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2013年12月30日

【刑事流?】『心理戦で勝つ技術』北芝 健


心理戦で勝つ技術
心理戦で勝つ技術


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、昨日の「未読本・気になる本」の記事でも取り上げた1冊。

元警視庁刑事である北芝 健さんが、具体例をもとに「容疑者や参考人のどういうしぐさ、どういう言動から情報を得ているのか」を明らかにしてくれています。

アマゾンの内容紹介から。
情報を集め、相手のすべてを知り尽くした上で「はじめまして」とあいさつする―何百人という被疑者の中から犯人を見つけ出し、事件解決に必要な供述を引き出してきた警視庁捜査官は、どんな心理戦の技術をもっているのか?仕事に役立つビジネス・インテリジェンスのすべてを明かす!

この手の「交渉術」「心理戦」の本は、弁護士先生が書かれた本を数多く読んできましたが、刑事の方というのは初めてであり、類書とはひと味違った(?)コンテンツでした!





【ポイント】

■相手の文化への理解を深める
 日本でも、ビジネスパートナーとしてイスラム教徒が増えてきている。私も彼らと仕事をするときには、ハラルの食品を供しているレストランを選んで食事をしている。「自分たちの戒律のことまで理解してくれているんだな」と思われるので、互いの心の距離感がグッと近くなる。
 これは相手がユダヤ人でも変わらない。ユダヤの戒律では、イカ、タコ、エビ、カニなど魚の形をしていない海のものを食してはいけないのだ。そういうことを調べておいて振る舞うと、「北芝は自分のことを理解しようといろいろ予習してくれたんだな」と好意を抱いてくれ、心を開いてくれるのである。


■2.ここ一番の大事な時にはラム肉
 アメリカの捜査官が来日した際にホテルなどで食事会をするが、彼らに聞いても、やはり大事な捜査やテロリストなどの取り調べの前には肉を食うそうだ。
 たいていはビーフだそうだが、本当にこ一番というときにはラムやマトンなど羊肉だという。羊を食えば絶対力が出る、と彼らは信じているのだ。
 おもしろいのは、イスラム圏の刑事たちも同じことを言っている点だ。宗教上の理由で豚肉は食わないものの、チキンを食えば瞬発力が、ビーフを食えば底力が出るという。そしてここ一番という大事なときは、やはり羊だという。


■3.イスに深く腰かけていたら腹をくくっている
 イスに深く腰かけている人間は腹をくくっていると見ていい。ヤクザでも、
「抗争がいくら激化しようと関係ない、やると決めたらやる」
と腹を据えているやつはイスに深く座っている。(中略)
 ビジネスの商談でも、深く腰かけている相手が、
「御社の商品は今季限りで扱いは終わりにさせていただきます」
と言うようであれば、それは一担当の意見ではなく、経営者など決定権のある上長が決めた全社的な決断だから覆ることはない、と思って間違いないだろう。


■4.緊張すると声は高くなる
 声のトーンが高くなるというのは、呼吸が速くなったり声帯が緊張して狭まるためだ。緊張するのは脳がリスクを感じているからである。そういう場合は焦っていたり「自分が不利だ」と思っているのではないかと判断する。緊張すると声帯が狭まって声が上ずり、トーンが高くなる、と覚えておけばいいだろう。


■5.あえて相手のパーソナルスペースに侵入する
 アメリカの刑事向けマニュアルに、次のようなことが書いてある。
「捜査官は被疑者から2、3フィート(約60〜90センチ)離れた位置にイスを置く。取り調べを開始してから、時間が経つにつれてゆっくりと容疑者に接近する。最終的には、被疑者のひざの片方が、捜査官の両ひざのあいだに入るくらいまで、体を寄せていく」(中略)
 こちらのぺースに巻き込みたいときには、あえて近づいて相手のパーソナルスぺースを故意に侵害し、心を乱す。
 ビジネスシーンにおいても、上司や取引先の担当者の近くによって話をすれば、自分の流れで会話をもっていきやすくなるだろう。


■6.表現を変えて同じ質問をする
 心を液状化させるためによく使う手が、少し前にしたのと同じ内容で表現を変えただけの質問、つまり同じ質問を投げかけるという手だ。それで相手の回答が違っていた場合は、第三の質問でその矛盾点を突くことができる。被疑者は動揺し、そのとき初めて心の液状化が始まる。(中略)
 打ち合わせや商談でも、表現は違うが内容は実は同じという質問をぶつけてみよう。もし答えにブレがないようであれば信用していいし、違う答えが返ってくるようであれば、適当に言い繕っていることになる。


■7.相手に言いたいことを言わせて満足させる
 相手がまなじりを決してすぐ本題に入った場合や、逆に氷のような視線のときは、「自分の言いたいことを全部言って帰る」と思っている場合が多い。そうなると、いかに場を和ませようとしても硬い空気が流れたままだ。そんなときは「今日は先方の話を聞いて終わろう」と判断し、「ええ」「そうですね」と相づちだけ打っているとスムーズに終わる。主張を受け入れてくれたということで、相手は満足感を得るのだ。(中略)
 本来の目的を見失わず、また相手のぺースに左右されず、いったんすべてを受け入れたうえで次につないだほうがうまくいきやすいのだ。


