2015年11月09日
【意思決定】『「洞察力」があらゆる問題を解決する』ゲイリー・クライン
「洞察力」があらゆる問題を解決する
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事にて一番人気だった作品。ノーベル経済学賞受賞者であるダニエル・カールマン教授や、おなじみマルコム・グラッドウェルも推薦しているという注目作です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
個人にしろ、組織にしろ、問題を解決するためには、「いかにミスをなくすか」というウエイトに重きを置き、パフォーマンス向上を図っている。
しかし著者は、それに相対する、「見えない問題を見抜く力」を高めるほうが、問題発見・問題解決に効果があるという。
そんな「見えない問題を見抜く力」の答えを、実験室ではなく出来事の起こった現場に求め、論理的や分析的な方法よりも重要な問題解決法を提示する。
120もの事例を分析して導き出した結論とは!?
Pearl river fire.. / Loco Steve
【ポイント】
■1.「パフォーマンスの方程式」の2つの矢印2005年以後、私は自分の研究のプレゼンテーションに、次ぺージのような新しい図をつけ加えた。そこにある「2つの矢印」が、私の意図することを表している。
ここでいうパフォーマンスとは、「技能」「性能」「生産性」の総合的な意味が込められている。そして、このパフォーマンスを向上させるには、私たちは2つのことをしなくてはならない。1つは、下への矢印は私たちが抑えなくてはならないもの、つまリミスのことである。もう1つは、上への矢印は私たちが増強しなくてはならないもの、つまり「見えない問題を見抜く力(=洞察力)」のことである。
私たちのパフォーマンスの向上とは、実はこれら2つの力のバランスにかかっている。
■2.消防士たちの意思決定に学ぶ
消防士たちは、自分たちが過去に学んだパターンに、遭遇している状況をどのように適合させるかを認識することで、迅速な意思決定をしていたのである。彼らの意思決定におけるパターンは、速く、そして自動的なものであった。それは、彼らがうまくいくための選択肢を迅速に認識するために、直感力をどのように利用しているのかを示している。(中略)
私はこれを「再認主導意思決定法」と命名したが、他の研究者たちは私の研究結果を他の分野にも当てはめた。すると、軍の司令官や油田の開発管理者などの専門家が困難な局面に遭遇したとき、実に90パーセントの割合で直感力に依存していたことが判明したのである。
こうして「現場主義的意思決定(NDM理論)」という分野が確立したのである。
■3.見えない問題を見抜くための『発見への3つのプロセス』
(1)「出来事の矛盾」から発見へのプロセス「出来事の矛盾から見抜く方法」「やけっぱちな推測による方法」については、以前からあった「考えの根拠」のいくつかを捨て去ることになる。「出来事のつながりから見抜く方法」については、新しい考えの根拠がつけ足されることになる。つまり、すべてのプロセスにおいて、発揮される以前の考えの根拠とは異なるのである。
(2)「出来事のつながり」「偶然の一致」「好奇心」から発見へのプロセス
(3)「やけっぱちな推測」から発見へのプロセス
(詳細は本書を)
■4.「見えない問題を見抜く力」を発揮する機会を逃す4つの理由
●誤った考えに固執している
●経験不足
●消極的な姿勢
●具体的な考えにとらわれた推論
(詳細は本書を)
■5.「完璧主義の罠」にはまる組織
ミスを抑えることで組織を管理することは、「見えない問題を見抜く力」を向上させようとすることよりも楽で、しかも気を紛らわされることも少ない。
完璧主義は、まさに体操選手が規格化された動きを完遂するかのように元来の計画を厳格に実行することである。ところが、「見えない問題を見抜く力」というのは完璧主義を超えるものであり、この力は、元来の計画をより良くするものである。それなのに、どうして自分たちを当初の目標にがんじがらめに縛る必要があるのだろうか?
