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2014年08月19日

『錯覚の科学』が想像以上に凄い件について


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錯覚の科学 (文春文庫)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、3年半前に出た単行本が、未だ値崩れしていない作品の文庫版。

アマゾンレビューを見ても軒並み高評価ですし、当時なぜ本書を手にしなかったのか、悔やまれるほどの濃厚な1冊でした。

アマゾンの内容紹介から。
「えひめ丸」を沈没させた潜水艦の艦長は、なぜ“見た”はずの船を見落したのか。ヒラリーはなぜありもしない戦場体験を語ったのか。―日常の錯覚が引き起す、記憶のウソや認知の歪みをハーバードの俊才が科学実験で徹底検証。サブリミナル効果、モーツァルト効果の陥穽まで暴いた脳科学の通説を覆す衝撃の書!

思わず付箋も貼りまくり!



なお、タイトルは「ホッテントリメーカー」作なんですけど、気持ち的にはその通りであります!





some guy in traffic on his cell phone. / Jim Legans, Jr


【ポイント】

■1.運転中の携帯電話が危険なワケ
携帯電話が注意力にあたえる影響を直接確かめるために、ブライアン・ショールとイェール大学の学生たちは、先にご紹介したコンピュータ版の「赤いゴリラ」を使い、被験者を2グループに分け、片方にはパスを数える作業をしながら同時に携帯電話で話してもらった。(中略)
興味深いことに、携帯で話していても、被験者のパスを数える能力は損なわれなかった。予想外のものに気づく割合が減っただけだった。この事実から、携帯で話していても運転に影響はないとドライバーが誤解する理由も、わかってくる。携帯を使っていても基本的な作業(決まった道路を走ること)は、相変わらずできているため、運転に支障はないと思い込むのだ。問題は、ドライバーが想定外の、危険をはらんだできごとを見落としがちになること。そしてそのような事態はめったに起きないため、日常体験からは学びにくい。


■2.捏造された「ヒラリーの戦場体験」
民主党候補指名争いでバラク・オバマに対抗したヒラリー・クリントンは、外交政策では自分のほうが経験豊富であることをくり返し強調した。そしてジョージ・ワシントン大学でおこなった演説では、1996年3月にボスニアのトゥズラを訪れた際の恐怖体験を語った。「私は、着陸したときに狙撃兵の銃火を浴びたのを覚えています。空港では歓迎式典がおこなわれる予定でしたが、私たちはひたすら頭を低くし、基地へ向かう車まで走りました」だが、クリントンにはあいにくなことに、『ワシントンポスト』がその話を調べ、1枚の写真を掲載した。そこに写っていたのは、避難のために走る姿ではなく……歓迎式典で、ファーストレディが歓迎のための詩を朗読したボスニアの子どもにキスをする姿だった。


■3.弱いチェスプレーヤーほど自己評価が高い
 私たちがおこなった研究で、自分はもっと高く評価されるべきだと考えていたチェスのプレイヤーにも、同じパターンが見られた。自分に対する評価が低すぎるというプレイヤーの圧側的多数は、対局成績が下位半分の人たちだった。これらの弱いプレイヤーは、自分に対するレーティングが、平均150点低すぎると考えていた。かたや上並半分のプレイヤーは、自分に対するレーティングが、50点だけ低すぎると考えていた。つまり強いプレイヤーはほどほどに強い自信をもっているが、弱いプレイヤーは極端に自信過剰だったのだ。


■4.歴史的なバブルが起きるワケ
歴史的なバブルが起きた過程を見ると、つねにまず新しい"知識"があまねく広くばらまかれ、やがては金融問題に関してもっている情報は1つだけ、という人びとのもとにまで到達する。その情報とは、チューリップの球根は絶対有利な投資である、インターネットは企業に根本的変化をもたらす、ダウ指数は36000までのびる、不動産は絶対に価値が下がらない、などなどである。ケーブルニュースからウェブサイト、ビジネス誌にいたるまで増殖し続ける金融情報が、自分は市場の動向を知っているという錯覚を人びとに植えつける。だが実際に氾濫しているのは、その瞬間に市場がどう動いていて、過去にはどうだったか、今後どう動くと人が"思って"いるかという情報ばかりで、将来どうなるかを推し量るのに必要な情報は1つもない。金融用語が身近に飛び交い、市場が危速に変化しているせいで、深い知識が欠けている事実は見えにくくなる。


■5.個人的な体験は、統計より説得力がある
『コンシューマー・リポート』を読めば、ホンダやトヨタの安全性がたしかめられることは、誰でも知っている。同誌の発行元である消費者同盟が何千人もの車のオーナーに調査をおこない、意見を集めて車の安全性を評価しているのだ。だがあなたは、1人の友人から自分のトヨタは故障が多くてかなわない、二度と買いたくないと聞かされたら、何千人もの未知の人びとの意見以上に影響されるのではなかろうか。たった1人の車オーナーの体験談――それも苦労話――のほうが、心に響きやすい。何千もの体験を集めた数字には、感情移入がしにくい。だが強烈で説得力があり、記憶に残る物語には、感情移入できる要素がかならずある。


