2013年10月18日
【セブン-イレブン流】『売る力 心をつかむ仕事術』鈴木敏文
売る力 心をつかむ仕事術 (文春新書 939)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、セブン&アイ・ホールディングス代表取締役会長兼CEO、鈴木敏文さんの最新刊。下記内容紹介にもあるように、ご自身だけでなく、異業種の方々の考え方にも触れられているのが、過去の著作とひと味違うところです。
アマゾンの内容紹介から。
「皆が反対することこそ成功する」――40周年を迎えるコンビニ業界トップのセブン-イレブンをはじめグループ総売上高九兆円の巨大流通企業、セブン&アイ・ホールディングスを率いる鈴木敏文さん。本書では秋元康、佐藤可士和、牛窪恵、鎌田由美子、小菅正夫各氏ら異分野の人々の考え方を引きながら、「『お腹がいっぱい』の人に何を食べさせるか」「海辺の店でなぜ、梅おにぎりが大量に売れるのか?」「人は『得』より『損』を大きく感じる」「動物の『絞り込み』で成功した旭山動物園」といった身近な話題を基に独自の経営理念を分かりやすく説いています。
サブタイトルには「仕事術」とありますが、やはりメインタイトルの方の「売る力」の方のマーケティングネタが満載でした!
【ポイント】
■1.「普遍的な笑い」は「視点」が面白い秋元(康)さんによれば、お笑いの世界でも、「普遍的な笑い」と「飽きられる笑い」があるといいます。その年の流行語になるような言葉を生み出しても、それに頼っていると、その言葉が飽きられたら終わりです。それが「飽きられる笑い」です。
一方、たけしさんなどは、そういう「飽きられる笑い」ではなく、いま話題になっていることを「ネタ」にして、それを自分の「視点」を通して、何か面白いことをいったり、やったりしてくれる。そのお笑いの「視点」が面白いので飽きられないというのです。
■2.「上質さ」と「手軽さ」を両立させる
ポイントは「上質さ」と「手軽さ」という、タテとヨコ、2つの座標軸で市場をとらえたとき、競合他社も進出していなければ、誰も手をつけていない「空自地帯」を見つけ、自己差別化をすることです。青山フラワーマーケットは、家庭用に販売する花について、イべントで使うようなおしゃれな花という「上質さ」のなかに、従来よりずっとリーズナブルな価格という「手軽さ」をちりばめることで、手つかずの空白地帯を見つけ出し、これまでになかった新しい価値を生み出しました。その着眼が見事です。
その空白地帯は、お客様から見れば、まさに自分たちも気づかなかった潜在的ニーズの真芯をつかれたような、いわば、スイートスポットのゾーンだったわけです。
■3.新しいことに挑戦しようとするとき、周囲から反対される理由
「教科書では『戦略とは人と違うことをやること』とあるのですが、しかし人と違っていても、儲からないのでは意味がありません。ですから、正しくいえば、人と違った儲かることをやりなさいということになりますが、『儲かるいいこと』だとすぐにわかることだったら、とっくに別の誰かが思いついているはずです。(中略)
そう考えると、本当に新しい産業を生み出すイノべーターが出てきた場合、その人が始めようとしていることは、多くの人からはすぐに、『儲かるいいこと』とは受けとめられないのではないかと思います。鈴木さんがセブン-イレブンを始めたときが、まさにそうだったのですね」(楠木建氏)
■4.「お客様のために」はウソ、「お客様の立場で」が正しい
(トーハン時代の)上司たちは、新刊目録を多く載せるほうが「お客様のために」なると考えました。しかし、それは、本をできるだけ多く売るという自分の立場がまずあって、そのうえでお客様のことを考えている。つまり、結局は売り手の立場で考えていたのです。その根底には、過去の経験にもとづいた「読書家とは本をたくさん買う人のことだ」「だから読書家は新刊目録を求めている」という思い込みや決めつけもありました。
つまり、「お客様のために」といっても、「売り手の立場で」考えたうえでのことであり、そこには、過去の経験をもとにしたお客様に対する思い込みや決めつけがある。これに対し、「お客様の立場で」考えるときは、ときには、売り手としての立場や過去の経験を否定しなければなりません。
■5.「ほしいもの」を聞いても「本当にほしいもの」は出てこない
