2012年10月30日
【スゴ本!】『ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣』イアン・エアーズ
ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣
【本の概要】
◆今日お送りするのは、昨日の「未読本・気になる本」の記事のトップでご紹介した1冊。『その数学が戦略を決める』のイアン・エアーズ教授が、「コミットメント」について掘り下げまくっております。
アマゾンの内容紹介から。
人はなぜ目標が達成できないのか?それは、生物が長期的な利益よりも短期的な誘惑に極端に弱いからだ。それを防ぐために行動経済学が教える方法、それが「コミットメント契約」。成功への努力を的確に行うために最適な「アメとムチ」を組み立てるこの方法を実践すれば、豊かな成果が手に入る。
興味深い事例が満載で、思わず付箋を貼りまくりました!
いつも応援ありがとうございます!
【ポイント】
■1.ザッポスの新人研修のインセンティブとは?4週間にわたる新人研修の1週目が終わったところで、新人ザッポス従業員は「申し出」を受ける。今辞めれば、これまでの分の給料に加えて、無条件で2千ドル支払う、と。(中略)
1つには、同社はこの申し出を選別装置として使っている。すばらしい会社で働く機会よりも手っ取り早い2千ドルを選ぶような社員は、ザッポスの求める社員ではない。(中略)
でもわたしにとって本当におもしろいのは、「申し出」の心理的なインパクトだ。この賄賂を断ることで、研修生たちはザッポス社でのキャリアのきわめて早い時期に、自分自身に対して自分がこの仕事に価値を置いていることをシグナリングするわけだ。
■2.コミットメントする金額とダイエットのリバウンドとの関係
でも本当におもしろいのは、ほどほどの金額をリスクにさらしたら1年後の結果がずっとよかったということだ。300ドル契約の人も、30ドル契約の人も、1年後にはかなりリバウンドしている。でも150ドル契約の人は、1年後にはさらに1.1キロ体重が減っていた。あまりに極端な契約は、一種の心理的な反動を生み出したようだ。あまりに極端な契約を終えた人々は、新たな自由を謳歌しすぎて、かつての高カロリー生活に戻ってしまったようだ。
■3.現金と豪華な賞品のくじ引きとどっちがいい?
たとえば、ある研究でキヴェツは、空港で飛行機を待っている旅行者たちに、飛行機会社からのサービスとして、すぐに2ドルもらうか、「アメリカ最高の30のグルメレストランどこでも使える」最大200ドル相当の食事券が当たる確率100分の1のくじ引きに参加するか、どちらかを選んでもらった。すると旅行者の84パーセントは、食事券のくじ引き参加を選んだ。でもおもしろいことに、キヴェツはまた、即座に2ドルか、現金200ドルが当たる確率100分の1のくじ引き参加とを選ぶ実験もやった。新古典派経済学者なら、現金くじ引きを選ぶ人は増えるはずだと予想するしかない。現金200ドルは。すてきな食事だろうとなんだろうと、200ドルのものなら何でも買える――そして食事券の一部が使われずに残る心配もない。でもキヴェツがやってみると、旅行者たちは現金くじ引きにはあまり食指が動かなかったようだ。それを選んだ人はたった65パーセント(統計的に有意な低下ぶりだ)。つまりくじ引きの文脈だと、豪華な商品のほうが、万能のお金よりも好まれるということだ。
■4.容赦ないコミットメント契約
10年以上にわたり、学生たちはかれに最大1万ドルの小切手を切ってきた。サインもしてあり、各種の慈善団体が受取人になっている。そして教授に論文を期日までに提出しなければ、ロブがその小切手を発送してもいいという許可も与えているのだ。
そして本当におもしろいのは、この学生たちが寄付しかねない先として選んだ慈善団体だ。ロブがこのサービスを提供して最初の5年間は、先送り学生たちが切った小切手の宛先は学生たちお気に入りの慈善団体だった。でも5年ほど前に、小切手の宛先を気に入らない慈善団体にしたほうがインセンティブとしてはもっと効果的じゃないかと提案した学生がいた。すばらしいことに、ロブが実際にこうした小切手を発送しなければならなかったことは一度もない。これは驚異的な結果だ。
■5.募金のフレーミングの違いとその効果
手紙の一部は、これまでにいくら集まったかを強調するグラフが描かれていた。残りの手紙は、目標達成まであといくら必要かが示されていた。(中略)
