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2014年06月22日

本当は残酷な『詐欺の帝王』の話


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詐欺の帝王 (文春新書 961)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、「オレオレ詐欺」を初めとする、システム詐欺の手口が身に沁みて分かる(?)1冊。

実生活に活かせる(活かしたら不味い!)情報はほぼないものの、「逮捕される確率」を少しでも低くしようとする考え方には、正直唸らされました。

少々長くなりますが、アマゾンの内容紹介から。
溝口敦氏といえば、泣く子も黙る極道取材の第一人者。その溝口氏が、裏社会について取材を進めるうち、つい四年前まで詐欺業界の周辺で「オレオレ詐欺の帝王」といわれていた本藤彰(仮名)なる人物と出会いました。
本藤は、名門私大に在学中からイベントサークルがらみのビジネスで金儲けのコツをつかみ、集団レイプ事件を起こした早大スーパー・フリーの主宰者・和田真一郎のケツモチ的存在でもありました。卒業後、一度は大手広告会社につとめますが、退社して闇金融を開業したのを契機に、詐欺の世界で名を轟かせはじめます。
オレオレ詐欺の草創期に荒稼ぎしただけではなく、ワンクリック詐欺、未公開株詐欺、社債詐欺、そしてイラク・ディナール詐欺と、彼が率いるグループの業務は、詐欺のデパートといっていいほど多岐にわたっていました。
そんな「帝王」が「罪滅ぼしの気持ち」もあって、溝口氏にシノギの実態を赤裸々に語ったのです。
詐欺師たちはいかなる手口を使い、どんな人間を嵌めるのか? なぜ被害者が後を絶たないのか?――現代日本の闇を暴く力作です。

今や詐欺は「1人の詐欺師」によるのではなく、「集団で」「システマティックに」行なわれていることが良く分かりました。

なお、書名があっさりし過ぎているので、記事タイトルには「ホッテントリメーカー」を使っておりますが、本当は付箋貼りまくった画像載せた方がよかったかな、と(今さらw)。






A Fool and His Money / CarbonNYC


【ポイント】

■1.Gmailの下書きを使う
 本藤はメール本文が発信されないかぎり、警察が通信傍受しようとしても傍受できないと聞き、一計を案じた。グーグルメールの利用である。
 グーグルメールは利用者がアドレスとパスワードを決めれば、以後、無料で利用できる。総括と傘下の店長がアドレスとパスワードを共有し、いつでもどこでもグーグルメールにログインできる体制を取った。
 その上でグーグルメールに店長の暗号名と報告すべき数字を記入させ、発信しないでメール本文を下書き保存させる。次の店長が同じようにグーグルメールにログインし、また同じように暗号名で同じ下書きに数字を書き込む。
 こうしたことを関係者全員が行う。と、メールは下書き保存されるばかりで発信されないから傍受されようがなく、しかも店長たちは他店の数字を否応なく目にする。競争心を掻き立てるられ、「来週こそはうちがトップを取るぞ」と頑張る……仕掛けである。


■2.携帯電話は電子レンジに保管する
 本藤は組織防衛上、これはヤバすぎると考えた。携帯が意図せずに敵に内通する可能性がある。どうしたらいいか。あれこれ考え、ほどなくアイデアが浮かんだ。
 すぐ全員に通達した。
 携帯は仕事用と個人用と2つ持つこと。2つの携帯は峻別し、間違っても混用しないこと。仕事用の携帯は夜間、使わないときには電源を切り、電子レンジの中に保管すること。夜間は個人用だけを使うこと。翌朝、仕事場で電子レンジから携帯を取り出し、電源を入れて仕事に使用すること……。
 電子レンジには使用する電磁波を外に漏らさない仕組みがあるから、中に入れた携帯電話の受・発信機能を無効にすると考えたのだ。


