2014年11月07日
『デザインコンサルタントの仕事術』が想像以上に凄い件について
デザインコンサルタントの仕事術
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、あのIDEOと肩を並べるデザインファームであるfrogの、常識破りのノウハウを明かした作品。著者のルーク・ウィリアムスは、そのfrogのフェローであり、「ニューヨーク大学スターン・ビジネススクールのバークレー・アントレプレナーシップ・アンド・イノベーション・センター所長、およびイノベーション分野の教授を務める」人物でもあります。
アマゾンの内容紹介から。
アイデア出し、ソリューションへの仕上げ方からプレゼン術まで―アップル、マイクロソフト、ディズニーが絶大の信頼を寄せるfrogのノウハウが詰まった一冊。
なお、タイトルはちょっと煽り気味なんですが、久々に「ホッテントリメーカー」のお世話になりました!
Prototype Apple computer from the 1980s / IN 30 MINUTES Guides
【ポイント】
■1.破壊的なイノベーションを目指すそれまでの流れをがらりと変えるような、破壊的なイノベーションを行わず、些末なイノべーションにばかりこだわって差をつけようとする企業は、むしろ自分たちが差をつけられて退場するはめになる。それまで悠長に待ってはいられない。常日頃から、たとえ成功の絶頂にいたとしても、大胆に動き続けなければならない。
だから、本当の常套句は「差別化か、死か」ではなく、「差別化は好きにすればいいが、誰もしていないことをする方法を見つけ出せ、さもなくば死だ」であるべきだ。
■2.破壊的仮説を立てる
本来「仮説」という言葉が意味するものは、事実から組み立てられた最も合理的な説明であり、検証によって確かめられるものだ。たとえば携帯電話をかけようとしたら、真っ黒な画面しか出てこなかったとしよう。電源が入らないという事実に基づき、「バッテリー切れかもしれない。充電すればまた動くようになるはず」と仮説を立てる。
しかしながら、破壊的仮説においては「充電すれば携帯が使えるようになる」などと合埋的な予測を立てたりはしない。代わりに「そもそも携帯電話に電池が要らなかったらどうだろう?」と非合理的な考えを生み出す。両者の違いはジョージ・バーナード・ショーの格言を借りるなら、「存在するものだけを見て『なぜそうなのか?』と問うか、存在しないものを夢見て『もし……なら?』と問うか」である。
■3.逆転できるものを探す
ソフトドリンク業界ではこのような常識が存在した。・ソーダは安い。「ソーダは安い」の逆は「ソーダは高価」、「ソーダはおいしい」の逆は「ソーダはまずい」となる。どちらもばかばかしく聞こえるかもしれないが、この手順を踏まなければ常識は打ち破れないし、それこそまさにレッドブルがやったことだ。味には全く価値を置いていないし、値段はコカ・コーラの倍もする。有名人の起用もなし。レッドブルが売り込んだのは、飲んで嬉しいものではないかもしれないが、必要なときにエネルギーを与えてくれる、というメッセージだった。
・ソーダはおいしい。
・ソーダは向上心の象徴として広告されている。
■4.惰性で行っているものを探す
2005年の10月、バンク・オブ・アメリカは消費者に新しい銀行口座を開かせるきっかけとなるチャンスを見つけ出した。カギとなった発見は、人々が金融取引の際、1ドル以下を繰り上げて支払っているという惰性であった。そのほうが早くて楽だったからだ。さて、その惰性を活用し、お金を損する習慣からお金を得する習慣に変化させることはできるだろうか? 結果として生み出されたのが「キープ・ザ・チェンジ(お釣りを貯めよう)」プログラムであった。バンク・オブ・アメリカのVisaデビットカードで何かを購入するときに請求額以上を振り込んだ場合、銀行が余剰分を自分の銀行の普通預金口座に振り込んでおくというものだ。プログラム開始以来、70万件の当座預金と100万件の普通預金の口座が新しく開設されている。
■5.ブレインストーミングでは質が期待できない
表面上、ブレインストーミングは合理的に聞こえる。しかし、従来のブレインストーミングには、多くのアイデアを生むということと良質のアイデアを捉えることの大きな違いが無視されているという問題がある。その結果、ブレインストーミングを終えた組織やチームは圧倒され、方向性を見失ってしまう。ゼネラル・エレクトリックのべス・コムストックはそれを「可能性によって麻痺してしまう」と示唆深い言葉にしている。端的に言えば、もしアイデアに破壊的なインパクトを持たせたいなら、ブレインストーミングによるめった打ちではなく、目的に対してカミソリのように鋭く迫る創造的努力をするべきだ。
