2016年03月21日
【文章術】『SNS時代の文章術』野地秩嘉
SNS時代の文章術 (講談社+α新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、リアル書店で捕獲した文章術本。著者の野地秩嘉さんの作品は、大昔に『企画書は1行』という本をレビューしたことがあるのですが、それからほぼ10年経ってるとは、自分でも意外でした。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
筆者は1通の手紙でポール・マッカートニーを口説き落とした男。
「文章力ゼロ」からプロの物書きになった筆者だから書けた「21世紀の文章読本」。
講談社さんにしては珍しく(?)、Kindle版がお安くなってますので、お見逃しなく!
Facebook / Sarah.Marshall
【ポイント】
■1.句読点やカッコを多用しないわたしは文章の訓練を受けた時、まっさきに注意されたのは、句読点の多さだった。
前述の新井信氏から「野地くん、深呼吸してみなさい」と言われた。そこで、わたしは文芸春秋社の応接室で立ち上がって「はあはあ」と大きく呼吸をした。
「思った通り。息が上がってるよ、キミ。句読点は呼吸と同じリズムで打つんだ。素人は息が上がっているからついつい、句読点をたくさん打ってしまう。
本来、日本語の文章には句読点はない。毛筆で巻紙に文字を書いていた時には句読点はなかった。日本語の文章を書く以上、やたらと句読点を多用してはいけない。記号もカッコも同様だよ」
句読点やカッコがなくても、スムーズに読めるように、文字の配列を考えるのが本来の日本語の文章なのである。
■2.沢木耕太郎氏の教え
沢木耕太郎さんにはさまざまなことを教わった。「文章を書いています」と言ったら、「それ読んでもいい?」と彼が言った。雑誌記事のコピーを渡したら、その後しばらくして、喫茶店でいろいろ話をしてくれた。「こんな本が参考になるよ」「これはどうしてこう書いたの?」。親身な指導だった。
そんなある日、「大切なことを教える」と電話があった。
「君の文章を読んだよ。低い調子の文章で決して悪いものではない。ただ、決定的に足りない点がある」
わたしはどぎまぎしながら質問した。
「決定的に欠けているのはどういうところでしょうか?」
「野地くん、文章はどういうものであっても、1ヵ所だけ色っぽい部分が必要なんだ。君の文章にはそれがない」
(詳細は本書を)
■3.形容詞は文章が腐る
新井さん、沢木さんに文章の書き方を教わり、その後は自分でも気をつけるようになった。
たとえば形容詞、形容動詞の使い方である。
開高健氏は「形容詞を使うと、その部分から文章が腐っていく」と言った。形容詞ばかりの文章は長持ちしないということだ。事実は残る。しかし、形容詞は書いた人の印象だ。書いた人の印象ばかりが並んだ文章は読むに堪えない。形容詞は、ここぞというときに効果的に使う品詞だ。
■4.見出しをダジャレで解決しない
作家の山口瞳氏はサントリー宣伝部にいた時、同僚と次のような申し合わせをしたという。
「宣伝コピーにダジャレや語呂合わせを使うのは極力よしておこう」
彼らがダジャレや語呂合わせをしなかったのは、それが安易で陳腐な解決法だからだ。しかも、誰もがふたつやみっつは思いつく解決法でもある。宣伝コピー、商品のネーミング、記事のタイトルや見出し……こうしたものをダジャレで解決しようとする人間はクリエイティブスピリットに欠ける。クリエイティビティとは陳腐から遠ざかる道を模索することではないだろうか。
■5.リズムを意識して書く
リズムのいい文章は読みやすい。井伏(鱒二)氏の文章を見ると、短い文を3つから4つ続けたら、次はやや長い文にしている。その繰り返しだ。短く、短く、短く書いてから、長い文章にする。文章の基調をこのリズムにしている。ここは真似をすることができる。
書く前にリズムのいい文章を読んでから執筆すると、リズムが移る。わたしもこの箇所を書いている時は井伏氏のリズムに引きずられてしまった。読むという作業は多くの情報が一度に入ってくる行為なのである。
【感想】
◆上記ポイントをご覧になって、「どこがSNS時代なのか?」と思われた方も少なからずいらっしゃると思います。実は本書の第1章では、SNSが広まるにつれて、「日本語の文章が変わってきている」ことに言及。
「SNS時代の文章の特徴」として8つ列挙しています。