■3.転送電話機で番号偽装する
 ブラジル製の電話転送機も利用したと、本藤は語る。
「これはものすごく高い。1台が100万円ではきかなかった。これを使うといったんブラジルに音声が送られるということで、海外通話料も取られる。電話代がすごく高くついたが、そのかわり電話を掛けた先のナンバーディスプレイにこっちの希望する電話の下4ケタが表示される。
 たとえばオレオレ詐欺をやっていて、杉並警察署の警官役が、息子がしでかした交通事故を母親に説明するとなれば、杉並署の電話番号『03-3314-0110』は正確に出なくても、下4ケタに『0110』が出る。母親はこれを見て『あ、110番からだ、警察だ』って錯覚する。詐欺の効果もいっそう増すわけだから、機械代なんか1回か2回、詐欺を成功させれば、簡単に取り戻せる。
 まあ、現実的には一種のお遊び、われわれの道楽だったでしょうけどね」


■4.ダミーの合同会社名義で携帯の契約をする
 グループには多重債務者の身分証明書の控えがゴマンとあった。彼らに名前と元の住民票の住所を借りて、安く簡単に合同会社をつくれる上、潰したところで責任を取らされることがない。
 本藤が合同会社に目をつけたのは、会社組織だと1社の名前で1どきに携帯電話を20本も30本も買うことができたからだ。買ってすぐ会社を潰し、代表社員が行方をくらませれば、携帯電話はたちどころにトバシの携帯に変わる。
 これを店員に配る。料金不払いなどで携帯が使えなくなれば、また合同会社をでっち上げ……といったことを繰り返した。


■5.金の引き出し役は免許のない者を
 警察は次に全国の運転免許センターに保存する膨大な数の顔写真とコンビ二の画像を電子的に照合し、これが犯人だろうと思われる者を何人か選び出し、1人1人その人間のアリバイをつぶしていく。こうした地道な作業でどこの誰と特定できるかもしれない。
 つまり警察が最終的に頼りにしているのは運転免許センターが保存する顔写真なのだ。
 こうした危険から逃れるためには運転免許証を持たないことが一番である。過去、1度も免許証を持とうとしたことがない者なら、さらに万全である。警察は犯行現場に残された顔写真と、存在しない顔写真とを照合することはできない。


■6.一度詐欺にあった者を何度も狙う
 本藤もこう言っている。
「詐欺の原則は『かぶせ』です。名簿屋からさまざまなリストを購入するわけですが、騙されるような人間に片っ端から電話を掛けるのではなく、1度何かの詐欺に引っかかった人間を何度も狙う。騙されるヤツは何度でも騙されるし、なによりカネがある。300万円振り込むということは、3000万円は貯金があるということです。この残りを根こそぎ搾り取った方が効率的なわけです」


【感想】

◆個人的な趣味(?)並びに、当ブログの読者さんの傾向から、上記ではTIPS的な内容を中心にセレクトしてみましたが、本書では、「本藤 彰(仮名)」なる人物が、いかに「システム詐欺」という犯罪に手を染めていくようになったかを、詳細に明らかにしていきます。

そもそも、この本藤氏が最初に頭角を現したのは、イベサーとしてでした。

現在も続いている「キャンパスサミット」や、「D-1ドリーム・プロジェクト」は、なんとこの本藤氏が始めたものなのだそう。

そしてこれらのイベントではCDも作成したため、その過程でエイベックスの幹部とも懇意に。

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Campus Summit 2012 meets mixi

その結果、当時としては最大規模のクラブ箱であるヴェルファーレをも独占的に予約できるようになりました。

つまり、ヴェルファーレを使いたい、という他のイベサーに対して、マージンを乗せた上で提供するようになり、そこで面倒をみるようになったのが、冒頭でも触れた、スーフリの和田真一郎だったという。

スーパーフリー事件 - Wikipedia


◆この事件が問題となる前に、既に本藤氏は大学を卒業し、その人脈や集客力を買っていた某大手広告代理店の常務の推薦でそこに入社していたものの、その時点でもまだスーフリのケツモチをしていました。

