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2014年06月09日

【記憶強化!】『記憶力の正体: 人はなぜ忘れるのか?』高橋雅延


記憶力の正体: 人はなぜ忘れるのか? (ちくま新書)
記憶力の正体: 人はなぜ忘れるのか? (ちくま新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、「記憶力」に関する最新の情報を得られる1冊。

一応「新書」という体裁をとっていますが、巻末の8ページ弱(!)にも渡る参考文献からも分かるように、かなり「ガチ」に掘り下げられています。

アマゾンの内容紹介から。
記憶力を強くしたい!もの忘れをなくしたい!そのような願望から記憶力を増強させる方法は様々語られてきた。一方、つらい思い出を忘れたい、嫌な経験をなかったことにしたいと、忘却を操作したい思いもある。では、人間はどこまで記憶を操作することができるのだろうか。簡単に試すことができる思い出す訓練から「数字に色がついて見える」といった特殊な能力まで、これまでの多くの実験や研究から見えてきた記憶の不思議に迫っていく。

今回は本書のうち、特に「勉強本」的というか、「受験に活かせる部分」についてフォーカスしてみます!





More Memorising / mild_swearwords


【ポイント】

■1.視覚的イメージに変換すれば忘れにくくなる
 エビングハウスが明らかにしたように、時間の経過とともに記憶は薄れていきます。ところが、このような写真の記憶では、エビングハウスの見出した忘却曲線とはずいぶんようすが異なっていました。すなわち、覚えた直後が99.7%の正答率、2時間後が99.7%、3日後が92.0%、7日後でも87.0%でした。120日後になるとかなり正答率が低下しましたが、それでも57.7%です。このテストの場合、2枚の写真のうちから1枚を選ぶので、まったくでたらめに選んでも正答率は50%となりますが、そのような偶然の値よりも高い正答率が得られたわけです。
 これらの研究から、ことばではなく写真のような画像の場合、その記憶は忘れにくくなると結論づけることができます。この結論から推し量れば、たとえことばであっても、それを画像のような視覚的イメージに変換すれば、直観像ほど完璧ではなくても、多くのものを確実に覚えることができるのです。


■2.無意識的記憶には視覚的パターンのものもある
この単語断片テストをもう少し手軽に使えるように工夫したのが単語完成テストと呼ばれるものです。これは、たとえば、「し□り□く」というように、単語のいくつかの文字を抜き取り、意味のある単語の視覚的パタンに完成させるというものです(この場合の答えは「しんりがく」です)。
 この単語完成テストを使って大学生を対象に行われた驚くべき実験を見てみましょう。(中略)
 これらの結果は、エビングハウス以来の記憶心理学の常識である「時間が経過すれば記憶は薄れる」ということと、まったく相容れないものでした。その後の数多くの研究から、どうやら単語完成テストは、通常の記憶テストとは異なり、単語の意味ではなく単語の視覚的パタンの記憶を調べていることがわかってきました。つまり、単語を構成する文字の書体、大きさや向き、線の太さや濃さといった視覚的特徴です。このように、私たちの記憶には、快や不快といった感情の関与する無意識的記憶以外に、視覚的パタンの無意識的記憶もあるようなのです。


■3.朗読の繰り返しは「身体の記憶」となる
 ある文章を覚えるためには、何度かその文章を朗読するはずです。何度も繰り返しているうちに、ことばどうしが緊密に結びついて、最後には暗唱できるようになります。べルクソンに言わせますと、この段階では、1回1回の朗読は、それを行った状況とともこ、思い出せるという意味で、「私の歴史のある特定の出来事」の記憶だというのです(ライルの言う「内容の記憶」です)。しかし、さらに何度も何度も繰り返していると、もはや1回1回の状況の記憶は消え去り(更新され)、行動ないしは(朗読)運動だけになってしまいます(ライルの言う「方法の記憶」です)。べルクソンはこれを習慣という用語で呼んでいます。
 べルクソンの強調していることは、空間の記憶や指先の記憶のような比較的大きい運動をともなうものだけではなく、朗読のような微小な運動をともなうものも身体の記憶と考えているという点にあります。このような微小な運動をともなう身体の記憶は、心理学では、「技能の記憶」と呼ばれています。


■4.集中して反復するよりも分散して反復する
最初に、記憶力を調べる簡単なテストで、記憶能力の等しい8名ずつの2つのグループに分けました。次に、集中反復グループでは、6時間連続でひたすら書き写すことを繰り返して覚えてもらいました。一方、分散反復グループでは、同様のことを1時間ずつ、休憩をはさみながら、6回にわたって行ってもらいました。
 翌朝、全文を書いてもらうテストをしてみますと、集中反復グループの思い出せた文字数の平均は167語(63%)であったのに対して、分散反復グループでは259語(97%)でした。しかも、般若心経を完全に覚えてしまった人数を見ると、集中反復グループが1名だけだったのに対して、分散反復グループは6名の学生が完全に覚えることができました。このように、同じ時間、反復して記憶するにしても、集中して反復するよりも分散して反復する方が、はるかに効果的なのです。


■5.記憶の定着に重要なのは、思い出す回数を増やすこと
1つのグループは、毎回、40個を覚えるのですが、テストは(前回のテストで)覚えていなかった単語だけとしました。ここでは「たたき込み」グループと呼びましょう。もう一方のグループは、(前回のテストで)覚えていなかった単語だけを覚えるのですが、(覚えている覚えていないに関係なく)毎回40個をテストします。ここでは「引き出し」グループと呼びましょう。(中略)
 4回目のテストが終了した時点では、どちらのグループも40個すべてを覚えることができました。ところが、1週間後に、もう一度実験室に来てもらい、再生テストを受けてもらった結果は驚くべきものでした。覚えることを繰り返した「たたき込み」グループは約14個(36%)しか思い出せない一方で、思い出すことを繰り返した「引き出し」グループは約36個(80%)を思い出すことができたのです。


