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2012年06月11日

【スゴ本】『表現の技術』高崎卓馬


表現の技術―グッとくる映像にはルールがある
表現の技術―グッとくる映像にはルールがある


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、リアル書店でチラ見して、即買いを決意してしまった1冊。

電通のエグゼクティブ・クリエーティブディレクター/CMプランナーである、高崎卓馬さんによって「物づくりの秘訣」が明かされています。

アマゾンに詳細がないので、版元のサイトから。
表現の使命はひとつ。
その表現と出会う前と後でその表現と出会った人のなにかを1ミリでも変えること。
未知の場所にあるココロという正体のよくわからないものにふれるために、僕たちはそのために、人生を削っていくのです。

広告屋さんの書かれた本は、それほど得意ではないのですが、この本はキテます!


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【ポイント】

■1.人は笑う前に必ず驚いている
 感情を動かすために絶対必要な要素、それは「オドロキ」です。すべての人は笑う直前に必ず驚いているのです。たとえば、『ガキの使いやあらへんで』というテレビ番組の七変化という企画を思い出してください。あるタレントが変装して会議室に現れる、そして部屋にいる人間はそれを見て笑うのをこらえるというシンプルなルールの企画です。見ていると、彼らは笑う前に必ず一度、その変化に対して驚いていることに気がつきます。いきなリゼロから笑う人間はいないのです。


■2.観客だけが知っていることをつくる
「観客のみが知っている未来」。それは時間の軸のなかでも効き目は抜群です。たとえば、誰が犯人かを観客だけが知っているという状況で物語が進む。交通事故で伴侶を失うことがわかっているのに進行する恋愛。不治の病であることを家族と観客が知り、それを知らない本人が将来を楽しそうに話している。こうした観客だけが知っていることをつくると、それを渡された観客は、そのことに小さな責任のようなものも同時に渡されてしまうのです。そのため、その事実をどう処理するかを考えざるを得なくなる。ココロが前のめりになる。そして自分が想像したように物語が展開してくれるかどうか、ドキドキしながら見守ることになる。それは、人の心を惹きつける物語のつくり方の基本のひとつです。


■3.葛藤が物語を進める
 物語を進行させるのは、対立がもたらす「葛藤」なのです。物語はシナリオではなく、登場人物の「葛藤」が絡み合って進むものなのです。こういう設定を与えられた人間が、劇的な(的外れな)選択をしてしまう。それこそが物語なのです。

 「船が沈む」は物語ではないのです。
 時間通りに着きたくて無理をした結果、
 「船が沈む」が物語なのです。


 時間通り着きたいと思うその男をこそ、描くべきなのです。船が沈む、を描写してもそれはやはり事件の説明以上のものにはならない。そのことで失うもの、そうせざるを得ない世の中の不幸こそが、物語なのです。


■4.ミッションがディテールを決める
極端に言うと、結婚式のスピーチもそうです。新郎の母親を泣かせる、とミッションを決めたらその内容も構成もより明確になるはずです。これは広告にとくに求められるものですが、この思考回路を鍛えたら、どんな表現にも対応できるようになります。
 商品のない映画や小説のような、どちらかというと自分を見つめて掘り下げて創作することが求められる表現でも、それがどんな人にどんなふうに作用するのかを想像することは、とても大切なことだと思います。いいミッションを発見すると、表現もすんなりでてきます。


■5.右脳と左脳を使う
 つくり手が「客観的」であることは、人に伝わるものをつくるうえで重要です。客観をきちんともつことができたら、表現をどうつくるべきか、それがどうすればより面白くなるかを考える力をもつことができます。(中略)

 そのために、左脳で考える癖をもちましょう。ロジカルに物事を徹底的に追いつめていくのです。笑いを笑いながらつくらない。泣けるものを泣きながらつくらない。冷静に相手の感情を想像しながら計算をしていくのです。そしてその表現が感覚的に「きてる」ものになっているかどうかは、右脳に判断させるのです。脳にしっかりこの左右の役割を与えることを心がけましょう。


