2015年12月13日
【考え方】『ぼくらの仮説が世界をつくる』佐渡島庸平

ぼくらの仮説が世界をつくる
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも人気だった1冊。著者の佐渡島庸平さんは、講談社の元編集者で、業界内では知らぬ人はいないであろう実力の持ち主です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
1600万部超! 『宇宙兄弟』、600万部超! 『ドラゴン桜』を大ヒットに育て上げた編集者であり、作家エージェント会社「コルク」を起業した、いま注目度ナンバーワンの編集者/経営者、初の著書!
さっそくアマゾンでは100位以内に入って在庫が切れたようなので、お求めやすいKindle版でどうぞ!

宇宙兄弟 26巻 / masato_photo
【ポイント】
■1.マンガのプロモーションに美容院を使うフェイスブックやツイッターを見ていても「この人センスいいな」と普段から思っている人が勧める本や映画なら見たくなるでしょう。それと同じで、美容室に行く人で「自分の行っている美容室はダサい」と思っている人はいないはずです。自分が「オシャレな人」と認める美容師さんから、「このマンガおもしろいよ」と勧められたら、きっと読んでくれるだろうと考えたのです。
こうして「女性読者を増やすためには美容室から火をつける」という具合にぼくの「仮説」は補強されて、実行に移しました。
■2.いい作品とは、新しい定義を生み出すことができるもの
『ドラゴン桜』を通じて、「受験勉強は、おもしろくなくても『やる価値のあること』であり、トップである東大を目指すのはいいことだ」と教育を再定義しようとしました。その定義を考えている過程で、「教育業界に認められれば、世間も『ドラゴン桜』を信頼して、読まれるようになるのではないか」という仮説が生まれました。
そこで、書店のマンガコーナーのみならず、学習参考書のコーナーにもマンガを置いてもらえるように書店を回ろう、というプロモーションを思いつきました。当時、参考書のコーナーにマンガを置いてもらうのは、ほぼ前例がありませんでしたが、結果的にとてもうまくいき、『ドラゴン桜』はヒットの道をたどることになったのです。
■3.あらゆる「なんとなく」をスマホが奪っていく
ヒット曲を聴いている人は、「その曲でないとダメ」と思っているわけではなく、「なにかしら音楽を聴きたい」と思って「なんとなく」音楽を聴いているだけです。(中略)
食事も、読書も、映画も同じことが言えます。「なんとなく」のファンによって、支えられてきたのです。家では「なんとなく」の時間をテレビが独占していて、それ以外の時間をさまざまな業態で奪い合っていたわけです。
しかし最近では、家にいるときも、外にいるときも、すべての「なんとなく」をスマートフォンが奪っていきます。世の中にある95%の「なんとなく」がスマートフォンに集中してしまっている。これは、恐るべきことです。
■4.おもしろさは<親近感×質の絶対値>の面積
雑誌や単行本において、「作品」と「読者」の関係性は固定化されていて、身近とはなかなかいいづらいものがあります。
一方、SNSでつながっているのは、知り合いや興味のある人たちです。親近感のある人たちとも言えます。身近な人が発信するから、ぜんぜん知らないプロの文章よりも「おもしろい」と感じるのです。
おもしろさというのは<親近感×質の絶対値>の「面積」だったのです。
この面積理論を、ソーシャルゲームに当てはめると腑に落ちるところがたくさんあります。(中略)
ゲームの質を絶対値ではかると、旧来のゲームのほうがソーシャルゲームに勝つように思いますが、親近感の高いソーシャルゲームのほうが、面積は広くなります。
コンテンツは、1次元の時代から、<親近感×質>という「2次元」の時代になったのです。
■5.今後はプロデューサー的な編集者が増える
マンガや小説も、はじめにお金を払うという順番ではなくなっていくでしょう。途中まで読ませて後から課金したり、もしくはすべて無料で読ませてグッズや作家とのコミュ二ケーションなどで収益を上げたりするようになるかもしれません。
これからは、どの時点で「お金をください」と頼むとファンが気持ち良く払ってくれるのかという問いを、編集者がゼロから考えなけれぱならないのです。
どのタイミングが、自然な課金のポイントとなるのかは、作品ごとに変わってきます。だから、作品を深く理解している編集者がそこを考えなければならないのです。
【感想】
◆私が佐渡島さんのことを最初に知ったのは、このセミナーの時でした。『平成・進化ゼミ「ドラゴン桜の非常識な成功法則!!」』に行ってきました(2006年04月09日)
2006年ですから、ほとんど9年以上も前のこと。
当時はまだ『ドラゴン桜』も連載中であり、上記セミナーは作者の三田紀房さんと佐渡島さん、それにメルマガ「平成進化論」の鮒谷周史さんの鼎談形式で行われました。
漫画家である三田さんや、セミナーを主催した鮒谷さんもさることながら、お2人に比べると無名な、講談社の編集者である佐渡島さんが、キレッキレだったことは、このセミナーに出た方の多くが感じ取ったのではないか、と。
帰宅してから、佐渡島さんについて検索したものの、当時はほとんど資料がなかった記憶があります。
一応、『ドラゴン桜』のWikipediaで
最高峰である東大を目指す設定を考えていたが作者が「(普通の学生が)東大に入るのは難しいよね」と語ると担当編集者が「東大など簡単に入れますよ」と答え、その担当編集者が東大卒であった事から『ドラゴン桜』誕生のきっかけとなった。とある「編集者」こそ、佐渡島さんなんですがw
◆本書は、そんな佐渡島さんの「思考法」や「仕事術」を明らかにするというもの。
第1章のテーマが、タイトルにも登場する「仮説」についてで、上記ポイントの1番目と2番目が該当します。
いずれもプロモーションに関することであり、この辺は「編集」というより、むしろ「営業」や「マーケティング」に携わる方にお読み頂きたいな、と。
この章で割愛した中には、雑誌「モーニング」の郵便ハガキのアンケート結果に納得せず、携帯サイトを提案したというお話もありました。
実際にその案が採用され、携帯でアンケートを取ってみると、ハガキよりも5歳以上平均年齢が若くなったとのこと。
この辺は、家への電話アンケートだと「ヒマで家にいる高齢者」ばかりが回答しやすい、というのに近い気がしますw
◆続く第2章の最後には、上記ポイントの3番目のお話が登場するのですが、確かにこれからの時代の表現者や編集者にとっては、「インターネット」や「スマホ」を制することが必須。
というわけで第3章では、これからの編集者はどうすべきか、について丸々1つの章を割いて言及されています。
ここで興味深かった(でもスペース的に割愛せざるを得なかった)のが、作家の平野啓一郎さんのお考えである「分人主義」について。
『私とは何か---「個人」から「分人」へ』著者:平野啓一郎 〜諸悪の根源は「個人」〜 | 読書人の雑誌『本』より | 現代ビジネス [講談社]
要は、自分の中に存在する、ある作品のファンである「分人」は、「相手」である「その作品」によって引き出される以上、「その作品」を大切に思ってもらうためには、その「分人」を毎日引き出すことが重要なワケです。
つまり、佐渡島さんたちが、さまざまなSNSを運用しているのは、「これからの時代はSNSだ!」という安易な考えではなく、その作品と一緒に過ごす「分人」を持ってもらうためなのだそう。
それに比べると、TwitterもFacebookも「ほぼ更新通知のみ」である私の不甲斐ないことと言ったら……。
◆一方第4章では、「仮説を立てる」のと同じくらい大切、と佐渡島さんがおっしゃる「ドミノの1枚目を倒す」というテーマについて。
これは、この本でいうところの「ドミノ理論」に近いもののよう。

