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2016年01月15日

【学び】『あなたの勉強法はどこがいけないのか?』西林克彦


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あなたの勉強法はどこがいけないのか? (ちくまプリマー新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の光文社新書セールにて、その対象となっていた『わかったつもり』経由で知った、西林克彦さんの勉強本

結構前の作品であるにもかかわらず、思いのほか中古のお値段が高い人気作です。

アマゾンの内容紹介から。
勉強ができない理由を、「能力」のせいにしていませんか?「できる」人の「知識のしくみ」が自分のものになる方法を、認知心理学から、やさしくアドバイスします。

目の前の試験に直結するやり方ではないかもしれませんが、まさに「本質的な勉強法」が提示されていると思います!






4/52 - Homework / Skakerman


【ポイント】

■1.「できない」ことと「一般的な能力のなさ」は違う
 ここにたとえば、ある問題が起こっていて、その問題は解決「できない」けれど、解決できない理由はその問題を解決するのに必要な知識のほんの一部だけが足りないからだ、とはっきりわかっている人がいるとしましょう。その人は、その問題が解決「できない」からといって、その問題が関係するすべてのことについての自分の能力や、もっと一般的な自分の能力のなさ――たとえば頭が悪いといったこと――を嘆いたりはしないでしょう。おそらく、その人は「あの知識が足りないから、いまはこの問題は解決できない」としか考えないでしょう。
 自分の得意、不得意をきちんと自覚している人は、あることが「できない」からといって、自分の一般的な能力に関して不安を持つことはまずありません。「できない」こと自体は、必ずしも自分の能力に対する不安感と直結したものではないからです。


■2.既存知識を活用する
 私たちがよく学習できるかどうかは、既存知識が使えて手が届く範囲に、勉強の対象があるかどうかによって決まります。既存知識が豊富な分野の勉強が、ほとんど自動的に次々と進むのはこのためです。既存知識が豊富だと手が届く範囲が広くなるため、新たな情報が容易に多量に取り込めます。そして、新たに取り込んだ情報も加えたより豊かな既存知識が、もっと先にまで次の手を届かせるようになります。
 いま、手が届く範囲にない勉強対象に対しては、次のような方法が有効です。その対象に一度で到達することを目指さず、そこから目標に手が届きそうだと考えられる手前の地点を、当面の勉強の対象にするのです。そして、その地点に達したあと、そこまでに得た知識を総動員して最終ゴールを目指すのです。


■3.公式の丸暗記をしない
 先の「できる学生」のところで見たように、中心となる公式を基本にすえ、そこから周辺の公式を導き出すという勉強のしかただと、記憶の負担が少ないため、記憶が長く保てます。そのうえ、周辺の公式を導き出す時に使う基本の公式の変形のしかたが、その分野の式の変形の標準的なものであることもあって、周辺の公式を導き出すことが可能な学生は、応用も楽々とできます。
 ところで、この大学段階の調査で「できない学生」は、それを最初に学んだ時から全くできなかったわけではありません。高校で習った時には、その人たちはできたのです。この人たちは、「大学になってもできる学生」たちと「高校で習った時にもできなかった学生」たちとの中間の学生と言うことができると思います。おそらくこの人たちは、習った当時には「できる生徒」と見なされただろうと思います。そして、本人たち自身もそう思っていることも少なくありません。しかし、勉強法によるその後の違いは大きく、公式群を丸暗記した人たちは記憶の負担が大きいため、長持ちするような学力が身につかなかったのです。


■4.「割り算」は「分ける」ことではない
 では、次の式を見てください。
16÷0.4
 この式は、「分ける」という考えではまず理解できないでしょう。小数の0.4で分けるということが、具体的に考えられないからです。
 でも、割り算とは「1あたり量を求める」計算なのだという考えからするとどうなるでしょうか。たとえば、右の式が、次の状況に当てはめられた割り算だとしてみてください。
長さ0.4mの金属棒があります。重さは16kgです。
 そうすると、16÷0.4の答えである40kgは、金属棒1mあたりの重さになることがわかりますね? つまり、割り算は割る数が自然数であれ小数であれ、「1あたり量」が得られる計算なのです。


