2012年06月05日
【クリエイティブ】『「企み」の仕事術』阿久 悠
「企み」の仕事術 [ロング新書]
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、故・阿久 悠さんの最後の単行本の新書版。たまたま、こんなツイートを目にしていたこともあって、リアル書店で思わず買ってしまいました。
「ザ・ベストテン」の構成に携わり学んだのが、「売れる歌は美術セットが組みやすい」ということでした。阿久さんの歌はどれもみんな、“絵が浮かぶ”、つまり映像的でした。
— 秋元康botさん (@yasushi_bot) 6月 3, 2012
本書では、阿久さんの書かれた歌詞に秘められた想いや戦略が、その歌詞ごとに詳細に語られており、圧倒されること必至。
マーケティングや企画に携わる方なら、読んで損のない1冊です!
いつも応援ありがとうございます!
【ポイント】
■1.気配の時点で意味あるものとして感じる何が新しいか、何が流行しているのか、そういった情報をハンテイングしているわけではない。強いていえば、ワクワクする「予感」に対して、アンテナを張っているといえばいいのか。(中略)
あくまでも、ちらほらと、違う人が別の角度でこだわっているのが聞こえたりしたときが、つかまえどころだ。はっきりした情報として流れ出してからでは遅いのだ。
誰かが情報として伝えているものを、「あ、いいことを聞いた」とばかりに取り入れたのでは意味がない。何でだろうという、ある種の気配みたいなものの段階で、それを意味あるものとして感じられるかというところに成功の要因が隠されている。
■2.リスクを孕んだものが大化けする
実のところ、あるターゲットを狙って、知性で書いたものを知性でとらえられるだけでは大ヒットにはならない。最初に想定した20万なら20万は行くだろうが、それが100万の大ヒットになることはない。
ところが、ゼロかもしれないが、もしかしたら100万かもしれないというリスクを孕んだものは、うまく聞き手の本能に触れた場合には、こちらの狙いの理屈や知性を越えた売れ方をしてしまう。
実際、僕の作品でも100万を超える大ヒットになったものは、みんなA面としては危険すぎるといわれ、あわやB面になりかかっていたものがほとんどだ。
■3.歌が世に連れなくなった時代
僕が作詞家として仕事をしていた60年代の後半から80年代の中盤くらいまでは、歌謡曲の中に時代の空気がしっかりと織り込まれていた。どの歌もその背景には時代の気配を強烈に発散していた。その時々の社会の出来事や個人の思い出が連動していて、曲を聴いたとき、この歌が出たときに自分はどこで何をしていたか瞬時に蘇らせる力があった。
それが今の曲はどうだろう。
流行っている歌の歌詞をじっくり聴いてみる。ところが、歌詞の中に時代が見えてくることはほとんどない。
■4.時代の飢餓感にボールをぶつける
歌謡曲はリアクションの芸術かもしれない。送り手がいかに意欲的であり、情熱的であっても、リアクションがない限り何の価値もない。毎日、ひとつでもふたつでも何かが跳ね返ってくることを期待しながらボールを投げ続ける。
そのうち幾つかが跳ね返ってきて、初めて作詞家として充実感を覚える。では、ボールをぶつけるべき壁、跳ね返してくれる壁とは何か。
それは時代の飢餓感だと思う。
今、何が欠けているのだろうか。今、何が欲しいのだろう、というその飢餓感の部分にボールが命中したとき、歌が時代を捉えたといってもいい。
■5.つまらない仕事をつまらないまま終わらせない
つまらない仕事を最初からつまらなくしているのは、他ならぬその人自身なのではないか。どんなつまらない仕事にも意味がある。(中略)
僕はそういうときにこそ、相手の予測を裏切ってやろうと、俄然やる気が起きてくる。何よりも自分に与えられた仕事がつまらないと認めることが嫌なのだ。
結果として依頼先に「あんなどうでもいい仕事を与えるんじゃなかった、もっとまともな仕事を与えれば良かった」と、後悔させるくらいの仕事をしてやろうと思った。
違ったテイストの提案でもいい。あるいは、気持ちの入れ方でも、技術の違いでもいい。依頼者がつまらないと思っているその仕事に、一生懸命に取り組む姿勢を見せることに特にこだわった。