また、その代理店にはスーフリ出身者がいたこともあり、スーフリ事件の際には本藤氏も関与を疑われ、グループ会社に左遷される羽目に。

それを不満に思った本藤氏は会社を退社し、以後、その「切れる頭脳」や「ダークな人脈」「不良性」を活かして、裏社会に進出していきます。

最初のとっかかりはヤミ金融。

そこで彼は、部下たちの待遇を「成果」に見合ったものにしていました。

その際、上記ポイントの1番目にあるように「Gmailの下書き」にて報告を行わせたところ、お互いの業績を見られるようになった配下の店長たちは数字を競うようになり、やがて「貸してもいない金」まで集金するように。

それが実は「オレオレ詐欺」によるもので、やがて組織の中での売上も、ヤミ金よりオレオレ詐欺の方が多くなっていくのでした。


◆ちなみに給料は破格で、ヒラの店員でも月給40万円からスタート。

その上の「番頭」で月給で200〜300万円、「店長」で700〜800万円、それより上となると「統括」1000万円、「総括」5000万円、「社長」1億5000万〜2億円、「幹部」2億〜3億円……って、年収じゃなくて、月給ですからね、これ!

かといって、堂々と銀行に預金できるお金でもないので、持ったら持ったで、別の苦労や災難が発生します。

たとえば、本藤氏は自分の取り分を、秘密の「金置き部屋」に持ち込もうとした際、マンションの入り口で金属バットを手にした4,5人の男に襲われ、4800万円もの金を奪われたことがありました。

救急車に運び込まれ、警官に「取られた物は?」と問われても、「何もないです」と言うしかなかったという。

また、別の機会には、貸した金を返さない外国人に回収に行った際、ケンカを売られたと勘違いされ、改造銃で足首を撃たれたのにもかかわらず、被害届も出せず、また銃創ゆえ普通の病院にも行けず。

数回に及ぶ事後手術は成功したものの、入退院を繰り返している間に組織がゆるんでしまったことを感じた本藤氏は、最終的に裏社会からの引退を決意したのでした。

なお、詐欺師が足を洗うのは、そのほとんどが逮捕をきっかけとしているそうなので、この本藤氏のようなケースはレアなのかもしれません。


◆ところで「詐欺」に関しては、当ブログでは、以前こちらの本をご紹介しております(未だ中古でも値崩れしてませんね!)。

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だましの手口 (PHP新書)

参考記事:【『影響力の武器』悪用編?】『だましの手口』に学ぶブラック手法6選(2012年03月07日)

この本は、タイトル通り「だまし方」が色々と掲載されており、どちらかと言うと「コミュニケーション」ネタの作品でした。

一方、今回取り上げた溝口さんの本は、取材対象の本藤氏がトップ中のトップだっただけに、むしろ「仕組み作り」や「経営」(?)といった趣き。

当ブログ的には、本書の方がウケがいいかと思ったのですが、いずれにせよ、「犯罪」を扱ったものですから、心情的にはあまりプッシュしにくいところですね……。


巨額のカネが動く「闇のビジネス」の実態がここに!

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詐欺の帝王 (文春新書 961)
第1章 「伝説の詐欺帝王」前史
第2章 五菱会のヤミ金が原点
第3章 システム詐欺とは何か
第4章 ヤミ金からシステム詐欺に
第5章 鉄壁の経営とトラブル
第6章 システム詐欺と暴力団
第7章 思いついたイラク・ディナール詐欺
終章 システム詐欺がなくなる日


【関連記事】

【『影響力の武器』悪用編?】『だましの手口』に学ぶブラック手法6選(2012年03月07日)

【速報!】最強のビジネス本「影響力の武器」の[第二版]がいよいよ登場!!(2007年08月18日)

【詐欺師の法則】『詐欺師たちの殺し文句』に学ぶ5つの心理テクニック(2011年10月06日)

絶対に公開してはいけない「詐欺師の逆転話術」:マインドマップ的読書感想文(2010年05月09日)

「〜カンニング竹山と考える〜大阪人はなぜ振り込め詐欺に引っかからないのか」竹山隆範:マインドマップ的読書感想文(2007年04月05日)


【編集後記】

◆今日の本に関連して。

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振り込め犯罪結社 200億円詐欺市場に生きる人々

こちらもなかなか興味深い内容のようです。


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