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2012年05月20日

【これはスゴイ!】『経営学を「使える武器」にする』高山信彦


経営学を「使える武器」にする
経営学を「使える武器」にする


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、超実践的な「戦略策定」のノウハウが学べる1冊。

本自体は厚くないのですが、中身の濃さに圧倒されました。

アマゾンの内容紹介から。
定石を極めてこそ革新がある。幾多の大企業を蘇らせた「伝説の研修」を初公開!経営書から学んだ他社の成功戦略を適用しても、会社はピクリとも動かない……。そんなケースが大多数のなか、自社における「正解の戦略」を本当に掴み取るためには何をすべきなのか。東レ、みずほ、JR西日本、商船三井など、業界も規模も多岐にわたる数十社で、劇的な事業革新をもたらした実践的経営学、そのノウハウの全て。

本書を読めば、ポーターの『競争優位の戦略』を、自分の会社で実践することができるかも!?


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【ポイント】

■1.「伝説の研修」の内容とは?
 ある企業と契約すると私は、企業内に開設したゼミナール方式の「授業」で、生徒として集まった社員たちに、徹底的に考えさせ、調べさせます。題材は、その企業の経営戦略そのものです。それまで上司に言われるがままに仕事をこなしていればよかった生徒たちは戸惑います。戦略を考えるのは経営者の仕事だと思っていたわけですから。それでも一流の経営書を穴が開くほど読み込ませ、汗を流して調べつくし、考えつくすことを求めます(中略)

 私の授業で議論された戦略はすぐに実践に移されます。多くの場合、研修には経営陣にも顔を出してもらいます。議論は空論ではなく、知的遊戯でもない。研修の場は、それぞれの社員の成長の場でもあり、同時にその企業の経営戦略策定の場でもあります。


■2.曙とポジショニング戦略
同じ資源でもどの場に置くかでその効果は異なります。違う言葉を使えば、「上がるリングを選べ」ということです。このポジショ二ングを間違えると、無惨な結果になります。
 実名を出して恐縮ですが、曙という格闘家がいます。ご存じの通り、元大相撲の横綱で私も大ファンでした。横綱引退後、2003年に総合格闘技に転向しました。(中略)
曙には大変申し訳ないのですが、これを見ていて私は、悪いポジショニングアプローチの典型に見えて仕方がありませんでした。(中略)

 でも、これは意外に笑えない事実です。企業の中を見渡せば、チーム・ヨコヅナのような部署はいくらでもある。「未達」「未達」「未達」――と3年連続で目標未達を繰り返しているような部署はいくらでもある。勝てる仮説もないのに、部下もろとも引き連れてその事業に突き進む。これで曙を笑えるでしょうか。


■3.大塚製薬のプロダクトポートマネジメント(PPM)
(オロナミンC、ポカリスエット、カロリーメイト等の)大塚製薬の製品は、初めに出た時は「ものすごく変なもの」のような気がするのですが、ほかの製品とは徹底的に差別化されている。ですから、時間と手間を惜しまずにその特徴のいいところを引き出していけば、「金のなる木」に育てていくストーリーが描きやすい。かつて松下幸之助は「成功の秘訣は成功するまで続けることにある」と言ったそうですが、大塚製薬の商品のストーリーは、まさにそれを地で行く話です。そういう意味ではPPMの優れた事例と言えます。


■4.顧客の声を集める
 私の研修では「VOC(Voice of Customer=顧客の声)」という言葉が頻繁に出てきます。顧客は何が欲しいのか、いくらなら買うのか。「STP」の定義づけやマーケティング・ミックスを立案するうえでは顧客の声が欠かせません。こういった事実を積み上げて、狙うべき市場や立ち位置を問い直す。私の研修が結果を出しているとすれぽ、この「STP十4P」と「VOC」の原則を愚直に追求しているからにほかなりません。


■5.「How」ではなく「What」を考える
 私の授業は、生徒が自ら策定した戦略案を実際に仕事のラインに載せて実行し、業績にどこまで貢献できたかをまとめた「卒業発表」をして終わります。(中略)

 では、一体どんなテーマが良いテーマなのでしょうか。もちろんケースバイケースですが、1つだけはっきりしていることがあります。それは、「始めに『How』ありきでは駄目だ。『What』を探せ」ということです。会社にとって最重要で、自身が全身全霊で取り組めるその『What』は、顕在化していない場合も多々あります。高い問題意識を持って、自分でそれを見つけ出すのです。


