2014年09月16日
【議論】『反論が苦手な人の議論トレーニング』吉岡友治
反論が苦手な人の議論トレーニング (ちくま新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、以前当ブログで『いい文章には型がある』が大人気だった、吉岡友治さんの最新作。文章術から一転して、本書では「議論」をテーマに、相変わらずのロジカルな冴えを見せてらっしゃいます。
アマゾンの内容紹介から。
「空気を読む」というマイナスに語られがちな行為は、実は議論の流れを知るための技でもあった! ツッコミから反論、仲裁まで、話すための極意を伝授する。
リアルでもネット上でも、ツッコミや反論のスキルがアップすることウケアイの1冊です!
two guys discussing / HikingArtist.com
【ポイント】
■1.話題(トピック)を合意するたとえば、一方が原発の「危険性」について話したいのに、もう一方が「経済性」を注目したいのでは、話はかみ合わない。話し合われるぺきなのは「危険性」についてなのか、それとも「経済性」についてなのか、まず、そこから合意しなければ、あちこちに話は拡散する。何を話題にするかで、その後の議論の進行が変わるので、話題設定はけっこう大変だ。場合によっては「何を話題とするか?」だけで議論が紛糾し、実質的な検討には入れない場合さえ出てくる。
■2.無意味な主張をしない
たとえば「もっと議論をすべきである」などという主張は意味を持たない。そもそも問題となって我々の元に出現してきたからには、どこかで議論はすでに始まっている。(中略)
とくに「もっと」という表現は、たんに今までの議論が不十分であったことを示すだけだ。としたら「どこが不十分だったのか?」を示さなければならない。それもしないで、「もっと議論を!」と言うのなら、単なる先のばしにすぎない。
同様に「本当に、それが必要なのか、よく考える必要があります」なども、今「よく考える」ために議論をしているのだから、話を停滞させるだけだ。一見誠実そうだが、実は、議論を妨害する発言なのだ。
■3.一つの立場を保持し、最後まで主張し続ける
バスの一番前の席にお兄さんが座ると、近くに立ってた爺さんが「席譲れや!若いのは立ってろバカが!」と叫び出したがお兄さんも「この席はステップが高いため子供やお年寄りはご遠慮くださいって書いてあんだろ!」と応戦。「俺は年寄りじゃねえ!」と叫ぶ爺さんにお兄さん「じゃ立ってろおっさん!」(@timtmyco)自分が「年寄り」なら、若者に向かって「(自分に)席を譲れ!」と要求できるが、「年寄り」でなければ、自分に席を譲られなくても文句は言えない。とっさに「オレは年寄りじゃねぇ」と言った言葉尻を逆手にとって「じゃ(若いのなら)立ってろ!」と切り返す。言い出した「爺さん」は一言もないだろう。「お兄さん」の手並みはなかなか見事だ。
■4.聞き手のレベルに応じて、根拠を設定する
そういえば、2014年、日本を騒がした「STAP細胞データ捏造事件」でも、科学者が科学的な手続きやデータの不備を問題にしたのに、一般人の中には「感じが良かったから」「可愛かったから」責任を追求すぺきではない、という反応も少なくなかったという。科学において「カワイイから」という根拠は通じないのだが、一般の人々の理解レべルは異なるので、どういう根拠がアピールするか、相手を見ながら工夫していくほかない。
逆に言えば、聞いている相手のレベルをどう想定するかによって、根拠の内容として何を選ぶべきか、は決まってくる。低レべルの相手には、あえて低レべルの内容を選ばないと共感を得られないし、高レベルの人には複雑で難しい内容でも理解されるかもしれない。
■5.データや数字の根本的な解釈を間違えない
江戸時代の遊女の境遇は不幸の極みであった。実際、吉原の遊女の死亡平均年齢は23歳と極端に若かったと言われている。しかし、言葉の定義からして、この数字が根拠として使えないことは明らかである。なぜなら、吉原の遊女は18歳から27歳までの10年間が「年季」奉公の時期だったからである。(中略)
この数字は「小学生で死んだ者の平均年齢は10歳である」という言い方とよく似ている。もちろん、小学校で死んだ者の平均年齢が10歳だからといって、小学生であった人間の平均死亡年齢が10歳であることを意味しない。データの元となる母集団の取り方が偏っているので、その結果が偏って若い年齢で出てくるのも致し方ないのである。
