2015年12月17日
【オススメ!】『戦略がすべて』瀧本哲史
戦略がすべて (新潮新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、『僕は君たちに武器を配りたい』でお馴染みの瀧本哲史さん、久々の新刊。今回のテーマは、瀧本さんお得意の「戦略」ということで、イキイキと書かれている印象を受けました。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
ビジネス市場、芸能界、労働市場、教育現場、国家事業、ネット社会……どの世界にも各々の「ルール」があり、成功の「方程式」が存在する。
ムダな努力を重ねて肩を落とす前に、「戦略」を手に入れて世界をコントロールする側に立て。
『僕は君たちに武器を配りたい』がベストセラーとなった稀代の戦略家が、AKB48からオリンピック、就職活動、地方創生、炎上商法まで社会の諸問題を緻密に分析。
日本人が取るべき選択を示唆した現在社会の「勝者の書」。
身の回りのちょっとした事柄から、「戦略」を学べる1冊です!
2008-SWIMMING-4x100M-MEDLEY RELAY FINAL PODIUM / marcopako ?
【ポイント】
■1.ヒット漫画でも映画の原作料が安いワケ基本的に製作側は原作を「選ぶ」立場にある。どんなに有名な作品であろうと、映画化した場合にヒット確実などというものは基本的に存在していない。映画会社側から見れば、映画の原作としては、ある程度有名で、ある程度面白ければ、それで十分ヒット映画を作ることのできる可能性があり、逆に、それ以上の優劣の違いはない。
つまり、映画ビジネスの主導権は原作者側にはない。さらに、そのリスク・リターンも彼らがとるが、原作者はその責任を負っていない。むしろ映画がヒットした場合のコミック売上増大によるコミックビジネスの収益はそのまま原作者側に行くことを考えれば、リスクをとらずに利益をとるということさえ言える。
だから原作使用料は安いのである。
■2.「多産多死型」アプローチの限界
既存のメディア業界、とりわけ出版業界は、読者の注文に合わせてコンテンツを作るなどということはない。また、他の産業で行われるような、試作品でテストしてから最終製品にするということも難しい。
つまり、コンテンツ制作者が自らの考えやセンス、勘にもとづいて、良いと思ったものをたくさん作り、売れたものを売り伸ばすという「多産多死型」のアプローチである。ここ20年ぐらいで書籍の売上は落ちていても出版点数自体はむしろ増えている。
一方、集客面では、ネットメディアの隆盛によって、書店はかつての集客力を失っている。にもかかわらず、出版業界はは既存の販売チャネルに今もほとんど依存していて、集客も書店任せにしている。結果、ネットの集客メカニズムに比べると見劣りする。
■3.人の出入りこそが、企業の業績の先行指標となる
第一に、商品市場は買うのをやめることもできるし、資本市場は資金を引き揚げることで、投資を中断することが容易である。一方、人材市場においては、人は自分という財産を長期間にわたって会社にコミットさせるため、より真剣にその投資先を検討していることが期待できる。
第二に、人材市場においては、商品市場や資本市場では公開されない企業の内部情報をもとに投資が行われる。公にできる段階ではないものの、新分野に力を入れようと考た場合、企業はそれに適した人材の確保に走るだろうし、逆に一見堅調のように見えて内実は傾きかけている会社なら、社内の人間はその内部情報をもとに会社から去って行く。つまりその市場に、より多くの情報が反映される。いわば「インサイダー取引」なのだ。
■4.オリンピックでは「メダルがとりやすい競技を見極め、そこに資源を集中して投入する」
実はオリンピックではメダルをとりやすい競技ととりにくい競技がある。
たとえば、水泳や陸上はメダルがとりやすい。というのも、一人の優秀な選手がいれば、距離や種目の違いで複数のメダルをとることが可能であり、効率が良いのだ。(中略)
また、マイナー競技も狙い目である。サッカーやバスケットボールのように、世界的に人気があり、プロ選手が多数参加するような競技は、競技レべルが非常に高く、多少の力をつけたところでメダル獲得は難しい。一方でマイナー競技であれば、選手の人数も少なく、競技水準も相対的に低い。こちらを集中して育成すれば、比較的メダルレべルまで持っていきやすいと考えられるのだ。
■5.信者という「カモ」をあぶり出す「炎上」
電話での振り込め詐欺やネットの詐欺メールなどでは、話があまりにも不自然だったり、文章が多少おかしかったりすることが多い。しかし、こうした犯罪に詳しい人によると、実は普通の人が編されないような文章を送ることは、「編されやすい普通じゃない人」を抽出するための手段だという。もし、詐欺の途中でこれはおかしいと気付かれ、警察に届けられたりすると、詐欺師としては不都合だ。むしろ、最後まで編し続けられる「カモ」を探すには、最初の段階で明らかにおかしいものを提示し、それでもおかしいと思わない人を選び出す必要がある。
これと同じように、競合優位性がないコンテンツにお金を払う人を見つけるためには、最初の段階で明らかに「炎上」するようなコンテンツを提供し、それを批判するのではなくむしろ呼応するような読者だけを、効率的に探し出す必要がある。
【感想】
◆当ブログで「戦略」と言った場合、多いのがビジネスシーンのお話なのですが、本書はバラエティに富んでいてまったく飽きませんでした。たとえば割愛した中で興味深かったのが、本書の初っ端に出てくる「AKB48」です。
以前プロデューサーである秋元 康さんのこの本を読んで、「なるほど、だからAKBは成功したのか」と思っていたのですが。
