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2016年04月25日

【読書】『読書は格闘技』瀧本哲史


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読書は格闘技


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも大人気だった読書ネタ本

その記事でも触れたように、著者の瀧本哲史さんは、実は読書家&速読の達人でいらっしゃるので、まさにこのテーマにピッタリの方です。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
心をつかむ、組織論、グローバリゼーション、時間管理術、どこに住むか、才能、マーケティング、未来、正義、国語教育の文学等々、今を生き抜くために知っておくべきテーマについて、立場の異なる「良書」を能動的に読み、自らの考えを新たに形成していく。
格闘技としての読書体験を通じた、実践的な力が身に付く読書術とは何か。各テーマにおける必読の推奨ブックリストも収録。

なお、明日配信ですがKindle版のご用意もあります!






reading / surlygirl


【ポイント】

■1.科学的知見で心をあやつる『影響力の武器』

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この手の人間関係に関する本であれば、教訓的なエピソードと処世訓がセットになっていて、道徳的な要素も含まれているのが通常のパターンだ。
 しかし、『影響力の武器』は、アプローチが全く異なる。本書の特徴を3つほど挙げよう。第1に、『影響力の武器』は道徳的ではないこと。むしろ、弱い人間が引っかかってしまうような商売のテクニック、さらに言ってしまえば、詐欺紛いなものも考察の対象にしている。第2に、その方法の根拠は、社会心理学上の実験によって証明されているものばかりで、著者の思いつき、個人的な体験ではないこと。(中略)
そして第三としては、この「ランチョン・テクニック」実験が典型的だが、人間の合理性、意思といったものよりも、不合理、無意識に焦点を当てていることだ。


■2.組織のトップが天国に行くための地獄ガイド『君主論』

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 マキアヴェッリは再就職活動中、本当に生活に困っていて、少ない領地で鶏を飼ったり、ワインを作って何とか糊口を凌ごうとしていた。そんなマキアヴェッリが書いた就職用論文、エントリーシートだからこそ、現実主義に依拠して、国家を生き延びさせていく強いリーダー、自分が仕えるに足り、かつ雇いつづけられるリーダーについての書物に『君主論』はなったのだ。マキアヴェッリは多くの手紙を残しているが、その中で既に述べたように「天国へ行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである」と書いている。ここでの地獄とは彼自身とその周りにいた多くのリーダー、混乱しているイタリアの現状そのものだったのである。


■3.全体最適化で根本から変える『ザ・ゴール』

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 日米のベストセラーを比較してどのような感想を持たれるだろうか。私は彼我の違いを痛感せざるをえなかった。『ザ・ゴール』は、かつてのアメリカが今の日本のように追い詰められたときのべストセラーである。『ザ・ゴール』で提示されている会社の目標は、会社の生存であり、利益というシビアなものである。これに対して、『もしドラ』の目標はあまりに漠然としたものでしかない。また、やった活動と成果の関係は、『ザ・ゴール』では物理学の教授が登場することからもわかるように、科学的であり、定量的であることが強調される。ジョナ教授は常に仮説を立てて検証するという科学的アプローチを強調し、具体的に何を変えるとどう変わるのかという因果関係を明確にする。一方、『もしドラ』ではみんなが1つになって打ち込んだら結果が出たという精神論が中心となっている。


■4.消費者の心に位置づける『ポジショニング戦略』

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ポジショニング戦略[新版]
『ポジショニング戦略』の最大の魅力と欠点はその単純さである。本を数冊読んでも、ライズの講演を聴いても同じことを手を替え品を替え、言っているだけである。すでにキャズム理論を知っている我々からすれば、著者の主張は商品がある程度流行して、大量販売する段階まで達したときにのみ通じる理論ではないかという疑問を持つだろう。企業からの一方的な発信ではなく消費者からのフィードバックもあるインターネット時代にどこまで通用するのか、疑問もあるだろう。
 しかし、そういう時代だからこそ逆に、「時代を超えて生き残る商品、ブランドを作るのであれば、消費者にわかりやすいシンプルで本質的な概念を選んで忍耐強くコミュニケーシヨンしていくしかない」という著者の考えは、新鮮にすら感じられるのではないか。


■5.永遠の少年。『タッチ』

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 例えば、「予めあった才能が開花する」というメッセージは、何かがきっかけとなり本気を出せば自分は能力を発揮できるが、今はそれがないから本気を出さないという考え方に繋がる。実際、ネットスラングには「本気出す」という言葉があり、あり得ないことを条件にして本気を出すと宣言することで、現実から逃避する文脈で使われる。
 また、自分の人生を変えてくれる女性をモティべーションにするのも「白馬の王子様を待つ」の変形版として、その対象をアイドルなどの商品化された女性に求めることで、これまた、現実逃避に繋がっていくだろう。
 つまり、どちらかというと新型「教養小説」は、大人になるというよりもむしろ、「永遠の少年」というモラトリアムを推奨するストーリーに思えるのである。


