2014年10月14日
【重要思考】『戦略思考ワークブック【ビジネス篇】』三谷宏治

戦略思考ワークブック【ビジネス篇】 (ちくま新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、2014年のビジネス書大賞を受賞した『経営戦略全史』でお馴染みの、三谷宏治さんの最新作。今回はそのテーマとは一変して、私たちでも使える「思考術」を指南してくれています。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
ビジネスの現場で論理的に考え、問題を解決し、新しい価値観を提示するには、どうすればいいか。玄人向けのロジカル・シンキングでない、本当に使える戦略思考とはどのようなものか。本書は『重要思考』をキーワードに「営業・販売」「サービス」「マーケティング」「事業戦略・ビジネスモデル」「事務作業」の5つの切り口から、実践的な戦略思考を鍛えていく。ビジネスの明日から実際に使える、活きた戦略思考が身につく必読書。
その名も「重要思考」!
果たしてその詳細は!?

Strategic thinking / quinn.anya
【ポイント】
■1.重みと差で考える「重要思考」「重要思考」はいわゆる論理思考の一種です。感情的ではなく冷静に、主観的ではなく客観的に、バラバラでなく整理して、ちゃんと考え、伝え、聴き、話し合うやり方です。そうすれば、議論がすれ違うことはありません。
でも一般によく学ばれている米製「ロジカル・シンキング」と違って、とてもとてもジンプルです。求めているのは、(1)「重み」と「差」で考えるの2つだけです。
(2)目的やDMU(意思決定体/Decision Making Unit)明確にする
■2.DMUとは何か?
DMUはいわば「財布のひもを握っているヒト」なので、必ずしもその商品・サービスの利用者とは限りません。
たとえば自動車。いわゆる乗用車に限れば、いまやそのDMUの7割が女性だといいます。・販売比率が高まっている軽乗用車では、女性ユーザー(兼DMU)中心ユーザーで見れぱ7割近くが男性ですが、実際のDMUの7割は女性なのですから、事業戦略もマーケティングも営業もサービスも、そこにフォーカスして当然です。
・登録車では男性ユーザー中心だが、その45%を占めるファミリーカーではDMUが女性(母親)
■3.重要思考での議論を進める道具とコツ
ビジネススクールの教室には、(一部の大学系は違いますが)必ず可動式のホワイトボードが大量にあります。講義中、受講者によるチーム議論を多用することと、そのときの議論集中のための必須アイテムだからです。
議論をし始めると、みんな言いたいことがバラバラで、かつ、手元の紙ばかり見ていたりメモしたりしているので、議論自体もすぐ迷走して雑談会になってしまいます。
そこで書記が立って「議論テーマ」「案」「結論」をホワイトボードに書いていくだけで、みなの意識がそこに集中します。
もしホワイトボードがなければ、大きめの紙にマーカーでも構いません。テーブルの真ん中において、「DMU」「重み」「差」を書いていきましょう。これだけで重要思考での議論になっていきます。
■4.東京ディズニーリゾート(TDR)の経営上何より大切なのは「リピートの獲得・維持」
TDRでは毎日、パーク来園客10万人前後の中から、数百名分だけアンケートを採っています。そこから見えてくることがいっぱいあります。・ゲストが1日で回れるのは全体の3分の1程度。しかしそれは不満だが不快ではなく、再来園への原動力にもなるそこまでわかれば、やることが見えてきます。あらゆる顧客層に対して、1日に回れる施設のうち、2つ以上の「大変満足」=感動をつくり出すこと、です。TDRはそれを目指して、改修・改良・拡大を続けています。
・リピートにつながるのは利用施設のうち「大変満足」が2つ以上ある場合。ひとつだけでは再来園につながらない
■5.グリコ「クラッツ」のマーケティング上の成功とは?
DMUはただの30代男女ではなく、「イエ飲みのビール好き30代男女」となるでしょう。
もちろん嗜好品のお菓子(酒のつまみ)なのですから、「味」がいいことは必須です。そこは、これまでにない「ビールに合う濃厚な味付け」を、スナック菓子でありながら(低コストで)実現しました。価格はスナック菓子としては高めですが、珍味より十分安いということで武器になりました。
ただそれらだけでなく、他のマーケティング要素(販路や販促など)もすべて、このDMUに対して整合性のある展開となりました。
DMUの彼・彼女らにとってダイジだったのは、「味」と「価格」だけでなく、「ファッション性や手軽さ」でもあったのです。
江崎グリコ クラッツ ペッパーベーコン 42g×10個
■6.旭山動物園の成功と失敗
