2015年06月17日
【脳番地?】『高学歴なのになぜ人とうまくいかないのか』加藤俊徳
高学歴なのになぜ人とうまくいかないのか (PHP新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、久しぶりの「脳ネタ本」。本書の著者の加藤俊徳博士は、発達脳科学の専門家であり、以前出された『脳の強化書』が「27万部突破」、ということで、ご存知の方も多いと思います。
少々長くなりますが、アマゾンの内容紹介から。
他人を平気で困らせる人はこんなことを考えている――1万人以上の脳のMRI画像を鑑定してきた著者が分析!
学歴が高くて賢いはずなのに、人とうまくコミュニケーションを取れない人がいる。人を見下したり、滔々と得意げに自分を語ったり。これは、受験のためにある一部の脳を鍛えすぎた結果、いびつになっていることが原因と言われている。そんな人はあなたの周囲にそんな人はいないだろうか。
こういった周囲を困らせている人が家族にいたら大変だ。孤立すれば、認知活動が自分だけでしか行えなくなり、最悪の場合、うつ病や認知症のような症状を引き起こすケースもあると言われている。では、周りの人はどのように接していったらいいのか、本書でわかりやすく解説する。
もし周りにこういう方がいたら、必読です!
signaling (animated) / Genista
【ポイント】
■1.高学歴の人は、感情系の脳番地が未発達ゆえコミュニケーションに齟齬をきたすたとえば、偏差値の高い人は、思考系や記憶系の脳番地が非常に発達している。知識欲が旺盛で、自分の知識に自信がある。いっぽうで、感情系の脳番地が未発達なことが多い。それぞれの脳番地の発達度合いは人によって異なり、それが個人の能力の差となって表れるのだ。
ただ、これまでの研究から、20歳そこそこの人間の脳では総合力に大きな差はないことがわかっている。にもかかわらず、人によって能力に違いがあるのは、ある脳番地だけを発達させ、ほかの脳番地を鍛えてこなかったからだ。そして、このことが、高学歴・高偏差値の人が周囲の人とのコミュニケーションに齟齬をきたす大きな要因となっている。
■2.未知の事を問うてくる相手には、言葉尻をとらえて反撃する
また、既知の要素を積み上げることで1つの正解を導き出してきた彼らは、眼前に、未知の要素が2つ、3つ……とふえてくると、優先順位をつけることができなくなり、お手あげになってしまう
そこで、自分の知らないことを並べてくる相手に対しては、その言葉尻をとらえて、あげつらうという反撃に出る。言葉は共通の道具であり、彼らの戦い方に合致する武器だからだ。
■3.取り込む知識は権威の有無が基準
要するに、高学歴・高偏差値の人は、知識の内容を吟味してから価値を判断するのではなく、その知識についている名札のような付随情報、すなわち学歴や権威などで判断するのだ。これは、高学歴でない人の単純なコンプレックスの裏返しとは基本構造が異なる。
たくさんの知識や情報を見てきた結果、価値ある情報は高学歴の人や権威ある人がもっている傾向が強いと学習したのである。価値の低い情報もたくさん見てきたので、できるだけ無駄なことにはふれずにすむように、脳は情報収集の最適化を求めるようになっていく。合理的な思考の帰結なので、言葉で説明してこうした基準を変えさせるのは難しいだろう。
■4.感情ではなく、脳の状態を口に出しているだけ
すでに述べたように、脳は眼前の状況に対して得意な脳番地で乗り切ろうとし、苦手な脳番地で対処するのを避けようとする。脳は、「この脳番地は使いたくない。なんとか別の脳番地で対処できないか」と別の方法を選びたがるのだ。
こうした状況では、脳は、「面倒だ」「やりたくない」と感じている。この感覚は、本人には、言葉として聞こえるようだ。だから、本人は、その「面倒だ」「やりたくない」といった言葉が自分の感情だと思って口にする。だが、これは感情ではなく、脳が、「この脳番地を使いたくない」と言っているにすぎない。
つまり、目もあわさずに「めんどくさっ」と言うのは、感情系の脳番地が未発達であることが原因なのだ。
■5.生活習慣の構築が脳の能力を弱くする
どんな分野であれ、若いうちに高い能力を身につけるためには、効率よく時間を配分する必要がある。
しかし、それは同時に習慣化を招くことになる。たとえば、運動選手は運動が習慣になっているし、受験生は勉強が習慣になっている。こうした習慣化した作業を続けると、しだいに脳への刺激がなくなる。つまり、能力を高めるための生活習慣の構築が、逆に能力を高めることを邪魔するといえるのだ。