■6.破壊的思考の産物をプレゼンする際の3つの法則
作家のサマセット・モームはかつてこう言った。「小説を書くのには3つの法則さえ守ればいい。不幸なことにその3つが何かは誰も知らないが」。モームの言い回しを真似るなら、破壊的思考の産物をプレゼンするには3つの法則さえ守ればいい。幸い、その3つが何かは皆が知っている。まず共感を生むことから始めること(私とどう関係があるの?)、続けて緊張感を生み出すこと(いったいこの話はどうなるのだろう?)、そして最後に聴衆を信者に変えること(これはすごい。どうすれば現実にできるのだろう?)である。
【感想】
◆下記目次をみて頂くとお分かりのように、本書は各章のアタマに「破壊的」というフレーズが付されています。かといって、それらは必ずしも「常識破り」であるわけではなく、言われてみれば「なるほど」と思わせられる、ちょっとした「気づき」であるものがほとんど。
たとえば、なんのへんてつもない家庭用ペンキの缶に「破壊的イノベーション」を起こしたのが、ダッチボーイ・ペイント社の容器「ツイスト&ポア」です。
分かりやすくまとめてくださっているサイトがあるので、そちらをご紹介。
生活:さよなら、ペンキ缶
人びとは今まで、「ペンキ缶はドライバーで開けるもの」と思い込んでいたわけですが、そこに「破壊的チャンス」がありました。
◆また、本書で特にフォーカスされているのが、「リトル・ミス・マッチ」という靴下のブランドです。
ここのコンセプトは「バラバラの靴下を3つひと組で売る」というもの。
この会社のCEOであるジョナ・ストーは、かつてフロッグで、本書の著者のルーク・ウィリアムスの同僚だった女性で、それもあってか「リトル・ミス・マッチ」は本書の思考法にぴったり当てはまるのだとか。
本書の各章には、「コラム」として、この「リトル・ミス・マッチ物語」が収録されているので、こちらは是非お読み頂きたく。
◆ちなみに、私は全然知らなかったんですが、日本にも上陸していた模様。
靴下|リトルミスマッチ公式通販サイト
上記サイトをご覧になって、「何がいいかわからない」と思われた方、それも分かります。
実際、立ち上げ時にジョナと仲間は、高級服飾ブランド、ノードストロームの全店の仕入れを担当している靴下バイヤーとアポを取り、「リトル・ミス・マッチ」のプロトタイプを見せたところ「これはひどいアイデアだ」と言われたのだそう。
しかし彼女らは、バイヤーに8歳の娘がいることを知り、家に持ち帰って娘の意見を聞いてみるように頼み込んだところ、2日後、そのバイヤーから連絡があり、ノードストローム全店に置かれる製品、25万ドル分の注文があったのだとか。
◆一方、こうした「物づくり」のお話だけでないことは、上記ポイントの4番目の「キープ・ザ・チェンジ」プログラムが証明しています。
なかなかスマートなやり方だな、と思ったら、本書では触れられていないものの、商売敵であるIDEOの仕業だったみたいですね。
バンク・オブ・アメリカ「キープ・ザ・チェンジ」 - kokokubeta;
なるほど、これぞまさに「デザインコンサルタントの仕事術」なのだな、と。
もっとも「仕事術」と言いつつも、冒頭にあったように、本書ではアイデア発想法からプレゼンまでカバーしています。
こういった思考法にはあまり興味がない方でも、第5章で解説されている「破壊的プレゼン」には、食指が動くかもしれません。
「9分間で9枚のスライドを用いる」このプレゼンスタイルは、今まで普通にプレゼンをなさっていた方にも、何らかのヒントとなるはず。
「デザイン思考」を取り入れたい方にオススメの1冊!
デザインコンサルタントの仕事術
◆第1部 仮説、チャンス、アイデア
第1章 破壊的仮説を立てる――正解するために、まずは間違える
第2章 破壊的チャンスを見つける――いちばん目につかない場所を探る
第3章 破壊的アイデアを生み出す――想像もつかないアイデアには競争相手もつかない
◆第2部 ソリューションとプレゼン
第4章 破壊的ソリューションを仕上げる――「新しさのための新しさ」は無駄
第5章 破壊的プレゼンで売り込む――聴衆の心をつかむストーリーの作り方
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【編集後記】
◆昨日ご紹介した永江さんの本で知った、Kindleの日替わりセール。本日のセール商品は、こちらです。
改訂新版 コンピュータの名著・古典 100冊
元値1700円超の作品がワンコイン以下とは……。
ご声援ありがとうございました!
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