2012年12月11日
【オススメ】『ずる―嘘とごまかしの行動経済学』ダン・アリエリー

ずる―嘘とごまかしの行動経済学 (ハヤカワ・ノンフィクション)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、『予想どおりに不合理』や『不合理だからすべてがうまくいく』でお馴染みのダン・アリエリー教授、待望の新作!今回のテーマは、タイトルにもあるように「不正行為」にについて、数々の実験からその実態を明らかにしています。
アマゾンの内容紹介から。
ビジネスや政治の場にごまかしを持ちこませず、プライベートでも嘘のない関係を作るためのヒント満載。わかりやすい実例といくつもの実験で、不正と意思決定の秘密を解き明かす。
いつもながらですが、付箋も貼りまくりです!


【ポイント】
■1.不正は多くの人が自分を正当化して起きる大金がなくなると、わたしたちはたいてい1人の冷血な犯人のしわざだと考える。だが美術愛好家の物語が教えてくれるように、不正行為が起きるのは、1人の人が費用便益分析をして大金を盗むからとは限らない。むしろ多くの人が、現金や商品をちょっとだけくすねることを、心のなかでくり返し正当化する結果として起きることの方が多いのだ。
■2.現金から離れると不正しやすくなる
結果どうなったか。数秒後には現金に引き換えられるトークンを、嘘を言って手に入れた協力者は、現金を直接手に入れるために嘘を言った人たちに比べて、2倍も多くごまかしをしたのだ。トークン条件の協力者の方が、たくさんごまかしをするだろうとは思っていたが、現金から小さく一歩離れただけで、これほどまでにごまかしが増えたことに、わたしは正直驚いた。
■3.署名の位置でも不正は変わる
この実験には、条件が2つあった。一部の協力者は、用紙に最初から最後までもれなく記入したあとで、公的文書でよくあるように、一番下に署名した。この署名には、用紙に記入された情報が正しいことを証明するという意味合いがあった。これに対して2つめの条件では、まず用紙の最上部に署名をしてから、必要事項を記入した。これが「道徳心を呼び起こす」条件だ。
結果、何がわかったか? 最後に署名する条件の協力者は、実際の得点に4問ほど水増しした数を申告した。では最初に署名した人たちはどうだったか? 署名が道徳心を呼び起こす役割を果たしたとき、協力者は1問しか水増ししなかったのだ。
■4.意志力が減ると不正は増える
「x」と「z」の文字を使わずに作文を書いた人たちは、ごまかしに少々手を染め、正答数を1問水増しした。しかし同じ破棄条件でも、「a」と「n」の文字を使わずに作文を書くという苦難を乗り越えた協力者は、臆面もなかった。3問も多い正答数を申告したのだ。つまり、課題の負荷が高く、消耗を招くものであればあるほど、協力者はごまかしを増やしたことになる。
■5.にせものを身につけると不正しやすくなる
もし自分の身につけているものがにせものだと感じた場合、そのせいで、数字探し課題でごまかしをしやすくなるだろうか? 逆にごまかしをしにくくなるだろうか? それともごまかしの量に変化はないだろうか?
結果を教えよう。例によって、大勢の人がちょっとずつごまかしをした。だが「本物」条件で、実際より多い問題を正答したと申告した協力者が、全体のわずか30%たったのに対し、「にせもの」条件では71%もの人が、実際より多い正答数を申告したのだ。
■6.創造性が高い方が不正しやすい
このデータをもとに、各部署の従業員の道徳的柔軟性[道徳を曲げる傾向]をはじき出し、彼らの柔軟性が、仕事で要求される創造性の度合いとどのような関係があるかを算出した。結果はどうだったか? 道徳的柔軟性の水準は、所属部署で要求される創造性の水準と密接に関係していた。デザイナーとコピーライターが、道徳的柔軟性の水準で最上位に位置したのに対し、経理担当者は最下位だった。「創造性」が職務内容に含まれるとき、人はこと不正行為に関しては「やっちまえ」と思いがちであることがわかった。
■7.不正は感染する
以上の結果を考え合わせると、ごまかしがごくあたりまえに行なわれること、そしてごまかしには感染性があり、周りの人の問題行動を目撃することで量が増える場合があることがわかる。具体的に言うと、わたしたちをとり巻く社会的な力は、2つの方法で作用するように思われる。ごまかしをする人が自分と同じ社会集団に属しているとき、わたしたちはその人を自分し重ね合わせ、ごまかしが社会的により受け入れられやすくなったと感じる。だがごまかしをする人がよそ者だと、自分の不品行を正当化しにくくなり、その不道徳な人物や、その人が属するほかの(ずっと道徳性の低い)外集団から距離を置きたいという願望から、かえって倫理性を高めるのだ。
【感想】
◆できるだけ引用量を抑えて書いているため、分かりにくくてスイマセン。まず前提として触れておくと、本書内で行われる実験の多くは、テストの結果を「自己申告」するため、この結果を「ごまかす」ことで、金銭的便益(額は実験によって異なります)を受けられるというもの。
これにどのような条件を加えると、「ごまかし」が増えるか、もしくは減るかを、各章ごとに明らかにしています。
本当は実験内容も詳しく書きたかったのですが、ボリューム的にどう考えても無理なので、最後の結論部分だけ列挙した次第。
できれば本書で直接ご確認頂きたいところです。
◆冒頭の画像のようにあれだけ付箋を貼っているのですから、ここに挙げたパターン以外にも不正の要因はいくつもあるわけでして。
たとえば、金融サービス業界にいてモーゲージ証券を好ましい、と思っていることで、年500万ドルほどのボーナスがもらえるのであれば、モーゲージ証券が安全だと信じたい気持ちが高じて、本心からそう思うようになってしまいます。
つまり、たとえ不正をしたにしても、必ずしも悪意があったわけではなく、自分が正しいと思ってやったということ。
これに加えて、上記ポイントの2番目にあるように、こうした金融商品はホンモノの現金ではない分、さらに「都合よく」扱われることになります。
なるほど、こうして米国の金融危機は起きたのだな、と(下記は本書内で紹介されている映画)。
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◆興味深かったのが、上記ポイントの3番目の「署名の位置」の話で、アリエリー教授はこの実験結果を携えて、国税庁(IRS)に向かいます。
「用紙の一番上に署名欄を作れば、皆正確に書くはず」と主張する教授に対し、当局は「法律違反になります」とすげない答え。
なおも「上下2回署名させては?」「用紙の最初に汚職撲滅の特命チームに寄付するようよびかけては?」と食い下がるものの受け入れられず、挙句の果てには、その数年後に教授は税務調査に入られたという。
ちなみに、このときの会合とは何の関係もないはずだと、私は信じている。ちょww
後に大手損害保険会社の自動車保険の記入用紙で、教授は持論を補強していますので、気になる方は本書にてご確認を。
学校の試験等でも、不正をしない旨の署名を最初にさせれば、カンニングは減るのかもしれませんね。
◆本書は過去2冊の著作に比べると、テーマがテーマなだけに、ビジネスに活かすのはちと難しいかもしれません。
ただ逆に、「人間の本質を暴く」という意味では、本書が最も「深い」気が。
もちろん、会社において従業員の不正があるような場合には、その改善策や軽減策を講じるのに役立つことウケアイ。
我が家の場合は、ムスメの「嘘やごまかし癖」の対策に用いたいと思います。
アリエリーファンならマストでしょう!

