2015年03月01日
【オススメ!】『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』センディル・ムッライナタン,エルダー・シャフィール
いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事で1番人気だった1冊。サブタイトルにあるように、本書のテーマは「欠乏」であり、「時間」はもちろん、「借金」や「ダイエット」といったなじみ深いテーマを掘り下げてくれています。
アマゾンの内容紹介から。
いつも時間に追われていて、思うとおりに物事が片付けられない。それなりの収入はあるのに、目の前の出費のために、借金を重ねてしまう。ダイエットをしようとたびたび取り組むけれど、長続きしない。人の気を引こうと熱をもって話しかけるが、いつも相手はつまらなそうなだけ。薬を処方通りキチンと飲まないから、いつまでも治らない。こうした、同じ状態から抜け出せない人は多いですが、じつはこれらはすべて、必ずしもその人の資質によらない、ある共通の要因がもとで起こっていたのです。さまざまのめざましい実験・研究成果を応用し、期待の行動経済学者コンビが初めて世に贈る1冊。
アマゾンのページにはダニエル・カーネマンとエリック・シュミットの名前が挙がっていますが、実は『ヤバい経済学』のスティーヴン・レヴィットも推薦文を寄せている注目作です!
付箋もこんなに貼りまくってしまいました。
oh dear.. save water! / VinothChandar
【ポイント】
■1.ひとつの事しか目に入らない「トンネリング」ひとつのことに集中するということは、ほかのことをほったらかすということだ。本やテレビ番組に夢中になりすぎて、隣にすわっている友人からの質問に気づかなかった経験は誰にでもある。集中する力は物事をシャットアウトする力でもある。欠乏は「集中」を生むと言う代わりに、欠乏は「トンネリング」を引き起こすと言うこともできる。つまり、目先の欠乏に対処することだけに、ひたすら集中するのだ。(中略)
集中は有益なことであり、欠乏のおかげで人はそのとき最も重要と思われることに集中する。トンネリングはそうでなく、欠乏のせいでほかのもっと重要かもしれないことがトンネルの外に押し出されてほったらかしになる。
■2.欠乏は処理能力を低下させる
パソコンでネットサーフィンをしているとしよう。それなりに速いコンピューターなら、次から次へとぺージを進むことができる。しかしバックグラウンドでほかにたくさんのプログラムを開いていたらどうだろう。(中略)
欠乏は同じようなことを人の心のプロセッサーに対して行なう。心にほかの処理の負荷をかけ続けることによって、目前の課題に向けられる「心」を少なくする。これが本章の中心的仮説、つまり「欠乏は直接的に処理能力を低下させる」につながる。低下するのは個人の生来の能力ではなく、その能力のうち現在使えるものである。
■3.緊急でない重要な事を先送りしない
重要だが緊急でない活動を後回しにするのは、借金に似ている。それをしないことで、今日は時間が浮く。しかし将来につけが回る。あとでそれをやる時間(おそらく長い時間)を見つける必要がある。そうこうしているうちに、それをやらないことの代償を払うか、それをやれば得られたはずの利益を失うかもしれない。オフィスが散らかっていると、仕事の生産性がはるかに落ちる。手紙の下になっている書類を見つけるのに、やたらと時間を無駄にする。あなたは日々、小さい代償を払う。その代償は、締め切りのように緊急と思えるほどには大きくない。その代わり、放っておかれたオフィスのせいで、あなたはたくさんの切り傷から血を流す。
■4.緊急の課題をやりくりする「ジャグリング」
今週を切り抜けることに集中していると、次の週に何があるのか、細かいことまでわかっていない。そして次の週になると、予想しておくべきだったことが起こって、びっくりすることになる。(中略)
これが続くと、やがて私たちが「ジャグリング」と呼ぶものになっていく。それは緊急の課題を曲芸並みに次から次へとやりくりすることである。ジャグリングはトンネリングの論理的帰結だ。人はトンネリングを起こすと、問題をその場しのぎで「解決」する。いまできることをやるのだが、それが将来の新しい間題を生む。今日の請求書のために借金をすると、それが将来的に別の(少し高い)請求書になる。
■5.組織における欠乏の問題点