このように、セブン-イレブンには数々のヒット商品がありますが、もし発売前にアンケート調査などを行い、「こんな商品が出たら買うか」と質問していたら、「買わない」と答えたであろうと思われる商品も少なくありません。それが、商品となって店頭に並んだ途端、お客様は手を伸ばすのです。
消費が飽和したいまの時代は、消費音は商品の現物を目の前に提示されて、初めてこんなものかほしかったと潜在的なニーズに気づき、答えが逆転します。現代の消費者は「いうこと」と「行うこと」が必ずしも一致しない。消費者自身にも具体的なイメージをもって「こういう商品がほしい」という意見がない時代なのです。
■6.消費者は「理屈」でなく「心理」で動く
リーマン・ショックと同じ年、夏に原油の記録的な高騰により、ガソリン価格が上昇したときの「ガソリン割引券」も好評でした。期間中のお買い上げ金額の合計5千円ごとに、ガソリン1リットルにつき10円の割引券(上限50リットル)をプレゼントする。これも理屈上は10パーセント引きで、一般的な経済学ではどちらも効用は同じと考えます。しかし、結果は大好評で期間中の既存店全店の売上高は前年同期比で2割増えました。単なる値引きではこうはいきません。
■7.「現金下取りセール」が大ヒットしたわけ
初め、わたしがこの企画を提案すると社内からは、消費税分還元セールのときと同様に、「割引きをしても簡単に売れない状況なのに、割引きもせず下取りするだけではお客様は反応しないだろう」と効果を疑問視する声が返ってきました。それは理屈で考えたからです。
しかし、人間は心理や気持ちや感情で動いています。どの家庭も、タンスのなかは服でいっぱいです。着なくなった服もなかなか捨てられない。それは本能的なもので、捨てると損をするという心理が働くためでしょう。ならば、タンスのなかを空ける仕かけを考えればいい。下取りならば、着なくなった服に価値が生まれ、損はしないから、お金に替えて買い物をしようと思う。わたしはその心理を読んだのです。
【感想】
◆相変わらず(?)の「鈴木節」を満喫できましたwただ、冒頭でも触れたように、本書では多くの「異業種のヒットメーカー」が登場します。
と言うのも、セブン&アイ・ホールディングスが年4回発行している広報誌『四季報』の巻頭で、鈴木さんが毎回ゲストを招いて対談をしていているからで、過去20年程の間に80人以上の方と対談されたのだとか。
そのお相手も、上記ポイントで名前のある、秋元康さん、楠木建さんや、事例が出てくる青山フラワーマーケットの井上英明さんのほか、佐藤可士和さん、見城徹さん、鎌田由美子さん(JR東日本の「エキュート」の立ち上げ人)、高島郁夫さん(「Francfranc」の経営母体バルス社長)等々。
こうした方々との対談で、自説を補強したり、新たなアイデアを見出しているのですから、それはセブンは強いワケです罠。
◆その佐藤可士和さんで思い出したのでもないのですが、上記ポイントの2番目の「上質さ」と「手軽さ」を両立させたのが、「セブンカフェ」。
私もセブンで見かけるものの、ただ「フーン」と眺めていたら、これが結構手の込んだもののよう。
曰く
・豆はハイグレードなものだけを厳選こんなのを100円とかでやられたら、それは人気も出ますよ。
・コーヒー鑑定士の風味確認を経た素材を使用
・甘味をより引き出すため、2段階の温度で2工程かけて煎り上げるダブル焙煎を行う
・その豆を各店舗にチルド温度(10度以下)で配送
・抽出に最適な軟水を使用
・1杯ごとに挽きたてをペーパードリップ
おかげでリピート購入率は55パーセント以上と、セブンの中で販売する食品の中では最も高いのだそう。
……可士和さんによるデザインは、少々分かりにくかったようですが。
#セブンカフェの様子 が各店舗の工夫いっぱいで面白い - NAVER まとめ
◆また、上記ポイントの3番目では「周囲から反対される」鈴木さんのお話が出ていますが、第1章には「私が提案して反対された13のプラン」なる節があります。
具体的には本書をお読み頂くとして、これがもうヒット作やセブンの経営方針そのものに関するものが多々。
上記ポイントの7番目の「現金下取りセール」なんて、微々たるものなのか含まれておらず、逆に「それやってなかったら、今のセブンはないでしょう?」と思われるものも目に付きました。
たとえば、「弁当やおにぎりの販売を提案したら『そういうのは家でつくるのが常識だから売れるわけがない』と反対された」とか。
弁当のないセブンなんて、想像つかないんですが!
