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2015年08月17日

【スゴ本】『横井軍平ゲーム館: 「世界の任天堂」を築いた発想力』横井軍平,牧野武文


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横井軍平ゲーム館: 「世界の任天堂」を築いた発想力 (ちくま文庫)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事にて取り上げた1冊。

単行本の中古が数万円単位で取引されていた(Max23万!?)という幻の名著が、いよいよ文庫化されました!

アマゾンの内容紹介から。
あふれるアイデアと徹底したユーザー目線によって「ウルトラハンド」「光線銃」「ゲーム&ウオッチ」「ゲームボーイ」など、数多のヒット作を生み出した天才開発者・横井軍平。誰もが遊んだ名作から知る人ぞ知る珍作まで、世界中のゲームファンを虜にした商品を開発秘話とともに紹介する横井軍平の仕事の集大成。かつてのゲーム少年たちに捧げる遊びのバイブル。

前々から読んでみたい作品だったのですが、プレミアが付くのも納得のクオリティでした!





Nintendo Game and Watch / Jake Wasdin


【ポイント】

■1.女の子の手を握るための玩具「ラブテスター」
 私は電子工学専攻ですから、いちおう電子的なものをやらないと格好がつかないなと思ったけど、あまり難しいことはできないんでね。たまたま、テスターの抵抗レンジで遊んでいると、どうも人間のからだを電気が流れているらしい。これを女の子の手を握る手段として使えないか、というのが「ラブテスター」の発想です。トランジスタ1個と安く買ってきた検流計をくっつけて、単位なんかも愛情テストだから1ラブ、2ラブとか、実にいいかげんなものでした。(中略)
 聞いた話ですけど、中学生なんかが買いに来るときは、今のビニ本を買うような状態だったということですね。今だったらなんでもないことなんでしょうけど。
 私自身もラブテスターを使って、ずいぶん女性の手を握りましたよ。まあ、そのうちそんなんじゃ物足りなくなってきましたけど(笑)。


■2.的側に工夫のあった「光線銃SP」
 光線銃と聞くと、どうしても銃の方にレーザー光線などの大層な仕掛けがほどこしてあると考えがちだが、それでは「枯れた技術の水平思考」にはならない。横井式発想では、まずコストの面を考えて、銃側は懐中電灯の電球を流用する。工夫は的側にあるのだ。
 的には光センサーが埋めこまれているが、なんとこれが太陽電池。普通太陽電池とうと、光を受けて発電をするものという固定観念に捕われがちだが、これを「光センサー」として利用するのが「水平思考」だ。まさに「枯れた技術の水平思考」のお手本のような商品なのだ。


■3.ジョイスティックを薄くするために生まれた「十字キー」
「十字キー」を使ったのは、ドンキーコングのゲーム&ウオッチが最初ですね。それまでのゲーム&ウオッチというのは、左右の押しボタンしかなかったんですよ。
 ドンキーコングというゲームをゲーム&ウオッチに入れようとしたときに、薄いゲーム&ウオッチに、どうやってジョイステイックを納めようかとずいぶん試行錯誤しました。最初はオッパイ型のコントローラーなんか作ってみたんですけど、どっちの方向に入っているのか、手元を見ないとわからない。いろいろやっているうちに、十字型のキーだったら、手元を見なくても、指の感触でどっちの方向に入っているかというのがわかる。原理は押しポタン4つと同じことなんですけど、十字キーの場合上を押せば、下が浮き上がるでしょう。これが大切なんですね。感触だけで押している方向がわかる。
 つまり、薄型のゲーム&ウオッチにジョイステイックを納めて、なおかつ確実に押している方向がわかるということから考案したんです。


■4.「ユーザーが何を求めていないか」を探し出す
 私が商品開発をしているときも、技術者にユーザーが何を求めているかを伝えることは簡単です。しかし、「ユーザーが何を求めていないか」を探し出すのは非常に難しい。例えば、モノクロとカラーのどっちがいいとなったら、誰でもカラーがいいと言うに決まっている。しかし、それを本当にユーザーが求めているのか。「そのデメリットは電池が早くなくなって、製品価格が高くなって」と説明できる人は少ない。それを自分なりに判断して、「ユーザーはこう言っているけど、本当のニーズはこうなんだ」ということを技術者に説明するインターフェイスの役目をする人間が絶対必要なんです。


■5.遊びと何かを結びつける
 例えば、医療分野なんか面白いと思うんです。バーチャルボーイのときに、PL法の関係で医療分野の人たちと話す機会があった。そうしたら、リハビリなどの世界にゲームの要素を入れると非常にいいという話が出たんです。それは私が得意とする分野と、医療という実用の分野の結びつきですね。リハビリというのは、毎日同じことの繰り返しであまりみんなやりたがらないんですが、それにゲーム性を盛り込むことで、リハビリがものすごく進む。やるなと言ってもやってしまう。子供なんかが熱中して、どんどんリハビリが進んで、それを医者が見ていて「もうここでやめなさい」なんて言えるようになったらいいですね。


【感想】

◆「横井軍平」という人が、どういう人物かをあまりご存知ではない方のために、一応Wikipediaを。

横井軍平 - Wikipedia

真ん中から下の辺りに、「関与した作品」という項目があって、その量の半端ないこと!