セント・ジョンズ病院もNASAも、火消しの罠にはまっていた。組織研究者のロジャー・ボーンとラムチャンドラン・ジェイクマーが述べているように、火消しをしている組織にはいくつか共通点がある。第一に、「問題が多すぎて時間が足りない」。第二に、緊急の問題を解決するが、緊急でない問題はどんなに重要でもあと回しにする。第三に、これが次々に連鎖を生むので、やるべき仕事の量が増える。要するに、目前の火を消すことに時間が費やされ、火を防ぐためのことは何も行なわれないので、たえず新しい火の手が上がる。
【感想】
◆本書のメインタイトルは「時間」なので、読み始めてすぐ「金欠」や「ダイエット」の話が出てきた時には、どんな関係があるのかといぶかしげに思っていました。ところがなんと、それらの問題点は、すべて「欠乏」というひとつの言葉に集約されると知り、ビックリ。
要は、人の心は「欠乏」しているものに独占されてしまうワケです。
もちろん、上記ポイントの1番目にもあるように、何かひとつのことに集中することは、悪いことではありません。
ただし、それに伴う弊害が大きいのは、上記ポイントの2番目のとおりです。
◆本書ではこのことに関して、ある実験結果が収録されていました。
まず、ショッピングモールにいた人に、簡単な知能テストを受けてもらう際、事前にある仮定のシナリオを提示します。
曰く、「車に不具合があって修理に300ドルかかるが、思い切って修理すべきか、このまま乗り続けるかを経済的に決定せよ」というもの。
これに関して、回答者を富裕層と貧困層に分けて結果を見たところ、統計的に有意な差は見られませんでした。
ところが上記仮定のうち「300ドル」を「3000ドル」に置き換えると、貧困層の成績がかなり「悪くなった」とのこと。
つまり、貧困層にとって高額の経済的問題は「心を占有する」のに十分だったわけです。
ちなみに、この「成績悪化」がどれくらいのものかというと、同種のテストを「一晩寝ないで受けた」ものより悪かったのだとか。
これを「時間」に置き換えると、忙しくてテンパってる人が、いかに情報処理能力に問題を抱えるかが、分かるというものです。
◆こうした「トンネリング」の問題が積み重なって、期限が近づくと起こるのが、上記ポイントの4番目の「ジャグリング」。
以前は「重要だが緊急でない」ものだったのに、今や「重要かつ緊急」になって、しかも複数押し寄せてきます。
結局これを防ぐには、余裕のあるうちに「計画を立てる」べきなのですが、そもそもそれ自体が「重要だが緊急でない」もの。
さらに、せっかく計画を立てても、イレギュラーな出来事で修正を余儀なくされるのは、日常茶飯事です。
本書では、こうした事態に備えるための「クッション」を提案。
たとえば、何も予定を入れない「バッファ」をあらかじめ用意しておくことは、スケジュールの問題だけでなく、仕事の質にも好影響を与えるのだと思います。
◆本書を読むと「忙しい」ことが、単なる「余裕がない」以上の問題であることがよく分かるかと。
そして、当たり前かもしれませんが、「余裕がある」時に、やるべきことをキチンとやっておくことこそが、結局は正解であることも理解できました。
なお、著者のうち、センディル・ムッライナタンは、ハーバード大学の経済学教授で、マッカーサー財団の「天才賞」や、世界経済フォーラムの「ヤング・グローバル・リーダー」等々を得ており「ノーベル賞も近い」と言われているのだそう。
また、もうひとりの著者であるエルダー・シャフィールは、プリンストン大学の心理学教授で、センディル・ムッライナタン同様、「世界の思想家トップ100」に選ばれているとのこと。
「2014年度アマゾン・ベストブック」(本の帯より)とあるのも納得の、「忙しい方にこそ」読んで頂きたい1冊でした。
手遅れになる前に読むべし!
いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学
序章
第1部 欠乏のマインドセット
第1章 集中とトンネリング
第2章 処理能力への負荷
第2部 欠乏が欠乏を生む
第3章 荷づくりとスラック
第4章 専門知識
第5章 借金と近視眼
第6章 欠乏の罠
第7章 貧困
第3部 欠乏に合わせた設計
第8章 貧困者の生活改善
第9章 組織における欠乏への対処
第10章 日常生活の欠乏
結論
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【GTD】『ひとつ上のGTD ストレスフリーの整理術 実践編』デビッド・アレン(著),田口 元 (監修,翻訳)(2010年11月29日)
【編集後記】
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中古でも今日の値段の倍以上するので、確かにお買い得ですね。
ご声援ありがとうございました!
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