2015年04月03日
【フリクション!】『「消せるボールペン」30年の開発物語』滝田誠一郎
「消せるボールペン」30年の開発物語 (小学館新書 240)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、「文具ヲタ」なら避けては通れない必読の作品。皆さんご存知、"消えるボールペン"「フリクションボール」の開発秘話が綴られた1冊です。
アマゾンの「編集担当からのおすすめ情報」から。
「ボールペン」は基本的にどれも仕組みが同じで、“枯れた技術”だと思われていますが、「フリクション」シリーズにはコペルニクス的転回と言えるほどのイノベーションが凝縮されています。世の中を変えるほどの商品を作り出すには、技術力に加えてひらめきや運、そしてそれを生かすための努力がいかに大切か、感じ取っていただけると思います。
予想通り面白くて、一気に読み切ってしまいました!
Frixion Rollerballs / Becky Wade
【ポイント】
■1.フリクションの原理の発見中筋の身に起きたセレンディピティとは、何度も実験を繰り返しているうちにドライヤーの熱(50〜60度)で変色する組成(材料の組み合わせ)を発見したことであり、同時に冷蔵庫内(3〜6度)で変色する組成を発見したことであり、その直後に体温で変色する組成を発見することができたことをさす。
「ドライヤーの熱で変色する組成と冷蔵庫内で変色する組成を発見したあと、ならば体温で変色するにはこの化合物でいいはずと見当をつけた組成を紙に塗り、それを掌にのせたら5本の指の形が浮かび上がった。このときの感激はいまも忘れることができない。その瞬間に変色の原理がわかった。全体図が見えたんです」
■2.「変色」から「無色」へのターニングポイント
「『イリュージョン』はヨーロッパへも輸出していトたのですが、それを見たミスター・ランジャールが『ミスター中筋、イリュージョンはカラー・トゥー・カラー(ある色から別の色に)だが、カラー・トゥー・カラーレス(ある色から透明に)にはならないのか?』と言ったんですね。その一言が『フリクションボール』の始まりだった」(中筋)
ランジャールの問いかけに対して、中筋が「できる」と答えると、それを聞いたランジャールの頭の中である直感がひらめいた。
「インクの透明化が可能ならば、これまでにない新たな価値を備えた製品、すなわち"消せるボールぺン"が作れるはずだと直感した。消せるボールぺンを製品化することができれば、絶対に売れると確信した」(ランジャール)
■3."ヨーロッパ限定"だったからこそのデザイン
フランスでの先行販売の準備が進んでいた当時、『フリクションボール』を日本国内で販売する予定は、はっきりしていなかった。もし、日本でも販売する予定が固まっていたならば、タトゥーのデザインを採用することに本社サイドは賛成しなかったはずである。(中略)
事実、2007年に日本で『フリクションボール』が発売される際には、ヨーロッパで好評を博したタトゥーのデザインは採用されず、別のデザインに差し替えられている。"ヨーロッパ限定商品"のような位置づけだったからこそ、ネーミングやデザインをはじめとする販売戦略はパイロットコーポレーション・オブ・ヨーロッパの意向を最大限尊重するという方針で物事が進んだのである。
■4.リフィルを積極的に売って、さらに人気拡大
「リフィルを3本セットにして売るというアイデアがヨーロッパのほうから出てきたときは、いくらリフィルでも3本セットだとそれなりの価格になるから『高くて売れないんじゃないの』と思ったのですが、当初は3本セットを2本分の値段で発売した。このアイデアが素晴らしかった。この作戦がヨーロッパにおける『フリクションボール』の伸びをさらに加速させた大きな要因になった」(伊藤)
パイロット フリクション用替芯 0.5ミリ 黒3P LFBKRF30EF3B
■5.大きかったノック式の発売
「キャップ式の商品を出していたときは、使い勝手はあまり良くないけれど消せるのが便利だからということでお客さんが買ってくれていた。消せるボールぺンが本当に必要な人だけが買っていた感じでした。しかし、ノック式が出てからは普通のぺンとして普通に買って、普通に使っているお客さんが増えた。特殊なボールぺンだったものが、一気に一般化した。そういう意味ではまさにターニング・ポイントになった商品です」(古謝)
パイロット フリクションノック 0.5 ブラック LFBK23EFB
【感想】
◆タイトルにある「30年」と言うのを見て、何にそんなに時間がかかったのか、と最初は思ったワタクシ。しかし本書を読むにつけ、なるほど、様々なセレンディピティと技術革新があってこそ、今の『フリクションボール』があるのだ、と深く納得致しました。