【感想】
◆加藤先生のご本の読者さんなら、当たり前なのかもしれませんが、いきなり目にすると面食らうのが、「脳番地」という言葉。これは、「脳の特定の部位」のことであり、脳全体だと、およそ120ほどあるらしいです。
加藤先生の他の著作だと、実際に図で解説されていたりするようなのですが、本書では細かい話は特になく、その働きの種類によって、いくつかの機能系に集約されているという。
具体的には「思考系」「感情系」「伝達系」「運動系」「聴覚系」「視覚系」「理解系」「記憶系」の8つ。
上記ポイントの1番目に出てくる「思考系」「記憶系」や、上記ポイントの4番目の「感情系」が、まさにそうです。
◆そして、そのポイントの1番目で指摘されているように、偏差値の高い人というのは、「思考系」や「記憶系」の脳番地が発達しているのに対して、「感情系」の脳番地は未発達なことが多い、とのこと。
「え、僕は大丈夫だよ」とお思いの方もいると思いますが、脳全体を発達させることは、理論的に不可能なようです。
つまり「ある分野」で優秀であることは、イコール、「他の分野」の能力を犠牲にすることで成り立っているらしく。
ちなみに、本書における「高学歴・高偏差値」と言う場合の「高偏差値」とは、偏差値60以上(その集団の上位15%)を目安にしているそうです。
当ブログの読者さんにも、偏差値的には該当される方が結構いらっしゃるんじゃないかと……。
◆また、ご自分がそうでなくとも、職場の上司、同僚、部下に、「高学歴でイヤな奴」(本書の表現です!)が存在する可能性は否定できません。
例えば本書の第2章では、「右前頭葉」の働きが鈍い人の問題点が挙げられていますが、こういう人は他者理解が弱くなり、結果的に「被害者意識が強くなる」のだそう。
それと同時に、「自己と他者の距離に関する認識が欠けている」ため、敬語がうまく使えないらしいです。
上記ポイントの4番目にある「めんどくさっ」というのは、実は上司に仕事を頼まれた場合に、目もあわさずに口にしたフレーズであり、これもやはり感情系の脳番地が未発達なゆえ。
それを問い詰めると「思ったことを正直に言って何が悪い」と開き直ったりするらしいのですが、結局これらは皆「他者理解」にかかわる感情系の脳番地に問題があるからなワケです。
◆一方、割愛した中で面白かったのが、「苦手な能力」「伸びていない能力」を伸ばそうと努力すると、本来伸びるべき脳番地のその近くの脳番地が伸びる、というお話。
伸びた箇所は、伸ばそうとした箇所とはズレているため、そのままでは「成功」に結びついたりはしません。
ところが、この「意図せず成長した脳番地」を社会的に使う方法に出合ったとき、人は社会的な成功をおさめるのだそう。
加藤先生曰く「成功者たちが苦労しているのは、こうした理由があるからだ」とのこと。
確かに成功者の苦労話は多いですが、それに脳番地が関係していたとは……!?
◆ところで、個人的に気になったのが、上記ポイントの5番目の「効率化」のお話です。
かねてから当ブログでも推奨してきた「ライフハック」は、脳的には、実はあまりよろしくなかったらしく。
その問題をクリアするためのキーワードは「脱自動化」(詳しくは本書を)。
私自身の学歴はさておき(?)、自分自身を振り返ったり、周りの「困ったチャン」にうまく対処するためにも、本書をお読み頂くべき方は多いと思います。
「最近の若いヤツらは……」と思ったら必読!
高学歴なのになぜ人とうまくいかないのか (PHP新書)
プロローグ 頭のよさは何で測れるのか
第1章 偏差値の高い人が、なぜ他人を困らせるのか
第2章 罪悪感のない人、駄々をこねる人の共通点
第3章 こだわる脳は衰えやすい
第4章 自分の脳は自分で育てる
第5章 脳を強くすれば人生は大きく変わる
エピローグ 医者の脳も問題だらけ!?
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『脳が冴える15の習慣―記憶・集中・思考力を高める』築山 節(2006年11月18日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。英語じょうずになる事典
送料込みの中古よりはお安くなっております。
ご声援ありがとうございました!
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