「成功」のトリセツ (角川フォレスタ)
参考記事:【キャンペーン有】『「成功」のトリセツ』水野 俊哉(2012年09月25日)
なお佐渡島さんは「キーとなる最初の1枚」を断定されています……のですが、一応ネタバレ自重w
その後に続くお話も含めて、この章はむしろ、「自己啓発」に近い内容と言っても良さそうです。
◆ちなみに本書は、編集者である佐渡島さんが編集したのではなく、版元であるダイヤモンド社の編集がつき、ライターとともに構成と内容を提案し、それに佐渡島さんが加筆修正してできたものなのだとか。
業界関係者の方だったら、もっとコンテンツやプロモーションの内容に特化して欲しかったハズですが、もっと多岐に渡る内容になったのはそのせいかもしれません。
その結果、タイトルと直接関係ないお話が出てきて、そこをアマゾンの最初のレビュアーに指摘されたのはご愛嬌w
とはいえ、幅広い層の方に訴求するのは確かなので、多くの方にぜひお読み頂きたく。
「目からウロコ」の1冊です!

ぼくらの仮説が世界をつくる
はじめに―大航海時代が始まった
【1章】ぼくらの仮説が世界をつくる―革命を起こすための思考アプローチ
【2章】「宇宙人視点」で考える―本質を見極め常識を打ち破るための思考法
【3章】インターネット時代の編集力―モノが売れない時代にぼくが考えてきたこと
【4章】「ドミノの1枚目」を倒す―遠くのゴールに辿り着くための基本の大切さ
【5章】不安も嫉妬心もまずは疑う―「先の見えない時代」の感情コントロール
【6章】仕事を遊ぶトムソーヤになる―人生を最高に楽しむための考え方
おわりに―仮説を実現する冒険に出よう
【関連記事】
『平成・進化ゼミ「ドラゴン桜の非常識な成功法則!!」』に行ってきました(2006年04月09日)【濃厚!】週刊ダイヤモンドの電子書籍特集号が予想通りキテる件(2010年10月12日)
【キャンペーン有】『「成功」のトリセツ』水野 俊哉(2012年09月25日)
【仮説検証】『アウトプットの質を高める 仮説検証力』生方正也
【編集後記】
◆昨日の朝ご紹介した、朝日新聞出版のセールが、本日限りとなっております。Amazon.co.jp: 【50%ポイント還元】朝日新聞出版キャンペーン: Kindleストア
これから家族で出かける予定なので間に合うか自信がないのですが、できるだけ早く「終了当日ランキング」をお届けできれば、と。

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