本書の著者であるエリクソン教授の研究結果に基づいたこの本によって、広く知られることとなったのですが。
天才! 成功する人々の法則
参考記事:【勝間さん激賞!】「天才!成功する人々の法則」がいよいよ発売へ!(2009年05月13日)
本書の第4章の終わりでは「『1万時間の法則』はなぜ間違っているのか?」と題したパートで、問題点を列挙しています。
上記の練習の「質」の問題もですが、そもそも「1万時間」という「量」が、かなり恣意的に(おそらく区切りがいいから)選ばれた可能性が高い、とエリクソン教授は指摘。
というのも、たとえば国際的なピアノコンクールで優勝するピアニストは30歳前後であり、その場合の練習時間はおよそ2万から2万5000時間なのだそう。
つまり、1万時間ではその半分程度に過ぎないという……。
ただし、エキスパートになるために一定量以上の練習が必要なことにはエリクソン教授も同意しており、それが「グラッドウェルが1つだけ言った正しいこと」と本書内では述べられていました。
◆また、忘れてはならないのがフィードバックの重要性です。
本書では具体例の1つとして、ベトナム戦争中に設立された「アメリカ海軍戦闘機兵器学校」、通称「トップガン」を挙げているのですが。
アメリカ海軍戦闘機兵器学校 - Wikipedia
教官には海軍でも最高のパイロットが選ばれ、彼らは訓練生たちとドッグファイトを展開。
ただし1つ違うのが、ミサイルや銃弾の代わりにカメラを搭載して録画していたところです。
そして訓練の本番は、むしろ地上に降りてからであり、教官はドッグファイトの記録に基づき、訓練生たちを容赦なく詰問(なぜその行動を選択したのか、どこで誤ったか、どんな選択肢があったか、等々)しました。
その甲斐あって、北ベトナムのパイロットに対する米海軍パイロットの勝率は、当初ほぼ1対1だったのが、12.5対1にまで改善されたのだそうです。
◆一方、個人的に驚いたのは上記ポイントの2番目の指摘で、いわゆる「超一流」となる人は、練習も楽しんでやっているのかと思っていたのですが、そうではなさげ。
これは「楽しむ」イコール「コンフォートゾーン」だから、それを上回る内容で、負荷をかける必要があるからなのかもしれません。
そりゃ上記ポイントの4番目にあるように、「1つひとつの動きを正しくやることに意識を集中」していたら、楽しくはないです罠。
他にもスウェーデンの研究チームが、プロとアマチュアのグループを対象に、歌唱レッスンの前後で心電図や血液サンプルを測定したところ、アマチュアは気分が高揚し、楽しい気持ちになったと評価されたものの、プロはそうはならなかったのだとか。
プロにとっては「歌う」という行為も、発生技術や呼吸法などに集中する場だったワケです。
◆ところで本書の特徴の1つとして、「徹底的に『才能』の存在を否定」している」ことが挙げられるかな、と。
第8章の「『生まれながらの天才』はいるのか?」では、各分野での「天才」が、実は練習の賜物だったことを明らかにしています。
たとえばモーツァルトの幼少期に書いた曲が、父親やその他の無名の作曲家たちの曲が元となっている可能性が高い、というお話は有名かもしれません。
ただ、ある特定の分野で天才的な能力を持つといわれるサバン症候群の人たちの才能も、「後天的に獲得したもの」と指摘してるのには、ちょっと驚きました。
本書では、彼らの「偉業」を私たちが再現する実験も紹介されているのですが、なるほど、分野によっては真似ることもできそうな……?
いずれにせよ、本書のタイトルで言うなら、「超一流になるのは才能ではなくて努力」なのは間違いないと思います。
今日からの練習方法がガラッと変わるかもしれない1冊!
超一流になるのは才能か努力か?
序章 絶対音感は生まれつきのものか?
第1章 コンフォート・ゾーンから飛び出す「限界的練習」
第2章 脳の適応性を引き出す
第3章 心的イメージを磨きあげる
第4章 能力の差はどうやって生まれるのか?
第5章 なぜ経験は役に立たないのか?
第6章 苦しい練習を続けるテクニック
第7章 超一流になる子供の条件
第8章 「生まれながらの天才」はいるのか?
終章 人生の可能性を切り拓く
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【スゴ本!】『才能を伸ばすシンプルな本』ダニエル・コイル(2013年06月08日)
これは凄い! 『成功する練習の法則』を便利にする8つのツール(2013年07月22日)
【編集後記】
◆本書に関連して、併せて読んでおいて頂きたい作品をいくつかご紹介しておきます。究極の鍛錬
*Kindle版アリ
◆本書にかなり近い内容であり、チェスのポルガー姉妹のお話は、こちらにも収録されています。
参考記事:一流職人もびっくり 驚愕の『究極の鍛錬』(2012年06月13日)
才能を伸ばすシンプルな本
*Kindle版アリ
◆具体的な練習方法の細かさから言ったら、本書を上回る「スゴ本」だと思います。
参考記事:【スゴ本!】『才能を伸ばすシンプルな本』ダニエル・コイル(2013年06月08日)
成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール
◆この本も、具体的な練習方法についての記述が多い「スゴ本」で、下記レビューは、ブクマ400超のホッテントリ入り記事でした。
参考記事:これは凄い! 『成功する練習の法則』を便利にする8つのツール(2013年07月22日)
ご声援ありがとうございました!
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