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2014年07月08日

【痛快!?】『お金と感情と意思決定の白熱教室: 楽しい行動経済学』ダン・アリエリー


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お金と感情と意思決定の白熱教室: 楽しい行動経済学


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、行動経済学ファンにはお馴染み、ダン・アリエリー教授の最新作。

以前も触れたんですが、NHKの『白熱教室』シリーズに登場してたなんて、知りませんでしたよ。

アマゾンの内容紹介から。
人間の奇妙な行動や心理パターンを面白実験やケーススタディを通して解き明かし、行動経済学ブームに火をつけたダン・アリエリー教授。サンフランシスコで行なわれた教授の集中講義には、最新の学問を学んでビジネスのヒントにしようと、シリコンバレーの起業家をはじめとするアメリカ西海岸の野心家たちが集まった。ビジネスのみならず、日常生活にも役立つさまざまなアイディアに溢れた講義全6回を完然収録した、NHK Eテレの人気番組「お金と感情と意思決定の白熱教室―楽しい行動経済学の世界」の書籍版。

興味ぶかいネタの数々に、またもや付箋を貼りまくりました!







Dan Ariely - PopTech 2010 - Camden, Maine / Kris Krug


【ポイント】

■1.臓器提供の意思が国により大きな差があるワケは、初めの設定にあった
意思表示カードはとてもシンプルだ。長い質問があるわけでも、記入事項が多いわけでもない。決めるべきことはたったひとつ、臓器提供をするかどうかが1ぺージ目の真ん中に大きく書かれている。あとは住所欄などがあるだけだ。でも、これは極めて難しくて複雑な選択だと思わないか? 突然、自分が死んだら遺体をどうするかと聞かれたのだ。(中略)
 人はこれほどの難題に直面するとどうするだろうか? なんと、何もしないんだ。書式を作った人に決めてもらおう、というわけだ。つまり、初めの設定、「デフォルト(defaults)」(=初期値/標準設定)が決定的な役割を果たしているのだ。


■2.ホテルでタオルを再利用してもらうための効果的なメッセージとは?
ここで、「ソーシャル・プルーフ」、つまり"人は周囲に同調しがちだ"という性質を使って文言をこんな風に書き換えた場合に、タオルの再利用率がどう変わったか教えよう。普通の文言の場合をゼロとして、「このホテルの75%の人が」という要素を入れると、タオルの再利用率は20%増えた。つまり、ほかの人たちはどうしているのか、「社会の標準」、いわゆる「社会規範(social norms)」と呼ばれるものを効果的に使うことが大切なんだ。(中略)
タオルの札に「"この部屋に泊まったお客様"の75%が再利用しました」とあったらどうなったか。"このホテルのお客様の"だと再利用率は20%の上昇だったのが、"この部屋に泊まったお客様の"だと35%ほどになった。この場合は決して理想的な共通点を持った集団ではないが、もし「人々がより所属したいと思う集団」を利用できれば、もっと効果的だ、ということがわかるだろう。つまり、人が周囲に同調しがちだという性質を利用したいなら、人が真似したいと思うような効果的な集団を考えることが重要だということだ。


■3.大きな問題は感情のスイッチを切り、単なる数字にしてしまう
 別の実験も紹介しよう。今度はロキアという少女の写真を被験者に見せる。マリ共和国の7歳の子だ。この実験では「彼女のためにいくら寄付したいですか」と尋ねる。それがひとつ目のケース。ふたつ目のケースでは、ロキアではなく、国レべルのさまざまな問題を訴え、「マラウイでは食糧不足で300万人以上の子供が苦しんでいる」とか、「ザンビアでは深刻な水不足で何百万ガロンもの水が必要」といった統計的数字を挙げる。どちらのケースで被験者はより多くの寄付をしただろうか?
 ロキアの話をした場合、被験者は平均5ドルを寄付した。国レべルの統計的数字を示した場合は、寄付はおよそ半分になった。より大きな国レべルの問題を提示したにもかかわらずだ。


