2012年02月23日
一流職人がこっそり教えてくれる『「生き方」の値段』の真実

「生き方」の値段―なぜあなたは合理的に選択できないのか?
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、行動経済学に関するちょっと前に出た良書。読みかけの状態で誤って既読本段ボールに紛れてしまったのを、今般、無事救出致しました(大げさ)。
アマゾンの内容紹介から。
出産、就職、引っ越し、結婚、そして死......あらゆる人生の選択には「値段」がついている。あらゆるモノにはどのようなカラクリで値段がつけられ、あなたはどう影響を受けているのか? 最も身近な経済を読み解く。
『ヤバい経済学』や、『予想どおりに不合理』といった作品がツボな方なら、きっとお気に召すハズ!
なおタイトルは、お馴染み(?)「ホッテントリメーカー」作です。

【ポイント】
■1.人によって違う時間と金の価値たとえば、購買行動を考えてみよう。デンヴァーの買い物客を調査した結果、年収が7万ドルを超える家庭は、年収3万ドルの家庭よりも同じ品物に5パーセント多く払っているのがわかった。子どもがいない独身者は、5人以上の家族よりも10パーセント支払いが少ない。家長が40代前半の家族は、家長が20代や60代の家庭よりも8パーセント支払いが多い。定年退職した人々は、中年の人々よりも買い物には慎重である。彼らは律儀に最も得な買い物を調べ、同じ商品には同じ金額を支払う。一方、中年の人々はより気軽にものを買い、同じ商品をさまざまな価格で買う。
■2.人によって違う命の値段
経済学者のシェリングはこう警告している。「金持ちは交通渋滞に巻き込まれて1時間を無駄にしたり、列車の中で5時間過ごしたりするのを避けるために金を余計に払う。それと同じで彼らにとって自分自身や大切な人の死のリスクを減らすことの価値はより大きい。なぜ価値が大きいかというと、彼らが貧しい人々よりも金持ちだからだ」タイタニック号が、すべての乗客を避難させるのに十分な救命ボートを積んでいなかった理由がこれで説明される。死亡率が一等船室で乗客の37パーセント、二等船室で57パーセント、三等船室で75パーセントだったのもまったく不思議はない。
■3.不幸も幸福も慣れてしまうもの
金と幸福のつながりにも限度がある。人間には適応力があるからだ。人間は死別の悲しみから立ち直らなければならない。イギリスの研究によると、身体に障害を負うと幸福度は大きく下がるが、1年か2年すると失った分がほぼ元通りになるという。結婚と幸福度を調べたドイツの研究によって、ドイツの女性は夫の死の悲しみから2年以内に立ち直っていることがわかっている。
幸せもまた、長くは続かない。ドイツの女性は、求婚され、結婚するときに幸福度が大きく上昇する。しかし、結婚式を挙げた最高の年が過ぎ、2年もすると幸福度は前と同程度になる。金持ちになった人にも同様のことがいえる。宝くじに当たって得た高揚感は、たとえ金額が何百万ドルだったとしても、すぐに消えてしまうといいう研究結果がある。幸福度は、6ヵ月以内には元の水準に戻ってしまうのだ。
■4.奴隷制が今日一般的でないワケ
アメリカにおける移民労働は、一見評判が悪い奴隷制に対する答えになった。つまり、奴隷制は評判が悪くないばかりか、異なる巧妙な形をとったのである。不法移民労働者は、年季奉公の召使いとあまり変わらない。警察から隠れ、職場における権利を主張することもできず、雇い主に依存している。合法の移民労働者のなかには、ビザの規定で他に就労できない者もいる。
しかし、おそらく最も説得力があるのは、労働者の値段が安すぎて、奴隷にするほどの価値がないということであろう。もちろん投資銀行家や専門職など、高賃金で働いている人もいる。しかし、アメリカの最低賃金は30年以上前よりも低くなっている。さらに、グローバル化が生産者に安い労働カを提供している。2010年3月、べトナム政府は最低月給を73万ドンに引き上げたが、これは40ドルにも満たない。奴隷をもつのはこれよりも金がかかるだろう。
■5.海賊行為が音楽業界に与えた影響
2003年、全米レコード協会がP2Pのサイトからわずかな曲でもダウンロードした人々を告訴しはじめたのは、研究者にとっては海賊行為の影響力を見る機会となった。音楽の売上におけるその決定の影響力を追ううちに、研究者たちは興味深い行動パターンに気づいた。予想通り、レコード会社が法的手段に訴えて何ヵ月かたつと、ファイル共有は減ったのである。ティーンエイジャーたちは刑務所に入る羽目になるのを恐れたのだ。
しかし、興味深いのは、海賊行為を止めさせたことで一流のアーチストの売上はあまり変わらなかったが、そうでないアーチストの売上は大きく増えたということだ。ビルボードのチャートに20位以下で初登場したアルバムがチャートに残る期間が、レコード会社が法的手段に訴えると脅したことによって、2.9週間から4.7週間に延びたのである。海賊行為は、二流のアーチストにはより有害だということがわかる。
■6.賄賂とロビー活動の使い分け
サントメ・プリンシぺとアメリカとで政治的影響力を掌握する戦術が違うのは、倫理観ではなく、戦略によるものである。実際、賄賂を渡していた企業が成長して多くの官僚に賄賂を要求されると、ロビー活動へと方向を転換するように、国も賄賂をロビー活動へ変えるのだと経済学者は考えている。ロビー活動は、法を執行する人を買収するのではなく、法律を変えるので費用対効果が大きいからだ。
企業は、立場によって、どちらも行う。2010年、ドイツの自動車会社ダイムラーAGは、10年間にわたって中国、ロシア、タイ、ギリシアなど22の国の政府との契約を獲得するために政府役人に何千万ドルも使った。トルクメニスタンでは、ある役人に30万ドルのメルセデスべンツのSクラスを誕生日プレゼントに贈っている。富裕国では、別の手口を使う。ドイツでは、2001年から2009年にかけて、400万ユーロの政治献金をした。ダイムラーが2007年までクライスラーを所有していたアメリカでは、政治活動委員会が選挙のたびに100万ドルを使っていた。2007年にクライスラーを売却するときは、700万ドルを議員に対するロビー活動に使った。
■7.欧州と米国の考え方の違い
ヨーロッパの人々が所得の分配とビジネスチャンスが不公平だと信じているのは、封建時代の過去に根ざしている。当時、富は努力とは無関係で、良い家に生まれるかどうかだけの問題だった。アメリカ人は逆の見方をすることが多い。彼らは悪事は割が合わない不誠実なことで、一生懸命働くことが富への鍵だと信じている。アメリカン・ドリームをすべての人が手に入れられると確信しているのだ。成功が運とコネによるものと信じる人よりも、一生懸命働けば生活が良くなると信じる人が10倍も多いのである。西ヨーロッパでは、その割合は1対2である。ドイツ人の4分の1以上は、貧しい人に再分配するために金持ちが税金を払うのは民主主義にとって不可欠だと考えている。アメリカ人でそう考えているのは7パーセント以下だ。
【感想】
◆本書では、下記目次にあるように、さまざまな事象に対して「値段」という切り口で分析。それにより、日頃は意識することのない「問題」を浮き彫りにしています。
例えば、第2章の「生命」。
「人それぞれの命に格差がある」ということを表だっては口にする人はいなくとも、何かの機会に金額換算すると、必然的に明らかになってしまいます。
実際、9.11の犠牲者の中には、年収数百万ドルの重役もいれば、レストランで働く年収1万7千ドルほどの不法移民労働者もいたわけで。
犠牲者補償基金では、死亡した人の非経済的損失分は一律に評価(1人25万ドル+扶養家族1人につき10万ドル)したものの、経済的損失分を算出したところ、最低25万ドルから最高640万ドルまで大きく分かれたのだそう。
◆同じようにデリケートだったのが、第4章の「女性」の値段で、あまりにデリケートなので、丸ごと割愛させて頂きました(すいません)。
世の中には「一夫多妻制」のところもあれば、「花嫁を金で買う」ところもあり、逆に「花嫁の家族が持参金をもたせる」ところもあり、女性の価値はさまざまです。
持参金制度のあるインドでは、持参金が重荷となっており、とある州のサブカーストを調べたところ、持参金の平均は、世帯年収の6年分にもなるのだそう。
日本でも、「名古屋の花嫁さんの嫁入り道具が豪勢」という話を聞きますが、次元が違いますね。
結果、インドでは昔から女児を「間引く」傾向があり、超音波技術で胎児のうちから性別が分かるようになると、その傾向はさらに増えたのだとか(くわばらくわばら)。
◆ビジネス的な話として興味深かったのが、第6章の「無料」の値段のお話。
イギリスのバンド、レディオ・ヘッドがアルバム『イン・レインボウズ』を自由価格設定にした(無料で入手することもできた)件は、ご存知の方も多いと思います。

