2014年10月21日
【科学的?】『脳がシビれる心理学』妹尾武治
脳がシビれる心理学
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも注目されていた1冊。書影の帯部分に大量に小見出しが印刷されているのですが、それらを見ただけでも、興味を引かれた方が多いと思います。
アマゾンの内容紹介から。
お酒を飲むと異性が魅力的に見える?中二病がイケテナイにはわけがある?あくびは犬にも伝染する?コンピュータには美人がわかる?成績を簡単にアップする方法がある?ナルシストは会社に必要か?仕事を伸ばしたいならもっと遊べ?名刺は厚くて重いほうがいい?世の中にはまだまだいっぱいの謎ばかり。ココロの新常識!プロレスファンでもある新進気鋭の心理学者が世界最新の科学論文をもとに脳科学、心理学、行動科学の世にも奇妙な不思議を解き明かす。
脳ネタ、心理ネタファンなら、避けては通れないこと必至です!
Jermaine Hodge 0341 / familymwr
【ポイント】
■1.赤いユニフォームで勝率が上がるオリンピックのフリースタイルレスリング、グレコローマンレスリング、テコンドー、ボクシングでは、選手の着用ユニフォームの色が赤か青かに割り振られる。完全にランダムに割り振られるのであるから、赤と青の選手の強さの期待値は等しくなり、その勝率はちょうど5割になるはずである。だが実際に2004年のオリンピックのデータを解析すると、赤を着ている選手が5割5分、青を着ている選手が4割5分の勝率となり、1割も勝率が違ったのである。驚くべきことに、これは前記の4種目すべてでほぼ同じ値であった! さらに、サッカーのヨーロッパ選手権で、ユニフォームの色別に勝率を算出すると、やはり赤いユニフォームのチームの勝率が高かったのだ。
■2.お酒を飲むと異性が魅力的に見える
実験1では提示される顔の魅力度を7点満点で評価し、実験2では提示される顔の「特異さ」を7点満点で評価し、実験3では顔の代わりに提示されたさまざまな腕時計の魅力度を評価した。その結果、実験1では、アルコールを摂取している時に、パソコンの顔画像の性別を問わず、魅力度の評定値全般が大きく上がった。つまり、酔っていると男でも女でもより魅力的に見えてしまうのである。さらにおもしろいことに、男性の評定者では女性の顔の魅力度が激しく上がり、女性の評定者では男性の顔の魅力度の評定値が大きく上がった。すなわち酔うと、魅力度の評定が全般的に上がるのだが、特に異性の魅力度が「グン!」と上がるという結果になったのである。
■3.「チキショー!」というと痛みが飛んでいく
摂氏5度の水に手をつけ続けることで、適度な痛みを与えた。実験群にこの時、罵りの言葉を一定のリズムと一定の声の大きさで繰り返し発声させた。冷水に手を入れながら、一定のリズムで「くそー!」とか「チキショー!」とか言ってもらったのである。(中略)
さて、結果を説明しよう。水の中に手を入れていられる時間、すなわち痛みに耐えられた時間の長さは、罵り条件で椅子を形容する条件よりも有意に長くなった。つまり、罵ることで痛みにより長く耐えられるようになったのである。さらに、実験後に口答で評価した主観的な痛みの大きさ(痛さに点数をつけてもらう)も、罵り条件で小さい値になった。「バカ野郎!」とか「くそ!」とか言ったほうが、実際に感じる痛みが減ったのだ!
■4.名刺は厚くて重いほうがいい?
