2016年02月16日
【エリート?】『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』おおた としまさ
ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 (幻冬舎新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、リアル書店で見かけた「日本の受験業界」の一面にフォーカスした問題作。お子さんがいらっしゃらない方や、受験から遠ざかった方にはピンとこないお話かもしれませんが、今や「東大への最大ルート」は、ある2つの塾によって占められているようです。
アマゾンの内容紹介から。
開成、筑波大付属駒場、灘、麻布など進学校の中学受験塾として圧倒的なシェアを誇る「サピックス小学部」。そして、その名門校の合格者だけが入塾を許される、秘密結社のような塾「鉄緑会」。なんと東大理IIIの合格者の6割以上が鉄緑会出身だという。いまや、この二つの塾がこの国の“頭脳"を育てていると言っても過言ではない。本書では、出身者の体験談や元講師の証言を元に、サピックス一人勝ちの理由と、鉄緑会の秘密を徹底的に解剖。学歴社会ならぬ「塾歴社会」がもたらす、その光と闇を詳らかにする。
姪っ子たちが実際にそこに通っていただけに、私も色々考えるところがありました。
studying in math class / woodleywonderworks
【ポイント】
■1.エリートは「正解」が見つからない状態に耐えられない?世の中のほとんどの問題には「正解」なんてものはない。しかし、人よりも早く「正解」にたどり着くことに長けていて、そこに自負すらある人たちにとっては、「正解」が見つからない状態に居続けること自体がものすごくストレスに感じられるのかもしれない。だから手っ取り早く「正解」を得ようとしたがる。でもそもそもそんなものはないから「正解らしきもの」をねつ造する。あるいは誰かが掲げた「正解らしきもの」に飛びつくことで、安心して思考停止に陥る。
祐子さんは「自分もかつてはそうだったかもしれない」と振り返る。
■2.親の関与度が高いサピックス
教材は製本されておらず、毎回の授業で配付される。その大量のプリントを整理するのは、どこの家庭でもたいがい親の役割となる。しかも大量に出される宿題の意図を理解し、優先順位を決めて効率的に子供に取り組ませなければいけない。要するにタスク&スケジュール管理も親の役割だ。
このような親の負担はサピックスに限ったことではないが、特にサピックスにおいては「中学受験勉強の主役は親子。塾はサポート役でしかない」というスタンスが明確で、場合によってはドライな印象を受ける保護者も多い。(中略)
サピックスに向いている子供の条件として、サピックスに長年勤務した元講師・鈴木泰介さん(仮名)は、「親子の会話が豊富で、親といっしょに物事を考える習慣がある子。そして低学年のうちから学校以外の勉強を家でする習慣がある程度身についている子」を挙げる。逆に母親が一方的に喋り倒すようなタイプだとうまくいかない場合が多い。子供に受け身になる癖がついてしまって、サピックスの雰囲気になじめないのだ。
■3.サピックスの2つの特徴
なぜサピックスでは学力上位層がさらに伸びるのか。塾の指導方針を前出・鈴木さんに聞いた。鈴木さんは算数の担当だった。
いちばん大きな特徴は2つ。討論型の授業と復習主義。
「公式の丸覚えはさせません。いきなり最短ルートを教えるのではなく、いろいろな生徒の解き方を共有し、あえて解法に幅を持たせて教えます。最短ルートでは解答にたどり着けないと思った場合でも、別のルートを探れるようになってもらうためです」
予習をさせずに復習に重点を置くのは、授業に集中して、授業の中でできるだけ吸収してほしいから。予習をしてきてしまうと、子供は「これやったことある」「これ解けた」と思って油断してしまう。ほかの友達の解法を知ろうともしなくなる。それでは討論型の授業も成り立たない。
■4.鉄緑会の高速履修スタイル
「何とか東大に滑り込む」のではなく、「圧倒的な学力をつけて余裕で東大に合格する」「東大入試から逆算した6年間のカリキュラムで、効率的に東大合格に必要な学力を身につけ、そのうえで読書なり、クラブ活動なり、受験の領域を超えた学習なりに取り組み、将来への素地を養う」が鉄緑会の指導スタンス。(中略)
カリキュラムはとにかく速い。数学に関しては、中1の1年間で中学分野をすべて終える。中2・3の2年間で高校分野をすべて終える。つまり中学卒業の時点で、センター試験に対応できるだけの単元学習を終えてしまう。そして高1・2の2年間で6年分の総復習を2度くり返す。高2までに、大学受験で必要なことを、合計3周くり返すのだ。ここまでの高速履修を行っているのは有名進学校の中でも灘くらいではないだろうか。
■5.塾歴勝者に共通する特徴
完全に私の独断と偏見に基づいての話だが、「王道」を歩んできた人たちの多くに共通する特性をまとめると以下の4つになる。これらは彼らの強さであり、同時に弱点でもある。・「答え」を見つけるのが得意(詳細は本書を)
・「そういうもんだ」と自分を納得させられる
・何でも「いちばん」を目指す
・謙虚
【感想】
