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2012年10月16日

【戦略】『新しい市場のつくりかた』三宅秀道


新しい市場のつくりかた
新しい市場のつくりかた

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事の中で取り上げた1冊。

結構分厚い本なのですが、それを感じず読みきれました!

アマゾンの内容紹介から一部引用。
本書では、経営学の研究者として、主としてものづくりの現場を歩き、新市場の創造に成功した企業を多く見てきた著者が、経営学をベースに新しいビジネスの戦い方、企画発想のヒントを説いたものである。(中略)
ビジネスのヒントが詰まった、気鋭の経営学者による、日本発の新しい経営書がここにある。

『ストーリーとしての競争戦略』がお好きな方なら、要チェックです!


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【ポイント】

■1.新しい問題を開発する
 今までそれなりの数の企業の商品開発事例を取材してきて、多くの事例で最大の問題と感じるのは、実はこの点です。つまり、新しい市場を創造しようとするならば、単に製品技術・生産技術を改善して、商品そのものをグレードアップさせるのみならず、それが解決しようとする問題、それを使用する社会環境、それをうまく使用できるような消費者の認知、それらの開発が統合されるべきなのは、ウォシュレットの例からも見て取れることです。(中略)

 この統合のための最初の鍵は、何よりまず、「新しい問題の開発」です。それこそが「新しい問題の開発」です。それこそが新しい文化の開発の出発点です。しかし、多くの組織は得てして既存の問題意識に基づいて既存の製品の性能を改善することで手一杯になっていて、今取り組んでいる既存の問題以外を課題として意識することも希薄になってはいなかったでしょうか? そうであるならば、その取組みの対象自体を根こそぎ見直さなければなりません。


■2.商品ではなくライフスタイルを提供する
 つまり、水泳帽メーカーである磯部商店が、単に水泳帽というものを提供するだけではなく、それをどのように使えば便利かというノウハウ、それを使った成果をどのように評価するかという価値の尺度までソフトを整備して社会に提供することで、それまではその商品を使う風習がなかった人たちに新しい風習を教え込んだのです。つまり、同社が売ったのは、モノであってモノでなく、水泳帽というモノは代金決済の手段であって、実際には商品は新しいプールライフの形だったのです。


■3.古い枠組みに固執しない
企業組織にとって、自社商品が存在する目的を新しく設定することは、なかなか容易ではありません。ビジネスモデルが今依存するポジションで、それなりの有意性を築いてきて、それが急に無価値になるわけではないからです。
 私はこれを「タバコ屋のおばあちゃんの論理」と呼んでいます。「昔よリタバコは嫌われていると言うけれども、相変わらずタバコが好きなお客さんはいてくれますよ。ただ、昔より年はとっているけどね」。このおばあちゃんからは、自分と価値観を同じくする相手しか見えていません。しかし、価値観を違える人々は、何も言わず黙って離れていきます。そうやってどんどん社会の中では古い枠組みに属する存在として、老いていきます。同じあやまちを、そうした多くの企業は犯していないでしょうか。


■4.ケニアに普及する岩手のかまど
 まず、調理時の熱効率が良くなって、煮炊きに必要な薪の量が4分の1で済むようになった。焚き火と違って無駄に逃げる熱が少なく、1つの焚口から同時に鍋を3つかけられるようになっているので、こんなに燃料を減らすことができるのだそうです。その結果、まめに飲料水を煮沸消毒することができるので、衛生が改善して、乳児死亡率が劇的に下がりました。そうすると、子どもが死ぬことに備えて多産の傾向があった現地の人も計画的に出産するようになり、母体への負担も減りました。そして、それまでは薪を集めてくるのは、女性にとってかなりの労働量だったのが、今では子どもたちが週末に拾ってくる量で足りるようになりました。これはもちろん、森林資源の保護にもなります。


■5.物理的性能ではなく情報で勝負する
 バイクに求めるものが輸送力なら、二輪で運べるものは四輪でも運べるから四輪のほうがコストパフォーマンスが良くなれば、みんなが四輪を買うようにをってバイクは売れなくなる。しかし、バイクに求めるものがそのバイクから自分が受ける刺激情報のコンテンツであるならば、他の情報では替えが利かない。そうすると、その「美しさ」にひかれた顧客を相手にすると、HDJは非常に強い立場に立てることになります。物理的性能ではなく、商品が使用者に発する情報そのもので勝負するということは、ハマればこんなに強い競争力になるのです。