■6.サブリミナル効果はデマだった
ウイルソン・ブライアン・キイは、1973年の著書の中では、ジェームズ・ヴィカリーという広告業者がボップコーン/コカコーラの実験の裏にいたことについて、とくにふれていない。その理由は、おそらくその10年以上前に、ヴィカリーが実験はいんちきだったことをおおやけに認めたためだろう。『アドバタイジング・エイジ』誌とのインタビューで彼は、自分の仕事がうまくいっていなかったので、顧客を増やしたくて実験をでっちあげたと語ったのだ。何人かの研究者がこの実験結果の反復実証を試みたが、1人も成功しなかった。


【感想】

◆ちょっとボリュームが多くなってしまいましたが、冒頭の画像の通り「付箋貼りまくり」なのでお許しを。

さて、本書の著者2人は、当ブログでも以前ご紹介したことのある、あの実験動画の作者とのこと。

ご存知のない方のために、一応その動画を貼っておきます。



おー! 確かに動画の最後の方で、著者2人の名前がクレジットされてますねw

さて、この動画の課題は「白シャツの選手がパスする回数を数える」こと。




……なんですが、まさに本書のテーマである「錯覚」が起きていることが分かります(詳細は動画をご覧アレ)。

この「錯覚」現象は、この動画を見た人の約半分に起きるのだとか。


◆そして、それはそのまま上記ポイントの1番目も同じこと。

携帯電話が危険なのは、「画面に気を取られる」(それもかなり危険ですが)以上に、「通話によって運転から注意が削がれる」からであり、実は手動式の携帯もハンズフリーの携帯も、注意力への影響という点ではほとんど差がないのだそう。

ただ、運転している側にしてみれば、上記ポイントにあるように、「運転自体は難なくできる」ため、その問題性に気づきにくいワケです。

本書によると、「携帯電話が運転におよぼす影響は、飲酒運転にも匹敵する」そうなんですけどね。

これが携帯ではなくスマホだったら、さらに危険が増しそうな……。


◆下記目次にもあるように、本書はこうしたさまざまな「錯覚」について検証していきます。

たとえば、上記ポイントの2番目のヒラリー・クリントンのお話は、実験2の「記憶の錯覚」の一例。

結果的にこの失態が影響して、大統領候補の指名争いで破れてしまったくらいですから、洒落になりません。

頭脳明晰(弁護士ですし)な彼女が、どうしてそんな記憶違いを起こしてしまったかについては、本書をお読み頂きたく。

「ついうっかり勘違いした」レベルではなく、本人もまちがいなく「そう思っていた」ようで、にわかには信じがたいのですが。


◆同じく「信じがたい錯覚」が、実験3の「自信の錯覚」で登場しているのですが、こちらは割愛しております。

簡単に概略だけ記しておくと、レ●プの被害者の女子大生が、犯人の顔や外見を詳細に目に焼き付け、事件直後にそれを警察に伝え、容疑者を逮捕。

被害者も自信満々でその男を犯人と断定し、裁判でも「最高に優秀な証人」とまで言われたのに、実は犯人はまったく別の男だった、というもの。

なまじ被害者の「自信」が揺るぎないものだったため、容疑者は生涯刑務所から出られない可能性が高かった(なぜ真犯人が判明したか等についても本書にて)という「悲劇」です。

ここでの教訓は、人は間違えることもあるので、その「自信」を鵜呑みにしてはいけない、ということ。

ちなみに、目撃証言の専門家ゲイリー・ウェルズとそのチームによると、「人が強い自信あふれる不正確な証人と出会う確率は、『背の高い女性と出会う確率と同程度』」なのだそうですが。


◆なお、本書は巻末に、お馴染み成毛眞さんの解説を収録。

HONZの方に全文が掲載されているので、こちらもぜひお読みください。

『錯覚の科学』 解説 - HONZ

こちらで成毛さんがツッコみまくっている脳トレや、自己啓発、サブリミナル効果等々については、実験6にてご確認を。

さらに本書は、参考文献が70ページ弱もあり、実はこちらにも付箋をガンガン貼っております(あくまで参考文献なので、上記で引用はしていませんが)。

いつもは、参考文献なんぞ適当に流してるのですが、本書は抜かりありませんでしたw

冒頭でも申しあげたように、ガチで単行本が出た時点で読まなかったことを後悔しております。


これはもうオススメせざるを得ません!

4167901765
錯覚の科学 (文春文庫)
実験1 えひめ丸はなぜ沈没したのか?―注意の錯覚
実験2 捏造された「ヒラリーの戦場体験」―記憶の錯覚
実験3 冤罪証言はこうして作られた―自信の錯覚
実験4 リーマンショックを招いた投資家の誤算―知識の錯覚
実験5 俗説、デマゴーグ、そして陰謀論―原因の錯覚
実験6 自己啓発、サブリミナル効果のウソ―可能性の錯覚


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【編集後記】

◆同じ版元さんから、話題となっていたこちらの本も文庫化されていました!

4167901552
選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)

それにしても、何で単行本と紐づけられてないんでしょね?


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