あなたは、その答えを知っている。完璧にこなすこと以外のことをしても報われることもないし、もし完璧にできなかった場合、多くの不都合な問題が生じることになるからである。だから、完璧主義を妥協して受け入れているのである。
【感想】
◆本書の巻末には訳者である奈良 潤さんの解説があるのですが、驚いたことにこれがなかなか濃くて、ここを読まずしては、本書や本書の立ち位置を理解できないと思います。アマゾンの内容紹介でも、訳者さんなのに勝手に「『ノーベル心理賞』なるものがあれば、100%受賞していたであろう」なんて言われているので、思わずアマゾンのページの「著者について」で確認してしまったワタクシ。
なるほど「日本認知科学会、米国人間工学会、米国判断意思決定学会の各正会員」ということですから、ただの訳者さんではありませんでしたw
それはさておき、まず冒頭でもご紹介したように、ダニエル・カールマン教授は、本書を推奨しているのですが、かねてから本書の著者であるゲイリー・クライン博士のことを研究上のライバルとして、「敵対的協力者」と呼んでいたのだそう。
というのも、クライン博士とカーネマン教授は、直感について、真逆の見解を示しているから。
◆まずクライン博士は、直観力と洞察力(本書では一貫して「見えない問題を見抜く力」と呼んでいます)に絶大な信頼を置いています。
一方カーネマン教授らは、専門家の直感は統計やアルゴリズムに劣るものであり、人間である以上「バイアス」から逃れられないと指摘。
ちなみに「カーネマン陣営」には、当ブログでも著作をご紹介したことのある、イアン・エアーズ教授がいるとのこと。
ヤル気の科学―行動経済学が教える成功の秘訣
参考記事:【スゴ本!】『ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣』イアン・エアーズ(2012年10月30日)
ただ、この本ではなくて、『その数学が戦略を決める』で「医師に代表される専門家の直感は、統計や確率という絶対計算による判断に劣る」と切り捨てているのだそう。
その数学が戦略を決める (文春文庫)
結果的にカーネマン教授はノーベル経済学賞を獲っていますし、その後「行動経済学」という1ジャンルが確立されていることからも、勢力的には大きそうですが、実際に本書を読んで頂くと、クライン博士の主張にもうなづける部分が多いことが分かると思います。
◆特に、カーネマン教授らの主張は、上記ポイントの1番目にある「パフォーマンスの方程式」で言うところの、「ミスを抑える」矢印に該当するのに対して、クラインの方は、まさに「見えない問題を見抜く力(=洞察力)」の矢印に該当。
パフォーマンスを考えた場合、両方が必要ではあるものの、ミスを減らそうとすると、「見えない問題を見抜く力」がないがしろにされがちなのは、上記ポイントの5番目の通りです。
また、割愛したお話の中で、「シックス・シグマ」を採用した企業が、当初は『フォーチュン』誌のうちの58社を占めたものの、その後成長率が鈍化していった、というエピソードがありました。
要は、「ミスが発生する頻度を100万分の3.4回に抑えようと莫大なエネルギーをつぎ込んだ結果、新しい商品を生み出すアイディアのための十分なエネルギーが残っていなかった」ということ。
確かに「ミスを抑える」ことは生産性向上にはつながるものの、新たなビジネスをつくり出すのとは、ちょっと違いますよね。
◆ちなみに本書というかクライン博士の主張は、上記でも触れているように、多くの事例から共通点等を抽出して導き出されているため、「帰納法」に近い印象を受けました。
ただ、「ミス」は目に見えるので分かりやすいのですが、「見えない問題を見抜く力」はその名の通り目に見えません。
さらには、自分の直面する状況が、過去のパターンのどれをどう当てはめるべきか、という部分で、またハードルが高そうな。
その辺、カーネマン教授の「プロスペクト理論」は、分かりやすいな、と。
それでも上記ポイントの3番目の『発見への3つのプロセス』の部分は、今回は説明不足となってしまいましたが、本書収録の図とともに読み解いて頂ければ、「目からウロコ」となると思います(詳細は本書にてご確認を)。
意思決定を極めるために!
「洞察力」があらゆる問題を解決する
PART1 目には見えない問題を見抜くための扉~問題解決の「引き金」をどう引くのか?
CHAPTER1 見えない問題とは何かをつかむ
CHAPTER2 洞察力を導く5つの認識パターン
CHAPTER3 出来事のつながりから見抜く方法
CHAPTER4 偶然の一致と好奇心から見抜く方法
CHAPTER5 出来事の矛盾から見抜く方法
CHAPTER6 絶望的な状況における、やけっぱちな推測による方法
CHAPTER7「見えない問題を見抜く」ための別の方法
CHAPTER8 問題発見への3つのプロセス
PART2 見えない問題を見抜くための「心の扉」を開ける~私たちを邪魔するものの正体は何か?~
CHAPTER9 自信を持って誤る偽りの発見
CHAPTER10 問題を見抜く人、見抜けない人
CHAPTER11 厳格なITシステムが直感を鈍らせる
CHAPTER12 組織は「見えない問題を見抜く力」をどのように抑圧しているのか?
CHAPTER13 結局、人が問題を見抜けないのはなぜなのか?
PART3 目には見えない問題を見抜く「心の扉」を開け放つ~問題解決法を身につけることができるのか?~
CHAPTER14 「見えない問題を見抜く力」は自分自身を救う
CHAPTER15 「見えない問題を見抜く力」は人を救う
CHAPTER16 「見えない問題を見抜く力」は組織を救う
CHAPTER17 見えない本質を見抜く人になるためのヒント
CHAPTER18 「見えない問題を見抜く力」という魔法
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【スゴ本】『しまった! 「失敗の心理」を科学する 』ジョゼフ・T・ハリナン (著)(2010年01月27日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。私は株で200万ドル儲けた
昨日「世の中にうまい話はない」と言っておきながら、こういう本をご紹介するのも気が引けますが、アマゾンレビューをお読みの上でご検討ください。
ご声援ありがとうございました!
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