いくつか抜き出してみるとこんな感じなのですが。
・文章に写真や動画、絵文字が付いてくる
・記号、句読点が増えている
・文章の中の漢字が減った。
・文は短くなり、体言止めが多くなっている
◆とはいえ、本書ではこれに合わせて、漢字を少なくしたり、句読点を増やす指南をするのではありません。
むしろ逆で「長くても分かりやすい文章」「語彙を増やし、句読点を減らし、それでいて読みやすい文章」を目指しています。
というのも、ビジネスシーンでちゃんとした文章を書くことができたら、それだけ周りから評価されるから。
というわけで、上記ポイントが生きてくるというワケです。
◆「ちゃんとした文章」という意味では、押えておきたいのが「なきわかれ」の回避。
これは改行した際、人名や単語が途中で切れてしまうことを言います。
特に人名のなきわかれは読みにくいだけなく、その人に対して非礼になるので絶対に避けなければなりません。
加えて細かいことを言うと、人物の名前はなるべく文頭に来るように配置すべき、とのこと。
そのためには、たとえば「お慶び申し上げます」を「およろこびもうしあげます」というふうに文字数を増やして、先方の名前を文頭に持ってくるように配慮するのだとか。
……うーん、途中で切れるのは避けてましたが、ここまで意識したことは私もなかったです。
◆こういったマナーの話もさることながら、「読みやすい文章」を書くためのレッスンも多々。
自分が書いた文章を音読したり、現代詩を読んでみたり、これぞという作品を手書きで書き写してみたり、といった方法が指南されています。
さらには、第7章は「五感を表現する」ことがテーマの1つであり、「ライバル社の人間が五感のすべてを添付した写真、動画を使って企画書を作成」してきた際に、それらを使わずに「文章だけで表現」することができたら、大きな差をつけることができる、と。
……そこまで究められたらスゴイですけど、写真でも動画でも、使えるモノなら普通に使った方が、ラクだと思うんですけどねw
ただ、プレゼンならまだしも、メールや手紙のように「テキストオンリー」で相手を動かす必要がある場合には、こうした表現力を磨く必要はありそうです。
◆ところで内容紹介や書影の帯にある「1通の手紙でポール・マッカートニーを口説き落とした男」というフレーズについて。
この詳細を述べてしまうと、思いっきりネタバレになってしまいますので、申し訳ございませんが、気になる方は本書にてご確認を。
ただ、この話もさることながら、個人的には若き日の孫正義さんが、日本マクドナルドの社長をしていた藤田田さんに面会しに行った話が興味深かったです。
最終的に藤田さんに会えて、コンピュータの道に進むようアドバイスされたことは広く知られていますが、そこに至るまでの孫さんのアクションがスゴイ。
実は羽田から電話をかけて、面会を断り続けた秘書にメモをとらせて、それを藤田さんに見せることで、最終的に希望が叶ったという。
この時孫さん、まだ17歳だったんですがw
画像は載せないものの、付箋を貼りまくった1冊!
SNS時代の文章術 (講談社+α新書)
1SNS時代の文章とは
1 SNS時代に求められる文章
2 文章が上手になる方法
3 わたしの文章修業
2文章の書き方 実践編
4 準備から執筆まで――うまい文章の書き方 その1
5 SNS時代のビジネス文書
6 文章の表現について――うまい文章の書き方 その2
7 五感を書く。名言を書く。――さらにうまい文章の書き方
終章「文は人なり」の時代
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【編集後記】
◆本書の「はじめに」には、著者の野地さんが著者デビューした際のエピソードが載せられていました。まだ素人同然だった野地さんを雑誌記事で見出して、文章の書き方を教えてくれたのが、文芸春秋の編集者で、伊丹十三、向田邦子らの担当だった新井信氏(上記ポイントの1番目に登場)。
1年かけて書いた作品が文芸春秋社からは出してもらえず、最終的に内容をブラッシュアップした上で出版してくれたのが、お馴染み幻冬舎の見城徹氏。
デビュー作でこうした大物編集者のチェックを受けた上で世に出たのが、こちらの本になります。
キャンティ物語 (幻冬舎文庫)
最初の単行本から20年以上経った今でも、重版がかかるのだそう。
ご声援ありがとうございました!
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