AKB48の戦略! 秋元康の仕事術 (田原総一朗責任編集)
参考記事:【オススメ!】『僕は君たちに武器を配りたい』瀧本哲史(2011年09月23日)
もうちょっと上のレイヤーから眺めてみると、また違う「戦略」が見えてきます。
◆まずAKBは、メンバーそれぞれが別の芸能プロダクションに所属しているので、大量のタレントを抱えていながらリスクやコストを負う必要がありません。
また、本来限りがある稼働率に関しても、「とにかくAKBであればいい」というオーダーであれば、空いている「セカンドクラス」メンバーの稼働によって補充可能。
さらにたとえ人気が出てきて、契約の主導権がタレント側に移りそうになっても、AKBにいることで生まれる価値がある以上、大幅に制限されます。
……って、これらはいずれもメンバーの手前、秋元さんの口からは言えません罠w
ちなみにこのシステムは、コンサルティング会社や弁護士事務所に見られる「プロフェッショナルファーム」も似たようなものである、と瀧本さんは指摘されています。
まず専門職の従業員である「アソシエイト」を多めに採用して、才能があり顧客を獲得できた人間だけが「パートナー」に昇格することや、顧客の目に見える部分だけを「パートナー」が対応し、下働きは「アソシエイト」が行うことで稼働率を確保することもそう。
そして、そのファームにブランドがあるのなら、そこで働く人間は強くは出られません。
確かに「マッキンゼー」ブランドがあるのとないのとでは、違いますよね(「元マッキンゼー」でも十分ブランドですが)。
◆一方、上記ポイントの3番目は、投資家でもある瀧本さんならではのお話。
そういえば以前、土井英司さんのセミナーで、これから「来る」ビジネスなり企業を知るには「求人を見よ」、と言われたことがありました。
確かに、例えばいくらお店を開店することを伏せておいても、それ以前に「求人」をしないことには営業は開始できません。
逆に人材の流出情報によって、その企業やビジネスの傾き具合も分かるというもの。
ブログでたまに見かける「辞めました」エントリーも、見る人が見たら、会社の伏せておきたい情報が筒抜けになっているのかもしれません。
◆最後のポイントの5番目に出てくる「詐欺」とは、渡辺千賀さんのブログで知った、「ナイジェリア詐欺」のことかな、と。
ナイジェリアの手紙 - Wikipedia
知ってる人からしたら「ナイジェリア」ってだけでピンと来るし、そうでなくとも、普通は中身を読んで奇異に思うのだそう。
ただ、これがネットの「炎上」も同様、というのは「目からウロコ」。
とはいえ、ここで言う「信者」にしてみたら、炎上している「教祖」こそ「正義」ですし、「多くの人に批判されても自分の意見を曲げない"殉教者"」という風に考えるのも理解できます。
確かに「有料化金型コンテンツ」を行っている人が炎上するケースは、結構あるような。
もっとも、意図的に炎上しているのか、結果的に炎上してしまったのかは、はた目からは分かりませんが……。
◆なお本書は、『日経プレミアPLUS』の特集および連載「瀧本哲史の時事評論」、『新潮45』の連載「逆張り(コントラリアン)日本論」を元に再編集したものだそう。
なるほど、別媒体で個別に展開されていただけあって、1つひとつのお話が興味深く、かつ、フックが効いているものが多かったです。
今までの瀧本さんのご本に対して「、やや難しい」「理解しにくい」という印象を受けていた方なら、本書は分かりやすくてオススメ。
基本的にそれぞれが独立したお話なので、目次を見て、気になったところを飛ばし読みするのもアリだと思います。
個人的には今までの瀧本さんの作品の中で、最も敷居が低いのではないか、と。
これはオススメせざるを得ません!
戦略がすべて (新潮新書)
I ヒットコンテンツには「仕掛け」がある
II 労働市場でバカは「評価」されない
III「革新」なきプロジェクトは報われない
IV.情報に潜む「企み」を見抜け
V 人間の「価値」は教育で決まる
VI 政治は社会を動かす「ゲーム」だ
VII 「戦略」を持てない日本人のために
【関連記事】
【オススメ!】『僕は君たちに武器を配りたい』瀧本哲史(2011年09月23日)【スゴ本!】『武器としての決断思考』瀧本哲史(2011年09月22日)
【仕事術】『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』塩野 誠(2015年03月28日)
【重要思考】『戦略思考ワークブック【ビジネス篇】』三谷宏治(2014年10月14日)
【スゴ本!】『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』(2013年01月26日)
【編集後記】
◆昨夜お伝えしましたように、本日をもって「光文社新書50%OFFセール」が終了します。Amazon.co.jp: 【50%OFF】光文社新書セール(12/17まで): Kindleストア
実際の値引き率は50%どころかそれ以上がほとんどですし、今ならポイントも20%還元されるので、ダブルでお得。
一応当ブログの昨日前までのランキングもご参考まで。
【メモ】明日終了するKindleセールから選んだ15冊【光文社新書】(2015年12月16日)
ご声援ありがとうございました!
この記事のカテゴリー:「ビジネススキル」へ
「マインドマップ的読書感想文」のトップへ
スポンサーリンク
この記事へのトラックバックURL
●スパム防止のため、個別記事へのリンクのないトラックバックは受け付けておりません。
●トラックバックは承認後反映されます。
当ブログの一番人気!
12月16日まで
Kindle月替わりセール
年間売上ランキング
月別アーカイブ
最近のオススメ
最近の記事
このブログはリンクフリーです