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2015年02月04日

【購書術?】『出版社社長兼編集者兼作家の 購書術: 本には買い方があった!』中川右介


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出版社社長兼編集者兼作家の 購書術: 本には買い方があった! (小学館新書 237)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、リアル書店で捕獲した読書本

書評系ブログをやってる自分としては、タイトル見ただけで即買いでした。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
今の時代にあっては、1冊の本が書店、古書店、ブックオフなどの新古書店、さらにネットオークション、電子書籍など買い方にも多様な選択肢があり、価格も実質、一物多価といえる状況です。では、そも本の値段とは何か、どう買えばいいのか――。世に読書術の本が数多あるなか、本の買い方を徹底的に思考し、指南する本は、おそらく日本初ではないでしょうか。 全ての本好きに贈る、あるようでなかった究極の本の買い方術です。

出版業界の裏表をご存知の中川さんだけに、章末の註まで読みどころ満載だったという……。






Sossi loves books / bibliothekarin


【ポイント】

■1.版元の大きさで企画が左右される
 版元の規模が大きいと宣伝費も多くなるし、取次に対しても強く出ることができるし、書店への営業力もあるので、多く刷ることができる。
 だが、それだけではない。考え方が逆なのだ。大手版元は最低でも5千部を発行しないと採算がとれないので、そういう部数になる。(中略)
 大手版元は売るカがあるから5千部以上を作るのではなく、5千部以上作るという前提での企画しか通らないのである。零細版元は2千部でもいいから、むしろ、確実に一定数の読者がいる企画のほうがありがたいのだ。


■2.小さな書店にベストセラーが配本されない理由
発行部数の少ない専門書が小さな書店に配本されないのは当たり前として、何万部、ときに何十万部も刷る、村上春樹のような人気作家の新作でも、小さな書店配本されないのはなぜなのか。
 取次の方針が効率優先なので売れ行きのいい大手書店に何百冊、何千冊と配本してしまうからだ。(中略)
 版元としても、小さな書店を一店ずつフォローして、たとえば1干店に各2部ずつ配本して2千部売るよりも、紀伊國屋書店新宿本店だけで2千部売れるほうが手間はかからない。だから、大手書店にドカンと数百、数千部が配本される。


■3.分野別ではなく、版元別に並ぶ新書
 単行本ではできる分野別の並べ方がなぜ新書ではできないのか。さらに、なぜ新書は新書として別の枠に入れられているのか。長年の慣習ではあるが、これもアマゾンと比べて本が探しにくい理由でもあるので、見直してもいいのではないか。
 と書きながらも、この本の企画を検討してもらうとき、「単行本と新書とどちらがいいですか」と聞かれ、「単行本だと、この本の場合、『読書ガイド』とか『出版に関する本』という棚に置かれ、そういうところに行く人は少ない。でも新書コーナーは誰でも行くから、人の目に触れる確率が高くなるので、新書にしてください」などと言った。
 これはこれで本音だ。


■4.図書館の本には欠落がある
 本を買う理由は、このように「どうしようと自由」なのと、「持っていればいつでも読める」からだが、他にもある。図書館の本は、必ずしもすべての情報が整っているわけではない。欠落している部分があるのだ。図書館の本は、基本的に帯が付いていない。ケースもない。カバーは、最近は特殊な加工をして本体にはりつけている図書館が多いので、カバーに印刷されている情報は読める。しかし、そのため、本体の表紙が見えなくなる。マニアックな次元になるが、図書館の本にはそういう欠落がある。


■5.本の値段は紙代がベースになる
買い手が本の値段について高いとか安いと感じるのも、ぺージのわりにどうか、という観点になる。「300ページなのに5000円は高いのではないか」「500ぺージもあるのに2000円なんて安い」「文庫で400ページなのに1000円は高い」とか、そのように感じる。「こんなに面白いのに1000円なんて安い」とは、あまり感じない。
「印刷された紙の束」が欲しいのではなく、そこにある文字や絵や写真という情報を欲しくて本を買うはずなのに、結局、値段は紙代がべースとなるのだ。


■6.文庫を出す理由
 多くの作家が、実質的には自分の作品の値下げである文庫化を容認しているのは、単行本で出た時点で印税をもらっており、文庫化は、いわぱ不労所得と考えられるからである。以前出したものを文庫として出す場合は、加筆するなどの手間はかかるが、まったく新しい本を一冊書くよりは、少ない労力ですむ。さらに一般論として、単行本よりも文庫は部数が多いので、もらえる印税額はそう変わらない。1500円のハードカバーが5千部だったら印税は75万円、800円の文庫が1万部だったら印税は80万円になる。重版されて、結果として文庫のほうが多くなることもある。


