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2013年08月25日

【Suica誕生の舞台裏】『ペンギンが空を飛んだ日―IC乗車券・Suicaが変えたライフスタイル』椎橋章夫


ペンギンが空を飛んだ日―IC乗車券・Suicaが変えたライフスタイル (交通新聞社新書)
ペンギンが空を飛んだ日―IC乗車券・Suicaが変えたライフスタイル (交通新聞社新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、関東圏の方ならお馴染みであるJR東日本のSuica誕生の裏側が明かされた1冊。

今でこそ「当たり前」のように存在しているSuicaですが、そこに至るまでには、こんな苦労があったのかと。

アマゾンの内容紹介から。
それはたった2人だけのチームから始まった!JR東日本のIC乗車券カード「Suica」は、会社はおろか鉄道インフラという枠も超え、生活インフラの変革までもたらした。最初は誰からも期待されていなかったこのプロジェクトは、いかにして成功していったのか。研究開発の頓挫、試験の大失敗、気の遠くなるような作業、重大事故…限りなく無謀な挑戦の裏にはいつも、“理想の一念”があった。ますます進化するSuicaを創成期から支えてきた著者が明かす、激闘の記録。

新書でサラッと読みやすく書かれていますが、厚い単行本で出されてもおかしくない濃厚さでした!


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【ポイント】

■1.Suica導入の背景
 詳しくは後述するが、当時、JR東日本はSuica以前に導入していた磁気式自動改札機の老朽化に伴う一斉更新の時期を迎えていた。磁気式改札機自体は、それ以前の駅員の手作業による改札業務を一気に自動化した画期的なものだったが、乗車券、定期券との物理的な接触部分が多く、機器のメンテナンスコストが莫大にかかっていた。
 新たなICカードによる改札システムによって、駅の機器にかかる費用をどれだけ下げられるか。単に技術の先進性だけでなく、費用対効果でどれだけのメリットを会社にもたらすことができるかが問われていた。


■2.偉大なる発明「タッチ・アンド・ゴー」
「ICカードをかざすのではなく、ふれるようにしたら……」
 そもそも読み取り機に「ふれる」のではなく、「かざす」だけで通れるからICカードは画期的なのではないか。一同の思いは同じだった。しかし、当たり前のことをもう一度疑ってみることも、壁に当たったときには必要である。
 カードを水平にかざす場合、動きは直線的になるが、カードをどこかにふれることを目標に動かすとカードの軌跡はV字を描く。直線的な動きより、ほんの少しでも時間が延びる。考えてみれば「かざす」という動作は、はっきりした目標がなければあいまいなものになる。それまでのモニターのアンケートにも「かざし方」への不確かさを言及する意見が多かった。私たちは「非接触」という概念にこだわりすぎていたのだ。


■3.Suicaは「自律分散システム」
 センターサーバーもネットワークもすべて二重化すれば信頼性は向上するが、コストが大幅にアップする。必死に考える中で浮かんできたのが、「センターサーバー」と「駅のサーバー」と「端末」に分けて3階層のシステム構成にするというアイデアだった。
 つまり、センターサーバーは駅にある端末(Suica機器)と直接データのやりとりをせずに、各駅に設置した駅サーバーと通信を行なうようにする。いわば、データを蓄えておくダムのようなものを作るという方法だ。センターから端末のカードまで1つの川があるとすると、そのところどころにダムを作っておけば、一度に大量のデータが流れ込んで決壊するようなことはない。


■4.モバイルSuica誕生の秘密
技術陣との打ち合わせには1年を要したがなかなか進まず、最終的に「iモード」の立役者で当時、企画部長だった夏野剛さん(現・慶感義塾大学大学院政策・メデイア研究科特別招聘教授)に話を持っていった。驚いたことに、夏野さんは即決で「やりましょう」。らの一言で決まり、携帯電話とSuicaの連携が走り出した。
 後に夏野さんにこの時のことを聞いたことがある。「どうして、他の部署では1年かかっても決断できなかったことが即決できたのですか?」。答えはシンプルだった。「JR東日本ほどの大企業が長年かけて準備して実施する施策が悪いはずがない」