まず、上記ポイントの1番目にある「変色」の仕組み。
すべての発端はここにあり、特許は取ったものの、開発者だった中筋憲一氏(現パイロットインキ株式会社取締役会長)も、当時の経営陣も、筆記具に使うという発想は、この時点ではなかったのだそうです。
というのも、変色と復色の温度幅がわずか数度と狭く、しかもその温度設定も厳密ではなかったから。
また、その仕組み上、含有するカプセルが大きくならざるをえず、ボールペンでは細いペン先にそれが詰まってしまい、インクが出なくなってしまうワケです。
結果的に最初に商品化されたのは、『魔法のコップ(冷たい飲み物を入れると模様等がでてくる)』であり、その後も玩具市場への進出が続いたのだそう。
◆それが2002年頃には技術的な問題が解決し、「専用ラバーでこすると色が変わる」不思議なボールペン・『イリュージョン』へと繋がるのですが、こちらはさほど大きな話題になる事もなく、市場から姿を消します。
ただし、ヨーロッパへと輸出していた『イリュージョン』を見た、当時のパイロットコーポレーション・オブ・ヨーロッパのCEOだったマルセル・ランジャール氏が大きなパラダイムシフトを起こしたのは、上記ポイントの2番目にある通り。
さらに「絶対に売れる」とランジャール氏が確信したのには、ヨーロッパの特殊事情もありました。
なんでも、ドイツやフランスでは、学校教育の場で万年筆やボールペンが使われており、書き間違えた場合には、化学反応でインクを消す特殊なペン(インク消し)を使うのだそう。
ところが修正個所に同じペンで書くと、化学反応でまた消えてしまうため、書き直しの際にはまた別のペンを使わなければならないのだとか(めんどくせーw)。
「書く、消す、書きなおす」ために3本使っているところが、1本で済むのなら、それは「売れる」と確信しても不思議ではありません。
実際、本社サイドは「初年度200万本」のつもりだったのですが、ランジャール氏は「800万本」を主張し、「だったらいまここで800万本の発注書を書こうか?」とまで言い切ったとのこと。
そしてランジャール氏の読みは見事に当たるのですが、残念ながら生産現場は当初「年間100万本体制」であり、「1日3交代24時間フル操業」を強いられたそうです。
◆また、この「ヨーロッパ主導」の傾向が色濃くでていたのが、当初のデザインであり、それは上記ポイントの3番目にある通り。
製品名が、英語の「摩擦」を意味する[FRICTION]をベースにした造語である[FRIXION]に決まったのは、欧州各国の販社の代表が集まる会議ででした(それを本社が承認して正式決定)。
さらに、消去用ラバーをどこにつけるかでも、日本と欧州とで議論になったそうなのですが、ここでも「ペン尻」を主張した欧州側の意見が採用されたとのこと。
私たち日本人は、キャップ式のペンを使う場合、外したキャップは普通お尻に付けるので、ペン尻にラバーがあると、いちいちキャップを外さねばなりません。
ところが欧州の人で、ペン尻にキャップを差して使うのは少数派らしく、「だからラバーはペン尻で問題ない」という論理だったのだとか。
ちなみに、上記ポイントの5番目では「ノック式がターニング・ポイント」と言われてるのですが、このラバーの位置の問題が解決されたことが大きいのではないか、と。
◆加えて、本書を読むと、こんなことまで分かります。
●開発上、最後まで苦労した「色」は?
●どうして他社製品が追い付けないのか?
●過去にあった「消せるボールペン」とどこが違うのか?
●フリクションで偽造した文書の見分け方とは?
●どうして1度は断った技術提供を東芝にしたのか?
また、欧州での成功はあったにせよ、事情が違うので当初は大して期待されていなかった『フリクションボール』が、銀座伊東屋でのデモ販売で記録的な売上を上げた際のエピソードは、読んでいてワクワクしました。
なるほど、これこそが「ブームが生まれる瞬間」なんですね……。
フリクションユーザーなら読むべし!
「消せるボールペン」30年の開発物語 (小学館新書 240)
第1章 "傍流"が生んだ画期的発明
第2章 技術を止めるな!
第3章 3つの幸運
第4章 疑いから確信へ
第5章 次なる一手
第6章 書く、を支える
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【編集後記】
◆ちょっと気になる本。気にしすぎ症候群 (小学館新書 233)
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ご声援ありがとうございました!
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