■6.「世界目線」で考える
 だから、グーグルアースで言うところの「鳥の目」まで視点を引き上げてみろ、という話をしました。「常石造船の製造する船の船尾品市場」じゃなくて、そもそも「船尾品市場」で見たら自分たちの実力はどうなんだ、と。
 こういう瞬間が、私の授業の醍醐味の1つです。普段、考えることも許されていないような大胆な仮説や視点を持ってもらう。タブーを解放するんです。親会社に部品供給していればいいとされてきた子会社に、「じゃあ、お前たちは世界で見てどうなんだ」「世界で戦えるのか」とぶつける。萎縮する生徒もいます。「無理だ」と諦める生徒もいるでしょう。でも、そうやって固定観念を取り払うと、俄然生き生きと輝きだす生徒も多い。
「そうか、世界で考えていいんか」
 財前さんと柿本さんはそういう生徒でした。


■7.トップブランドを狙うことによる「レバレッジ効果」
 その結果は想像の通り、見事に波及していました。例えば、2006年春夏シーズンにルイ・ヴィトンに10反入った素材を調べたところ、直後の秋シーズンにあるSPAが1600反注文していました。同様に、2007年秋冬シーズンに「Moncler」に60反入った素材も翌年の秋冬シーズンに別のSPAが800反注文していました。自社素材に限った話ですが、トップブランドで採用されると遠からずSPAでも採用されるという仮説が証明されたわけです。


【感想】

◆本書は前半部分で、「準備編」として経営学の基本について触れ、続く「実践編」で実際に研修での様子を描写しています。

ですから前半部分は、普通に経営戦略やマーケテイング本をお読みの方なら、既知の内容といったところ。

一方後半部分は、そういった「経営戦略」を自社の実際に落とし込む(しかも社員たちが自ら考えて)研修の模様が描写されるのですから、それはもう迫力があります。

舞台となるのは、著者の高山さんが2005年から研修を行っている、広島県福山市の地場企業・ツネイシホールディング。

生徒は、造船の社員もいれば、子会社が経営している温泉の支配人や、ガソリンスタンド、鉄工所で働く人もいて、さまざまです。

そんな生徒たちにまずやってもらうのが、この本を読んでもらうことだという……。

競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか
競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか


◆上記ポイントの6番目でチラっと名前が出てくる「財前さん」は、ツネイシホールディングの社内カンパニーである「常石鉄工カンパニー」の常務執行役員でした。

研修の初日に、財前さんが席に着くと、机の上に置いてあったのは、600ページを超える、この『競争優位の戦略』。
 鉄鋼一筋のオヤジとマイケル・ポーター。私の授業がなければ、永遠に相見えることのなかった2人でしょう。財前さんはこう漏らしてため息をついたと言います。
「おれは鉄工所のオヤジやぞ」
ただ、財前さんはあきらめず、帰宅後や休日に読み進め、高山さんのところにも質問の電話をかけてきたのだそう。

そして財前さんと部下の柿本さんは、上記のVOC(顧客の声)を集め、最終的に「中国市場を船尾品で攻める」という戦略を立てるのですが……詳細は本書にて!


◆なお、「実践編」につづく「補講」では、上記ツネイシホールディングほど詳細ではないですが、大手企業での研修の成果が紹介されています。

登場するのは「東レ」「JR西日本」「みずほファイナンシャルグループ」の3社。

上記ポイントの7番目は東レのお話で、他にも東レでは、ユニクロと組んで開発したヒートテックも、この研修に参加した社員さんが大きくかかわっていたのだとか。

また、みずほの研修では、社内では「タブー視」されていた「2バンクモデル」(銀行部門を大企業向け銀行と中小企業向け銀行とに分けている)の見直しや、1バンクへの移行論の議論が重ねられたそうです……って、「タブーを解放」しまくりですなw


◆本書の巻末には、後ろ開きで「授業を乗り切るための虎の巻」と題した19ページのアンチョコも収録。

研修内で使われる図や考え方も、これを読み込んでおけば理解が深まりそうです。

本書を読んで思ったのが、『経営学を「使える武器』にする』というタイトルが、まさに腑に落ちたな、ということ。

あらゆる「経営戦略本」と一緒に読んで頂きたい1冊です。


これはもうオススメせざるをえません!

経営学を「使える武器」にする
経営学を「使える武器」にする
はじめに
準備編 経営学の基本を頭に入れる
実践編 経営学を使って、造船会社を変革する
補講 東レ、JR西日本、みずほの挑戦
おわりに
授業を乗り切るための虎の巻


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【オススメ】『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』鈴木博毅:マインドマップ的読書感想文(2012年04月09日)

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【目から鱗の経営本】『どうする? 日本企業』三品和広(2011年08月21日)

【スゴ本】『ストーリーとしての競争戦略』楠木 建(2010年10月20日)

【オススメ】「異業種競争戦略」内田和成(2010年02月04日)


【編集後記】

◆本書の研修で『競争優位の戦略』以外で教材となっている本をいくつかご紹介しておきます。

コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 基本編 第3版
コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 基本編 第3版

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)
ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

他にも10冊以上紹介されていますので、気になる方は本書にてチェックしてみてください。


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