■6.できるだけ多くの手がかりと結びつけて覚える
 通常、どのような試験にしろ、それを習ったときと同じ表現(つまり特異的な手がかりのもと)で出されることは稀です。むしろ、できるだけもとの手がかりとは異なるような表現や状況で出題されるのがふつうです。そうなると、たった1種類の特異的な手がかりとの結びつきだけで覚えただけでは、うまく思い出せない可能性があります。したがって、できるだけ多くのさまざまな手がかりと結びつけて覚えておくことが、どのような場合にも、うまく思い出すためには必要だということになります。


【感想】

◆ボリューム的にいつもよりも多くなってしまいましたがお許しを。

なにせ、1つ1つの論点について、ほぼもれなく実験等が行われている関係上、それらを意味が通じるように引用すると、どうしても長くなってしまうと言う……。

と言いつつも、実験で用いられた図が本書に収録されていても、それらを抜き出せないため、正しくご理解頂くためには、結局のところ本書をご覧頂くしかないのですが。

そういうこともあって、「これは面白い!」と思っても、泣く泣く割愛したお話がいくつか。


◆たとえば上記ポイントの3番目に関連した、「見え方が変換された文字を読む」という課題を使った研究について。

これは、ある文章(オリジナルは英文)を「逆向きの文字」「裏返しの文字」「鏡映文字」に変換し、それぞれを読む技能の獲得を調べたもので、当初、通常の文字を読む速さが1ページ1.5分だったのに対し、こうした裏返し文字だと16分かかったのだそう。

そこでこうした文字を読む訓練を、200ページにわたって何十時間も続けた結果、通常の文字と同じ「1ページあたり1.6分の速さ」で読めるように。

そして、それから1年後にもう1度裏返し文字の文章を読ませてみたところ、当初の速度を大幅に上回る「1ページあたり3分」で読めた、とのこと。

もちろんこの間、裏返し文字を読むようなことは誰も経験していません。

つまり、読んだ内容の記憶は忘れ去られたとしても、読む技能の記憶は、身体の記憶として、長く残るわけですね。


◆また、上記ポイントの4番目に登場する実験は、本書の著者の高橋さんがテレビ番組のために行って、反響のあったもの。

よく、勉強する際に、同じものを続けるよりも、間を開けた方がいい、などと言われますが、実際に証明されたワケです。

ところで、なぜ集中反復より分散反復の方が効果があるかについては、はっきりした理由が明らかにされていませんでした。

しかし本書曰く、最近の1つの有力な考え方によれば、「集中反復と分散反復とでは、1回1回の反復で行われている操作が違う」とのこと。

前者は単なるオウム返しに反復すればいいのに対して、後者は記憶が薄れているので、それを思い出した上で反復しなければなりません。

つまり、記憶するには「思い出す」という行為が重要なワケで、それは上記ポイントの5番目にある通りです。


◆なお、当ブログの方向性として、勉強本に通じる部分をメインでご紹介しましたが、本書はもっと幅広く「記憶」について取り扱うもの。

たとえば、『レインマン』の主人公レイモンドなどで知られる、サバン症候群のお話ですとか。

サヴァン症候群 - Wikipedia

そういえば、以前この動画は観たことがありました。



アマゾンにこの人の画集があるんですが、高杉ワロエナイ……。

ちなみに「絵」と言えば、あの「裸の大将」山下 清もサバン症候群なのだそう(知らなんだ)。

テレビ番組の関係で、旅先で絵を描いていたようなイメージがありますが、実際は放浪中にはめったに絵を描くことはなく、数ヵ月、数年の放浪の後、自分の脳裏に焼きついた画像にもとづいて再現していたのだとか。

裸の大将放浪記 山下清物語 [DVD]
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◆本書は「270ページ」と新書では結構厚い方ですが、実はこれでもかなり削ったらしく。

本書の「おわりに」によると、最初書上げた原稿は「文字数32万字、図表70枚、参考文献350本」という「大作」だったたのだそう(新書じゃないww)。

そこで、本文も図表も半分以下にし、参考文献も日本語だけに限定。

でき上がった本書は、凝縮されて濃くなった分、なかなかのクオリティに仕上がっていると思います。

……さすが、30年もの記憶研究の蓄積に加えて、3年もかけて現在の記憶研究をもカバーしただけのことはあるな、と。


勉強本好き&記憶ネタ好きなら必読!

記憶力の正体: 人はなぜ忘れるのか? (ちくま新書)
記憶力の正体: 人はなぜ忘れるのか? (ちくま新書)
第1章 「忘れる」とはどういうことか?
第2章 「忘れられない」の正体
第3章 「思い出せない」理由
第4章 記憶は意識を超えていく
第5章 忘れないと覚えられない
第6章 記憶を強くするヒント
終章 忘却を使いこなす


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【編集後記】

◆本書と同じく、厳密な意味での勉強本ではないものの、勉強や記憶のために読むと役だつ作品がこちら。

脳のワーキングメモリを鍛える! ―情報を選ぶ・つなぐ・活用する
脳のワーキングメモリを鍛える! ―情報を選ぶ・つなぐ・活用する

おー、いつの間にかKindle版も出てますね!

なおレビューは上記関連記事にて。


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