■6.違和感は答えを教える
 いきなり客観的にすべてを俯瞰して表現をつくりだせる人は、そうはいないと思います。そんなときに自分の感覚を上手に使って客観的な思考を手に入れましょう。
 その感覚は「違和感」です。僕は映像の編集のときに、よくこの違和感を最大限に活用します。つながった映像を何度も繰り返して見る。トップカットから順に、違和感があるところをあぶり出していく。そして同時にその理由を考える。どうしたら治るかを頭のなかで、シミュレーションしながら、またひたすら繰り返して見るのです。


【感想】

◆売れ線であるがゆえに多すぎて、かえって目立たない「白い装丁」に、「奇を全くてらってないタイトル」。

リアル書店の広告本の中に本書があったとしても、わざわざ手に取るビジネス書好きは、それほど多くないと思います。

そういう私自身も、本書が出てから20日間近く気がつかなかったのですが、たまたま手に取って読んでみたところ、「あら、ビックリ」のクオリティ。

クリエイティブ系の書籍の中でも、かなり秀逸な出来に仕上がっているのではないでしょうか?


◆紹介されている事例は、当然CM中心で、昔のものから、最近のものまで様々です。

例えば上記ポイントの4番目の「ミッション」の絡みで挙げられていたのが、東北新幹線・新青森駅開業告知CM「MY FIRST AOMORI」。



また、割愛してしまったものの付箋は貼った「主人公にプチ不幸を」というお話では、懐かしいこのauのCMが。



「広告は自画自賛するもの」という「予定調和」を壊すためには、こうした「プチ不幸」が有効なんですね(ちなみに彼の名前は「カブラギ」と読みます)w


◆割愛ついでに言うと、念願だった映画の話が来た時に、高崎さんがやった「細分化」のお話も触れなければなりません。

高崎さんは、まず、自分がやろうとしている映画にプロットが似ているものを選んで、徹底的に分解。

1つひとつのチャプターを付箋に書き、それを壁に並べ、さらに細分化してみました。

すると、「特殊な才能がなければ書けない」と思っていた映画のシナリオが、突然ひとつの「構造図」になったのだそう。

さらにこの構造図は、「実は万人が使える脚本の基本形」であることが判明。

その基本形とは……ネタバレ自重で(スイマセン)。


◆実際に本書では、そのやり方を映画『ダイハード』で具体的に実演してくれています。

細分化した『ダイハード』のチャプターを、大まかなプロットに修正し、そのプロットを別の設定に置き換えてみることで、まったく他の設定の物語が出来上がったのには、ビックリしました。

例えば「時代劇」「医療もの」「恋愛もの」等々。

もちろん、これだけで素晴らしい脚本が書けるわけではないのですが、「脚本を書く方法論を独学で身につけるいい方法」とのこと。

映画の脚本のみならず、普通に物語を書くのにも使えそうな感じです。


◆広告屋さんのご本の中には、「広告かくあるべし」的な「広告論」の本もあったりするためか、広告本全体が苦手な方もいらっしゃるかもしれません。

それに比べると、本書はより「クリエイティブ」なベクトルを持っており、幅広い層に受け入れられそうな気が。

また、本書内に多数収録されている、高崎さんご自身が書かれたと思われるCMの絵コンテもいい味を出していますw

ページ数はそれほど多くないものの、中身は極めて濃厚。

これはもうオススメせざるを得ません!

表現の技術―グッとくる映像にはルールがある
表現の技術―グッとくる映像にはルールがある
人のココロにふれる

つくり方をつくる

発想脳をつくる


【関連記事】

【スゴ本!】「広告コピーってこう書くんだ!読本」谷山雅計(2008年01月15日)

【脳内経験】『案本 「ユニーク」な「アイディア」の「提案」のための「脳内経験」』山本高史(2008年04月10日)

【スゴ本】「みんなに好かれようとして、みんなに嫌われる。(勝つ広告のぜんぶ)」仲畑貴志(2009年01月04日)

【オススメ】「アイデアのちから」が予想以上に面白かった件(2008年11月25日)

【超・発想!】「プチ哲学」佐藤雅彦(2007年06月10日)


【編集後記】

◆今日のご本に匹敵する、といったらやはりこちらの1冊を。

広告コピーってこう書くんだ!読本
広告コピーってこう書くんだ!読本

この本もガチでお薦め!

レビューは上記関連記事の最初にあります。


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