■5.定期券をなくした画期的なPiTaPa
SuicaとPiTaPaが異なる最大の点は、PiTaPaには定期券がないということである。これは日本の鉄道の運賃・改札システムからいっても画期的なことだ。
 PiTaPaはポストぺイ方式を選択した時点で、1ヵ月ごとの利用額によってさぐまざまな割引サービスを行なう戦略をとった。その中であらかじめ区間を指定して、その区間は1ヵ月間に何回乗っても一定額しかとらない区間指定割引が従来の定期と同じ額になっており、定期券ではなくても同じ役割を担っているというわけだ。同じように、ある区間を月に11回以上乗ると割引になる「回数券」の役目もPiTapaは果たしている。さらに、1ヵ月の運賃額が定期券相当額に届かなくても、利用回数割引が受けられるなど、きめの細かいさまざまなサービスが可能となった点もお客さまには好評という。


■6.ビッグデータを解析し、情報ビジネスへ
 Suicaの持つ情報の特徴は3つある。1つは、毎日2500万件にも及ぶ膨大な情報データべースであること、2つ目は、その情報は移動や購買などのいわゆるライフログ(Life log) と呼ばれるものであること、さらに、その情報がカードのID番号別に管理されていることにその特徴がある。この移動情報と決済情報を組み合わせて、新しいサービスを創出することが情報ビジネスの狙いである。
 アプローチには複数あるが、まず情報を見える化(=情報資産化)し、わかりやすく、価値のある情報にすることが重要である。まだスタートしたばかりであるが、今後はマーケティング分析やソリューションビジネスの展開に向けて、さらなる検討を深めている。Suicaの新しい分野を切り開く取り組みに今後とも期待したい。


【感想】

◆引用部分が長くなってしまったのでこの辺で。

今でこそ、本当に生活に溶け込んでいるSuicaですが、私もついこの間までは、イオカードなるものをバリバリ使っていました。

イオカード - Wikipedia
販売済みのイオカードは翌2006年2月10日の最終列車をもって自動改札機での使用を終了し、翌11日の始発からは自動改札機の矢印の下にあるiOマークが消え、同時に投入口の周辺に「磁気式イオカードはご利用になれません」というステッカーが貼付された[2]。
あら、使えなくなって、7年半も経ってましたか。

ただ、このイオカードや切符を処理する自動改札機は「接触型」と呼ばれ、上記ポイントの1番目にあるようにメンテナンスが大変だったのだそう。


◆翻ってSuicaですが、実は「非接触型」であり、実は「改札機に触れなくても認識する」模様(知らなんだ)。

ただし、「非接触」で認識するためには、「0.2秒の処理時間」が必要で、この期間は改札機の通信領域に留まっていないといけません。

しかし、当時のフィールド実験では、エラー続出。

そもそも、改札機の通信領域は目に見えず、何cm上をかざせばよいのか分からない方がほとんどですから、致し方なかったかと。


◆そこで本来不要である「タッチ」を促すことにより、処理時間を確保したという「逆転の発想」がSuicaの基本コンセプトとなる「タッチ・アンド・ゴー」です。

さらに読み取り機面を「13度傾けた」ことにより、「歩行速度が減速され、確実にタッチしてから通過」するようになったのだとか。

読み取り機面をあえて傾かせている、という話は知っていましたが、それ以前に「接触させる必要がないのに接触させる」というアイデアは、まさに「パラダイムシフト」。

この本にあった「音声認識できないのをユーザーのせいにして逆ギレするシーマン」の話を思い出しましたよw

ハンバーガーを待つ3分間の値段―ゲームクリエーターの発想術 (幻冬舎セレクト)
ハンバーガーを待つ3分間の値段―ゲームクリエーターの発想術 (幻冬舎セレクト)

参考記事:【再録】★「ハンバーガーを待つ3分間の値段」斎藤由多加 (著)【マインドマップ付き】(2006年01月18日)


◆こうした技術面での苦労も含め、Suicaの実現には、問題が山積みでした。

上記ポイント5番目のPiTaPaほか、全国のJRグループだけでなく、私鉄やバス、地下鉄とも連携を取らねばなりません。

となると、当然のように運賃計算もとんでもなく複雑になります。

参考記事:自動改札機の運賃計算プログラムはいかにデバッグされているのか? 10の40乗という運賃パターンのテスト方法を開発者が解説(中編) − Publickey

2013年3月23日に、晴れて「IC乗車券全国相互利用」が開始されたのですが、たった2人でSuicaを細々と始めた著者の椎橋さんだからこそ語れる裏話が本書には溢れていました。


プロジェクト運営や社内起業に携わる方なら必読!

