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2012年10月13日

【非道?】園子温監督の売れるための努力がパネェ件


非道に生きる (ideaink 〈アイデアインク〉)
非道に生きる (ideaink 〈アイデアインク〉)

【本の概要】

◆国内外で数々の賞を受賞している映画監督である園子温さんの書籍最新作『非道に生きる』

HONZのレビューを拝見して、私が気になったのは、「非道」と称されたそのマーケティング手法でした。

実際、「ここまでやるか!?」というようなテクニックが多々。

園監督のクリエイティブな面をあえてスルーして、『自転車吐息』という自主映画におけるその集客術をご紹介してみます。


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【ポイント】

■1.目立つチラシを作る

Julia and Julia - Qantas FF GiveawayJulia and Julia - Qantas FF Giveaway / avlxyz


◆自主映画には予算がないため、チラシはとにかく「目立つ」ことが大事。

園監督曰く「映画のテーマや内容なんてどうでもよくて、たくさん並んでいるチラシの中で、いかに手に取らせるかということだけを考えればいい」とのこと。
 実際に僕が作ったチラシには、劇作家であり脚本家である内田栄一さんに映画評を頼んで、裏面を丸ごと使ってそれを掲載しました。当時としては画期的でした。普通であれば映画のあらすじやキャストを入れるけれど、内田さんの評論と公開日以外に何の情報もない。とにかく挑戦です。チラシの表面には「俺」と書かれた旗を持った僕が夜道を突っ走っている写真と「自転車吐息」というタイトルしかない。余分な要素を取り払って、引き算で攻めてみたのです。
その表面の画像は冒頭の映画タイトルのリンク先にもありますが、こんな感じ。



確かにこれは、目立ちますワナ。


■2.詐欺ギリギリの肩書をつける


Berlinale_2011 / 95Berlin


◆これは良い子は真似をしてはいけないテクw
映画に箔をつけたいと思って、チラシの上に「ペルリン国際映画祭招待作品」と重ね刷りしました。写真に紛れる感じで、よーく見れば「べ」じやなくて「ペ」であることが分かる。「ペルリン国際映画祭」というのは僕の自宅でやっている映画祭なので、嘘をついているわけではありませんよ(笑)。
いやいやいや、それ嘘だからwww

商業映画でこんなことやったら、大問題だと思いますが、グレーゾーンぎりぎりというか、ブラックど真ん中ですよねw

ただその後、「ペルリン国際映画祭招待作品」だった『自転車吐息』を、園監督はホンモノの「ベルリン国際映画祭招待作品」にしようとするのですが、その顛末については、本書にてご確認をw


■3.チラシを配りまくる

Lots of @cardiffdesfest flyers to fold!!Lots of @cardiffdesfest flyers to fold!! / Carwyn Lloyd Jones - Dylunio Creadigol


◆チラシを映画館に置くことは「当たり前」で、それ以外の場所でも配布します。
演劇やダンスを見るとドサっともらう挟み込みチラシに映画のチラシを入れたのは、僕が初めてなんじゃないかと思います。しまいにはマンションやアパートを一網打尽にして、一軒一軒の郵便ポストにチラシを入れていきました。
なお、単に「園子温」とガリ版で刷った張り紙を、繁華街の電柱柱から路上まで延々と貼って、警察につかまったりもしたのだそう。


■4.手書きハガキで人を呼ぶ


Postcard / Mom Smackley


◆そんなことをしている間に、園監督は、渡辺文樹監督に出会い、試写会に人を呼ぶべくアドバイスを受けます。
朝日新聞の記者からどこぞの変人まで、渡辺監督が集めた膨大な名刺を何百枚もコピーしてプレゼントしてもらったおかげで大変助かりました。彼には一生頭があがりません。とにかく頂いた連絡先を肉筆でハガキに書く。ひたすら試写状を書きまくる。「とにかく筆で書け。情熱を込めて、住所も筆で書け! 俺なんかコケシにハガキを突っ込んで送ってるぞ!」と渡辺監督に言われるがままに、一枚一枚書いていく。
コケシの話はよく意味が分かりませんがw
 宛名と住所を書いた後には、ボールペンに替えて一筆添える。「××様 ぜひご覧ください。待っています」「あなただけに見てほしいのです」と、その人個人に向けて伝えると必ず試写会に来てくれた。
この辺は、むしろビジネス書のセールス本にあるようなテクですね。


■5.電話でダメをおす


Mandeville Maxens telephone / Infrogmation


◆もちろんハガキも送りっぱなしではありません!
 試写状は送って終わりではなく、相手に届いた頃を見計らって電話をしました。送付リストの中には鈴木清順や大島渚といった「ここにも電話するの!?」といったビッグネームがあったのですが、ひるまず電話。奥さんが出て「あ、清順ですか? いま靴を履いてますから替わりますね」といった調子です。
当然こうしたビッグネームは、園監督のことを知らないハズ。

この辺りは、レーガン米大統領やサッチャー英首相にメッセージを送った高野誠鮮さんを彷彿とさせますねw

ローマ法王に米を食べさせた男  過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?
ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?

