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2012年06月26日

【オススメ!】『武器としての交渉思考』瀧本哲史


武器としての交渉思考 (星海社新書)
武器としての交渉思考 (星海社新書)

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、今となっては皆さまお馴染みの瀧本哲史さんの最新刊。

新書とはいえ330ページもあるのですが、あまりに面白くて一気に読み切ってしまいました。

正直、前作に当たる『武器としての決断思考』よりも理解しやすく、「交渉」がテーマだけあって、事例も興味深いものが多々。

思わず付箋を大量に貼り付けてしまいましたよ!




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【ポイント】

■1.事業を興すには「ロマン」だけでなく「ソロバン」も大事
 本当にお金を集めたいのであれぽ、ロマンだけではダメです。その商品なりサーピスを誰が買って、いくら儲かるか、ということもちゃんと説明できなければなりません。
「面白いことをやっていれば、お金はあとからついてくる」というセリフをよく聞きますが、そう考える人は、自分自身のロマンばかりに目がいって、他人のソロパンを軽視しています。(中略)

 たしかにビジネスには「お金があとからついてくる」ようなケースも多々ありますが、それはあくまで結果論であって、投資家の視点から見ると「相手が儲からない商売は成り立たない」というのが原則になります。


■2.就活デモが効果がない理由
 彼らは、「自分が困っている」と主張すれば相手は聞いてくれるはず、と考えてデモを行いました。しかしそれは、さきほど言ったように「子どもの論理」です。
 相手に交渉のテーブルについてもらうためには、「自分の立場を理解してもらう」ことより、「相手の立場を理解すること」のほうが大切です。
 つまり、「僕が可哀想だからどうにかして!」ではなく、「あなたがこうすると得しますよね」という提案をするべきなのです。


■3.交渉においてバトナは最強の武器
バトナとは、目の前の交渉相手と合意する以外にいくつかの選択肢(Alternative)があったときに、「交渉相手に、私はあなたと合意しなくても別の良い選択肢があるので、それよりも良い条件でなければ合意しない」と宣言できる他の選択肢ということになります。
 バトナとして良いものがあれば、目の前の人と必ずしも合意する必要はないので、交渉上、強い立場になれるわけです。(中略)

 交渉においていちばん初めにやらなければならないのは、できるかぎりたくさんの選択肢を持つこと。具体的には、目の前の交渉相手と合意する以外の選択肢を多く持つこと。
 そして、そのなかのいちばん自分にとってメリットの大きな選択肢(=バトナ)を持ったうえで交渉にのぞむこと。
 まずこれが、合理的な交渉の基本になります。


■4.「代理人として交渉を頼まれた」というマインドを持つ
 自分は代理人で、弁護士のように依頼人に雇われて交渉している、と考えるのです。
 そうすると「自分のことを嫌な奴だと思われたらどうしよう」とか、「こんなことを言って相手を怒らせないだろうか」といった余計なプレッシャーがかなり軽減されて、客観的に物事を考えられるようになります。
 このメソッドは、交渉にかぎらず就職活動においても有効です。
 あくまで自分は「企業が求めるタイプの役をやっているだけだ」と考えることで、自己分析の泥沼にハマることなく、面接で求められる人格をうまくインストールしてみる。もっといえば、「演技」をしてみる。
 そうすることで、やはり余計な緊張やプレッシャーから解放され、面接がうまくいくケースが本当によくあるのです。


■5.譲歩する際には相手と自分とで価値に差があるものを条件にする
 このテクニックをうまく使っているのが、自動車のデイーラーです。
 よく自動車を買うときの値引き交渉で、販売店のディーラーが「これ以上の値引きはむずかしいんですが、その代わりにディーラーオプションの付属品をおつけします」などと言ってくることがあります。
 買う側にとっては嬉しい話ですが、実際のところ販売店側からすると、それらの付属品はメーカーからタダ同然の値段で仕入れているものなので、いくら顧客にあげても痛くも痒くもないわけです。


■6.「情報の隠蔽」そのものを取引の道具にしたリップルウッド
 リップルウッドは日本長期信用銀行の買収提案をした際に、条件として「抱えている不良債権の詳細をすべて明らかにしてほしい」と日本政府にオファーしました。それに対して日本政府は、そんな情報を明かしたら金融不安が広まりかねないと思ったのか、「中身は見せられない」と突っぱねました。
 リップルウッドはそれに対してなんと答えたのでしょうか?
 彼らは「わかりました。その代わりに安い値段で売却してください。またもうひとつ、われわれが買収した結果、不良債権を抱えている貸出企業がどんどん潰れても、それは情報を聞いていない結果ですから、日本政府が債務を保証してください」という条件を逆提示したのです。
 そして、たいへん恐ろしいことに、日本政府はその提案を受けてしまったのです。