ほかにも、最近ヒットして話題となった「金の食パン」を初めとした「セブンゴールド」シリーズも、当然(?)反対されています。
まー、この辺は後づけというか、今だからそう思えるのであって、スタート前に「成功すると思うか?」と問われたら、私も「コンビニに高級品は求められていません!(`・ω・´)キリッ」としたり顔で言ってたとおもいますが。
◆後半にかけては、鈴木さんご執心の「行動心理学」ネタのお話が。
特にポイントの7番目の「現金下取りセール」に関しては、この本では「タンスの中があくから消費行動に出る」と聞いていました。
朝日おとなの学びなおし 経済学 鈴木敏文の実践!行動経済学 (朝日おとなの学びなおし! 経営学)
参考記事:【行動経済学】『鈴木敏文の実践!行動経済学』(2012年03月03日)
ただ、実際にはもうちょっと奥が深くて、「損失回避の心理」を利用していたとは「目からウロコ」。
そしてこの件に関連して、鈴木さんは今回の消費税増税に対する「消費税還元セール」と銘打ったセールを禁止する特別措置法に、否定的な見解を述べられているのも、興味深いところです。
消費者心理を考えると、「消費税還元セール」というお題目こそが、消費税増税による消費の落ち込みを挽回できたかもしれないのですが……。
◆ところで上記の本もそうですが、鈴木さんに関しては、フリージャーナリストの勝見明さんの書かれた本が多いです。
私も勝見さんの手による「鈴木さん本」を何冊か読んでまいりました。
もちろん、鈴木さんとお付き合いの長い勝見さんの本もクオリティが高いのですが、やはりご本人の手による本の方が、若干「深さ」がある感じ。
また、特に本書においては、異業種の方の話とのすり合わせがある分、過去の著作とはひと味違ったテイストになっていると思います。
「常勝」セブン-イレブンの強さの秘密がここに!
売る力 心をつかむ仕事術 (文春新書 939)
第1章 「新しいもの」は、どう生み出すのか?
第2章 「答え」は「お客様」と「自分」のなかにある
第3章 「ものを売る」とは「理解する」こと
第4章 「本気」の人にチャンスはやってくる
【関連記事】
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【オススメ】「異業種競争戦略」内田和成(2010年02月04日)
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【編集後記】
◆鈴木さんが「グループ社員にすすめた」という1冊。トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか
まさに「上質」と「手軽」ですね。
ご声援ありがとうございました!
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この記事へのコメント
面白そうな本です^^
Posted by 齊藤正明 at 2013年10月18日 12:39
>齊藤正明さん
はい!
とても興味深いと思いますので、ぜひぜひご一読を!
はい!
とても興味深いと思いますので、ぜひぜひご一読を!
Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2013年10月18日 13:02
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