2012年09月12日
【計20人のヒミツ】『「調べる」論―しつこさで壁を破った20人』木村 俊介

「調べる」論―しつこさで壁を破った20人 (NHK出版新書 387)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、インタビュアー・木村俊介さんの手による「調査論」とも言える1冊。日頃ググっただけで「調べた」気になっている私には、耳イタイお話ばかりでした。
アマゾンの内容紹介から。
プロの資質としての「しつこさ」は、その調べ方に表れる。科学者、弁護士から、狂言師、漫画家まで、多様な職種の人に聞いた調査の実態は、意外に人間臭いものだった―。彼らがつかんだ「発見」とは。正解のない現実と向き合う構えとは。「調べる」という観点から、仕事のしんどさと光明を鮮やかに切りだしたインタビュー集。
タイトルにもあるように20人のプロによる「仕事のやり方」が明らかにされております!

【ポイント】
■1.一次情報を客観的に並べて伝えるもちろん、私のように、従来の「型」から少しだけ出ようとしたら、多少はあぶないんです。たとえば、暴力団の所有している土地の地価を調べるなど、過去にされていなかった調査をしたら、明け方、急に数人の男に仕事場に押し入られ、パソコンを壊されたこともあった。
殴られた時にはスローモーションみたいに相手の拳が見えたけれど、殴られた直後に見えた相手の拳、指の前面には、折られたばかりの私の前歯が突き刺さっていたりするのね。
でも、面倒だとは言っても、せめて一次情報を重ねたかたちで見聞きして体験したことだけを、引いた目線で客観的に並べて伝えたい。それが私の取材や執筆のやり方なんです。
(フリーライター 鈴木智彦)
ヤクザと原発 福島第一潜入記
■2.素人目線で潜入取材する
取材の方針は、徹頭徹尾、素人の目線で見るということに尽きました。一運動員として空気のように現場に密着してみた。いわゆる運動員のやることはすべてやる。集金に回るをんていう場面はまぁきつかったけれど、そんないやなこともやってみたかったんですね。
ぼくは取材者だけど現場のスタッフとして選挙戦に参加し、ポスターを貼ったり、自転車に乗って回ったりする活動もしました。現場を直に見て回れたことはよかったんですよ。
(ジャーナリスト 出井康博)
民主党代議士の作られ方 (新潮新書)
■3.本当に重要なことは、繰り返し報じる意味がある
『戦艦大和』も『シべリア抑留』も、まとめる上で自分にとって勇気が要ったのは「ぼくの書こうとしていることは、研究者、あるいはそれに近い方々にとっては、みんな、もう知っていることだろうな」という点でした。どこがニュースなんだと思われるだろう、と。でも、知らない大多数の人たちに伝えなければ、とは考えているんです。本当に重要なことは、機会を替えて媒体を替えて、繰り返し報じる意味があると。
それに、伝えられていないことがある。いまだにおじいさんたちが苦しんで闘っているということは、今だから伝えなければと思ったんです。彼らは言うんですよね。「シべリアは最長で11年間だが、その後の苦しみのほうが圧倒的に長い」と。しかし、その帰国後の長い時間は報道されていないんです。
(毎日新聞学芸部記者 栗原俊雄)
シベリア抑留―未完の悲劇 (岩波新書)
■4.取材はマンツーマンで
まず、ぽくの基本姿勢として、取材はマンツーマンでやらなければ意味がないと考えています。(中略)
囲みでたくさんの報道陣に監督や選手が取材を受けている。あれをスポーツ取材の王道とお感じになる方も多いと思いますが、ぼく自身としては、あれは取材には思えません。取材というもののほんとうの面白さは1対1の人間と人間で行うキャッチボールであり、そのやりとりがなければ、凄味や人間性なんてわからないんじゃないでしょうか。
(スポーツ報知プロ野球担当記者 加藤弘士)
■5.データを盛り込んで事実を見せる
私は個別のストーリーを調べるというよりは、エンジニア出身なので、ある程度は数字を扱えるという特徴を活かし、とにかく計算して表やデータにまとめ続けた。
まだ、統計がなかったのにどうやったか? すでに公表されている人口や収入などの国内統計をもとにすれば、そのうちで貧困と言える人がどのぐらいなのかといったデータは誰でも計算できるんです。誰も作ろうとしていなかったから、やりはじめたというだけです。(中略)
その後も、とにかく日本に貧困があるということを考えもしなかった人に現実を伝えられるデータが必要で、情に訴えるだけではダメだという姿勢で問題の本質をレポートし続けてきました。
本を書く時にはかならず、最新の客観的なデータをわかりやすく盛り込んで事実を見せる、というのが、私のやり方なんです。
(貧困問題研究者 阿部 彩)
弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書)
【感想】
◆引用部分が長くなってしまったのでこの辺で。私はもう、初っ端の鈴木智彦さんでヤラれてました。
上記で挙げた『ヤクザと原発』なんですが、HONZのこのレビュー読んで、非常に読みたくなった記憶が。
光は闇より出でて、闇より暗し −『ヤクザと原発 福島第一潜入記』 - HONZ
それにしても、部屋に乗りこまれてパソコンを壊されていたなんて(殴られて歯を折られたこともですが)。
◆取材にのめり込み過ぎて、ひどい目にあう、という意味では4番目の加藤さんも同じ。
四六時中、取材対象を追いかけたり調べたり、時には「15分で1000字を書く」という日々を送っていた加藤さんは、「家を放っておいたツケ」がまわって、結婚1年でスピード離婚をしてしまいます。
なにせ、携帯電話の電話帳には容量ギリギリの1000人の電話番号とアドレスが入っており、そのほとんどが男性で取材対象者なのだとか。
……って、むしろそんな状態で結婚できたことの方が驚きなんですがw
◆本エントリーでは個人的な趣向で、ジャーナリスト関係の方を中心に抜き出してしまいましたが、本書には他にも様々な職種の方が登場します。
120920追記:アマゾンの目次欄に登場人物リストが掲載されました!
・本田由紀 教育社会学者
・渡辺 靖 文化人類学者
・佐藤克文 海洋生物学者
・高木慶子 悲嘆ケアワーカー
・野村萬斎 狂言師
それぞれご自分の仕事において「突き詰める」「調べる」ことに関して一流であることは、本書を読めばご理解頂けるかと(って、ご紹介してないのですが)。
◆さらに終章では、本書の著者である木村さんのやり方についても言及しています。
木村さんの「道具」は、もちろん「インタビュー」。
取材対象から、ただ話を聞くだけではない「インタビュー」の奥深さを、多面的に解説してくれています。
ちなみに、インタビューのコツは「準備、本番、まとめのどの段階でも単に『時間をかける』だけで相当よくなる」のだそう。
いずれ自分で何かを調べて、発表する機会があれば、是非とも参考にしたいところです。
調べて成果を上げたい方なら必読!

「調べる」論―しつこさで壁を破った20人 (NHK出版新書 387)
第1章 調査取材で、1次資料にあたる
第2章 「世間の誤解」と「現実の状況」の隙間を埋める
第3章 膨大なデータや現実をどう解釈するか
第4章 新しいサービスや市場を開拓する
第5章 自分自身の可能性を調べて発見する
終章 インタビューを使って「調べる」ということ
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【Input&Output】『竹内流の「書く、話す」知的アウトプット術』竹内 薫(2009年05月03日)
【編集後記】
◆その木村さんの著作から。
料理の旅人
計25名の方にインタビューされているよう。
こういうの読むと、実際にお料理を食べたくなりますよね。

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