2015年08月14日
【オススメ】『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』唐木 元
新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング (できるビジネス)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、昨日の「未読本・気になる本」の記事にて取り上げた1冊。コミックナタリー初代編集長である唐木 元さんが、社内のライター向けに行ってきた文章術のトレーニングを書籍化したという、いわくつきの作品です。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
ニュースメディアで新人教育を担当する著者が、書ける人が自然にやっている基本を、誰にでも学べる方法として伝授する初めての書籍。
企画書、報告書、レポート、ブログ、SNSなどあらゆる文章に有効です。
なお、お買い得なKindle版も、ぜひご検討ください!
Namiki Pilot Vanishing Point Fountain Pen / Sharada Prasad
【ポイント】
■1.文章は意味・字面・語呂の3つの見地で読み返す1.意味=ミーニング=脳誤字脱字や事実誤認はないか、次いで主眼と骨子がかみ合っているかどうか、そして表現や文法が適切かを確認していきます。2.字面=ビジュアル=目同じく黙読で、文章のビジュアル、見た目のチェックです。同じ文字の連続や、別の単語に見間違えてしまう箇所など、意味的および語呂的には問題なくても、字面的に違和感を覚えるポイントを見つけていきます。3.語呂=オーディオ=耳実のところ世の中の多くの人は、黙って読んでいるように見えても、頭の中では音声に変換して再生しているものです。したがってリズムの良さは読み味に大きな影響を与えます。読み味とは食べ物におけるのどごしに相当するものと考えてください。
そのため書き手であるわれわれも、黙読したあと、今度は音読して語呂を確かめていく必要があります。
■2.文末のバリエーションに気を配る
文末表現は文章の印象を左右する重要な要素です。特に段落や記事全体の終わりは、読後の余韻に強く影響します。文末表現のカードをいかに多く持っているかが、文章力の秘訣と言っても過言ではないでしょう。
基本の文末パターンは、動詞(現在/過去)、断定の助動詞(〜だ/〜です)、そして体言止めの3つです。これに加えて形容詞や形容動詞、副詞といった修飾語終わり、さらには倒置法や呼びかけ(〜してみよう)といった変化球でカードを増やしていくことになります。
■3.時制を混在させて推進力を出す
原稿の内容によって、現在形/過去形の傾向はある程度決まります。ナタリーの記事であれば、ライブレポートは開催報告ですから、自然と過去形が多用されます。
しかし過去の出来事だからといって、すべてを過去形で表現しなければいけないわけではありません。書き手の意識が「過去の時点から見た現在」にあれば、過去の出来事を現在形で書いても成り立つのです。
原文のライブレポートではすべての文末を過去形で揃えています。対して改善文では、ところどころに現在形を混ぜています。改善文のほうがぐっと臨場感のある文章になっていると思いませんか。現在形で書かれた過去の出来事は、読者にとっても、出来事がいままさにそこで起こりつつあることのように感じられ、迫力が出るのです。
(詳細は本書を)
■4.ときにはキャッチャーに言い切る
物事をほんとうに誠実かつ正確に伝えようとすると、必ず歯切れの悪い表現になります。たとえば「○○はがんに効く」。よく見かけるキャッチフレーズですが、誠実な医学博士なら「○○は65歳以上の男性300人を対象とした実験で、30パーセントに有意な効果が認められている」と説明するはずです。事実に誠実になればなるほど、キャッチーな言い切りができなくなります。
全情報を羅列するか、濁し言葉でまとめるか、濁し言葉を削るか。それぞれの場合の、表現としての強度、事実に照らしたときの誠実さについて、考えてみてください。ここで絶対的な正解はありません。それぞれにメリットとデメリットがあり、状況に応じて選ぶことになります。
■5.スピード感をコントロールする
同じことを言うのに1,000文字かかっている文章と500文字かかっている文章では、どちらがスピード感があると思いますか? 当然後者です。すなわち、文章におけるスピード感とは情報量÷文字数で割り出すことができるのです。(中略)
あまりにも冗長なら読み手は離脱しますし、ソリッドすぎてもぶっきらぼうで読む気が失せてしまいます。われわれが目指すべきは「完読」ですから、基本はコンパクトにまとめつつ、無愛想にならない程度の丁寧さをもって読者をおしまいまで導かねばなりません。
まずはスピードが出せるようになって、その後適切にコントロールすることを覚える。スピード感にまつわるテクニックは、この2段階を踏む必要があると考えています。
【感想】
◆当ブログでは、今まで色々な文章術の本をご紹介してきました。カテゴリー:メルマガ、ライティング関係
