2012年12月26日
【反論?】『弁護士が教える絶対負けない反論術』上野 勝
弁護士が教える絶対負けない反論術
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、弁護士流「切り返し」技法のご本。著者の上野さんのことをよく存じないで本書を買ったのですが、かなりのベテラン弁護士さんだけあって、事例も豊富でした。
アマゾンの内容紹介から。
議論で負けないその具体的なノウハウを、実際にあった裁判所の実例を元に、どうしたら相手が反論せず、相手を納得させ、自分の意見を押し通すことが出来るかを教える一冊。
やはり弁護士さんは敵にはまわしたくないものです……。
いつも応援ありがとうございます!
【ポイント】
■1.倒置法で相手に喋らせて反論の余地を探る相手に喋らせれば喋らせるほど、話に行き違いが生じて反論の余地が出てくるものです。
ただし、相手に喋らせるにはコツがいります。それは、感情表現を巧みに取り入れて、相手に同調する姿勢を見せることです。それにはさまぎまな方法がありますが、その一つが「倒置法」です。
たとえば、相手が「私が、あの仕事を任されたとき」と言い出したら、「あの仕事を? あなたが?」と、言葉の前後をひっくり返した反応をします。同じ伝で言うなら、「今日は有意義な話をありがとうございました」という言い方ではなく「ありがとうございました。ほんとうに有意義な話でした」という言い方をするのです。
■2.ホームで交渉する
野球場やサッカー場のホームかアウェイかを、相手との面談場所に生かすのです。自分で自由に選べるなら、自分の行きつけのホテルとか喫茶店のように、馴染みのある場所を選びます。
よく知った場所なら、自分の話しやすい席、飲み物の注文やトイレの場所、席を外して電話連絡しやすいコーナーなど、機能的にも自分の優位を保てる条件がそろっています。しかしそれ以上に重要なのは、心理的に余裕が持てるということなのです。
■3.一般論で攻められたら、例外を一般にする
一般論は全体的な傾向を述べているだけであって、正解を述べているわけでも、例外の存在を否定するものでもありません。(中略)
そこで、「ふつう」「たいてい」という一般論の言葉で説得しようとしてくる人に対しては、自分の身近で思いつく限りの「例外」をあげ、それをさも「ふつう」のように反論すればいいのです。
「エコ家電がいいことは知っているけど、私の会社ではAさんも、Bさんも、Cさんもまだ全部買い替えないって言ってたわ」(中略)
と、いうように、相手が例外として攻めてきたことを、一般化して反論すればいいのです。相手は説得の立脚点を失くし、こちらの「NO」を認めざるをえなくなります。
■4.権威をうしろ盾にする
古代中国の宋の宰相が、国内改革を断行しようとして、家来の意向を尋ねました。家来は「おやめになったほうが賢明です」と進言したいが、そうすれば首を切られ、国は存亡の危機にさらされる。考えあぐねた末、家来は「私に異存のあろうはずはありません。しかし、孔先生によれば……」と切り出し、孔子の名言を引用すると、宰相は断行することをあきらめ、家来は斬首を免れたといいます。孔子の後光効果によって反論に成功した例です。
■5.一人であっても「一人称複数」を使う
ある企業の社長で、労働組合との交渉の名手と称される人がいましたが、交渉の秘訣はただ1つということでした。それが一人称複数の術です。
彼は、団体交渉の席で、ずらりそろった労働組合の代表たちに、たった一人でありながら、けっして「わたし」という言葉を使いませんでした。
「われわれの会社の昨年の利益率は、3パーセントでね、これはなかなか厳しいところだ。われわれみんなよく頑張ったけれども、このデフレからの脱却はわが社だけで解決できる問題でもない。そうだろう、きみたち。(中略)」
というように、会社全体一人称でまくしたてる社長の攻撃を、相手はたやすくかわすことはできません。社長の言う"われわれの会社"という漠然とした集合体に立ち向かわざるを得なくなり、攻撃の対象があやふやになってしまうからです。
■6.話を抽象化して相手を煙に巻く
話の範囲が拡大するにつれて、焦点はぼけていきます。サミュエル・イチエ・ハヤカワは、べッシイという名の牛を抽象化して「牝牛」。牝牛を抽象化して「哺乳類」。というように説明しました。べッシイと哺乳類とでは、哺乳類のほうがはるかに抽象的なことがお分かりいただけるでしよう。
