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2013年11月30日

東大教授は『なぜかミスをしない人の思考法』の夢を見るか


なぜかミスをしない人の思考法 (知的生きかた文庫)
なぜかミスをしない人の思考法 (知的生きかた文庫)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、失敗学のエキスパートである、東大大学院教授・中尾政之先生の文庫本。

2007年に出た『失敗の予防学―人は、なぜ“同じ間違い”を繰り返すのか』を再編集&改題したものになります。

アマゾンの内容紹介から。
人間は必ず失敗する。それも性懲りもなく、同じような失敗を繰り返す。しかし、自分のミスをきちんと知識化、教訓化することがミスの再発を防ぐだけでなく、逆にミスしないようなスキルやノウハウを積み上げる。そして、それが質の高い仕事をするための絶好のチャンスに変わる。すべては、「仕組み」で解決できる!

なおタイトルは、久し振りに「ホッテントリメーカー」のお世話になりました!




【ポイント】

■1.人の失敗を模範例として利用する


Pie Chart showing amount of snow cleared / barcar

 私は、90名のエンジニアを集めて、今、自分に降りかかってきそうなリスクを書いてもらったことがある。そして、インターネットに載っている失敗データを「他山の石」として参考にすると、7割のリスクに対して有効な対応策が導け、予防できることがわかった。7割は自分の能力の範囲内で解決できるのである。すなわち、「危ないな」とリスクを感じたら、7割は他山の石を模範例として利用できる。似ている失敗を探せば7割の確率で見つかるのだ。


■2.失敗は隠すと10倍返しを食らうと心得る

半沢直樹 -ディレクターズカット版- Blu-ray BOX

隠蔽は間尺に合わない。発覚しなければ大丈夫と思っても、この情報時代に隠しおおせるはずがない。(中略)
 私は、隠したほうが得かどうか、を具体的に調べてみた。すると日本ハムや雪印食品の牛肉偽装のときは、悪事で儲かる金額の1000倍近い損失が、株価の暴落で生じた。野村証券や高島屋の総会屋事件のときも同様である。組織にとって、隠すのは損である。普通は隠すと10倍返しである。
 このことを頭に叩き込んでもらいたい。これは、失敗学のキモである。


■3.自分勝手な"カイゼン"をしない


Brake and Accelerator / The Tire Zoo

 たとえば、自動車の中をきれいな"居住空間"にするために、土足禁止にし、靴をはかずに運転する若者は多い。しかし、急ブレーキを踏むときの衝撃は大きいので、靴をはかないと強く踏めない。サンダル、つっかけ、スリッパをはいて運転する人も多い。そして疲れるとサングルを脱いで素足で運転する。
 このとき、もしもサンダルがブレーキぺダルの下にあったら、踏んでも利かなくなる。こういった想定外の使用法による失敗が起きても、単なる不幸なヒューマンエラーと考えるかぎり、失敗は永遠になくならない。


■4."声なきクレーム"に耳を傾ける


(I'm becoming obsessed . . . ! / EraPhernalia Vintage . . . (playin' hook-y ;o)

 全米レストラン協会の統計によると、店舗のサービス、商品、クレンリネス(清潔さ)などに不満を抱いても、96%のお客は店に直接クレームをいうことはないという。
 つまり、不満を持ったお客のわずか4%しかクレームをいわないのだ。たとえば、年間1000件、メールや電話でクレームを受けるようなチェーン店の場合、実際に不満を感じているお客はその25倍の2万5000人もいることがわかる。


■5.人任せをやめる


Roadway / Hitchster

 常識的には、安全のためにセンターラインが必要だと考える。ところが、自分はスピードも落とさず、注意もしないくせに、対向車は注意してくれるはずだと勝手に思い込んでしまうのだ。もちろん、相手も同じように考えている。
 お互いがこんな調子だから、結果として大事故が続発してしまったのである。だが、センターラインがなくなってしまうと、今度は自己責任で注意深く運転するしかない。結果として、自分も相手も気をつけて運転するようになり、事故が激減したというわけである。少しでも事故を減らそうという警察当局の親心が実は事故を誘発してしまった。コストをかけずに希望的観測で成功率を補おうとするから失敗するのである。


■6.「現場」×「データ」で分析する


Cold chinese noodle (Lunch) / jetalone

「冷やし中華は、梅雨明け前までは気温の上昇と比例して売上が伸びるけれども、梅雨明け後は気温が上昇しても売上があまり伸びない」
 鈴木敏文氏がセブン-イレブンの業者から聞いて調査したところ、データではまさにその通りだった。7月下旬をピークに後は落ちていく一方だったのである。しかし、マーケットをとことん調べてみると結果は違った。
「これは気温との相関関係ではない、お客様の飽きによる現象である」
 そこで、これまでの冷やし中華とは違った冷たい味噌ラーメンを開発して店頭に出してみたところ、今度は売上がグンと伸びたのである。