◆実際にお子さんをサピックスに通わせたことのある方々にとっては、上記ポイントの2,3番目は既知の内容だと思います。ただ、私自身、ホントについ最近までサピックスという塾の存在すら知らなかったくらいですから、お子さんがいない方にとっては、これでもまだ良く分からないのではないかと。
とにかく中学受験、特に最難関校群におけるサピックスの占有率は圧倒的で、たとえば開成中学の定員300名に対して、サピックスからの合格者は245名、筑駒(筑波大付属駒場)の定員120名のうち、サピックス出身者は90名なのだとか(2015年ベース)。
そんなサピックスの講師や、元講師、通った生徒やその親に取材をして書かれたのが本書の第2章。
ここでは、サピックスの生い立ちから、上記ポイント2,3番目のような特徴まで、多岐に渡って言及されています。
◆ただ、いかんせん主人公は「小学生」ですから、親も気が気ではありません。
成績が下がったり、それによってクラスが変わったり(サピックスは成績順でクラス替えがある)、やる気がなくなったり、といったトラブルに対して、本人たち以上に親の方がおろおろしているという。
また、親によっては、思うように成績の伸びない我が子を叱ったり、サピックスの先生に涙目で相談したりと、まさに「中学受験勉強の主役は親子」を地で行っています。
ちなみに、こうしたハードなサピックスのスタイルに着いていくために、「サピックスに通う親子をサポートする個別指導塾」もあるのだそう。
もちろん、何とかしがみついて着いていって、下位クラスでもそこそこの学校に合格する子もいる一方、着いていけなかったり、途中で燃え尽きてしまう子もいるわけで、一概に「サピックスに通うことが正解」とも言い切れない部分もあるようなのですが。
◆一方、サピックス経由で最難関校に進んだ子たちの多くが通うことになるのが、「サピックスの最上位クラスだけを集めたような塾」である「鉄緑会」。
こちらは筑駒や開成、桜蔭、女子学院といった「指定校」以外の生徒は入会テストを受け、「指定校の生徒と遜色ない学力があること」を証明しないと入れない「エリート塾」です。
この鉄緑会が目指すのは、東大および難関大学医学部で、たとえば2015年に開成から東大理3に合格した14名中13名が鉄緑会出身なのだとか。
同様に灘では15名中13名が、筑駒では9名中8名が、桜蔭でも9名中8名が鉄緑会出身です。
しかし、その勉強スタイルは、上記ポイントの4番目にあるように、超高速ゆえ、学校の授業中に塾の宿題をやる生徒が大勢いる模様。
とはいえ、もともと難関校は学校の勉強自体がハードですから、鉄緑会との両立ができず、中には学校を自主退学する人もいたとのこと。
そこまでいかなくとも、鉄緑会の宿題に追われて生気を失ってしまったようになった生徒、通称「鉄緑廃人」が、結構いたりするらしいです。
◆本書の第4章では、こうしたエリート養成システムや、そこで育成された生徒たちの「光と闇」にフォーカス。
結論として挙げられていたのが、上記ポイントの5番目の4つの特徴です。
このうち最初の「『答え』を見つけるのが得意」というのは、裏を返せば上記ポイントの1番目にあるように、「『正解』が見つからない」状態に対する耐性が弱いということ。
それがゆえに「思考停止」に陥ったり、「そういうもんだ」と諦めたりしていては、実社会では通用しないことも出てくるはずです。
なまじ彼らには「学歴」があるだけに、組織の上の方でそれをやられるとマズイ気が……。
◆なお、付録の「鉄緑会出身東大医学部現役生・覆面座談会」については、筑駒、開成、灘、女子学院といった名門校出身の医学部現役生6名の座談会なので、レベルが違いすぎて、勉強法等は参考になりませんでしたw
ただ救われたのが、「親兄弟も医者なので医学部を目指した」という人が多数派であり、単に成績がいいからというだけで東大医学部に進んだ人はごくわずかだったこと。
まー、それでも、医者としてのスキルと、日本最難関の入試とは、正直あまり関係ないと思うのですが……、
いずれにせよ本書は、小学校低学年以下のお子さんを持つ親御さんには、一度目を通して頂きたいと思います。
そしてお子さんを、「この受験レースに参戦させる」か、「違うルートで人生を歩ませる」かを、なるだけ早めにご検討頂いた方が良さげ。
というのも、登場するお子さんの1人が、後になってから「こんな塾があるってもっと早く教えてくれたら」と言うエピソードがあって、まだ小学2年生のムスコを持つ父として、自分も色々と考えることがありました。
現在の中学受験以降の実態が良く分かる1冊!
ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 (幻冬舎新書)
第1章 サピックス~鉄緑会という王道
第2章 サピックス「ひとり勝ち」の理由
第3章 鉄緑会という秘密結社
第4章 塾歴社会の光と闇
付録 鉄緑会出身東大医学部現役生・覆面座談会
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【編集後記】
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ご声援ありがとうございました!
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