【感想】

◆冒頭の内容紹介、さらにはアマゾンでそのフルバージョンを読んだ上でも、本書のタイトルにある「格闘技」というのは、「読者」と「本」が「闘う」のだと思っていました。

実際、冒頭で触れていなかった内容紹介には、このような一節があります。
書いてあることに賛成できなくても、それが批判するに値するほど、一つの立場として主張、根拠が伴っていれば、それは良書と言える。
それは確かに本書における読書の姿勢としてあるものの、構造的にはもっと分かりやすい「格闘技」が本書には存在していました。

本書のイントロダクションで、瀧本さんはこう言われています。
 そこで考えたのが、あるテーマについて、全く異なるアプローチの本を2冊紹介し、それを批判的に、比較検討するという形態で話を進めていこうというものだ。
実は読み終えてこの記事を書こうとしてから、今さらながらアマゾンに掲載されているこの書影に気が付いたのですが(アマゾンのリンクですので、クリックするとアマゾンに飛びます)。

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読書は格闘技

上記リンクの画像では、6つのテーマに対して、それぞれ2冊ずつの書籍が取り上げられてることが分かると思いますが、要はこれらが「対戦」するワケです。


◆ちなみにこれらテーマは、そのまま本書においては下記目次の通り「大見出し」として登場。

「格闘技」らしく「章」ではなく「Round」と題され、合計12個が設定されています。

上記ポイントの1番目では『影響力の武器』を取り上げましたが、これは「Round 1 心をつかむ」からであり、上記画像でお分かりの通り、対戦相手は、カーネギーのこちら。

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人を動かす 新装版

「光」と「影」というか、初戦からいきなりタイトルマッチ並みのヘヴィさで、お腹一杯の巻w

その後も『文明の衝突』のような難しめのものから、上記の『タッチ』のようなマンガまで、幅広く取り扱っているという。


◆さて本書は、ただ単に2冊を「対戦」させているだけではありません。

特に参考になったのが、それぞれの書籍におけるコンテクストであり、たとえば上記ポイントの2番目で引用した部分では、マキアヴェッリの『君主論』が「どういう状況で書かれたものか」を解説してくれています。

これらは普通、単にその本を読んだだけでは分からないもの。

さらには上記ポイントの2番目で引用した部分の後では、
 現代の文脈でたとえるのであれば、ベンチャー企業で社長の参謀役をやっていて、多くの尊敬できる経営者と親交がある一方、自分の会社は優柔不断なトップが最後は夜逃げし、自分は債権者に詰め寄られたという経験を持った男が、厳しい環境でも生き抜けるリーダーを渇望して書いた本だと思えば、古今東西の多くのリーダーの(時には密かな)愛読書であっても不思議はない。
とあって、より理解しやすくしてくれていたりもします。

……瀧本さんの「エンジェル投資家」という肩書きを考えると、実話だったとしても不思議じゃないんですがw


◆なお、本書では対戦する2冊ずつのほかに、冒頭の内容紹介でも触れられているように「各テーマにおける必読の推奨ブックリスト」が6冊ずつ収録されています。

これは各ラウンド内で言及されている本とは別でして、私も未読の作品がほとんど(ダメじゃん)。

そんな中、アサマシ的な意味も含めて、当ブログにてレビュー済みのものをいくつか挙げてみますと……。

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武器としての交渉思考 (星海社新書)

参考記事:【オススメ!】『武器としての交渉思考』瀧本哲史(2012年06月26日)

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究極の鍛錬

参考記事:一流職人もびっくり 驚愕の『究極の鍛錬』(2012年06月13日)

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なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

参考記事:【スゴ本!】「なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学」パコ・アンダーヒル(2007年10月09日)

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ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

参考記事:【スゴ本!】『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール,ブレイク・マスターズ

ちなみに、作品には寸評とともに「難易度」が付されているのですが、私が読んでいる上記の作品は、2番目の『究極の鍛錬』以外、一番簡単な「A」でしたw


◆本書は、読書好きの方であれば(特に当ブログの読者さんなら)、まず間違いなく楽しめると思います。

むしろ、お値段もうちょっと高くてもいいので、ボリューム的にもっとガッツリ読みたかったくらい。

ただ、本書は「小説すばる」の連載に加筆・修正したものであり、その連載自体が終了しているので、それも敵わないようなのですが。
このコンテンツが1000円ちょっとで買える(ムックではありませんw)のですから、お買い得と言えるかと。


これはオススメせざるを得ません!

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読書は格闘技
Round 0 イントロダクション
Round 1 心をつかむ
Round 2 組織論
Round 3 グローバリゼーション
Round 4 時間管理術
Round 5 どこに住むか
Round 6 才能
Round 7 大勢の考えを変える(マーケティング)
Round 8 未来
Round 9 正義
Round10 教養小説――大人になるということ
Round11 国語教育の文学
Round12 児童文学
読書は感想戦――あとがきにかえて


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【読書術】『本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』出口治明(2014年09月12日)


【編集後記】

◆本日のKindle日替わりセールから。

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よいこの君主論 (ちくま文庫)

丁度今日の記事で、本家の『君主論』が登場したので、これも何かの縁(?)かな、と。

中古がほぼ底値なので、お買い得というわけではないのですが、著者の1人である架神恭介さんをご存知ない方は、こちらのエントリーをお読み頂ければ、と。

ヒップホップで学ぶ日蓮 - 完全教祖マニュアル

はてブ1100超の大ヒットエントリですw


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