2015年05月30日
【オススメ!】『論理が伝わる 世界標準の「議論の技術」 Win-Winへと導く5つの技法』倉島保美
論理が伝わる 世界標準の「議論の技術」 Win-Winへと導く5つの技法 (ブルーバックス)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、当ブログでは既に『ライティング本』や『プレゼン本』をレビューして好評だった、倉島保美さんの最新刊。同じ「講談社ブルーバックス」からの本書のテーマは「議論」ということで、相変わらず「論理的」なテイストには陰りがありません。
アマゾンの内容紹介から。
日本人は議論が下手、は本当か?いいえ、正しい議論のしかたを知らないだけです。議論は勝つか負けるかではありません。Win‐Winの成果を導き出す論理的で生産的な話し合いです。思わず「なるほど」と膝を打つ実例で議論上手になるテクニックを学んでいきます。
なお、Kindle版ももうすぐ出るのですが、お値段的には新書と一緒という……。
Academic fact fight - debate / HikingArtist.com
【ポイント】
■1.議論で守るべき5つのルール●言い出した側が証明する
●沈黙は了承である(反証責任)
●新しい論点を後から出さない
●すべての根拠に反論する
●論理だけで議論する
(詳細は本書を)
■2.議論上手はしゃべらない
「議論上手」を自負してはいるが、じつは「議論下手」な人は、よくしゃべります。相手を言い負かそうとして、自分の主張を機関銃のように話します。少しでも反論の時間を相手から奪い、自分が話す時間を増やそうとします。ですから、相手が話している最中でも、割って入って、自分の意見を述べ始めます。
しかし、本当に議論上手な人は、ほとんどしゃべりません。自分が説明する代わりに、相手に説明するよう要求します。議論上手な人が話すのは、「なぜ、そう言えるのですか」とか、「ということは、○○になるはずなのに、なっていないのはなぜですか」とかだけです。相手に、立証責任を負わせているのです。
■3.相手に正しく伝えるための5つの基本技術
●最初にロードマップを述べる
●並列している情報はナンバリングする
●項目ごとにラべリングする
●先に要点を述べる
●リンクの説明は言葉を重複させる
(詳細は本書を)
■4.第3の因子はないか検証する
2つの事象に共通する第3の因子があると、因果関係のない2つの事象に相関関係が見えてしまいます。
「転職支援会社の調査によると、年収が1000万円以上ある人は、朝早起きする傾向が強い。朝方のほうが、頭がよく働くのだろう」この例では、第3の因子として年齢が考えられます。一般的には、年齢が高いほうが年収も高くなります。まして、年収が1000万円以上なら、年齢も高くなりがちです。
■5.使ってはいけない裏技「誤った二分法」
誤った二分法では、2つの選択肢のうち、発言者に都合のよい1つの選択肢しか選べないように構成します。そのために、もう1つの選択肢が極論になります。たとえば、次のような言い方です。
例:「消費税を増税するか、はたまた財政破綻か」
しかし、冷静に考えてみれば、示された選択肢以外の選択肢もあるはずです。上記の例で言えば、消費税を増税しなくても、別の方法で財政破綻を免れる方法はあるはずです。別の方法が、示された2つの選択肢よりよいか、悪いかは検討の余地がありますが、少なくとも選択肢は2つではありません。
【感想】
◆なかなか考えさせられた1冊でした。まず、上記ポイントの1番目の「5つのルール」自体、まったく無視して行われる議論の多いこと。
本書では、架空の事例だけでなく、実際にメディアに掲載されている「失敗例」も紹介しており、発言者(政治家や政府機関等を含む)が、こうしたルールをまったく無視していることが良く分かります。
たとえば、長野冬季オリンピック開催に際して、男子滑降のスタート地点を巡って、国際スキー連盟(FIS)と、長野五輪組織委員会(NAOC)が衝突したことがありました。
NAOCが「自然保護法などの規制で、(スタートハウスなど)工作物は設置できない」と主張したのに対し、FISはスタートハウスを不要にする等の解決案を提示したのですが、後になってNAOC総長が「法律だけの問題ではない」と発言。
これに対しFIS側は「NAOCはフェアではない」と激怒したのだそう。
これなどまさに、「5つのルール」の中の「新しい論点を後から出さない」に該当するものですが、おそらく私たちの多くが「他にも理由があるなら、それ次第では?」と思ってしまうのではないでしょうか?