また、販売会社やスーパーマーケットなどでは、抽象の梯子の応用を、クレーム処理担当者が使っています。一般消費者にはなじみのない抽象的な専門用語で、「抽象の梯子」をかけ上るのです。製品や価格のような具体的な苦情であっても、そのうち煙に巻かれて、当社に落ち度はないということを説得されることになります。
■7.あいてのわずかな弱点を繰り返し攻撃する
たとえば、「疲れているだろうが、残業してくれないか?」と言われたときには、「はい、おっしゃるとおり、とても疲れていて……」とくり返します。
「少々お値段はお高くはなりますが、値は値ほどですから」と聞けば、「ほんと高いわよね、そんなに高いと払えないわよね。ほんとに高い」とくり返します。(中略)
相手が口を滑らせた否定的な部分に固執して、いつまでも刺激をくり返すのです。言葉の綾とはいえ、相手は、自分がいったん言ったと認めている事実ですから、反論の根拠を失って、最終的には退く以外にないのです。
【感想】
◆冒頭で上野さんのことを「ベテラン弁護士」と申し上げましたが、アマゾンの著者紹介にも特に生年月日については書かれておらず、またググっても同姓同名が多くて、どの方かわかりませんでした。ただ、弁護士になられる前に、まず検察官になられていて、それが昭和37年ということで、ちょうど50年前。
ですから少なくとも70歳以上であることは明らかであり、当ブログでご紹介してきた著者さんの中でも、かなり高齢の部類に入ります。
それだけに、手がけられた事例として収録されている事件の中には、レコードを万引きした青年のお話があったり、安保闘争時代のものがあったりと、時代を感じさせられるものがw
もっともだからといって、その手法が現代に通じないワケではなく、むしろこうした「反論術」「交渉術」は古くから引き継がれてきたものが多いです。
例えばこんな本もありますし。
権力(パワー)に翻弄されないための48の法則〈上〉
参考記事:【出世の心得?】『権力(パワー)に翻弄されないための48の法則〈上〉』が予想通り濃厚だった件(2011年05月24日)
◆また、本書はタイトルに「反論」とありますが、かならずしも正面切って争う話だけではありません。
例えば、相手が思わず反発したくなるような否定的な言葉を避けて、「共感を示す」言葉を使う。
ほめ言葉や、感動詞を用いて、相手との距離を近づける。
自らの失敗談を話して、新密度を高める、等々、「剛」ではない「柔」の手法も満載。
これらは特に、上司と部下や親と子といった、本来争うべきではない相手との「交渉」に有効です。
◆一方、まともに戦えない場合の、相手の攻撃をかわすテクニックもいくつか。
上記ポイントの6番目のように「煙に巻く」のは、まさにそうですし、5番目のお話も、「こちらは一人だけ」という「弱点」を補うものです。
同様に、「一言も発しない同伴者」でも連れて行くと効果があるのだそう(詳細は本書を)。
他にも「弱点を指摘されたら沈黙や引き伸ばしで応える」という、いかにも弁護士さんらしい手法が掲載されていました。
◆弁護士さんは「交渉」するのがお仕事であり、そのやり方も、案件や相手によってさまざまです。
ですから本書のテクニックも、TPOを選んで活用すれば、きっと効果があるハズ。
当ブログでは、今までもこうした「反論」「交渉」「折衝」の技術に関するご本を紹介してきましたが、本書を含め、これらすべての中から必要に応じて使うべきかと。
もちろん「いつどこで何を使うか」の判断は、経験によって磨かれるものなのでしょうが。
「絶対負けない」とは限りませんが、「負けない確率を高める」1冊!
弁護士が教える絶対負けない反論術
第1章 自分が不利な時に使える反論術
第2章 ノーをイエスに変えさせる反論術
第3章 自分の弱点を悟られないで勝つ反論術
第4章 心理トリックを活用して勝つ反論術
第5章 タイプ別・効果的に使える反論術
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【編集後記】
◆当ブログでも過去何冊かご紹介してきた「話題の達人倶楽部」からの新刊。この一冊で面白いほど身につく!大人の国語力大全
相変わらず分厚い(381ページ)ながらも、お値段1,050円とお買い得です!
ご声援ありがとうございました!
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