【感想】

本書は表紙にどデカく「購書術」とあって、何の気なしに「選書術」のことなんだろう、と思って買ったのですが、上記ポイントの通り違いましたw

「目次をチェックしよう」ですとか、「最初の数ページを読んでみよう」「気になる部分を読んでみよう」といった、類書にあるお話はまったくなし。

これらは、結局「受け手」というか「読み手」視線の話なのに対し、本書で多く展開されているのは「出し手(版元)」や「書き手」側からのお話です。

それこそ思いっきり「"出版社社長"兼"編集者"兼"作家"」である中川さんだからこそ書けた内容と言えるかと。

なお、本書でも追記されていて、アマゾンの内容紹介の「編集担当からのおすすめ情報」にもあるように、中川さんはご自身の会社の営業権を本書執筆中に譲渡したため、厳密には「出版社社長」ではないものの、書いている間は経営者だったので一応ご理解頂きたく。


◆さて、そんな「肩書き」の中川さんだけに、第1章では「書店の使い分け術」を披露。

上記ポイントの2番目で触れられているように、ベストセラーは「大型書店」で買え、とのこと。

そして、今回は割愛していますが、近所の書店では「雑誌、全集、シリーズもの」を買う事を薦められています。

中でも、今現在こうした書店の経営上の大きな柱となっているのが、「パートワーク」と呼ばれる「分冊百科」なのだとか。

パートワークとは | 会社概要 | DeAGOSTINI デアゴスティーニ・ジャパン

その他の「古書店」「ネット書店」「コンビニ」「図書館」といったルートの使い分けについては、本書にてご確認を。


◆続く第2章は「本の整理・処分術」なんですけど、正直、整理術はあまり参考にならない気が……。

そもそも、「積読」される方は多いですが、中川さんの場合、「買ったのに読まない」どころか「読まないと分かってるのに買う」本があるという。

それが「シリーズ物」や「全集」で、これは中川さん曰く「生涯最大の『積ん読』となりそうだ」とのこと。

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石ノ森章太郎 萬画大全集 第01期セット

……これ、「全500巻」なのだとか。

一方、処分術の方は、フツーに読まない本を古本屋に売ってらっしゃるのですが、買う際には「古本で買うのは絶版本だけ」と、業界人として義理を通しているのに、その辺はどうなの、と小一時間(ry


◆そして最後の第3章で押えておきたいのが、本の「価格」についてです。

上記ポイントの5番目にあるように、現在、本の価格はページ数に左右されているのは、ご承知の通り。

それはそのまま電子書籍にも反映されており、多くの電子書籍に先に出た「紙の本」があるため、「その何割引き」という値付けが普通です。

しかし、中川さんは近い将来、電子書籍に独自の価格体系が構築されるのでは、と指摘。

むしろ、それこそが電子書籍の普及のキモではないか、と言われていました。

ちなみに、その電子書籍については、下記目次の「実践編(2)」において、中川さんが実際にKindleペーパーホワイトを使ってみた模様が収録されています。

これがまた悪戦苦闘なのですが、私よりさらに上の世代が初めて触ると、こういうことになるのだな、とw


◆上記でも触れたように、本書はまず「選書術」ではありません。

さらに言うなら「読書術」でもなく、本書の「はじめに」で中川さん曰く「本を『読む』のも好きだが、それ以上に『買う』ことが好き」とのこと。

また、ご本人のみならず、親子三代に渡って「出版社を創業&廃業」しているという、根っからの「出版業界人」でもあるわけです。

本書はそういう「バリバリの業界人」の「購書術」であり、それを踏まえて読むのであれば、十分楽しめると思われ。

個人的には、業界の「手の内」を知る事ができるため、それを選書に活かそうと思ってますが(例えば上記ポイントの1番目等)。

なお、冒頭でも申しあげたように、各章の終わりにある註も「業界裏ネタ満載」なので読み逃しなきよう!


「本を買う」喜びを味わうために!

はじめに
序章 本をめぐる言葉
第1章 書店の使い分け術――どの店で、どんな本を、どう買うか
実践編(1) 私を作ってきた書店
第2章 本の整理・処分術――買った本をどう置くか、どう整理するか、どう売るか
実践編(2) 電子書籍を読んでみた
第3章 本とは何か――本の何を買っているのか
あとがき


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【編集後記】

◆そういえば、本書と全く関係ないテーマで、中川さんのご本を一度ご紹介したことがありました。

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ブームはどう始まりどう終わるのか (岩波アクティブ新書)

参考記事:「ブームはどう始まりどう終わるのか」中川右介(2007年01月12日)

ニッチな分野のお話とはいえ、「流行」について考えてみたい方なら、要チェックです!


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