■5.わざと危険にさらす
たとえば、数学の問題を解くとしましょう。そのとき、その問題が教科書の特定単元や問題集のある分野(たとえば三角関数)の練習・応用問題だったとしましょう。そうすると、私たちには、三角関数の知識を使って解くことが、単元名や分野名からわかってしまっています。
 そこで、ある人たちは、分野がわかっている分やさしくなっているのではないか、どの分野の問題かわからないときにも三角関数を使う気になるだろうかと考え、分野名を隠し問題集のどこをやっているのか自分にわからないようにして解いたりします。これは素朴な方法ではありますが、解くのが難しい場面を「わざと作って」自分を鍛えているのです。そこで解けなければ、「どうして三角関数を使うことを思いつかなかったのか」とか、「ああ、こう考えれば三角関数が使えるんだ」といった知識を獲得して、学カを上げていけるきっかけになるのです。


【感想】

◆「公式丸暗記」「理解できなくとも、まず暗記」で税理士試験を突破した私にとっては、非常に「耳イタイ」1冊でした。

とにかく上記ポイントの3番目では、はっきりと「公式丸暗記の弊害」について言及されているという。

ただ「基本的な考え方だけ押えて、公式を覚えない」というやり方は、脳科学の専門家である池谷裕二先生が、九九を「ニ二が四、二三が六、二四が八」までしか覚えていない、というのに近いかと。

その代りに、全ての数字を「10倍すること」「倍にすること」「半分にすること」の3つの方法だけ頭に入っているそうで、たとえば「23×16」であれば
=23×(10+6)
=23×(10+10÷2+1)
=23×10+23×10÷2+23
=230+115+23
=368
と暗算してしまうのだそう。

出典は『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』なんですけど、文庫化されたこの本にも確か載っていたハズ。

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受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法 (新潮文庫)

参考記事:【オススメ】『受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法』池谷裕二(2011年12月09日)


◆一方、上記ポイントの4番目は「目からウロコ」でした。

確かに小数で「分ける」というのは意味がわかりませんが、「1あたり量を求める」のだと思えば、極めて真っ当です。

また、本書で類題として挙げられていたのが、野球の打率のお話。

たとえば
ヒット数 ÷ 打率 = 打数
という計算式は、「打率が10割のときのヒットの数」であり、それはすなわち「犠打や四死球を除いた打席(=打数)のすべてでヒットを打ったと考えたときのヒット数」、すなわち、打数になるというワケです。

単純に公式で暗記しているよりも、幅広く応用が効く、というのもご理解頂けるのではないかと。


◆どうも算数関係のお話が多くなってしまいましたが、本書ではほかにも理科や科学、国語についても触れられています。

たとえば「個別事例」と「一般論」を学ぼう、というテーマの中にでてきたのが、「渡り鳥」のお話。

「白鳥が冬になるとシベリアの方から渡ってきて、春になると帰って行く」というのは、誰でも知っていることでしょう。

では、夏になると飛んでくるツバメは、冬はどこにいるのでしょうか?

……知っている人はさておき、知らなかった場合は、どのように考えれば良いのか?

単に「白鳥が冬になると飛んできて、春に帰って行く」という知識だけだと、その先には拡がって行きません。

一方これを「シベリアの冬は寒さが厳しいので、避寒のために日本にやってくる」という視点で捉えれば、渡り鳥は「冬は暖かいところ、夏は涼しいところ」にいる、と考えられ、これが渡り鳥の「一般論」になります。

この「一般論」をツバメに当てはめるとどうなるでしょうか?(詳細は本書を)


◆冒頭でも申しあげたように、本書は「とりあえず」の資格試験には当てはまらない部分もあります。

必要な公式等を、目標とする試験当日までは確実に記憶して、それを用いて効率よく解答する。

それがもっとも合格率が高いやり方であろうことは、私は今でも確信しています。

ただ、将来に向けて「学んだことを活かす」のであれば、一見「回り道」のような、本書のやり方の方が正しいのではないか、と。

また、ちょっと捻った問われ方をするとフリーズしやすい方も、本書のような「本質論」を読んでおくと良いと思います。


色々な意味で、「学び」の多い1冊!

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あなたの勉強法はどこがいけないのか? (ちくまプリマー新書)
第1章 「苦手」ということ
第2章 「得意」と「素質」
第3章 公式はやたらにおぼえない―勉強のコツ1
第4章 この知識のどこがいけないのか―勉強のコツ2


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【読書法】『社長の勉強法』に学ぶ7つの読書法(2012年04月29日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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中古が新刊より高い人気作ですので、興味のある方は要チェックで!


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