2015年01月30日
東大教授がこっそり教えてくれる『人の心は読めるか?』の真実

人の心は読めるか? (ハヤカワ・ノンフィクション)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事にて取り上げた1冊。その際にも触れたように、『ビジネスモデル全史』の三谷宏治さんや、『ヤバい経済学』のスティーヴン・D・レヴィットが推奨しております!
アマゾンの内容紹介から。
「上司は自分を高く評価している」「あの人はきっと嘘をついている」「夫の考えることは聞かなくてもわかる」―。私たちは日々、相手の心を推測して生きている。ところが実は、もっとも近しい人の心でさえ、知らず知らずのうちに読み誤っていることが実験で明らかに。誤解や勘違いを引き起こす脳の“罠”を知っておけば、うまく人間関係を築き、人を動かすことができるはず。シカゴ大学ブース・ビジネススクールで教鞭をとる心理学界の気鋭が、相手の心を正しく読むための「8つのステップ」を解き明かす。
タイトルからして「読心術」かと思いきや、むしろ「相手を理解するための方策」が指南されていました。
なお、書名が短いので「ホッテントリメーカー」にてタイトルを付けましたが、本書内には東大教授は出てまいりませんので、あしからず。

"What is he Thinking?", he's Thinking / skippyjon
【ポイント】
■1.人は自分を正しく把握していない私たちは被験者に、彼ら自身の顔を11パターンに加工したものを見せた。実際の顔と、5段階に分けて魅力的にした顔と、5段階に分けて不細工にした顔をランダムに並べて、本当の顔はどれかと訊ねたのである。すると、多くの人が、より魅力的に加工したほうを選んだ。自分たちの顔を、実際より魅力的に思っていたわけである。いってみれば、あなたが見ている自分の顔は、鏡に映った映像そのものではなく、自分に対する肯定的なイメージづけの結果でしかない。自分の写真を見ると、たいてい写りが悪いと思う理由も、これでおわかりだろう。
■2.相手に無関心だと、相手の頭が鈍いと考えてしまう
相手に対する思い込みは、自由な意志のことだけに限らない。相手を、自分より野暮ったく軽薄だと思いがちな傾向は、どうやら万国共通のようだ。テロリストやハリケーンの被災者や政敵など、自分の仲間ではない遠い人には、恥や誇りやとまどいや罪の意識といった複雑な感情を持たないと考える。たとえば、ある調査からは、アフガニスタンの兵士が友軍の兵士を誤射したことをカナダ人に謝罪しても、何の効果もないとわかった。なぜなら、カナダ人にとってアフガニスタン人は遠い存在であり、自責の念を感じないと思われていたからだ。そのため、彼らの謝罪も心からのものではないと思われていた。
■3.擬人化と非人間化は表裏一体
おもしろいのは、パートナーに第六感を働かせるトリガーと、ぺットやハリケーンや神や車やコンピューターに第六感を働かせるトリガーが同じである点だ。心理学者であっても、犬や猫やコウモリの本当の気持ちは説明できない。だが、あるモノに対して心があると思う場合も思わない場合も、自分なりに説明がつけられる。つまり、人間でないものに心を見出す行為は、他人の心を見落とす行為の裏返しでもある。擬人化と非人間化は、コインの裏と表なのだ。
■4.人は自分の「歪み」には気がつかない
ところで、マスコミの報道は偏っていると文句をいう人のうち、自分に有利なように偏っていると文句をいう人はいないことに、気づいたことはないだろうか? 見方が偏っている人は、報道が公平だったとしても、自分ではなくマスコミの報道に問題があると思ってしまう。本当は眼鏡が必要な人が、プロジェクターのレンズが壊れていると思ったように、視聴者は、偏見があるのは自分の頭のなかではなくマスコミのほうだと考えてしまう。
■5.文字による通信手段は誤解を招きやすい
私と共同研究者は、あるグループに、10の話題に関して、真面目な文章と皮肉を込めた文章を1つずつ書いてもらった。話題は食べ物や車のこと、カリフォルニアやデートや映画のことなどで、私が共同研究者のジャスティン・クルーガーと実験の構想を練っていたときに、適当に思いついたものである。そして、自分の文章を別の人に伝えてもらった。方法は、メールの場合もあるし、電話の場合もあった。(中略)
文章の送り手は、電話でもメールでも同じように正確に(どちらも約80%)伝わるはずだと考えた。ところが、受け手は、明快なコミュニケーション(電話)のときにしか、相手の意図を正しく理解できなかった。メールでは、当てずっぽうとほぼ同じ確率でしか伝わらなかったのだ。
■6.巨大台風カトリーナで非難しなかった人の真意
避難しなかった人は、避難した人よりもはるかに貧しく、地理的に狭い人脈しか持っておらず、(子どもや親戚を含めて)家族の人数も多く、信頼できるニュースを得る手段もあまりなく、車を持たない人が多かった。(中略)
テレビカメラが屋根の上に立つ人や洪水のなかを歩いている人を、いくら大きく映し出しても、広い視野から見たその人の立場を捉えることはほとんど(あるいはまったく)できない。避難しなかった人は自らの意思でそうしたのだと思うのは、地球は平らだと思ったり、出題者は頭がいいと思ったりするのと同じだ。
【感想】
◆本書は、その元タイトルを『Mindwise: How We Understand What Others Think, Believe, Feel, and Want』といい、本来は「相手のことを、どう『理解』するか」とでもいうもの。
Mindwise: How We Understand What Others Think, Believe, Feel, and Want
冒頭でも触れたように、決して「読心術」的な内容ではありません。
逆にそれどころか、「いかに私たちは相手のことが理解できていないか」という事例を、「これでもか」とばかりに挙げ連ねてきて、読んでいて涙目の巻。
帯で三谷宏治さんが書かれているように、そもそも「自分自身も理解できていない」という事例が、上記ポイントの1番目です。
本書では実際に、プラスマイナス5段階に加工された(オリジナルと合わせて)11枚の画像が掲載されていますので、気になる方はご確認を。
でもこれ、ランダムに並べられたら結構難しい気が。
◆自分ですらこうなのですから、相手のこととなると、一層分かっていない、ということが、本書では第2部以降で述べられています。
特に興味深かったのが、上記ポイントの3番目で、人は、相手のことが分からずに「非人間化」するくせに、人でないものを「擬人化」してしまう、というお話。
巨大台風を「神の怒り」と思ってみたり、株式市場に「怒っている」「喜んでいる」と言ってみたり、ということは、確かにあります。
また、9.11事件の直後には、世界貿易センタービルが炎上している写真の煙の中に、「悪魔の顔が写っている」と主張する説も広まりました。
つまり、脳の仕組み的には、「他人の心」を勝手に決めつけることと、このように「心ないものに心がある」と思うことは、表裏一体なのだな、と。
◆ただ、「擬人化」の方は、まだ実害が少ないからいいものの、問題なのは「非人間化」や「相手の頭が鈍い」と思う方です。
たとえば、上記ポイントの6番目にある「カトリーナ」来襲時に、避難命令があっても非難しなかった人は「自らそうすることを望んだのだ」と、大抵の人は考えました。
実際、「ハリケーンをやり過ごせると思っていたのでしょう」とコメントした精神科の医師もいましたし、同様の傾向が、無作為に選んだアメリカ人や大学生に対する調査でも見られたのだそう。
しかし、本当は「非難したくても物理的、金銭的にできなかった」というのは上記ポイントにある通りです。
相手のことを理解するのが、いかに難しい事か……。
◆難しいついでに言うと、当ブログでも何度かご紹介してるこの本。