■6.「外圧」を使いこなす
 奥井さんは、ハーレーという大型バイクが、顧客にとってより魅力的になるために障害となっている規制を緩和させるために、在日アメリカ大使館を訪れました。そして、大型バイクの免許を教習所で取得できるようにすること、高速道路でのバイクと乗用車の制限速度を統一すること、高速道路でのバイクの二人乗りができるようにすること、この3つの規制を緩和するように、アメリカ国務省から日本政府への働きかけを要請しました。(中略)

 この一連の政治プロセスについては、私はある国内バイクメーカーの方からも、「日本の業界からも長年それを働きかけていたが、やはり奥井さんの『アメリカからの外圧を利用する』というアプローチが決め手になった」という証言を聞くことができました。


【感想】

◆引用量がかなり多くなってしまったので、この辺で。

本書の場合、紹介事例の面白さに特徴があるのですが、いわゆるビジネス書チックというか、ライフハック的にポイントを列挙しているわけではないので、どうしても引用部分が長くなってしまうのが、当ブログのようなスタイルだと難しいところ。

逆にその分、語り口としては楽しめたので、分厚い本ながら、読んでいて飽きなかったのですが。

この辺は確かに『ストーリーとしての競争戦略』を彷彿させると言えるかな、と。

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)

参考記事:【スゴ本】『ストーリーとしての競争戦略』楠木 建(2010年10月20日)


◆本書の大きなテーマの1つが「問題を開発する」というもので、事例としては割愛してしまったのですが、分かりやすいのがお馴染みウォシュレット。

TOTO  ウォシュレットKV TCF426SC1 パステルアイボリー
TOTO ウォシュレットKV TCF426SC1 パステルアイボリー

……ってわざわざ画像貼るまでもありませんがw

ウォシュレットがまだ世に出る前の技術水準から言ったら、「おしりを洗うシャワー付き便座」を作ることくらい、問題なかったワケです。

そういう意味では「問題を解決しようとして」ウォシュレットは世に出たのではありません。

「トイレでお尻を洗いたい」という問題を設定したからこそ、開発されたのですし、その新たな風習(?)をテレビCMで広めたことにより、現在に至ったと言えるのでして……。




◆ウォシュレットは、まだ「なかった頃」の記憶が私にはありましたが、上記ポイントの2番目に登場する「水泳帽」は、私が子供の頃には既にありました。

というか、学校の水泳の時間に、なぜ水泳帽をかぶらなければいけないのか?

私はてっきり衛生面の理由かと思ってましたがあにはからんや、当時まだ研究過程であった「水泳教育」の一環だったんですね。

しかも、たった1つの企業から、全国の小中学校に働きかけたというのがスゴイ。

このフットマークという会社は、本書の第6章でも「アクアビクス」用の水着を開発する「目からウロコ」の事例で登場するので、こちらも要チェックで。


◆本書はそのまえがきで、みずからの事を「『B級グルメ』のようであれば」と言っています。

つまり、小難しい理論を持ち出さなくとも、「血となり肉となる」ことができれば良い、ということ。

なるほど、15年をかけて1000社近くの企業に接してこられただけあって、ネタのクオリティはさすがだと感じました。

そして私のようなガチな文系であっても、広い意味での商品開発は可能なのかも、と思わせてくれた点もありがたかったです。


新しい価値を創造するために!

新しい市場のつくりかた
新しい市場のつくりかた
第1章 さよなら技術神話
第2章 新しい「文化」を開発する
第3章 「問題」そのものを開発する
第4章 独自技術なんていらない
第5章 組織という病
第6章 「現場の本社主義」宣言
第7章 価値のエコシステムをデザインせよ
第8章 ステータスと仲間をつくれ
第9章 ビジネスの外側に目を向けよ
第10章 地域コミュニティにおける商品開発
終章 希望はどちらにあるか


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【目から鱗の経営本】『どうする? 日本企業』三品和広(2011年08月21日)

【草食系のススメ】「こころの価値を売る世界にただひとつだけの会社」小屋知幸(2010年03月04日)


【編集後記】

◆昨日届いた土井英司さんのメルマガによると、100号ごとに行われるBBM大賞は、今回、『良い戦略、悪い戦略』が受賞したそうです。

良い戦略、悪い戦略
良い戦略、悪い戦略

丁度、今日ご紹介した本の「この商品を買った人はこんな商品も買っています」のトップに登場する本なので、未読の方はあわせてどうぞ。


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