2012年03月03日
【行動経済学】『鈴木敏文の実践!行動経済学』
朝日おとなの学びなおし 経済学 鈴木敏文の実践!行動経済学 (朝日おとなの学びなおし 経営学)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、セブン-イレブン・ジャパンの代表取締役会長・CEOの鈴木敏文さんの「思考」に迫る1冊。鈴木さんの本を数多く手がける、ジャーナリストの勝見 明さんとの問答形式により、セブン・イレブングループの戦略の意図を解き明かしています。
アマゾンの内容紹介から。
「顧客はなぜ、その商品を手にとるのか」。セブン・イレブン総帥の鈴木敏文氏の経営のコツは、注目の行動経済学のセオリーに通じる。「フレーミング効果」「損失回避性」など、抽象的な経済用語が、コンビニ・ビジネスの現場で叩き上げられた「鈴木語録」によって、みるみる理解できるようになる。コンビニだけでなく、さまざまなビジネスに、部下のマネジメントに役立つ「最新の経営バイブル」。
タイトルや装丁は軽めですが、中身はなかなか濃厚でした!
いつも応援ありがとうございます!
【ポイント】
■1.売り手側から買い手側へ視点を変えてデータを読む例えば、量はわずかでも早朝にサラダの売り上げが増えたとき、ピーク時の量ばかりに目を奪われていると、その変化を見逃してしまいます。一方、顧客の視点に立つと、そこにどんな顧客の心理が表れているかを考えるようになります。
その結果、朝、ダイエット中のOLが朝食代わりに購入するとか、昼の混雑時を避けるため、出勤途中で買い、会社の冷蔵庫に入れておくといった新しい潜在的ニーズを発掘し、朝もサラダの発注を多く仕かけることで、量につなげることができます。
■2.顧客に納得してもらえる「フェアプライス」が重要
例えば、1本200円の大根と半分にカットした120円の大根を並べると、以前は1本の方がよく売れました。最近は割高な半分の方を買っていく顧客が増えています。
前は1本丸々買っても全部使い切れないことがあった。それが半分なら全部使い切れます。1本200円の方がグラム単価は安く、価格面の経済学的な効用は大きくても、半分で120円の方に価値を感じ、フェアプライスであると考えるようになってきたのです。
■3.「気持ちの世界」にいる顧客に「理屈の世界」で接してはいけない
セールを疑問視した人々は、「現金下取りは割引きと同じ」→「今は割引きしてもなかなか売れない」→「下取りだけでは反応しない」と理屈で考えました。
一方、わたしはこう考えました。タンスの中が服でいっぱいなら、タンスの中を空ける仕かけを考えればいい。もう着ない服が価値を持ち、タンスの中が空くなら顧客はお店にやってくるはずだ。その心理や感情、皮膚感覚、つまり、気持ちを汲んだのです。
■4.潜在的ニーズは顧客心理に埋め込まれている
難しいのは、今は顧客自身に「こんな商品がほしい」という明確な欲求のない時代だということです。目の前にないものについては聞かれても答えられず、現物を見せられて初めて、「こんな商品がほしかった」と気づくのです。
例えば、セブン-イレブンには「こだわりおむすび」というヒット商品があります。ワンランク上の素材を使い、値段は100円台後半と従来のコンビニエンスストアのおにぎりとは異なる商品でした。
もし、事前に消費者調査やアンケート調査を行い、「200円近い高級おにぎりをコンビニで買うか」と質問していたら、おおおかた、「ノー」と答えたでしょう。
■5.リスクを取らないと消費の「爆発点」には到達できない
例えば、スーパーマーケットで、魚フライを広いフェイスをとって売ったところ、単品で500枚売れたとします。それほど人気のある魚フライなら、フェイスを多少小さくとっても売れるかというと、100枚も売れなかったりします。
商品の売れ行きにも爆発点があって、単品あたりの陳列量が一定以上になると顧客の認知度が高まり、買いたいという心理が働いて、爆発点に達します。(中略)
一歩踏み込んで挑戦すれば、当然、リスクをともないます。しかし、爆発点はリスクの向こうにあります。挑戦する意欲が顧客の心理に影響を及ぼし、連鎖反応を起こして爆発点をもたらす。需要は顧客の心理とともに動き、爆発点があるという原理をしっかりと認識しておくべきでしょう。
■6.最初から完璧なものをつくる必要はない
例えば、セブン銀行のATMの低コスト化はなぜ可能だったのか。既存の金融機関では、1台で高級外車が買えるほどの高額な装置になっていたのは「よいATMをつくるにはこれだけのコストがかかる」という発想であったためです。
ぞの4分の1近くの価格に抑えることができたのは、顧客が求めるものを見きわめ、最低限必要な機能は何と何と何かを考え抜き、突きつめたからです。
新しいことを始めるときに重要なのは、何が必要なのかの見きわめです。
その際、忘れてならないのは、必ずしも最初から完璧で絶対的なものをつくる必要はないということです。
■7.「まあまあ」の妥協から停滞は始まる