顔は口ほどに嘘をつく
ここでうたわれている「微表情」という概念については、実は科学的にはそれほど信頼性が高くないのだとか。
ある実験で、被験者にいろいろな感情を呼び覚ます写真を見せて、感じたことを正直に出したり隠したりしてもらったところ、全697の表情パターンのうち、完全な微表情は1つもなく、部分的な微表情ですら、全体の2%しかなかった、とのこと(詳細は本書を)。
なお、アメリカの運輸保安庁では、この微表情に関する訓練プログラムを行って、空港での手荷物検査に活用しています。
ただし、その結果拘束された15万2000人のうち、実際に逮捕されたのは1083人(全体の1%以下)で、かつ、逮捕者の中でもっとも多かった(40%)のは「不法在留外国人」であり、決して銃やドラッグやテロリスト関係ばかりではないのだそう。
結局、人の考えや感情は、身体や顔に出るかもしれませんが、大したことはなく、かつ、得られるメリットもごくわずか、ということらしいです。
◆ならば、相手の考えや意思、気持ちを知るにはどうしたらいいのか?
本書では、良くも悪くも(?)「身も蓋もない」やり方が主張されているのですが、一応ネタバレ自重で。
いずれにせよ、私たちは本書の最後で述べられているように、「相手の心には自分の想像が及ばない部分があると認める」のが大事なのだと思います。
本書も、「買って即得られる効果がある」タイプの本ではありませんが、読んで色々と考えさせられました。
テレビや新聞やネットで得られる情報だけでは、分かり得ない「裏」があるのだな、と。
「今」だからこそ読んでおきたい1冊!

人の心は読めるか? (ハヤカワ・ノンフィクション)
第1部 間違いだらけの「読心術」
第1章 第六感を過信しない
第2章 まずは自分の心を知る
第2部 それに「心」はあるのか?
第3章 相手の「心」を見る
第4章 モノの「心」を見る
第3部 相手は何を考えている?
第5章 自分を基準に考えない
第6章 ステレオタイプを味方につける
第7章 相手の行動から本心を読まない
第4部 どうすれば他人の目で見ることができるのか?
第8章 読心術の達人になる
第9章 第六感とともにいきるには
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【読心術】『心を上手に透視する方法』トルステン・ハーフェナー(2011年09月05日)
知らないと損する『嘘の見抜き方』(2013年05月17日)
【編集後記】
◆これまた、ちょっと気になる本。
食べる量が少ないのに太るのはなぜか (幻冬舎新書)
私は糖質制限で結構痩せられましたが、今後に向けてチェックしておきます!

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