【感想】

◆だいたいこの辺までが第4章(4時間目)で、残りの2つの章は割愛しております(スイマセン)。

実はこの第4章までが「通常の交渉」のお話で、続く第5章では、話が通じない「非合理的な人間」相手の交渉について言及。

瀧本さん曰く、非合理的な主張をする人には、次の6つのタイプがいるのだそう。
(1)「価値理解と共感」を求める人
(2)「ラポール」を重視する人
(3)「自律的決定」にこだわる人
(4)「重要感」を重んじる人
(5)「ランク主義」の人
(6)「動物的な反応」をする人
それぞれのタイプについての解説や対応については、本書の第5章にてご確認下さい。

ぶっちゃけ、この部分だけでもTIPSが豊富ですし、エントリーが1本余裕で書けるくらいの中身の濃さ。

というか、エントリーはおろか、もうちょっと膨らましたら本が1冊書けるくらいですよ(マジで)。

ちなみに、ここで事例として挙げられていた、「気難しいアンデスの職人から工芸品を買う話」は、かなり「目からウロコ」でした。


◆さて事例といえば、本書には「練習問題」形式で様々な事例が登場するのも特徴です。

例えばこのようなものが。

●1年のうち、どのタイミングで引っ越せば家賃交渉が有利になるか

●竹島領有問題で、韓国側にどのような交渉を持ちかければよいか

●カメラマンの許諾なく写真を用いて、大統領候補の選挙用のポスターを大量に印刷してしまったが、今さらどうオファーすればよいか

●商品の価格が誤った広告が雑誌に掲載され、既に書店に発送されている場合に、クライアントにどう謝罪すればよいか


答えについては「ネタバレ自重」しますけど、いずれも「なるほど確かに」となることウケアイ。

特に大統領候補の選挙用のポスターのお話は、1912年にセオドア・ルーズベルト大統領の選挙のときに実際にあったものだそうですから、本書で解説されている「交渉」でうまくいったということかと。

……うーん、交渉上手か否かで、とんでもない差がでてくるものです。


◆さらに最後の第6章は、瀧本さんによれば「お急ぎの方は、ガイダンスとここだけもかまわないので目を通して」という大事なもの。

その中で事例として紹介されているのが、ビジネス書好きならご存知であろう「オトバンク」です。

オトバンクが今のように大手出版社と契約ができるようになる前に、とある「キーとなる重要な契約」がありました。

その相手は、航空会社JAL。
 JALとの配信権の交渉は、初期のオトバンクにとって、もっとも重要と言っていい案件でした。しかし同時に、非常に厳しい交渉でもありました。
本書では、具体的にどのような提案や交渉をされたかが記されているのですが、それと同時にオトバンクの創業者である上田さんの「ロマン」についても触れられています。

そう、上田さんは、読書家だったお祖父さんが失明されたことをきっかけに、オーディオブックの普及を目指されたのでした。

目が不自由な人にも自由な読書を提供 オーディオブックを日本に根づかせる オトバンク社長 上田 渉|起業人|ダイヤモンド・オンライン

瀧本さん曰く、「交渉において、最後に人を動かすのもロマン」である、と。

なるほど、確かに!


◆本書は、ディベートのエッセンスが中心となっている『武器としての決断思考』に比べると、「交渉」という、日頃から接するもの(子育てだって「交渉」ですw)がテーマだけあって、非常に分かりやすかったです。

実際、交渉に関する類書を過去に何冊か読んでいたこともあってか、331ページという厚さも全く気にならず、ノンストップでお風呂で読了。

リアル書店で手に取ると、新書なのに分厚いので、一瞬ひるむと思いますが(私だけw?)、問題ないです。

このコンテンツで900円ちょっとというのは、どう考えてもお買い得でしょう。


これは激オススメせざるをえません!

武器としての交渉思考 (星海社新書)
武器としての交渉思考 (星海社新書)
ガイダンス なぜ、いま「交渉」について学ぶ必要があるのか?
1時間目 大切なのは「ロマン」と「ソロバン」
2時間目 自分の立場ではなく、相手の「利害」に焦点を当てる
3時間目 「バトナ」は最強の武器
4時間目 「アンカリング」と「譲歩」を使いこなせ
5時間目 「非合理的な人間」とどう向き合うか?
6時間目 自分自身の「宿題」をやろう


【関連記事】

【スゴ本!】『武器としての決断思考』瀧本哲史(2011年09月22日)

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【編集後記】

◆上記ポイントの3番目で出てくる「バトナ」ほか、交渉の基本的な考え方等について述べられているのがこの本。

実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)
実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)

レビューは上記関連記事の2番目になりますので、よろしかったらご覧ください。


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武器としての交渉思考 (星海社新書)作者: 瀧本 哲史出版社/メーカー: 講談社発売日: 2012/06/26メディア: 新書 このエントリで取り上げた「武器としての決断思考 (星海社新書)」のシリーズ。 相変わらず簡単な内容なのだが、社会人にとっては当たり前すぎる内容だった前
防御力が上がるのが本書の一番のメリット:武器としての交渉思考【本読みの記録】at 2014年01月12日 23:15