【感想】

◆下記関連記事でも何冊か取り上げていますが、弁護士先生の書かれた「説得術」「交渉術」の本はかなりあります。

一方、本書のように、刑事サイドからのビジネス本というのは、あまり記憶になく。

もっとも弁護士が活躍するの交渉の場と違って、刑事の取り調べというのは、そもそも相手との立場が違いすぎます(むしろ「取り調べられる側」のマニュアルの方がニーズがありそうなw)。

とはいえ、最近ではそのような「対応マニュアル」でもあるのか、「完全黙秘」の戦法を取ったり、下手なことをすれば裁判で「刑事に脅されて仕方なく嘘の自供をしました」と言われかねません。

そこで、本書に収録されているような「ビジネスシーンで応用できるTIPS」が、実際に取り調べでも使われているそう。

ただし、ベタな心理ネタなら類書でも読めますので、上記ポイントでは、それ以外のネタを優先しております。


◆まず上記ポイントの1番目の「文化」「宗教」のお話は、確かに取り調べよりも、ビジネスシーンで留意したいところ。

割愛した中でも、とある銀行マンが、イスラム教徒の実業家を接待するために、老舗の串揚げ店に連れて行ったところ、「豚肉はダメ」と言われた話がありました。

ここまでは分かるのですが「じゃあ、野菜だけでも」と提案すると「豚肉を揚げた油で揚げたほかの食品もダメ」とのこと。

その銀行マンは「いやがらせのためにわがままを言ってる」と思ったそうなのですが、これなどは戒律を調べておけば理解できたはずでしょう。

先日もこの本で、異文化を理解する重要性を実感しましたが、本当のグローバル化とは、こういうところから始めるべきなのかもしれません。

外国人社員の証言 日本の会社40の弱点 (文春新書 945)
外国人社員の証言 日本の会社40の弱点 (文春新書 945)

参考記事:【弱点?】『外国人社員の証言 日本の会社40の弱点』小平達也(2013年11月20日)


◆また、上記ポイントの3番目の「イスの腰かけ方」や4番目の「声のトーン」といったところは、相手を観察して得られる情報です。

もちろん、現場で相手に会うまでに、調べられる情報はできる限り調べた上で取り調べを行うそうなのですが、本書で興味深かったのが、医学的(?)なアプローチ。

さりげなく健康の話を振って、心の障壁を低くするのはもちろん、口臭や相手の血色、爪の色、体温等からも健康状態を把握しているのだとか。

……もっともこれは、著者の北芝さんのご両親がお医者さんだったりすることも大きいと思いますがw

いずれにせよ、こういった「健康ネタ」は、ビジネスシーンではむしろ取引先等と親密になるのに使えそうな気が。


◆本書は装丁からして黒ベースですし、小見出しごとのまとめページ内でも、黒塗りページに白抜き文章、さらに警察の紋章が使われたりしていて、ビジネス書としては異彩を放っております。

上記で挙げた以外では「いかにも刑事ネタ」と言いますか、893方面の取り調べの話があったりして、幅広くはオススメしにくいところ。

ただ、新刊であるにもかかわらず、すでにKindle版が出ていますので、気になる方は、そちらでちょい読みして頂ければ。

個人的には、こういう際どい本はキライじゃないんですけどねw


「刑事流」心理戦術を学べる1冊!

心理戦で勝つ技術
心理戦で勝つ技術
第1章 心理戦とは情報戦のことである―相手と対面する前に情報を収集せよ!
第2章 相手の心理を「見た目」から推断せよ―人間観察のポイント
第3章 「駆け引き」の手札をもて―ホンネを引き出すさまざまな方法
第4章 心理戦を制する「決め」の一手―捜査官の「落とし」の技術
第5章 組織内で勝ち残るために―「一対一」から「多対一」の心理戦へ


【関連記事】

【交渉】『絶対に負けない交渉術 やってはいけない35のルール』植田 統(2013年09月25日)

【交渉術】『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』島田久仁彦(2013年08月08日)

【交渉術】『プロ弁護士の「心理戦」で人を動かす35の方法』石井琢磨(2013年07月29日)

【裏ワザ?】『弁護士に学ぶ!交渉のゴールデンルール』奥山倫行(2013年01月13日)

【99%?】『FBIトレーナーが教える 相手の嘘を99%見抜く方法』から選んだ嘘つき の7つの特徴(2012年09月09日)

【ウソ看破?】「相手の隠しごとを丸ハダカにする方法」デビッド・J・リーバーマン(2010年04月02日)


【編集後記】

◆昨日ご紹介し損ねた本。

頭がよくなる逆説の思考術
頭がよくなる逆説の思考術

「思考術」は好きなテーマなので、これもチェックしなくては。


ご声援ありがとうございました!

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