2015年05月01日
【ライター業?】『ゴーストライター論』神山典士

ゴーストライター論 (平凡社新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、リアル書店で見かけて気になっていた本。著者の神山典士さんは、『週刊文春』誌上で、あの佐村河内守問題をスクープされた方として知られるジャーナリストさんです。
アマゾンの内容紹介から。
出版界において、その存在なしには本づくりが成立しないともいわれる「ゴーストライター」。その実態はいかなるものなのか。佐村河内事件をスクープする一方で、多くの「ゴーストライティング」を手掛けてきた大宅賞作家が知られざる職人技の世界を描く。
私も本書を読んで、新たに知った事実がいくつもありました!

Interviews / David Davies
【ポイント】
■1.著者に憑依する浅野氏はライティングの依頼を引き受けるか否かについて1つの条件があるという。
「ほとんど直感的に決めますが、最大のポイントは面白いか否かです。この本を世に出す意味があるか。ライターとしてそれにかかわる正義があるか。まずはそれを条件にしています」
「面白いか」というのは、「この人に憑依して面白い体験ができるか」ということだと言う。名声を得た著名人、または極端なイメージを持たれている人間が、1つのテーマを与えられた時、何を考えてどう語るのか。そこに憑依すれば、向分自身では到底味わえない光景が見えるはずだと浅野氏は考える。
■2.売れるための3つのT
どういう作品が売れるのか。もちろん、作家の伊集院静や五木寛之、石原慎太郎、阿川佐和子、医療界ですでに何冊ものべストセラーを出している近藤誠といった著者ならばある程度の計算は可能なはずだが、そうではなくテーマ性で勝負する作品は、売れるためには3つのTが重要と言われている。
「テーマ」「タイトル」「タイミング」、だ。
■3.読者目線でインタビューする
「たとえば経営者にしても芸能人にしても、本を書きたいということは読者に『言いたいことがある』人です。ところがそれを買う読者の立場に立って考えると、あの人の著書ならば『ここが読みたい』というポイントがある。この2点がずれているケースがあるのです。だからライターは、この人が著者ならこれを語らせなかったらこの企画をやる意味がないでしょうというツボはしっかりと読者目線でおさえること。著者の『言いたい』ことと読者の『読みたい』ことを上手に切り結んで、最終的には読者目線で文章な生み出すこと。それが必要です。(後略)」
■4.企画会議は投資会議
インタビューの最後に高橋氏はこう言った。
「うちのスタッフには、企画会議とは投資会議だと言っているんです。この分野が好きだから本をつくりたいとか、この著者の本を手がけたいから企画を通してくれとか、そんな時代ではありません。本を1冊つくるということは、売れるか売れないかわからない企画に数百万円から1千万円近い資金を会社が投資することです。その企画は本当にそれだけの投資価値があるのか、会社の金ではなく自分の金であっても投資できるのか。企画会議とは、自分の企画にスポンサーである会社に投資してくれ、というプレゼンの会議です。そこまで突っ込んで考えないと、売れる企画は出てきません」
■5.さまざまな角度から著者にアプローチする
つまり、インタビュアーとしては「イエスマン」では駄目だということだ。著者が言いたいことをただ聞いていてもいいインタビューにはならない。相手の論理をよく吟味して自分に取り込み、時には反対サイドから質問を切り込む。あるいは別の言い方を考えて、著者にぶつけてみる。インタビューは知的格闘だから、1時間から1時間半のインタビューを終えたら、互いにくたくたになるくらいの覚悟が必要だ。
そういう濃密な時を経てこそ、「著者に憑依する」というような感覚も生まれてくる。
【感想】
◆冒頭の佐村河内守問題で、にわかに世間的に有名になった「ゴーストライター」ですが、ことビジネス書業界では、著者本人が実際には書いていないことがほとんど……とまでは言わないものの、そのようなケースが多いため、個人的には世間との温度差を感じていました。第一、本書の著者の神山さんご自身も、何本ものゴーストライティングを手掛けてきた方。
その他にも、今は自著を出されていながら、かつてはゴーストラィティングをされていたり、今でも「著者」として名前は出していなくとも、ライティングを担当された方は結構いらっしゃいます。
たとえば、水野俊哉さんは前者ですし、上阪 徹さんは、後者でしょう。
上阪さんの場合、あれだけ単著を書かれていても、こんな本を出してますしw

職業、ブックライター。 毎月1冊10万字書く私の方法
そういう意味では「ビジネス書界隈」では、昔も今も、著者以外の誰かが執筆する、というのは普通のことですし、それもまた知られているワケです。
◆一方で、「ビジネス書界隈」以外でも、タレント本にもライターが付くのは、これまた当たり前のこと(世間的に知られているかは別として)。
たとえば本書は第2章で、ミュージシャン・矢沢栄吉氏の『成り上がり』を取り上げています。

成りあがり―矢沢永吉激論集 (角川文庫 緑 483-1)
この本のライティングを手がけたのが、まだ売れる前の糸井重里氏だったことは、今や有名な話でしょう。
ただ、そもそも矢沢氏にインタビューして本を出そうとしたり、そこに無名だった糸井氏をもってこようとしたのは誰で、そこにどんな意図があったのか。
また、安易なタレント本とはひと味もふた味も違うこの本には、さまざまな「工夫」がありました(詳細は本書を)。
ライティングの妙も含めて、売れる本は売れるべくして売れるのだな、と思った次第……。
◆続く第3章では、出版界における「新書ブーム」と、そこにおける「ゴーストライター」の必要性について言及しています。
上記ポイントの2番目で「3つのT」が出てきましたが、この中でも新書は、何か1つの「テーマ」の専門家・第一人者に本を書くスキル等がない場合、ライターをあてがえてインタビューさせ、その「テーマ」が旬の時期に出版することが可能。
つまり、「タイミング」を逃さないためには、ゴーストライティングが必要となってくるわけです。
最近では、「ISIL」ですとか、関連本が真っ先に出たのは、確か新書だったハズ。
ただし、その「テーマ」含めて企画自体に、果たして出版する意味があるかどうかの経営的判断をする必要があるのは、上記ポイントの4番目の通りです。
◆なお、今回は引用できませんでしたが、本書にはゴーストライティングをしたことによって、本の魅力が数段高まった具体例が、いくつか挙げられていました。
ライターは本を書くために著者にインタビューするわけですが、そのインタビューの過程で、「著者が今まで気づかなかった自分に気づく」「考えていた以上のアイデアが浮かぶ」といったことは、十分起こりえるでしょう。
それこそがゴーストライティングの醍醐味であり、またライターにとっても、ある分野の第一人者等にマンツーマンで話が聞けるというのは、代えがたい経験かと。
世間のように、あまり事情を知らない方々にとっては、違和感があるのかもしれませんが、今後もビジネス書・実用書を中心として、ゴーストライターの皆さんは活躍されていくのだと思います。
著者・ライター志望の方ならマストな1冊!

ゴーストライター論 (平凡社新書)
第1章 人はなぜゴーストライターになるのか
第2章 「他者」の人生をデザインする―本人が自覚していない人格を掘り起こす
第3章 出版界のビジネスモデルのなかで
第4章 ブックライターの仕事術
第5章 トラブルを事前に防ぐ
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【警鐘?】『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』漆原直行(2012年02月25日)
【編集後記】
◆ちょっと気になる本。
同僚に知られずにこっそり出世する方法ーーー社内政治を使いこなす7つのルール
さすが版元がダイヤモンド社さんだけあって、既にKindle版も提供されております!

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