アエレットによれば、これまでこの団体に寄付したことのある人は「あといくら」グラフにずっと反応しやすいそうだ。募金経験者で、「これまで」手紙を受け取った人は1.6パーセントしか追加の寄付をしなかったが、「あといくら」手紙を受け取った人は12.5パーセントが寄付した。でも、慈善に興味があるといいつつこれまで寄付をしたことのない人だと、インセンティブが逆転した。こうした寄付候補者たちは、「あといくら」手紙より「これまで」手紙にずっと反応しやすかった(8.3パーセントに対して24.2パーセント)。全体として、相手に応じて適切なメッセージを使い分けることで、期待募金は3倍増となる。
■6.誠意フィルターとしてのコミットメント
コミットメントは、それが自分について他人に物語るもの故に価値を持つこともある。でも、ふるい分け装置としても有効だ。何かが起こると言いつつ、それにお金を掛けようとしない人物には要注意。浮気はしないと土下座して誓う夫がいたとしよう。今度不倫をしたら、夫婦の財産のうち妻の取り分をもっと増やすという契約書に署名するのを拒否するようなら、その夫はたぶん浮気癖を本気でなおすつもりはないのだ。だからこれは誠意フイルターとして機能する。
【感想】
◆事例中心で抜き出した関係上、引用部分が多くなってしまいましたので、この辺で。本書の原題は『Carrots and Sticks』であり、これは日本語で言うところの「アメと鞭」のこと。
帯のフレーズにもあるように「試験勉強、ダイエット、禁煙、英会話……すべてに応用可能!」な「アメと鞭」の具体的事例とその結果がわんさか収録されております。
特に多いのがダイエットで、それだけ拾っても1つの記事にできるくらい(「水着で講義をする」「頭を剃る」等々)。
そこで選んだのが上記ポイントの2番目で、まず、ダイエットに失敗すると30ドル没収されるのと300ドル没収されるのとでは、300ドルのコミットメント契約の方が効果がある、と。
また、その間の150ドルでやってみると、結果も中間くらい。
でも、リバウンドについては、上記のようにこの150ドルという「ほどほど」の金額が一番効果があったのだそう。
◆また、最初のザッポスの研修の話は、すぐ辞めるとお金がもらえることは知っていましたが、その裏の心理的効果までは考えたこともありませんでした。
確かに「2000ドルをも見送った」以上、自分の仕事は「それだけ価値があるものだ」と考えても当然です。
そして、その選択を本当に実現させようとして、一生懸命働く……ザッポスの強さは、こういうところにもあるのかもしれません。
もちろん、研修前に採用面接等があるわけですから、その時点で選別しているのでしょうけど、この申し出を受け入れる社員は、2〜3%しかいないのだとか。
◆そして、イアン・エアーズ教授は、この個々人の各種コミットメント契約をネット上で実現すべくサイトを作成しています。
それがこの「stickK」。
紹介しているブログを発見。
まさに「オカネ」を払うダイエット StickK.com - Spooky Data Spooks - Yahoo!ブログ
この「stickK」の誕生の経緯と利用状況等については、本書の第8章にてページを割いていますので、詳細はそちらにて。
ちなみに、上記ポイントの4番目に登場する「反慈善機能」は人気があって、金銭的な掛け金を持つ契約の4割で使われているとのこと。
そしてそこで断トツ人気なのが「ジョージ・W・ブッシュ大統領図書館」なのだそうですw
◆また本書の特徴として、翻訳本にしては珍しく、各章の終わりに「まとめ」があるのも、ビジネス書好きにはありがたいところ。
さらに、訳者あとがきとして、山形浩生さんの解説が8ページも!
そこで山形さんが言われているように、「行動経済学的な知見を、具体的な手法につなげている」ところが、本書のキモかと。
実際、我が家では、ムスメの勉強さぼりぐせを何とかしたいと思っていたので、本書は色々と参考になりました。
当然、激オススメでございます!
ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣
序章 コミットメント契約という魔法
第1章 今日の一個のリンゴと、一年後の二個のリンゴ
第2章 インセンティブかコミットメントか
第3章 損失は大きく見える
第4章 ガミガミ言われる気分
第5章 持続性と意識化
第6章 コミットメントは人を語る
第7章 やりすぎる危険
第8章 コミットメント店舗
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ヤバい経済学 [増補改訂版](2007年05月16日)
「行動経済学」友野典男(著)(2006年07月20日)
【編集後記】
◆本書と「よく一緒に購入されている本」として、こちらが紹介されました。科学は大災害を予測できるか (文春文庫)
こちらも面白そうですね!
ご声援ありがとうございました!
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