2015年11月17日
【都民必読?】『23区格差』池田利道
23区格差 (中公新書ラクレ 542)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、23区内にお住まいの方なら、読みたくなること必至な1冊。著者の池田利道さんの肩書きが「東京23区研究所所長」というものだったので、一瞬「ぁゃιぃ」と思ったのですが、実は「東京大学工学部都市工学科卒」と知り、手のひらを反して読んでみたというw
アマゾンの内容紹介から。
一人勝ちとも言われる東京で進む「格差」。ある区で少子化や高齢化が止まった理由とは?子育て支援や医療の手厚い区、学歴・年収・職業が非凡な区とは?その力強さの秘密を東京23区研究所所長がデータで解析。成長のヒントはここにある!23区通信簿付き。
私自身、40年以上23区内に住んでいましたが、初めて知ったことが多々ありました!
Mori Tower, Roppongi Hills / Su--May
【ポイント】
■1.東京は「少子化」になっていない「少子高齢化」とは、言うまでもなく子どもが減って高齢者が増えることを指す。しかし、東京は子どももお年寄りもどちらも少ない。理由は簡単だ。東京の最大の魅力は働く機会が多いことであり、その結果として、15〜64歳のいわゆる生産年齢人口が多い。子ども人口比率が低いのは、この相対的結果に過ぎない。(中略)
全国の子ども(0〜14歳)の数について、2000年と2010年を比べると、ほぽ鹿児島県の人口と等しい167万人(9.0%)も減少した。ところが、この10年間に子どもの数が増えた都道府県がふたつだけある。
ひとつは神奈川県の0.3%増。そしてふたつ目が東京都。こちらは4.0%増。23区で見ると、これをさらに上回る5.1%の増加を示す。
0〜4歳の幼児人口に着目すれば、もっと顕著だ。全国の10.3%減に対し、東京23区は8.2%増。少子化どころか、子どもも東京に一極集中している。
■2.品川区で子どもの数が増えている理由
まず特筆すべきは、同区の学童保育の充実度だ。『東京の児童館・学童クラブ事業実施状況』を見ると、品川区の学童クラプ登録児童数(2014年)は約5千470人。2位の世田谷区(約4千500人)を千人近く上回る。(中略)
東京23区では、現在すべての区で、小学生に防犯ブザーが配られている。品川区の「まもるっち」は、これにGPS機能を搭載した、いわゆる「キッズ携帯」の一種だが、注目すべきはそのシステムにある。
子どもが発したSOSは、区のセンターを通じて発信地点近くの登録ボランティア協力員に送信される。協力員は、自治会や商店街やPTAの人などで、その数は約1万3千人に及ぶ。単純計算でおよそ40メートル四方に1人の協力員がいることになるから、誰かがすぐに現場に駆けつけることができるのだ。
■3.なぜ港区に富の集中が起きているのか
後述するように、港区には情報産業をはじめとした成長産業が集積している。そこで働く人たちは、高い収入を得ていると考えていいだろう。しかし、実は港区で働いている人のうち、港区に住んでいる人の割合はわずか5%しかいない。港区で支払われる給与の大部分は区外に流出しているのだ。
富が内側から生まれたのではないとすれば、外からやってきたと考えるしかない。港区で「富の集中」が進んだのは、高地価で生活コストも高い港区でも住宅を購入することができる、あるいは高い家賃を支払うことができる高額所得者が増えたからにほかならない。
■4.専業主婦を夢見る世田谷区の女性
35〜45歳の有配偶女性の就業率は、全国の60.7%に対して東京23区は56.1%、世田谷区は23区最低の51.8%にとどまり、全国平均と比べて10ポイントも低い。ちなみに、22位は杉並区、21位は練馬区、20位は目黒区と、若い主婦の就業率が低い区は、西部山の手エリアに集中していることがわかる。(中略)
保育サービス利用者数を未就学児の数で割った保育施設の充足率も30.8%。これも23区で一番低い。トップの荒川区(47.0%)とでは、実に1.5倍以上の差がある。
しかし見方を変えれば、「奥様文化」の頂点に立つ世田谷区は、そもそも子どもを預けてまで働くという風土そのものが、弱いまちだということもできるだろう。
■5.定住率が低い区こそ「勝ち組」になる?
