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2014年01月18日

【交渉学】『ハーバード×慶應流 交渉学入門』田村次朗


ハーバード×慶應流 交渉学入門 (中公新書ラクレ)
ハーバード×慶應流 交渉学入門 (中公新書ラクレ)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事で好評だった1冊。

著者である田村次朗さんは、「慶應義塾大学法学部卒業、ハーバード・ロー・スクール修士課程修了」という経歴の持ち主です。

アマゾンの内容紹介から。
経験や駆け引きに頼る「交渉術」では「交渉力」は向上しない。交渉には「論理的思考」と「事前準備」と「信頼」が不可欠だ。ハーバード大学で「交渉学」の権威フィッシャー教授から直接学んだ著者が、ビジネス現場等の豊富な例を交えて、問題解決に必要な「交渉学」をわかりやすく解説。

騙し合いではない、「真っ当な」交渉スキルを学べます!




【ポイント】

■1.議論がエスカレートしたらホワイトボードや紙を使う
交渉をするときに、相手の目をみて語りかけるのは、一見、良いことのように思われるが、実は危険きわまりない。相手の目をみながら「私は納得がいかない」などといえば、相手は攻撃されていると感じるからである。べクトルの方向を「人」ではなく「問題」に向けるために紙やホワイトボードを使って交渉すると、問題を共有しながら解決するための絵を描き始めることができるようになり、交渉としては理想的な展開になる。


■2.相手の発言をうまく利用する
 交渉で相手に受け入れてもらうための鉄則は、相手を説得するのではなく、相手が自ら納得するように仕向けること。そのためには、相手の発言をうまく利用するのが最も効果的である。相手が使った言葉を利用して、相手の話に真剣に耳を傾けていることを強調するための方法としては、(1)要約、(2)反復、(3)共感という3つがある。いずれも、単に相手の話を聞くだけではなく、しっかり聞いているということを相手に知らしめる工夫で、交渉においてきわめて重要である。

(詳細は本書を)


■3.事前準備の段階で交渉相手との関係を図式化する
 さまざまな利害関係や人間関係が錯綜するビジネスの交渉では、意思決定をする際に、できるだけ目に見えるかたちで状況を把握する必要がある。お互いが背後に抱えているさまざまな利害や関係性が交渉に反映されるので、「相手が背後に抱えているものは何か」をみつけるために、頭のなかで抽象的に理解していたものを文字化するだけでは足りない。さまざまな利害関係や人間関係をよりわかりやすく理解するためには、図式化(マトリクス)が必要不可欠になるのである。


■4.創造的選択肢を考える
創造的選択肢は「落としどころ」ではない。双方の利益を満足させるものであり、どちらか一方が我慢をしたり譲歩したりするものではない。また、お互いにできる限り譲歩しあうというものでもない。双方が納得し満足できるような創造的選択肢を考えなければ交渉の合意はおぼつかない。
 創造的選択肢といっても、別段むずかしいことではない。新しいアイデアとは、ちょっとした工夫のことである。例えば、「商品は欲しいけれども、すぐに全額払えない」という相手に対して、「分割でもいいですよ」といって、一括払いではなく分割払いにすることも創造的選択肢である。


■5.当事者双方と社会全体の利益を考慮する
交渉学の権威ロジャー・フィッシャー教授は、『ハーバード流交渉術』(原題:"Getting to Yes")のなかで「信頼」の大切さを力説し、それを「賢明な合意」(wise agreement) という言葉で表現している。
 フィッシャー教授によれば、「賢明な合意」とは、「当事者双方の要望を可能な限り満足させ、時間がたっても効力を失わず、また社会全体の利益を考慮に入れた解決」である。簡単にいえば、「賢明な合意」とは「当事者双方と社会全体の利益を考慮する」ということであり、「三方よし」とまったく同じ考え方であることがわかる。「賢明な合意」は現在のハーバード交渉学の基本的な考え方である。


■6.複数ある利害を調整するという視点を持つ
 自動車の売買交渉の例でいえば、「価格」だけで自動車を選ぶ人はいないはずである。ブランドや車種、安全性、アフターサービス、納期など、交渉できるさまざまな「利害」がある。交渉においては、複数ある利害を調整するという視点が必要である。
 交渉において「利害」を考えることができれば、二分法的思考法から距離を置くことができる。「AかBのどちらかを選びなさい」ということから離れれば、さまざまな選択肢(オプション)が考えられるので、複数ある「利害」を調整するという交渉ができるということである。俗に、「交渉のネタ」が増えると交渉しやすくなるといわれているが、ネタを増やすような作業にもち込むことが重要なのである。


