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2013年05月13日

【仕事考】『「やりがいのある仕事」という幻想』森博嗣


「やりがいのある仕事」という幻想 (朝日新書)
「やりがいのある仕事」という幻想 (朝日新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、ベストセラー小説家・森博嗣さんの「仕事本」。

ただし、いわゆる「仕事に役立つ"仕事術本"」ではない旨、まえがきにも書かれています。

アマゾンの内容紹介から。
私たちはいつから、人生の中で仕事ばかりを重要視し、もがき苦しむようになったのか? 本書は、現在1日1時間労働の森博嗣がおくる画期的仕事論。自分の仕事に対して勢いを持てずにいる社会人はもちろん、大学生にもおすすめ。

仕事に対して、何らかの「悩み」がある方なら、一読の価値アリです!


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【ポイント】

■1.職業に貴賤はない
 そもそも、職業に貴賤はない。「偉い仕事」というのは、つまりは給料が高いとか、能力や人気で選ばれた者だけが就けるとか、そういった「ポスト」を示すようだけれど、その偉さは、たいていは賃金によって既にぺイされているはずだ。つまり、そういう「偉そうな仕事」をしたら、その分の高給を得ているわけで、それでその偉さは差し引かれているはずなのだ。もし、賃金は一切いらない、というのなら本当に偉いと思うけれど、金をもらっているなら、それでいいじゃないですか、と僕は考えてしまう。


■2.命令できるのは、それがルールだから
 下の者に命令ができる人が偉いわけでもない。命令をきく人たちは、その分の賃金を得ているから言うことをきくだけだし、また、命令できるのも、それは単にその場に限って通用するローカル・ルールがあるだけのことで、ようするに一種のゲームだと思えばわかりやすいだろう。鬼ごっこをするとき、鬼はべつに偉いわけではない。怖いから逃げているのでもない。そういうルールなのである。どちらの立場も、嫌ならいつでもゲームから降りることができるのだ。


■3.好きなことが最良とは限らない
「好きだから」という理由で仕事を選ぶと、それが嫌いになったときに困ったことになる。人の心は、ずっと同じではない。どんどん変わるものだ。嫌いになったり、厭きたときに仕事を辞めてしまうのでは、効率が悪い。「好き」で選ぶことは、そこが問題点といえる。
 さらに大きな問題は、食べ物のように好きか嫌いかということが、仕事の場合は事前によくわからない、という点にあるだろう。
 若い人たちが、就職活動をするときに、自分の好きな仕事がしたいと漠然と思うのはとても自然なことだけれど、では、自分は何が好きなのか、と考えても、きっとよくわからない場合が多いのではないか。


■4.常に勉強する姿勢を持つこと
 勉強に身を置く時間というのが、人間にとって最も価値がある投資だと思う。これは、たとえ就職してからも忘れてはいけない。自分の時間のうちある割合は、いつも勉強しよう。本を読むことが最も一般的な勉強だし、またそれ以外にも、新しいものに興味を向けて、なにか自分にとって役に立つものはないか、と探すこと。現在の仕事と無関係であっても良い。今すぐに役に立たなくても良い。なんとなく、今まで知らなかったこと、知っていても時間がなくて我慢していたこと、そういうことを少しずつ自分の中に取り入れる。これが「投資」である。


■5.成功者ほど頭を下げている
 商売というのは、お金をもらう方が頭を下げる。それは、「いただきます」とか「ごちそうさま」と同じ意味であって、つまり、得をしたから感謝で頭が下がるということだ。下がれば下がるほど、得をしていると考えても良い。
「そんなへこへこしたことは嫌いだ」という人はプライドが高いのかもしれないが、その程度のプライドは、この際あっさりと捨てた方が賢い。本物のプライドというものは、頭を下げ続けて初めて獲得できるものだろう。


■6.仕事というものは殺伐としているもの
 仕事というのは、成果を問うものだ。それが殺伐としていると感じるのも素直な感覚で、そのとおり、仕事というものは殺伐としている。少なくとも和気あいあいの場ではない。少しくらい明るい部分があっても良いかもしれないが、それはちょっとした飾りのようなものでしかない。
 同じことを、大学受験で血眼になっている予備校生たちに言ってみると良い。「成果主義で、みんな自分のことでいっぱいいっぱいに見えるが、もっと朗らかで楽しい予備校にするには、どうしたら良いですか?」と尋ねてみよう。たぶん、「煩いから帰ってくれ」と全員から言われるだろう。