セブン-イレブンでは店舗で提供するデイリー商品を毎日、昼に役員たちで試食しますが、すでに店頭に並んでいて、そこそこに売れている商品でも、食べてみておいしくないと感じたら、顧客に提供すべきでないと、北は北海道から南は九州まで全国すべての店頭から20分以内に撤去させます。
もし、顧客がそれを食べ、「セブン-イレブンの商品はこの程度か」と感じたら、それはやがてすべてに波及します。
一度、「まあまあ」「なあなあ」に流れたときから、すべての停滞が始まります。だから、一度方針を決めたら、けっして妥協せず、徹底させることが重要なのです。
【感想】
◆「行動経済学?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、本書の内容は下記目次にもあるように、必ずしも「行動経済学」に限られたものではありません。しいていうなら、第1講、第2講あたりがテーマ的には近い感じで、逆に第3講以降の「話し方」「マネジメント」「リーダーシップ」はちと違うかと。
ただし本書は、最初の2講が6割弱のページ数を占めており、後半はやや薄め(内容は濃いですが)。
やはり事例の中心がセブン-イレブンなだけあって、消費者の購買行動に焦点が当たるのは当然だと思います(ちなみに上記ポイントも、そのほとんどが最初の2講からです)。
◆なお、今回割愛した中にも、「行動経済学」的なお話はいくつかありました。
分かりやすいところでは、「松竹梅理論」。
いわゆる「3つ商品があったら、真ん中の価格の物を選ぶ」というヤツですね(本書では「松竹梅理論」とは言われてませんが)。
実際、ヨーカ堂で羽毛布団を売った際、最初18,00円と38,000円の商品をだしたところ、38,000円の方はあまり人気がなかったのですが、1ランク上の58,000円の商品も並べて置いた途端、38,000円の商品が一番売れるようになったのだそう。
まさに絵に描いたような「松竹梅理論」ワロスw
……って、レストランでコースを頼むとき、大抵真ん中を選んでいる私が言えた義理ではありませんが。
◆また、本書を読んで改めて分かったのが、鈴木さん、色々なことをおやりになるたびに、周りから反対されています。
セブン銀行しかり、プライベートブランドの「セブンプレミアム」しかり、上記の「現金下取りセール」しかり……。
一方、以前この本でも触れていたように、皆が参入を望んだボーリング場には一人で断固反対を貫いたという。
なぜ、セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語れるのか?―鈴木敏文の「不況に勝つ仕事術」40 (プレジデントブックス)
参考記事:【セブンの凄さ】「なぜ、セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語れるのか?」勝見 明(2009年06月05日)
表に出てこない部分はさておき、少なくとも鈴木さん以外の方が舵取りをされていたら、今のセブン-イレブンはなかったのかもしれません。
◆ちなみに本書は、1項目につき4ページを割き、最後のページの半分〜1ページが図解、という構成になっています。
見開き1ページがポンチ図の図解本に比べると、中身は濃いですし、いくつかの図は理解を深めるのに役立っており、なかなか侮れないな、と。
ただしセブン-イレブンの事例等は、どうしても他の鈴木さんの本とかぶってしまうのが避けられないので、買うべきか否かは、そこをどう判断するかだと思います。
もちろん、これを機会に「鈴木イズム」を学びたい方には、本書はうってつけではないでしょうか?
セブン-イレブンの勝利のヒミツがここに!
朝日おとなの学びなおし 経済学 鈴木敏文の実践!行動経済学 (朝日おとなの学びなおし 経営学)
第1講 世界が認めた「仮説思考」を学ぶ
第2講 高成功率の「リスクをとる力」を学ぶ
第3講 あがり症でも話し上手になれる「話し方」を学ぶ
第4講 能力を引き出す「マネジメント力」を学ぶ
第5講 徹底力の「リーダーシップ」を学ぶ
【関連記事】
【セブンの凄さ】「なぜ、セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語れるのか?」勝見 明(2009年06月05日)【コンビニ三国志?】『コンビニだけが、なぜ強い?』吉岡秀子(2012年02月12日)
【スゴ本】『勝てば官軍―成功の法則』藤田 田(2011年11月25日)
【価格戦略】『マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか? クーポン・オマケ・ゲームのビジネス戦略』吉本佳生(2010年12月04日)
【オススメ】『不合理だからすべてがうまくいく』ダン・アリエリー(2010年11月26日)
【ネタ満載】「ねじれ脳の行動経済学」古川雅一(2009年04月24日)
【編集後記】
◆タイトルだけ見てワロタ1冊。80時間世界一周 格安航空乗りまくり悶絶ルポ (扶桑社新書)
こういうネタ的な本も面白そうですねw
ご声援ありがとうございました!
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