■7.相手の視点に立って問題を考える
 ある事実が目の前にあっても、自分のサイドからみるのと相手のサイドからみるのとでは、その事実は違ってみえる。したがって、相手が異なる意見をいうと、それに対して腹立たしく思い、「事実はこうだ」と反論したくなる。しかし、そのときに少し冷静になって、この事実が相手にどうみえているのかを考える。そうすると、いい議論ができるようになる。


【感想】

◆新書なので、そもそも厚さはそれほどないのですが、思ったよりも付箋を貼りまくりました。

当ブログでも交渉関係の本は、今まで何冊かご紹介してきたので、基本的な知識である、以下の用語やその使い方は、一応割愛したのですが……。

BATNA とは - コトバンク

ZOPA(交渉可能領域) | 交渉学と合意形成: mmatsuura.com

ただし、あまり交渉術の本をお読みでない方は、一応上記リンク先にてご確認を。


◆さて、書影にもあり、上記ポイントの5番目に登場する「三方よし」。

これもご存知の方も多いとは思いますが、一応用語解説を。

三方良し とは - コトバンク
「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」。売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということ。近江商人の心得をいったもの。
一般的な(少なくとも私が今まで読んできた)交渉術の本では、当事者同士だけが良い、むしろ自分だけが良い、というゴールを想定していたわけですが、いきなり「世間」が登場しています。

というのも、実際に「当事者だけがハッピー」で「周りは迷惑」というケースが多々あるから。

本書で挙げられていたのが、「労使間の交渉」で、これなどは、もし決裂した場合、ストライキに突入して、世間が迷惑をこうむることに。

また、談合やカルテルは、当事者間ではハッピーでも、消費者(世間)は「価格の引き上げ」という損失を被ることになるわけです。


◆さらに本書の第6章では「交渉戦術とヒューリスティクス」と題して、交渉のためのさまざまなテクニック、並びに相手に使われた場合の対処法が披露されています。

具体提起にはこんな感じ。

「おねだり戦術」

「グッドコップ-バッドコップ戦術」

「ドア・イン・ザ・フェイス戦術」

「フット・イン・ザ・ドア戦術」

「タイムプレッシャー戦術」


このうち、3番目と4番目は、コミュニケーション本ではお馴染みかと。

そして一番最後の戦術は、要は相手のデッドラインを探り出し、その締め切り効果を利用するものです。

最近は海外出張でも、便の変更ができないチケットを用いている事が多いので、下手に帰りの便を相手に漏らしてしまうと、デッドラインを利用されて、不本意な合意をしなくてはならない可能性大。

……この章は読んでおいた方が良さげですね。


◆もちろん、これらの戦術は「三方よし」どころか「自分だけよし」であるものがほとんどであり、本書では薦めているわけではありません。

そもそも「ほとんどの交渉戦術は、単純なロジックを使っているので、相手が交渉学を勉強していると惨めな結果に終わる」とのこと。

やたらと戦術に特化した本が目立つ中、本書のような幅広い内容で記された本を読むことは、「交渉」という行為をより深く理解することに繋がると思います。


類書を読んでいても、要チェックで!

ハーバード×慶應流 交渉学入門 (中公新書ラクレ)
ハーバード×慶應流 交渉学入門 (中公新書ラクレ)
序 章 「交渉学」との出会い
第1章 交渉学とは何か
第2章 論理的に交渉する
第3章 事前準備の5ステップ
第4章 交渉の基本戦略
第5章 交渉のマネジメント
第6章 交渉戦術とヒューリスティクス
第7章 組織内コミュニケーションと交渉学
第8章 コンフリクト・マネジメント
終 章 リーダーに必要な交渉力


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【裏ワザ?】『弁護士に学ぶ!交渉のゴールデンルール』奥山倫行(2013年01月13日)

【反論?】『弁護士が教える絶対負けない反論術』上野 勝(2012年12月26日)

【ウラ技?】『気づかれずに相手を操る交渉の寝技』間川 清(2012年11月25日)


【編集後記】

◆田村さんの著作から。

交渉の戦略
交渉の戦略

こちらも、評価が高いですね。


ご声援ありがとうございました!

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