それらと比べても際立っていたのが、本書の「目的」です。
文章術というのは、もちろん「文法的に正しい文章を書く」、という大前提はあるものの、そもそも何を目的としているかが大事なハズ。
そして本書における「究極の目標」とは、書いた文章を「完読されること」。
雑誌でもウェブでも、最後まで読んでもらうのが、どんなに大変なことかは、さすがに「ナタリー」を運営されてきた唐木さんだからこそ、よくご理解されていることかと。
◆なお、同じように「ウェブ媒体」で連載されていた著者さんの作品として、当ブログでは、以前この本をご紹介したことがありました(この下書きを書いている時点で、まだ「63%OFF」なんですが?)。
プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術
参考記事:【知的生産】『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』印南敦史(2014年11月29日)
ただし、この本があくまで著者の印南さん個人のメソッドであるのに対して、本書は「ナタリー」の社員、40名ほどの記者職の方が、日常業務で用いているメソッド。
つまり「標準化」されたものなわけです。
長さは異なれど、1日に5本、10本どころか、15本(!?)も記事を書く方々のメソッドですから、その効用は推して知るべし。
私のように、毎日うんうん唸りながらブログを書いているような人間としては、ぜひとも身に付けたいところです。
◆今回上記ポイントでは、「重複の解消」ですとか、「係り受けの整理」といった類書でも目にするTIPSは割愛し、「なるほど」と思ったところを中心に抜き出しました。
中でも上記ポイントの2番目の「文末のバリエーション」は、私自身、日頃から意識している部分なので、改めて納得。
ただし、私が多用している「体言止め」は、本書でも「乱用は禁物」と注意を促しています。
そしてその理由は、「読者の負担になるから」という、私も知らなかったものでした。
本書曰く、体言止めによって文末の助動詞などを省略すると、その省略した部分を読者が心の中で補完して読んでいるのだそう。
この「省略された部分が現在形か過去形か、常態か敬体か、能動か受動か、等々を脳内で埋める作業」は、読者を疲れさせ、文章から離脱していく原因となっていくのだとか。
体言止めは、便利だけど読み味を落とす、諸刃の剣と覚えて下さい。体言止めを多用されている方は、ご留意ください(含む自分)。
◆なお、上記ポイントの4番目に登場する「濁し言葉」とは、具体的には「など」「といった」「ほか」「ら」等々、「記述したもののほかにも何らかの存在があることを示す言葉」のこと。
「正しさ」を重視するならば、削らない方が良いものの、本書は「完読してもらう原稿にするためには、情報を適切に取捨選択する必要がある」というスタンスゆえ、その利用は私たちにゆだねられています。
これに関連して、本書では「〜といわれている」「とのこと」のような「伝聞表現」についても、「誠実さとキャッチーさをてんびんにかけて、言い切る勇気を持て」とキッパリ断言。
確かに公式発表された情報を、「明らかになったとのこと」と伝聞調で書いてしまうと、なんとも締まりがない文章になってしまいます。
この辺はさじ加減というか、上記ポイントの5番目にある「適切なスピード」同様、はっきり「こうだ」と言い切れない以上、ケースバイケースで判断していくしかないのですが……。
◆毎回文章術の本をレビューする際には、その本の内容を意識して書くため、ぎこちなくなってしまうワタクシ。
今回も多少実践したツモリですが、「体言止め」も「濁し言葉」も「伝聞表現」も普通に使っており、まだまだマスターするには時間がかかりそうです。
このナタリーメソッドは、ビジネス文書には、正直向いていませんが、ブログやサイト等(←濁し言葉)で、ある程度のボリュームの文章を「速く大量に」書く必要がある方にはオススメ。
そこまで文章を書かない方でも、上記ポイントの3番目の「時制を混在させる」書き方は、機会があればぜひ試してみて頂きたいと思います。
自分の文章を最後まで読んでもらうために!
新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング (できるビジネス)
第1章 書く前に準備する
第2章 読み返して直す
第3章 もっと明快に
第4章 もっとスムーズに
第5章 読んでもらう工夫
【関連記事】
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【文章術】『書くことが思いつかない人のための文章教室』近藤勝重:マインドマップ的読書感想文(2011年10月02日)
【スゴ本】『いますぐ書け、の文章法』堀井憲一郎(2011年09月09日)
【編集後記】
◆その「ナタリー」について創業者の大山さんが語った1冊。ナタリーってこうなってたのか (YOUR BOOKS 02)
中古がお安くなってますが、一応Kindle版もあります。
ご声援ありがとうございました!
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