アカーマンが2010年に『サイエンス』誌に載せた実験では、被験者にある人物に対してインタビューしてもらい、その後その人物の重要性について評価してもらった。実はこの時、インタビュアーである被験者には、軽いクリップボードか重いクリップボードかのいずれか一方が渡されていた。クリップボードの重さごとに、人物評定の結果を精緻に見てみたところ、なんとインタビューされた人物の重要性は、重いクリップボードを渡された時に、軽いクリップボードを渡された時よりも高く見積もられたのである! これは、クリップボードの重さが人物の重さ、つまり重要性と脳内で無意識に関連づけられてしまうために起こった現象だと説明づけられている。
■5.手を洗うと認知的な判断の影響を防ぐことができる
著者らはさらに同じ実験を、ジャムの味の評定でも行った。これも、ジャムの味に順位をつけて家に持ち帰れるジャムを選ばせた後に、石けんの評価課題を行わせ、手を洗う群と洗わない群を設けて比較した。するとやはり手を洗う効果が再度確認された。手を洗わない群では、家に持ち帰ることを選択したジャムの順位が上がったにもかかわらず、手を洗った群ではジヤムの評定順位が変動しなかったのである。
手を洗うと、手を洗う前の認知的な判断の影響をシャットアウトすることができると筆者らは主張している。手を洗うという比喩は比喩ではなく、実践の場で活用できるのである。
■6.同じ酒でも値札が高ければ、美味しく感じる
中身がまったく同じワインに、かたや10ドル(1000円程度)、かたや90ドル(9000円程度)の値札をつけて実験参加者に飲ませる。そのときの特定の脳部位(medial orbitofrontal cortexという脳部位)の活動量を計測した。その結果、90ドルで飲ませた時、つまり高いお酒だと思って飲んでいる時のほうが、その脳部位の活動量が数倍と驚くほど大きくなった。と同時に、脳の活動時間も長くなるのである。この脳部位(medial orbitofrontal cortex)は、 一般に「報酬」とかかわっていると考えられている。つまり、「うれしい!」や「楽しい!」が強いほど活動が強く、長くなるのである。
【感想】
◆本書は、著者の妹尾先生が学者であるが故か、とにかく「科学的」な「実験の結果」にこだわっています。各章の最後には、引用文献がキチンと明記されていることはもちろんのこと、登場する事例も、実験や研究の結果ばかり。
ですから、やっていることはちょっと変わっていますが、これらは実はキチンとした学術誌に掲載されているものがほとんどです。
たとえば上記ポイントの1番目は「あの」『ネイチャー』ですし、4番目と5番目は『サイエンス』。
さらに2番目は『アディクション』で、3番目は『ニューロリポート』という、いずれも学術誌が認めた、真面目な実験なワケです。
ちなみに、『ネイチャー』に掲載された論文で「キスをするときに、顔を右に傾けるか、左に傾けるか」だけを調べたものが本書で紹介されてるのですが、これを読んで、正直「論文が『ネイチャー』に載るか載らないかなんてどうでもいいような気がしてきた(違)」のはヒミツですがw
◆ただ、同じくらい「変わっている」のが「パートナー探し行動と天気」というタイトルで、『ソーシャル・インフルエンス』誌という学術誌に載った論文です。
これは簡単に言うと、「ナンパの成功率と天気の関係」について科学的に明らかにしたもの。
当ブログをお読みのナンパ師さん(もっともこの記事は読まないかもしれませんがw)も、晴れの日と曇りの日とでは、ナンパの成功率が違ってくることは、経験則として感じてらっしゃるかもしれません。
ただそれを、論文レベルにまで昇華させるには、このくらいのことをやらねばならない、ということが本書のこの部分を読むと良く分かります。
◆たとえば、実験はフランスで行われ、調査の対象者は500人の女性で、年齢は18歳から25歳。
声をかける5人の男性は、全員20歳でしかもイケメン(10点満点で7.68〜8.09という評価とのこと)。
彼らに声をかけさせ、10秒間待ち、そこまでにポジティブな返事がなければ、ナンパは失敗と判定される……と、かなり「再現性」にこだわっています。
これに関して妹尾さん曰く、このように「誰でもが同じ実験を追試して行えるように方法を細かく文章化しておく」ことが、「心理学が科学として成立するための必須条件なのである」とのこと。
実際、声かけの台詞も一字一句決められており、声かけのルーティーンをある程度知っている人なら、なるほど、と思えるものです(ネタバレ自重)。
果たして、晴れの日と曇りの日とでは、それぞれの成功率はどうだったのか……については、本書にてご確認をw
◆他にも興味深いネタがたくさんありましたので、小見出しのみピックアップしておきます。
・合コンは赤い服で勝負しろ?
・彼女を選ぶなら顔かカラダか?
・地図が読めない女、なんて誰が決めた?
・入れ墨を入れた男はモテるのか?
・成績を簡単にアップする方法がある?
・悪役を演じると本当に悪人になってしまう?
実生活に役立つかどうかはさておき、ネタとしては、本当に面白いものばかりでしたので、気になるものだけでも、チェックして頂きたく……。
◆なお、本書は「面白いネタ」ばかりを収録しており、実生活に役立つかどうかを別にすれば(?)、十二分に楽しめるものです。
ただし、著者である妹尾先生の
それとも、こういう文章の感じが好きな方には、ドッカンドッカン受けてるんでしょうかね?(自信ナシ)
画像を拝見する限り、私なんかより全然お若いので、今の若い世代には全然気にならないのかも。
もっとも本書の場合、収録している実験や研究自体が「ユニーク」なんですから、普通に書いても十分面白いと思いますけどネw
科学的にアプローチした心理ネタが満載!
脳がシビれる心理学
1章 男と女と心理学
2章 これぞ心理学の最新メソッドだ!
3章 動物と子ども、そして心理学
4章 脳科学と心理学のはざま
5章 心理学からの熱いメッセージ
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「その科学が成功を決める」がもっと評価されるべき5つの理由(2010年03月23日)
【編集後記】
◆本書でも言及されているのが、サブリミナル効果の捏造のお話。ただ、この件に関しては、当ブログでご紹介済みのこの本でも詳しく触れられてました。
錯覚の科学 (文春文庫)
レビューは上記関連記事をご覧ください。
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脳の中にそれがある【哲学はなぜ間違うのか?】at 2014年10月23日 22:56
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