2015年01月21日
お前らもっと『かぜの科学』の凄さを知るべき
かぜの科学:もっとも身近な病の生態 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、中古単行本にプレミアが付いている『かぜの科学―もっとも身近な病の生態』の文庫版。単行本の時点では読んでいなかったのですが、甥っ子がもうすぐ中学受験ということで今般読んでみたところ、あまりに「目からウロコが落ちまくった」ので、義兄に速攻買わせてしまいました(実話)。
アマゾンの内容紹介から。
私たちが一生涯に風邪をひく回数は、なんと平均200回。これだけ身近な病なのに、いまだにワクチンもなければ特効薬もない。それはなぜ?そもそも風邪って何?かかったらどうしたらいいの?自ら罹患実験に挑んだサイエンスライターが最新の知見を用いて風邪の正体に迫り、古今東西の民間療法や市販薬の効果のほどを明らかにする。私たちはいかに風邪を誤解してきたか。これまでの常識を覆す、まったく新しい風邪読本。
「キモイ」と言われようとも、付箋を貼らざるを得ませんでしたよ(でも確かに多杉w)!
なお、タイトルは「ホッテントリメーカー」で作りましたが、まさに偽らざる私の気持ちです!
A sneeze / squant
【ポイント】
■1.抗生物質や殺菌効果のある製品は効き目がないここにいる若者の一部は、その病原体が細菌だと考えているらしい。だが、そうではない。ウイルスなのだ。だから抗生物質は風邪には効かない。効果はゼロ、皆無だ。抗生物質は細菌が細胞壁をつくるのを阻むことで細菌を殺す。ウイルスは細胞ではないから細胞壁をもたず、したがって抗生物質はまったく効かない。これはまた殺菌効果をうたう石鹸、シャンプー、ローションが風邪の病原体に効果をもたない理由でもある。さまざまなキャッチコピーにもかかわらず、これらの製品を使ったとしても、あなた自身も、あなたの友人も、あなたの家族も、風邪を予防することはできない。
■2.咳やくしゃみではうつらない
ウィンザーによれば、咳やくしゃみによって発生する飛沫が風邪を広めるという証拠はないに等しいという。「くしゃみをするときは、まず鼻がムズムズして、高圧の空気が押し出されます。このときに口の前のほうにたまった分泌物が体外に出るわけで、鼻から出るわけではありません」。唾液にはほとんど(あるいはまったく)ウイルスが含まれておらず、くしゃみによって飛沫になった唾液が感染を広げることはあまりありそうにない。実際に、研究者たちが重い風邪にかかったボランティアのいる部屋で空気の検体を採取して調べたところ、82パーセントもの空気を調べたにもかかわらずウイルスはまったく検出されなかった。さらにボランティアがウイルス検出用の物体表面に向かって直接咳やくしゃみをしても、ウイルスが検出されたのは25回のうち2回のみだった。
■3.睡眠不足だとかかりやすい
最近の研究でも、睡眠と風邪のかかりやすさには確かに関連があることが示されている。2009年、カーネギーメロン大学のシェルドン・コーエンらは、毎晩の睡眠時間が7時間を割る人は、8時間以上寝る人に比べて3倍以上風邪の罹患率が高いことを見出した。睡眠効率、すなわちベッドで実際に睡眠に費やされる時間はより大きな影響をもっていた。(中略)
全体の睡眠時間の2〜8パーセント(平均睡眠時間が8時間としておよそ10分から40分)眠れなかっただけで、その人はすぐに寝ついてぐっすり寝た人と比べて風邪の罹患率が5倍にもなった。
■4.慢性的なストレスも風邪の原因となる
この10年ほどでコーエンは、1000人を超える健康な被験者を風邪ウイルスに感染させ、心理的要素が風邪のかかりやすさにどう影響するかを調べ、このテーマについて数十篇の論文を発表してきている。多くはヴァージニア大学のロナルド・ターナーとその同僚との共同執筆だ。彼は、風邪のかかりやすさに関する限り、最悪のストレスは慢性的なストレスであることを見出した。たとえば、失職している、ずっと結婚間題で悩んでいる、家族や友人と揉めているなどだ。とりわけ、こうした問題が1ヵ月以上続くと良くない。こうした慢性的なストレスの影響下にある人は、そうでない人の2〜3倍の確率で風邪をひく。コーエンによれば、ストレスを感じる状態が長引くほど、病気にかかる率は高くなる。
■5.風邪の治療薬ができない理由
風邪の治療薬の実現が難しいことには2つの理由がある、とロナルド・ターナーは述べる。まず生物学的な観点から見た問題がある。風邪を起こすウイルスの数はあまりに多く、標的がつねに変化して暖昧なのだ。あるウイルスまたはウイルス株に対して効能のあるワクチンや治療薬は、その他のウイルスに対してほとんど効き目がない。(中略)
次に現実的な問題がある。風邪は軽度の疾患で、放っておいてもいずれ治癒するため、速攻で効く治療でなければ無駄になる、とはロナルド・ターナーの弁だ。さらに安価でなければならない。医薬品開発業者は、風邪のような軽度の病気のために人びとが高価な医薬品を欲しがることはないだろうと言う。一方で、新薬の開発には少なくとも約8億ドルかかる。「さらに」とターナーは付け加える。「絶対に安全でなければなりません。副作用に許容限度というものはないのです。こうしたことすべてが問題を難しくしています」
■6.ビタミンCでは予防できない
ビタミンCほど研究し尽くされた民間療法もないだろう。しかしさまざまな研究は、風邪の予防と治療に関する限り、残念ながらビタミンCはまず期待外れという点で一致している。ビタミンCをまめに摂取しても風邪の予防にはならない。(中略)