旭山動物園単独では、さすがに何百万人もの道外観光客は呼べません。しかし、もともとの大観光地である札幌などからのアクセスの良さがあるために、旭山動物園は大規模な集客に大成功したのです。
ただし、その観点から見た場合、旭山動物園の最大の事業戦略上の失敗は、その「価格」にあります。
実は旭山動物園の経営は楽ではありません。客単価が低すぎるからです。
しかし札幌などから来る道外観光客にとって、「低価格」はさしてダイジなことではありません。すでに居住地から札幌への往復などに数万円払っている人々にとって、入園料が820円であろうが1820円であろうが大差はないのです。なのでいま考慮すべきは、集客増と同時に、道外観光客が好むような特別園内ツアー(ただし1000円割増し)などでしょう。
【感想】
◆冒頭の内容紹介にはありませんでしたが、本書は「ワークブック」と題されているように、序章に続く第1章からは、具体的な事例の問題集となっています。たとえば同じくアマゾンの『内容(「BOOK」データベースより)』の欄にはその問題がいくつか。
Suica自販機はなぜ1.5倍も売れるのか?ホンダ「N‐ONE」の大成功の秘密とは?1着25万円のスーツをどう売るか?ちょっと興味が引かれますよね?
上記ポイントも、4番目からはその事例からの引用なんですけど、一応、この3つの問題は避けてみました。
◆とはいえ、本書の事例の初っ端が、この「Suica自販機はなぜ1.5倍も売れるのか?」で、これが問題を解く上で分かりやすいので、途中まで解説してみます。
ちなみに、「Suica自販機」とは、駅のホーム等にある飲料自販機のことですね。
まず、「DMU」は「Suicaを使う人」、「重み」はとりあえず不明、「差」は本書では「●ランド●ックス」「エ●ナカ」等、5つ挙がっているのですが、できれば皆さんにお考え頂きたく(ネタバレ自重)。
ただ、この「差」として「●●がわかる」というのがあり(これはTカード他、各種カードも同じでしょうが)、それにより「売上の上位顧客集中度」がわかります。
実は、このSuica自販機は「上位2割の顧客で売上の8割を占める」という文字通り「パレートの法則」状態なのでした。
そしてこの「2割の顧客」が分かれば、おのずと「正しいDMU」も「重み」も「差」も分かるという……。
◆これ、多分本書を読めば「はぁはぁなるほど」⇒「やっぱりね」⇒「実はそうだと思った」となりそうな感じです。
そこで、本書を読む上で気をつけて欲しいこととして、三谷さんが言われているのが、「考えながら、書きながら読み進むこと」。
確かに「答え」を読んでしまうと、人はそれを「当たり前」と思ってしまいます(後知恵バイアス)。
それなのに、たった1回の学習の機会である「問題を解くとき」に答えを先に読んでしまうと、その機会は永遠に訪れません。
というワケで、本書を読む際には、上記ポイントのこともキレイに忘れて頂きたく……。←無責任
◆本書の「おわりに」によると、本書のテーマである「重要思考」は、米国製のロジカル・シンキングを、なぜ私たちがうまく使いこなせないのか、という疑問から生まれたのだそうです。
とにかく「重要思考」で必要なのは、「DMU」と「重み」と「差」の3つだけ。
これなら、誰でもどこでも、どんなテーマでも使えるはず……ということで、元々本書は、下記目次のような「営業」「サービス」「マーケティング」といった「ビジネス的側面」のみならず、「キャリア論」「人事的側面」「家庭生活面」までカバーしていたのだとか。
ただし、範囲が広い分、掘り下げ方が甘いため、「わかる人にしかわからない」と三谷さんは判断。
そこで「2部作」とし、ひとつひとつのテーマや演習をもっと丁寧に進め、5領域に絞って書かれたのが、「ビジネス編」である本書であり、確かに非常に分かりやすかったです。
これは、続きである次回作も楽しみですね。
「ロジカル・シンキング」が身につかなかった方に!

戦略思考ワークブック【ビジネス篇】 (ちくま新書)
序章 「重要思考」は一番シンプルな論理思考です
第1章 営業・販売 Sales
第2章 サービス Service
第3章 マーケティング Marketing
第4章 事業戦略・ビジネスモデル Business Strategy
第5章 事務作業 Office Work
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【編集後記】
◆三谷さんといえば、先月出たこの本も売れてらっしゃるようです。
ビジネスモデル全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ)
こちらも、ビジネスモデル好きの方なら要チェックかと。

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