参考記事:【確かにスゴ本】『ローマ法王に米を食べさせた男』高野誠鮮(2012年07月06日)


■6.アフターケアも忘れない


Merle calling / flash.pro


◆来てくれたら、来てくれたで、アフターケア!
 試写に来てくれた人には2日後くらいにまた電話する、というアフターケアも忘れませんでした。無理矢理に知り合いを増やすような行為に近いので、もともと人見知りな自分の性格の許容範囲をまったく超えた世界です。ひっきりなしに電話をかけ、また電話がかかってくるので、あるときは郵便ポストの上を机にしてハガキを書いては投函していたくらいです。
確かに観てくれたとしても、そのことと、それ以降のアクションとはまた別ですから。

ただ、こうした園監督の努力により、『自転車吐息』の紹介記事や映画評は、圧倒的な数のメディアに掲載されたのだそう。


■7.集客結果を次回につなげる


Queueing - standing in line before 10 o'clock a.m. / Roberto Verzo


◆集まったお客さんも、次回以降の集客に利用します。
中野武蔵野ホールは当時中野の商店街のそばにあって、入口通路も外の道路も狭いので、お客さんがすぐ劇場の外に溢れてしまう。それもまた人目に付いて、夜にめちゃくちゃ混雑していて何が起きているんだ?と話題を呼びました。その様子をちゃっかり写真に撮り、次のアンコール上映時のチラシに利用するなど、宣伝に勢いをつけていきました。
客が溢れることを計算した上で、この映画館を選んだのではないのでしょうが、まさしく行列効果ですね!


【感想】

◆この『自転車吐息』の観客動員数は、「10日間のレイトショーで2500人」という自主映画としては画期的なものでした。

しかも、この結果を受けて、2ヶ月後には2週間のレイト上映をし、そこでも5000人を動員。

さすがに昼間に移って、アンコール上映を合計6,7回したのだそう。

もちろん、映画のクオリティも高かったのでしょうけど、それ以上に、園監督がここまでやっていた、ということが大きかったかと。


◆かつて勝間さんは、こちらの作品で「本を売る努力」について述べられたことがありました。

読書進化論~人はウェブで変わるのか。本はウェブに負けたのか~ (小学館101新書)
読書進化論~人はウェブで変わるのか。本はウェブに負けたのか~ (小学館101新書)

参考記事:【読書】「読書進化論」勝間和代(2008年10月02日)
 私は、出張のため、東京駅に行ったときに、例えば新幹線に乗るまで30分あるとすると、丸善丸の内本店に行って、自分の本のポップを書いたりします。ポップ1枚書くだけで売れるのでしたら、それはたいした手間ではありません。
クリエイティブなことをされている方が、こうした「売る努力」をすることに対して、ネガティブな見かたをする人は結構いますが、本当に自分の作品を多くの人に届けようと思ったら、こうした努力も必要なのだな、と。

そもそも園さんの作風は独特ですけど、上記のテクニックは作品内容とは全く関係ないですから。

物を売りたかったり、人を集めたい方にとっては、きっと参考になると思います。


◆なお、本書自体については、このマーケティング部分は、ほんの一部分に過ぎず、それ以外は、園監督の生い立ちから作品の生まれた経緯、それそれの作品に対する園監督の思い等が綴られており、園作品のファンの方にとっても楽しめる仕様となっています。

いやもう、「17歳で家出して、たどり着いた東京駅でギターを弾いていたら、女性が近寄ってきたので、ホテルに誘って本当に行った」とか、もう現実の方が作品を超越してますってww

しかもこうした過去の出来事が、その後の作品に反映されているとか……。

紀子の食卓 プレミアム・エディション [DVD]
紀子の食卓 プレミアム・エディション [DVD]

クリエイティブ畑の方にもマーケティング畑の方にもオススメしたい1冊です。


いい意味で「これは非道い!」

非道に生きる (ideaink 〈アイデアインク〉)
非道に生きる (ideaink 〈アイデアインク〉)
はじめに
第1章 映画に向かって助走した青春
第2章 メジャーの舞台に立つまでの闘い方
第3章 映画は覚醒させるエンターテインメント
第4章 偉大さに追いつくようにして生きる
おわりに


【関連記事】

【確かにスゴ本】『ローマ法王に米を食べさせた男』高野誠鮮(2012年07月06日)

【読書】「読書進化論」勝間和代(2008年10月02日)

【面白!】『サブカルで食う 就職せず好きなことだけやって生きていく方法』大槻ケンヂ(2012年05月08日)

【オススメ】『この世でいちばん大事な「カネ」の話』西原理恵子(2011年08月17日)

【実践!】「人が集まる !行列ができる !講座、イベントの作り方 」牟田静香(2008年10月16日)

【オススメ!】「外食の天才が教える発想の魔術」フィル・ロマーノ(2008年03月20日)


【編集後記】

◆もうすぐ出る、園監督の研究本。

園子温映画全研究1985-2012
園子温映画全研究1985-2012

本書で興味を持たれた方ならお見逃しなく。


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