■4.良い行動を促すためには代替報酬を見つける
 人は、物事を長期的な目では見ずに、短期的に考える。ミント味はもはや習慣になっているから、その味がしなければもの足りないと感じるんだ。歯磨きの習慣が、間違った理由によって保たれているのは面白い。歯磨きをする時、歯磨き粉が口の中に運ばれる。人は、歯磨き粉を味わいたいから歯を磨くんだ。ではなぜフロスは習慣になりにくいのか?
 代替報酬がないからだ。ミント味のフロスもあるが、歯磨き粉で十分ミントを味わっているから、それ以上必要だとは思わないんだ。
 私たちの目標は、人々を良い行ないに導くためのいわば「歯磨き粉」を見つけることだと考えてほしい。人は歯を守りたいから歯磨きをするわけではなく、歯磨き粉を味わいたいから歯を磨く。それが代替報酬の本質だ。人に良い行動を促すための新たな方法を見つけることが大事なんだ。


■5.最初に行った意思決定はその後の行動も左右する
ある会社のスマートフォンが最初に登場したときのことを覚えているだろうか。大きな話題になった。当初の値段は600ドルだったが、すぐに400ドルに値下げされた。これは良い方向転換だっただろうか? そう、素晴らしい方向転換だったんだ。なぜか。もし、初めから400ドルで売り出していたら、消費者はその価格を何と比べていただろう。ほかの携帯電話だ。(中略)
でも、最初は600ドルだったものが400ドルになった場合は、30%安くなったと感じる。比べるのは、今は存在しない600ドルのスマートフォンで、それが判断材料になるんだ。当時買うつもりがなかったとしても、立派な比較対象になる。
 つまり、製品の印象は初めて市場に投入された時に形成されるということだ。その印象は、長期にわたって基準となる。その製品についての過去の自分の判断を振り返り、その意思決定は正しかったと考えるからだ。だから最初に無料で製品を提供すると、その後それにお金を支払ってもらうのは相当難しいわけだ。


■6.業績が高くない人にこそ、ボーナスの効果は大きい?
まず、会社側からスタッフに「今後、君たちのボーナスはこの研究グループに決めてもらいます」と伝えてもらった。そしてスタッフの業績一覧を提供してもらい、私たちが毎週、ボーナスを支給する人を決めた。実際には、ボーナスを与える人を業績とは関係なくランダムに選んだんだが、その結果どうなったと思う? 優秀なスタッフにボーナスを出すのと、そうでもない人たちに出すのとでは、どちらがより会社のためになっただろうか?
 優秀でないスタッフのほうだ。なぜか。優秀なスタッフは言われなくてもやるべきことを心得ている。(中略)
コールセンターのスタッフの中には電話のマナーが良かったり、会話が上手な人もいるが、今以上の成果を期待するのは難しい。業績が高くない人にこそ、ボーナスの効果は大きいんだ。そういう人ははじめから雇わなければいいんだが、すでに雇っている場合、彼らにこそボーナスの効果があるわけだ。


【感想】

◆いつもより引用量が多くなってしまいましたが、お許しを。

ほとんどが実験結果等を持って来ている関係上、それを含めて結論部分まで抜き出すと、どうしてもボリュームは大きくなってしまいますね。

しかもこれでも前提部分が結構漏れてるため、分かりにくいところがあるのが、悲しいと言いますか。

例えば、上記ポイントの1番目で言う「初めの設定」とは、具体的にはこんな感じです。
□ 臓器提供プログラムに参加したい人はチェックしてください
つまり、こう問われてしまうと、「人は何もしない」つまり、チェックせずに、プログラムに参加しない、を選んでしまうという。

これが逆に
□ 臓器提供プログラムに参加したくない人はチェックしてください
になると、とたんに参加者が増え、その差は国によって歴然。

オランダは28%なのに、隣のベルギーは98%なのだとか。

楽天市場で買い物をすると、デフォルトの設定で、すべてのメルマガを登録することになっているのも、まさにコレですねw


◆また、ポイントの2番目のタオルの再利用のお話は、以前似たようなお話をこの本で読んだ記憶が。

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影響力の武器 実践編―「イエス!」を引き出す50の秘訣

参考記事:【スゴ本】「影響力の武器 実践編」がやっぱりスゴかった件(2009年06月10日)