ペンギンが空を飛んだ日―IC乗車券・Suicaが変えたライフスタイル (交通新聞社新書)
ペンギンが空を飛んだ日―IC乗車券・Suicaが変えたライフスタイル (交通新聞社新書)
第1章 一枚のカードが変えた鉄道の世界
第2章 技術開発の時代―ICカード黎明期の苦闘
第3章 ビジネスモデル構築の時代―130億円を回収せよ!
第4章 Suica導入の時代 その1―混成部隊のチームワーク力が真価を発揮
第5章 Suica導入の時代 その2―Suicaが鉄道の新しい扉を開けた日
第6章 Suica育成の時代―Suica大ヒット。次の戦略が動き出す
第7章 拡大展開の時代―Suicaが変える駅ナカ・街ナカ
第8章 IC時代の陥穽と教訓
第9章 世界最大のIC乗車券ネットワークが完成した!
第10章 Suicaという“ものづくり”への思い


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【葉っぱがお金に?】「そうだ、葉っぱを売ろう! 」横石知二(2007年11月10日)

【オススメ】『一億人に伝えたい働き方 無駄と非効率のなかに宝物がある』鶴岡弘之(2012年06月23日)

【再録】★「ハンバーガーを待つ3分間の値段」斎藤由多加 (著)【マインドマップ付き】(2006年01月18日)


【編集後記】

◆ちょっと気になる本。

トヨタの伝え方
トヨタの伝え方

トヨタと付くだけで、効果がありそうに思ってしまう自分……。


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この記事へのコメント
               
実は、私は新たにインフラを作る過程が好きなのです。

様々な困難をあの手この手で解決していくところにとても興味をそそられます。
ですので、この本にも関心を持っています。

「非接触型」で認識させるための「0.2秒の処理時間」を確保するためにあえて接触させ、さらに、読み取り機面を13度傾けるという「When」を「How」に置き換える発想の転換に感動を覚えました。

この本読みたいな。
学校に蔵書申請してみようかな。

Posted by 五条 勝 at 2013年08月26日 19:45
               
>五条 勝さん

コメントありがとうございます。
この本、実はすんごい感動しながら読んでいたんですが、記事では全然そんな風に書いてませんよね。マジで失敗しました(涙)。

ただ、本自体すごいことを淡々と書かれてて、それはもったいなかったな、と。
単行本にしてちょっと感動させるような話入れて膨らませたら、結構ハネそうな感じです。

ここは1つ、蔵書申請しないで、アマゾンアタッ(ry

Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2013年08月27日 06:30
               
コメントありがとうございます。

書評で紹介されていた「ハンバーガーを待つ3分間の値段」なのですが、これは読んだことがあります。

その頃、プログラムを専門学校で教えてたので、プログラマの卵に読み終えた本を贈与しました。

この本がって訳ではないでしょうが、その子はゲーム会社にしっかりと就職してましたよ。

シーマンの話はよく覚えてます。
聴き取り精度低いのを、逆にユーザーの発音が悪いからだと責任転嫁することで、周囲の評価を勝ち得たってことで、「なんて見事な発想の転換!」と感動しました。


ご指摘の通り、この本買うかな〜。
ぶつぶつ…
Posted by 五条 勝 at 2013年08月27日 23:56
               
>五条 勝さん

おー!『ハンバーガー〜』読まれてましたか!
あれは隠れた名著ですよね☆

一方こちらの本は、今アマゾンで見たら、ハゲシク品切れ状態になっていました(涙)。

途中までの話で良ければ、同じ著者が同じテーマで2008年に書いてますので、そちらでも(私は読んでません)。

『Suicaが世界を変える JR東日本が起こす生活革命』

Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2013年08月28日 04:56