◆ただ、こういった「後出し」を認めてしまうと、議論が成立しません。
実は本書は、こうした「議論の常識」に先立って、「論理で説得できるのは論理的な人だけ」とキッパリ。
思いっきり「身も蓋もない」お話ですが、そもそも論理的でない人は、何か主張したとしても、根拠を述べませんし、たとえ根拠をたずねたとしても「だって、これまでこうしてきたからだよ」などと言ったりします。
そういう意味では、上記ポイントの2番目の「自称"議論上手"」の人の方が、まだ論破できそうな気がw
もっとも、単に論破してしまうのは、「Win-Lose」に過ぎません。
本書では、議論の過程において明らかになった問題点に対して、「どう解決すればいいか」をさらに検討する「Win-Win」を目指し、それによって、当事者全員の利益が最大化するワケです。
◆なお、本書を読んで、初めて知ったことの1つが、議論のメモの取り方。
メモと言ってもノートに書くものではなく、ファシリテータがホワイトボードに書き、出席者全員で見て、議論を深めるためのものです。
これも具体的には、本書の図を見て頂くとして、「主張型反論」と「論証型反論」で書き込む位置が違う等、書き方の決まりがあるようでした。
また、同様にメリットとデメリットを洗い出すための「リンクマップ」も、確か初見のハズ。
これは、「ある施策を実施するとどうなるか」を矢印で結んだ図で、上にメリット、下にデメリットをまとめる仕様なのですが、確かに論点が整理されていて、分かりやすかったです(詳細は本書を)。
議論メモと違って、こちらは1人でもできるので、機会があれば使ってみたいな、と。
◆ところで、上記ポイントの5番目のような「詭弁」も、本書ではいくつか紹介されています。
前述の「誤った二分法」の他には「不当予断の問い」ですとか、「藁人形攻撃(ストローマン)」などなど。
ただし、上記でも「使ってはいけない裏技」と言っているように、本書では、その使用を推奨しているわけではありません。
こうした詭弁を「使ってはいけない」理由として、本書では3つ挙げているのですが、特に詭弁は「それが詭弁と指摘されると致命傷を負う」、というのは激しく納得。
また、詭弁で相手を言いくるめることは、「Win-Lose」であって「Win-Win」にはなりません。
もっとも、相手に詭弁を使われた際に、それを指摘するためには、こういう本を読んでおくと良いのかも。
論理で人をだます法
参考記事:あの芥川賞作家もびっくり 驚愕の『論理で人をだます法』(2012年02月14日)
◆ちなみに本書は、各項目ごとに「ポイント確認」と題した問い(と解答&解説)が設定されており、これを解きながら読んでいたら、えらく時間がかかりました。
本当なら、もっと前にご紹介するツモリだったのが、1日で読み切ることは初日で断念し、以降、他の本をレビューする合間に読んでいたという。
一方で本書は、倉島さんの他の書籍と同様、「パラグラフ・ライティング」によって書かれているため、各項目の最初の部分だけ読んでいっても理解できる仕様です。
書店等で立ち読みをする際や、議論に関する知識がある方は、ぜひお試しください。
これはオススメせざるを得ません!
論理が伝わる 世界標準の「議論の技術」 Win-Winへと導く5つの技法 (ブルーバックス)
序章 なぜ議論の技術なのか
1 論理的な議論とは
2 論理的な議論でWin-Winに導く
3 論理は万能ではない
第1部 議論の基礎
1 議論の基本は、主張の構成にある
2 議論には、守るべきルールがある
3 議論は、原案への反論の応酬である
第2部 議論の技術
1 伝達の技術
2 傾聴の技術
3 質問の技術
4 検証の技術
5 準備の技術
第3部 議論の実践
1 論点をとらえ、深め、ずらさせない
2 議論例と解説
3 演 習
【関連記事】
【文章術】『書く技術・伝える技術』倉島保美(2014年04月15日)【文章術】『論理が伝わる 世界標準の「書く技術」』倉島保美(2012年12月04日)
【スライド作成術】『論理が伝わる 世界標準の「プレゼン術」』倉島保美(2014年01月23日)
【議論】『反論が苦手な人の議論トレーニング』吉岡友治(2014年09月16日)
あの芥川賞作家もびっくり 驚愕の『論理で人をだます法』(2012年02月14日)
【編集後記】
◆同じ倉島さんの作品。論理が伝わる 世界標準の「書く技術」 (ブルーバックス)
未読の方は、今日の本と一緒にどうぞ!
なお、レビューは上記関連記事にて。
ご声援ありがとうございました!
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論理が伝わる 世界標準の「議論の技術」 Win−Winへと導く5つの技法 (ブルーバックス)出版社/メーカー: 講談社発売日: 2015/05/20メディア: Kindle版 「論理が伝わる 世界標準の「書く技術」」、「論理が伝わる 世界標準の「プレゼン術」」のシリーズ。 基本は
実社会ではともかく……。:論理が伝わる 世界標準の「議論の技術」 Win−Winへと導く5つの技法【本読みの記録】at 2015年07月05日 22:41
また、主張に対して反論した場合、その反論に対する立証責任が必要になります。
...論理が伝わる 世界標準の「議論の技術」 Win-Winへと導く5つの技法』倉島保美
論理が伝わる 世界標準の「議論の技術」 倉島 保美著【読書による経験価値】at 2015年11月29日 17:25
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