本書では、そんな横井さんの手がけた商品のうち、各時代の代表的なものそれぞれについて、インタビュワーの牧野さんが訊いていく、というスタイルを取っています。

中でも、上記ポイントの2番目にあった「光線銃SP」は、私が小学生時代、お誕生日とクリスマスを併せて買ってもらった(結構なお値段したので)という思い出深いもの。



これ、的に色んなパターンがあって、私が持っていたのは、瓶の真ん中のターゲットに当たると、真ん中から2つに割れて上部が飛び上がるものでした(遠い目)。


◆また、下記目次にもあるように、「光線銃SP」以前の時代に手がけていたユニークな玩具は、第1章にまとめられています。

まずは、横井さんの実質的なデビュー作である「ウルトラハンド」。



そもそも「設備の保守点検」という仕事が暇だったゆえ、勤務時間中にサボって作ったのが、この「ウルトラハンド」だったというw

しかし、それを見た当時の山内社長は、それを商品化し、さらに、横井さんを新設の開発課に移転させ、新商品を開発させます。

そして横井さんが考え付いたのが、私の周りでも大人気だった、こちらの「ウルトラマシン」でした。



多分、アラフィフ以上の方じゃないと、ご存知なさげですけど、こんなものまで横井さんは手がけてらっしゃるわけです。


◆一方第3章では、世界的に大ヒットした「ゲーム&ウォッチ」の開発裏話などが。

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任天堂 Nintendo PP-23 ポパイ(POPEYE) GAME&WATCH ゲーム&ウォッチ(ゲームウォッチ)ワイドスクリーン

この商品、新幹線の中でサラリーマンが電卓を使って遊んでいるのを見て、横井さんが「暇つぶしのできる小さなゲーム機はどうだろう」と思い付いたものなのだそう。

とはいえ、具体的なアイデアとして考えていたわけではなく、本来そのまま忘れ去られてもおかしくないものでした。

ところが、たまたま山内社長の社用車の運転手を横井さんが務めることとなり、その際何気なくこの話をしたところ、会合先で山内社長の隣にシャープの佐伯社長が座り、話がトントン拍子に進んでしまったという……。

横井さんが運転手を務めたのは、「たまたま」専属の運転手が休んだ際に、左ハンドルの車を運転できるのが横井さんだけだったためですし、山内社長の隣に佐伯社長が座ったのもこれまた「たまたま」。

この「ゲーム&ウォッチ」も、何かの「運命」に導かれて生まれたのかもしれません。

もっとも、その後合計で60種類ほど出た「ゲーム&ウォッチ」のうち、横井さんのアイデアが50種類くらいだったのは、「たまたま」ではありませんが。


◆その後の「ゲームボーイ以降」についての第4章を経ての、第5章の「横井軍平の哲学」は、本書の大きな読みどころの1つでしょう。

ここでは横井さんの生い立ちから趣味、考え方までカバー(社交ダンスは「もてすぎてやめた」のだとかw)しており、商品開発のバックボーンをも探る事ができます。

ただ、1つ言えるのは「本当にもの作りが好きだったんだな」ということ。

横井さんいわく、「今まで自分の小遣いで材料を買ったりしなければならなかったのに、それを会社が買ってくれて、その上給料までくれる」ので、「任天堂に入って、本当にしあわせ」だったのだとか。

……もの作りに熱中し始めると、デートに誘われても全部断ったが、断るとかえってモテてしまった、という話には正直カチンときましたがw←非モテ乙!

その他、この第5章では、上に立つ者としての振る舞い方や、部下のモチベーションの上げ方、クリエーターを目指す人へのアドバイス等も収録していますので、本書を「ビジネス寄り」に読みたい方は、マストだと思います。


◆冒頭でも触れたように、本書の単行本の中古は、最大(?)で23万円(牧野さんが目にしたそう)にもなってますし、実際に数万円単位では、売買が行われたとのこと。

確かにそのお値段では、個人が趣味で読むには高い気がしますが、どこかの会社が必要に応じて「会社の経費で買う」分には、まったく妥当な金額だと思います。

もし実際に、横井さんの「枯れた技術の水平思考」が実務で再現できたら、画期的な新製品が開発できたり、劇的に費用が減ることウケアイかと。

その「枯れた技術の水平思考」の過去における具体例を、開発者である横井さんの意図とともに確認できるという意味でも、本書は「スゴ本」だと思います。


この内容がこのお値段なら、オススメせざるを得ません!

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横井軍平ゲーム館: 「世界の任天堂」を築いた発想力 (ちくま文庫)
第1章 アイディア玩具の時代 1966-1980
第2章 光線銃とそのファミリー 1970-1985
第3章 ゲーム&ウォッチの発明 1980-1983
第4章 ゲームボーイ以降 1989-1996
第5章 横井軍平の哲学 1997-20XX


【関連記事】

【アイデア】『ものづくりのイノベーション「枯れた技術の水平思考」とは何か?』横井軍平(2012年10月09日)

【枯れた技術の水平思考】「任天堂 “驚き”を生む方程式」井上 理(2009年05月15日)

【任天堂の力!】『ニンテンドー・イン・アメリカ: 世界を制した驚異の創造力』ジェフ・ライアン(2012年01月02日)

【スゴ本】「ゲームデザイン脳 ―桝田省治の発想とワザ」桝田省治(2010年03月21日)

【オススメ!】「外食の天才が教える発想の魔術」フィル・ロマーノ(2008年03月20日)


【編集後記】

◆横井さん並みのアイデアマンが他にいないか思い出してみたところ、対抗できそうな人が1人いました。

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外食の天才が教える発想の魔術

レビューは、上記関連記事にて。


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