ずる―嘘とごまかしの行動経済学 (ハヤカワ・ノンフィクション)
序章 なぜ不正はこんなにおもしろいのか
第1章 シンプルな合理的犯罪モデル(SMORC)を検証する
第2章 つじつま合わせ仮説
第2B章 ゴルフ
第3章 自分の動機で目が曇る
第4章 なぜ疲れているとしくじるのか
第5章 なぜにせものを身につけるとごまかしをしたくなるのか
第6章 自分自身を欺く
第7章 創造性と不正―わたしたちはみな物語を語る
第8章 感染症としての不正行為―不正菌に感染するしくみ
第9章 協働して行う不正行為―なぜ一人よりみんなの方がずるをしやすいのか
第10章 半・楽観的なエンディング―人はそれほどごまかしをしない!
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【ヒューリスティック】『思い違いの法則: じぶんの脳にだまされない20の法則』レイ・ハーバート(2012年04月24日)
ヤバい経済学 [増補改訂版](2007年05月16日)
【ヤバ経再び】『超ヤバい経済学』スティーヴン・D・レヴィット,スティーヴン・J・ダブナー(2010年09月27日)
【編集後記】
◆ちょっと気になる本。
仕事も人生も整理整頓して考える ビジュアル3分間シンキング
私の好物である「ビジュアル本」。
しかも翻訳本ですから、これは要チェックかな、と。

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