■6.修行のように日記を書く
僕は長い間ずっと日記をつけている。(中略)
その日に何があり、その日は何であったか、僕のアンテナに引っかかったものを、世界情勢から料亭の料理まで同格に書いてある。それはアンチロマンの極である。
その日のことをイタリア製の大判の日記帳一頁にともかくびっしりと埋めるのは難行である。アンテナのかかりの悪い日もある。しかし、修行のように書いている。(中略)
日記を書き続けるということは僕にとって重要なことだ。日記を書くために、僕はいつもアンテナを張っていられる。毎日緊張して生きているといっても過言ではない。
【感想】
◆冒頭で、秋元康さんの発言をご紹介しましたが、阿久さんの歌詞が「映像的」なのは偶然ではなく、計算され尽くしてのことです。例えば32小節の歌を、8小節ずつ4ブロックに分けた場合、それぞれに4つのショットを構成することに。
最初が風景の入ったフルショット、次に人物に寄ったバストショット、サビで主人公のアップで台詞、最後にカメラが再び引いて、ロングショットに切り替わる、という塩梅です。
この法則に従った歌詞として挙げられていたのが、『津軽海峡・冬景色』。
◆阿久さん曰く、「この手法はテレビの放送作家であったことと無関係ではない」とのこと。
この辺、同じ放送作家出身の秋元さんと相通ずる部分があるのかもしれません。
また、秋元さんの作品と言えば、昨今はアイドル系ばかり思い浮かびますが、かつては美空ひばりさんの『川の流れのように』を書かれたこともありました。
それに対して、阿久さんは同じ年に生まれた美空さんにコンプレックスのようなものがあり、正面から向き合うことを避けていたのだとか。
僕は美空ひばりからずっと逃げ回っていた。同じ音楽業界の中に籍を置きながら、遭遇しそうな場所を避けていただけでなく、美空ひばりのための作品を書いて正面から彼女と向かい合うことからも逃げていた。Wikipediaによると提供した作品がないわけではないようですが。
◆そんな「計算ずく」の阿久さんでも、大ヒットは「リスクを負ったものから」というのが面白いです。
阿久さんが関わったプロジェクトとしては最大のヒットとなったピンクレディも、当初は「白い風船」という名前でデビューするハズだったところを、阿久さんが猛反対。
デビュー曲も、レコード会社によって、この『乾杯お嬢さん』がA面になりそうだったのを、作曲の都倉俊一さんと「キャンディーズと何ら変わりない」と批判(Wikipediaより)したのだそう。
うーん、ミリオン狙える曲ではないような(結果論ですがw)。
◆なお、本書の中で阿久さんは、音楽をヘッドフォンで聞くことを批判されています。
曰く「耳にバリアを張ってしまうと、歌を周りと共有できない」とのこと。
それで思いだすのが、このエントリーです。
阿久悠をも唸らせた半田健人の歌謡曲鑑賞術(阿久悠追悼に変えて) - てれびのスキマ
このエントリーでは、ヘッドフォンのことだけでなく、「半田健人流の歌詞分析」が披露されていますが、当の阿久さんご自身が自らの作品を解説しまくっているのが本書。
シングル総売り上げ6,828万枚(2011年6月時点)という歴代断トツ1位の実績は伊達ではありません。
これからの時代でも必要なクリエイティブセンスがここに!
「企み」の仕事術 [ロング新書]
第1章 仕組んだ成功と意外な成功
第2章 かっこよさとみっともなさは表裏一体
第3章 時代の飢餓感にボールが命中したとき
第4章 男と女は五分五分
第5章 人と同じ作品は書きたくない
第6章 「祭り」を作り上げろ
第7章 まだまだ何かある
【関連記事】
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【アイデア】『「考え方」の考え方』指南役(2008年10月30日)
【編集後記】
◆今日の本に関連して、秋元康さんのこの本も、必読かと。企画脳 (PHP文庫)
当ブログでのレビューは、上記関連記事の最初にあります。
ご声援ありがとうございました!
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