■7.失敗の原因を基から絶つ


McDonald's Open Doors / coolinsights

 外食産業でしょっちゅう起きるトラブルは、従業員が包丁作業などで怪我をしてしまうことだ。これは1日に何回起こるかわからない。いったいどうして怪我をしてしまうのか? 料理をしたこともない学生アルバイトにいきなり包丁をもたせるからか? アルバイトの不注意、熟練不足なのか?
 根本的な原因は、「包丁を使う」という構造的な問題にある。
 ならば、調理場から包丁をなくしてしまえば?……こうして生まれたのがセントラルキッチンである。
 今、マクドナルドや吉野家といったファストフード店、ファミリーレストランの多くでは包丁の類は店舗には一切置かれていない。


【感想】

◆失敗学というと、畑村洋太郎先生が有名(震災の際には「原発事故調査・検証委員会」委員長にもなられましたし)ですが、本書の著者である中尾先生も負けてはいません。

というか、中尾先生と言えば、土井英司さんが著書で推薦しているこの本が衝撃的でした。

失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する
失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する

タイトルには「41の原因」と入っていますけど、収録されている事例は約200件

タイタニックからチェルノブイリ、9.11といった有名なものから、一般的にはあまり知られていない事故までてんこ盛りで、紹介しようにも、どこから手を付けていいのか分からず放置中というw

その点本書は、『失敗百選』の流れを汲みつつも、内容を「20の黄金ルール」として圧縮(?)しており、とっつきやすさでは圧勝しております。


◆とはいえ、「失敗原因の分類方法」という部分は、かなりガチ。

中尾先生曰く、「自分の失敗がこのうちのどの原因に当てはまるか分類せよ」とのこと。

●無知……「知識不足」「伝承無視」

●不注意……「理解不足」「注意・用心不足」「疲労・体調不良」

●手順の不順守……「連絡不足」「手順無視」

●誤判断……「狭い視野」「誤った理解」「誤った認知」「状況に対する誤判断」

●調査・検討の不足……「仮想演習不足」「事前検討不足」

……すいません、これ、まだ「個人レベルの原因」でして、この後に「組織レベルの原因」と「個人・組織のどちらの責任にもできない原因」が続くのですが、ここまでと同じ位ボリュームがあるので割愛。

もちろん、カッコ書きで書いた部分、それぞれの解説もありますので、ここだけでもお腹一杯になってしまう方もいらっしゃるかもしれません。


◆また、割愛した事例で興味深かったのが、とあるハンバーガーチェーンでの事故のお話。

そのチェーン店のハンバーガーを食べところ、喉に針状のものが刺さって入院したお客が、店長の謝罪では許さず、社長を呼べ、と。

報告を受けた社長が謝罪に行き、その客の怒りも収まったのですが、その社長は病院を出た瞬間に、その店長に原因追究と徹底解決を命じます。

原因はすぐわかり、研磨用金タワシの破片が紛れ込んでいた、というものでした。


◆ではどうすべきか? 

エックス線でチェックするわけにもいかず、かといって金タワシを使わないと鉄板にこびりついた油が取れません。

そして到達した解決策とは……(ネタバレ自重)。

結果論ですけど、この客がゴネなかったら、社長まで事故のことが伝わったとも思えず、社長レベルで動かないと解決できなかった以上、むしろその事故があったからこそ、その後の事故防止につながった気が。

こうした「事故が起きない仕組み作り」まで実現できれば最高ですね。


◆上記ポイントの1番目にあるように、「過去の失敗例」を事前にスタディしておけば、多くのリスクは回避できます。

そして、いったん失敗が起きたなら、隠さず報告・公開すべし。

個人的には、「今まで大丈夫だったから大丈夫」「自分だけは大丈夫」といった「過信」が非常に危険だと身に沁みて感じております(震え声)。

会社勤めの方におかれましては、ご自分だけでなく、組織全体で「失敗」を隠さず、むしろ有効活用して頂きたく。


失敗を活かして成功を目指すために!

なぜかミスをしない人の思考法 (知的生きかた文庫)
なぜかミスをしない人の思考法 (知的生きかた文庫)
1章 ミスをしない人の「基本ルール」―失敗の発生源を知っておく
2章 致命的なミスを先回りして防ぐ方法―この“サイン”を見逃すな!
3章 ピンチで力を発揮する人の条件―起きてしまったミスへの最善策
4章 ミスを将来の財産にする考え方―できる人は、転んでもただで起きない
5章 ミスの起こらない「仕組み」をつくる―失敗の芽を元から絶つ!


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【編集後記】

◆中尾先生のこちらは知りませんでした。

続・失敗百選 - リコールと事故を防ぐ60のポイント
続・失敗百選 - リコールと事故を防ぐ60のポイント

前作に比べて「家電製品やソフトウェアなど、対象分野をさらに拡大」とのことなので、これまた要チェックで。


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