2004年、<コクラン・コラボレーション>(訳注 イギリスに本部を置く、医療情報の提供を目的とする非営利団体)が妥当なものと言える証拠――1万1000人を超える人に関する30件以上の研究――をのきなみ再評価し、定期的にビタミンCを摂取しても一般には風邪を予防できないと結論づけた。
【感想】
◆いやもう、初っ端から「知らないことだらけ」でビビりました。まず、抗生物質が効かない、というお話。
この辺は、私自身があまり知識がないので、あまり断言はできないのですが、今までお医者さんでもらっていたお薬は、各諸症状の対処薬(鼻水を止める、熱を下げる等の)ではあったものの、根本的に風邪を治療していたのではないようです(違います?)。
なお、根本的な治療薬ができない理由に関しては、上記ポイントの5番目にある通り。
毎年ころころウイルスが変わると、そのたびに新薬を開発しなくてはいけませんが、「放っておくと自然に治る」病気であるがため、そこまで研究費を投入できない、と。
また、殺菌・抗菌効果のある製品も効果がないというのも結構な衝撃でした。
もちろん、これはあくまで「風邪」に関するお話であって、その他の「細菌」を原因とする病気(食中毒等)に関しては別ですからご留意を。
◆さらに、咳やくしゃみが感染の原因ではない、というのも「目からウロコ」(可能性はありますが)。
人ごみでマスクをしても、あまり意味がなかったのか……。
唾液感染については、割愛した中で別の実験があって、風邪を引いたボランティアに健康なボランティアと1分半にわたってキスしてもらったところ、16例のうち交差感染が認められたのはたった1例に過ぎなかったのだとか。
ただし、これは風邪の原因となるウイルスの最大派閥(約40%)である「ライノウイルス」に関するお話であって、他の風邪のウイルスやインフルエンザは別とのこと。
もちろん、夫婦やカップルの間で風邪は感染しますが、それはキス以外の「他の理由」によるわけです。
◆逆に、睡眠不足やストレスが風邪を引きやすくする、というのは、納得できるお話でした。
ただ、7時間とか8時間という睡眠時間は、一般的なビジネスパーソンからはかけ離れている気が。
8時間も寝てられないですよ、普通……。
でも、ひょっとして5時間以下だったら、かえって風邪に効果がある、とかいう話はないですかね?(ナイナイw)
一方、ストレスに関連して、「子どもの頃の社会的ステータス」と風邪のかかりやすさとの間には、強力な相関関係があるのだそう(詳細は本書を)。
今さら「子どもの頃、家を所有していた年数」とか言われても、手遅れの巻w
◆いずれにせよ、風邪は「引いてしまったら治療薬がない」以上、予防するしかありません。
上記で触れたようにマスクが効果がないとなると、どうすればいいか?
本書で繰り返し推奨されているのが「手洗い」です。
「殺菌」「抗菌」効果のある石鹸は、その効能自体は風邪に効かなくとも、「手を洗う」という行為には十分意味がある模様。
さらに、その上で「顔を触らないようにする」と良いのですが、この辺の感染のメカニズムは、ネタバレ自重しておきました。
実際、私も本書を読んで以来、できるだけ顔(特にある特定の部分)を触らないよう心がけております。
◆なお、1点触れておかねばならないのが、本書の内容をくつがえす新たな発見が、つい先日あったこと。
体を冷やすと風邪を引く、科学的根拠 ≪ WIRED.jp
上記記事の中では、「温度が低いことと、一般的な風邪の原因とされるライノウイルスの感染リスクとの間に、相関があるという証拠は存在していなかった」ため、「寒さは風邪の原因ではない」という、「従来の説」を紹介しているのですが、本書も同様のスタンスでした。
ところがどうやら、「寒さがライノウイルスに抵抗する私たちの免疫系の能力に影響を与えて、実際に風邪を引くリスクを増大させる」、つまり、「寒さも風邪の原因」だったよう。
と言うか、そもそも本書を読む前には、それが当たり前と思っていたので、元に戻っただけなんですがw
◆もっとも、それを除けば、本書を読む価値があることは、上記の付箋が物語っております。
巻末には、60ページ超にわたる「付録」が付いており、こちらでは民間療法から、風邪に効くかもしれない(?)料理のレシピ(「おばあちゃんのチキンスープ」等)まで紹介されていますので、気になる方はご確認を。
30ページ弱もある原注と参考文献も、本書のガチ具合を表しているかと。
と言うわけで、本書はご自身のみならず、お子さんやご家族の風邪を予防するために、必読の1冊。
受験シーズンまっただ中ですが、今からでもまだ間に合うはず!?
これはオススメせざるを得ません!
かぜの科学:もっとも身近な病の生態 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
序 風邪の赤裸々な真実
第1章 風邪をもとめて
第2章 風邪はどれほどうつりやすいか
第3章 黴菌
第4章 大荒れ
第5章 土壌
第6章 殺人風邪
第7章 風邪を殺すには
第8章 ひかぬが勝ち
第9章 風邪を擁護する
付録 風邪の慰みに
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【編集後記】
◆本書の著者の前作にあたる作品。からだの一日―あなたの24時間を医学・科学で輪切りにする
こちらも面白そうですね。
ご声援ありがとうございました!
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