■6.仮説の妥当性を検討してから提案する
よく、ある意見・主張に対して批判をすると「批判ばかりせず、対案を出せ」とすごむ向きがあるが、この言い方は間違っている。対案はたしかに大切だが、むやみやたらに出せばいいのではない。現状の正確な分析に基づかなければ、的外れな結果に終わる。「横浜地下鉄」の「全席優先席」の失敗がいい例だ。「人間の行動は善意に基づく」という仮説を採用して無残にも失敗し「最優先席」を設けるという笑えないジョークに終わった。
何をなすべきかは、現実を説明する仮説をどう構成するかと表裏一体だ。だから「そのメカニズムでは、こういう事実を説明できないのではありませんか?」「こういう事態も予想されると思うのですが、どうですか?」「その結果を説明するなら、こういう風に考えた方が良いのではありませんか?」などと、徹底的に追求して、仮説の妥当性を吟味すべきなのである。でないと、予想した効果が上げられないどころか、予想外の損害まで引き起こす結果になりかねないのだ。
【感想】
◆本書のテーマは「議論」ではあるのですが、俗にいう「ディベート」とはちょっと違います。「正しいか正しくないか」ではなくて、相手に「なるほど!」と思わせられるかどうか(上記ポイントの4番目が典型的ですが)。
逆に言えば、相手に「巻き込まれない」ためのスキルも身に付ける必要があるワケです。
今回、上記で引用したポイントは、そのほとんどが第1章から。
サブタイトルに「構造から隙を見抜く」とあるように、相手の主張のどこを突くか、について検討しています。
◆ツッコミどころが分かったとして、では具体的にどうするかについては、第2章にて。
ここでは新聞の記事や大学の入試試験問題を題材として、反論の仕方等を懇切丁寧に指南してくれています。
たとえば、「在来魚を食い散らかす琵琶湖のブラックバスは駆除の対象となっている反面、京都のモウソウチクは、中国起源であり、かつ竹林には他の植物がさほど生えないにもかかわらず駆除されないのはおかしいから、ブラックバス同様に伐採すべし」という市民団体の意見に対してどう反論するか?
ここで市民団体が用いている議論の手法は、「ある主張を前提にして、そこからとても受け入れがたい結論を導く」、背理法というもの。
背理法 - Wikipedia
本書では、手順を追って、この主張に反論しており、なかなか読みごたえがありました。
……なるほど、そういう理論展開で反論すればいいのか(小声)。
◆ちなみに、この第2章以降、会話形式(「素直だけど相対主義に陥りがちなP君」と、「それを克服しようと粘り強く思考するQ君」の2人)で実際の議論をシミュレートするパターンが結構多く、そこからはボリューム的にも引用できませんでした。
特に第3章に至っては、「長文問題」と「シミュレーション」がほとんどで、ほぼ丸ごと割愛しております(すいません)。
問題によっては、7ページにもまたがっており、かつ、内容的にも難解なものもチラホラ。
この辺りは、もう1度時間をかけて、じっくり読み直しておかないと、将来的に身につかないのではないか、と、自らに警告をw
◆なお、その割愛した第3章の長文問題の中では、今、旬の「慰安婦問題」も登場しています。
時期的に、本書が書かれたのは朝日新聞の訂正が入る前ですが、それとは別の次元で「議論」というものに関して、深く考えさせられました。
この辺は、ネットで散見される「どちらかに過度に依った」意見とは異質のモノ。
内容的には非常に興味深いのですが、当ブログでは、炎上しかねないテーマについては触れないようにしておりますので、詳細は本書にてご確認下さい。
議論に「ツッコミ」を入れられるようになる1冊!
反論が苦手な人の議論トレーニング (ちくま新書)
序章 「空気」を形にする
第1章 空気は議論のためにある―構造から隙を見抜く
第2章 その議論、間違ってます―ツッコミから反論へ
第3章 揉めてからの「議論力」―二項対立を乗り越える
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【編集後記】
◆昨日の「未読本・気になる本」の記事で、ご紹介し損ねたのがこちら。美崎栄一郎のヒットの謎解き 元花王の開発者が解き明かす、ヒットの飛ばし方。
書名に名前が入るだなんて、内藤忍さんみたいなw
ご声援ありがとうございました!
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