あらためて図表27をながめていただきたい。中央区、江東区の両区を例外として、定住率が低い区は、順に港区、世田谷区、目黒区、千代田区、文京区。リクルート住まいカンパニーの『住みたい区ランキング』の上位区、「三高」の区、高齢化率の低い区が並んでいる。これは図表1に示した知名度が高い区とも重なり合う部分が多い。
一方定住率が高い区は、北区、台東区、葛飾区、足立区、墨田区、荒川区。これらは「住みたい区」のランク外と完全に一致。「三平」で高齢化が進む、知名度の低い区がズラリと名を連ねる。
「常識」と逆に、定住率が高い区こそ「負け組」に、定住率が低い区こそ「勝ち組」になっている。定住率の向上を錦の御旗のように掲げる研究者や政治家や行政マンは、この結果にどうコメントするだろうか。
【感想】
◆本書はなかなか興味深い内容の作品でした。まず第1章では、「23区常識の『ウソ』」と題して、東京23区が日本における「常識」に反していることを列挙。
その1つが上記ポイントの1番目の「少子化」であり、東京は特に5歳以下の幼児の占める割合が、全国平均を上回っています。
その原因ですが、大きいのが親世代の分布で、東京には20代後半から30代前半の若い世代が多いそう。
全国平均の12.3%に対して、東京23区は16.3%であり、その差は1.3倍を超えています。
この第1章では、他にも「高齢化」「下町と山の手」「定住」という3つの論点について言及していますので、ご確認を。
◆続く第2章は「ニーズで読み解く23区格差」と題した、目的別の各区評です。
ここでは代表的なニーズごとに、23区を分析。
具体的なニーズとしては、「子育て支援が手厚い」「病気になっても心強い」「災害時にも安心・安全」といった辺りが登場しております。
上記ポイントの2番目は、その「子育て支援」からなのですが、私は義姉夫婦が品川区にいた関係で、以前から「まもるっち」のことは知っており、スゴイな、と驚いた記憶が。
記者の眼 - ITと人で我が子を救う「まもるっち」:ITpro
また、「病気になっても〜」のところで「なるほど」と思ったのが、比較の難しさで、たとえば単純に「診療所の数が一番多い区」は世田谷区になります。
ただし区の人口が約88万人もいる(都道府県の中にはこれより少ない県が7つもあるのだとか)のですから、これはある意味当たり前。
では何で割るべきか、というと人口(夜間人口)が基本なのですが、そうすると今度は千代田区が何でも一番になってしまいます(夜間人口5万人に対して昼間人口82万人)。
病院の場合、仕事の合間に来る人(昼間人口)も対象にしているのですから、確かに比較するにも工夫がいるな、と(詳細は本書を)。
◆一方第3章は「年収・学歴・職業が非凡な区、平凡な区」ということで、煽って書いたら炎上しそうな内容がw
ここからは上記ポイントの3番目で港区を取り上げましたが、実は港区が開けたのは比較的最近のこと。
大きかったのが南北線と大江戸線の開通で、私も麻布十番駅ができるまでは、仕事の関係で東京法務局の港出張所に行く際、駅から遠くて泣いていたものです(遠い目)。
ちなみに納税義務者一人当たりの課税対象所得額(「所得水準」)が上位の区は、上から港区、千代田区、渋谷区、中央区、文京区、目黒区、世田谷区となっており、この7つが「高学歴」「高職種」を合わせた「三高」の代表である「七強」とのこと。
本書では各指標ごとに23区全部がグラフで列挙されてされているので、お住まいの区が何番目かもすぐ分かるのですが、23区における「所得水準」最下位は、書影にもデカデカと出ているように、足立区になります。
ただし、全国812市区中のランキングで見ると、足立区は157位で、大阪市(192位)や札幌市(285位)よりも所得水準は高いという。
そもそも157位なら上位2割に収まるワケで、立派な「勝ち組」……というか、港区とかの方がおかしいですよ、絶対。
◆そして第4章がいよいよ各区ごとの「通信簿」。
ここでは東京23区すべてについて、「認知度ランキング」順に、その特徴等が挙げられています。
私の場合、ここ40年程の間に、北区、文京区、大田区、中央区、目黒区と移り住み、また通った学校や会社、専門学校を含めると、練馬区、新宿区、港区、千代田区と計9つもあり、23区の1/3を上回るという。
これに買い物で通い詰めた区や、元カノや親友が住んでいた区を加えると半分くらいは「ある程度は知った区」になります。
当時と今の違いや、住んでいながら知らなかった事等々、正直「目からウロコ」の連続。
一番ショックだったのが、今いる中央区は、緑被率が23区最低だったことで、指摘されると、確かに以前いた目黒区と比較すると、緑は少ないな、と。
しかもこれ、入園料300円の浜離宮庭園を含めてですから、区民としては明らかに「緑不足」気味です。
家の周りにも、やたらとマンションばかり建っていますが、もうちょっと公園を増やして欲しい……。
◆本書はタイトルに「格差」とあるため、読む前はてっきり対立を煽りたてるような内容かと思いましたが、決してそうではありませんでした。
特に上記の第4章の各区ごとの論評は、それぞれの区のよいところや誇れるところをできるだけ探し出している感じです。
上記の「三高」では分が悪かった、都の東側の各区の良さもしっかり触れられていますし。
さらには、これからどうすべきか、といった建設的な意見も散見されるので、区政に携わる方や区役所等の職員の方にはぜひお読み頂きたいところ。
もちろん、23区内にお住まいもしくは働いている方なら、興味深く読めると思います。
そうそう、メディアでしか「東京」をご存知ない方には、これが「リアル東京」なんだと言いたいワタクシ(自分も知らなかったことが多いですがw)。
東京23区に興味のある方すべてに捧ぐ!
23区格差 (中公新書ラクレ 542)
はじめに
前章 多極化する23区に生まれる「格差」
第1章 23区常識の「ウソ」
第2章 ニーズで読み解く23区格差
第3章 年収・学歴・職業が非凡な区、平凡な区
第4章 23区の通信簿
最終章 住んでいい区・よくない区を見極める方法
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【編集後記】
本書内でも紹介されている、以前スマッシュヒットとなったのがこちらの本。年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学
結構お高いので、Kindle版がオススメかも。
ご声援ありがとうございました!
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23区格差 (中公新書ラクレ 542)作者: 池田 利道出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2015/11/07メディア: 新書 東京23区の特徴をわかりやすくまとめた一冊。 後述すると章立てを見ると23区以外に住む人をターゲットに書いているようにも見受けられる(「少子化」という
高級な賃貸物件のある町に住もう:23区格差【本読みの記録】at 2016年04月09日 23:31
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