この本では「ほとんどの客」だったのに対し、本書では「75%」という数字を入れたり、「この部屋」と限定したりと、より効果の高いメッセージを探っています。

さらに、興味深かったのが「社会貢献」を利用したケースで、良く見かける「タオルの再利用によって節約された分をNPOに寄付します」というメッセージは、むしろ再利用する人が減ってしまうのだそう。

ならばどうするべきかと言うと、まずは自分たちが先に踏み出せ、と。

「当ホテルは環境保護のためにすでに寄付しました。あなたも協力してくれるなら、タオルを再利用してください」というメッセージにしたところ、再利用率が劇的に上がったのだとか。

これは結構目からウロコでした。


◆何だかいちいち補足してますが、実はポイントの3番目も続きがありましてw

「個人の問題」にした場合と、「国レベルの問題」にした場合との違いは、上記の通りなんですが、これらをミックスした場合についても本書では言及されています。

まずは、ロキアの話をして「こんなに飢え苦しんでいる」と説明してから、「ザンビアでは何万人もの人が……」と統計学的数字の話を続けたら、どうなったか?

すると、両方の話をした場合の寄付の額は、ザンビアの話をした場合ほど低くなかったものの、似たような額だったそう。

つまり、「感情に訴える方法は統計を使う方法と共存できない」というワケですね。

これは寄付のような話だけでなく、ビジネスにおいても留意すべき事象ではないか、と。


◆上記ポイントの話ばかりになってしまったので、今回割愛した部分についても少々。

ネタバレ自重して、簡単に列挙してみます。

・太って見えるスーツを着て食堂に行き、列に並んだら、周りの人たちの注文する量は増えたか否か?

・ビールの試飲で他人の注文が聞こえると、同じものを頼むか否か?

「同調」が一番起きやすいグループの人数とは?

・「ゴミが全くない」「ゴミが1つだけ」「ゴミだらけ」の状態のうち、ポイ捨てする確率が一番低いのはどれ?

・セールスマンの2つのグループにお金を渡し、それぞれ「自分のために使って」と「グループのメンバーにプレゼントを買ってください」と伝えた場合、売上はどうなったか?


……うーん、上で抜き出したポイントと差し替えてもいいようなネタがちらほらw


◆なお、本書は冒頭の内容紹介にもあるように、実際に行われた講義の書籍版です。

ただ、私も勘違いしていたのですが、講義が行われたのは日本ではなくサンフランシスコで、生徒も学生ではなくて、シリコンバレーの起業家やIT企業の社員(番組サイトにある動画を見ると、GoogleやFacebookの社員もいました)なんですね。

質問に対する生徒の答えが、妙に鋭かったのも納得ですw

後は、税抜き1500円の本(3月までなら1575円)の本にしては、若干ページが少ない点をどう考えるか。

私は「行動経済学好き」「アリエリー好き」なので、ノータイムで「買い」でしたが(と言いつつ、出るのを忘れてましたw)


個人的にはオススメせざるを得ません!

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お金と感情と意思決定の白熱教室: 楽しい行動経済学
第1回 人間は“不合理”な存在である
第2回 あなたが“人に流される”理由
第3回 デート必勝法教えます!?―人々の感情をどう動かすか
第4回 ダイエット成功への道!―自分をコントロールする方法とは
第5回 “お金”の不思議な物語
第6回 私たちは何のために働くのか?―仕事のモチベーションを高める方法


【関連記事】

【オススメ】『ずる―嘘とごまかしの行動経済学』ダン・アリエリー:マインドマップ的読書感想文(2012年12月11日)

【オススメ】『不合理だからすべてがうまくいく』ダン・アリエリー(2010年11月26日)

【スゴ本】「予想どおりに不合理」ダン・アリエリー(2008年12月15日)

【ヒューリスティック】『思い違いの法則: じぶんの脳にだまされない20の法則』レイ・ハーバート(2012年04月24日)

【スゴ本】「影響力の武器 実践編」がやっぱりスゴかった件(2009年06月10日)


【編集後記】

◆ちょっと気になる本。

4046009225
怖いぐらい人にYES。と言わせる心理術 (エッセイ)

既にKindle版も出ているので、サクっと読んでみたいと思いつつ、Kindleが見当たらないのがワタクシのデフォルトですw


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