■7.なりたかったらもうしているはず
 映画監督の押井守さんと話しているとき、彼は、「どうしたら、映画監督になれますかって、きいてくる奴がいるけれど、本当になりたかったら、もう映画を作っているはずなんだよね」と言った。僕もそのとおりだと思う。小説家になりたかったら、もう小説が十作くらい書けているはずた。だから、どうしたら良いのかという答は、「それを出版社に投稿してみたら」である。


【感想】

◆本書を読む場合、まず「森博嗣さん」がどういう人かを知っておく必要があるような。

森博嗣 : Wikipedia

かくいう私も、森さんの作品を読むのは、『常識にとらわれない100の講義』以来、まだ2冊目です。

常識にとらわれない100の講義
常識にとらわれない100の講義

参考記事:【オススメ】『常識にとらわれない100の講義』森 博嗣(2012年08月20日)

この本では「印税で10億稼いだ」ということばかり印象に残っているのですがw

いずれにせよ今回のエントリーも、人やその作品を十分に知った上で述べる感想とは少々違うということを、予めお断りしておきます。


◆……と言い訳がましいことを書いたのも、ひとえに本書において森さんの言われていることの多くが「身も蓋もない」から。

これは私にとっては、最高の「ほめ言葉」なのですが、悩みに悩み抜いた上で質問したものの回答が「身も蓋もない」と、世間的には「冷たい」と言われる模様。

ちなみに、その事に関して森さんは、あとがきで「"ぬくもり"なんて言葉も胡散臭い」とバッサリw

曰く、「子供や犬を見て心が温まる」のは、「子どもや犬が温かい態度を取っている」のではなく、「見ている者が、自分で自分の心を温める」のである、と。

ゆえに、森さんが「冷たい」と感じる人は、「自分の心が冷たいと気づいただけ」なのだとか。


◆本当に冷たいかどうかはさておき、本書で森さんは「客観的」かつ「抽象的」に物事を論じてらっしゃいます。

と言うのも「ほとんどの問題は、客観的なものの見方の欠如から生じている」から。

ここで森さんが言われている「自分の悩みをもっと一般論としてとらえ、自分から切り離したうえで答を出すことが、ときには重要になる」という教えが、個人的には刺さりました。

言われてみれば私自身、何かで悩んでいるときは、「客観的なものの見方」はできていなかった気がします。


◆本書のタイトルでもある「やりがいのある仕事」に関しても、上記ポイントでは割愛しましたが(ネタバレになるので)、第4章ならびに第5章でしっかり掘り下げれていますので、詳しくはそちらを。

ただし本書は、冒頭でも触れたように、ノウハウ系の仕事術本とは対極にあるものです。

実際の話、当ブログの選書傾向からしたら、本書は取り上げるタイプの作品ではありません。

ただ、本書を読んで感じたのが、いかに自分の考えが「世間の常識」や「周りの目」に影響を受けていたか、ということ。

現在よりも「1つ上のレイヤー」から物事を俯瞰したい、という方にオススメしたいと思います。


今日現在、アマゾンTOP100に入っている注目作!

「やりがいのある仕事」という幻想 (朝日新書)
「やりがいのある仕事」という幻想 (朝日新書)
まえがき
第1章 仕事への大いなる勘違い
第2章 自分に合った仕事はどこにある?
第3章 これからの仕事
第4章 仕事の悩みや不安に答える
第5章 人生と仕事の関係
あとがき


【関連記事】

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【オススメ!】『走る哲学』為末 大(2012年07月15日)

【キャリア形成】「やりがいある仕事を市場原理のなかで実現する!」渡邉正裕(2008年11月06日)


【編集後記】

◆森さんが3月に出された新書。

人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか (新潮新書)
人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか (新潮新書)

こちらも「思考法」ということで、なかなか面白そうです。


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