イン・レインボウズ
その後に出た上記CDに比べると音質が低いとはいえ、数百万人がダウンロードし、バンドの収益は1ダウンロードあたり2.26ドル(38%の人が支払った)。
さらにCDも大ヒットし、コンサートツアーも大盛況だったことを考えると、「フリー戦略」は正解のように思えます。
しかし、これはあくまでも「一流アーチスト」だからのお話。
『イン・レインボウズ』の発売から3週間後にソウル・ウィリアムズが行った同様の試みでは、ダウンロード数は15万5000弱で、そのうち有料でダウンロードした割合はたった18%ほどだったそう(詳細は本書を)。

Inevitable Rise & Liberation of Niggy Tardust
◆本書に限らず、行動経済学的な本は、「じゃー、どうするの?」的な結論に触れられていない場合が多いです。
もちろん、そもそもが「ノウハウ本」ではないので、当たり前と言われたらそうなのですが。
ただし、こうした「事例」を知っているのといないのとでは、思考や発想に差がでてくることもあるかと。
特に、奴隷制や賄賂の話などは、個人的には「目からウロコ」でした。
この手の本が好きな人には、たまらない1冊!

「生き方」の値段―なぜあなたは合理的に選択できないのか?
はじめに 値段はどこにでもある
第1章 「モノ」の値段
第2章 「生命」の値段
第3章 「幸福」の値段
第4章 「女性」の値段
第5章 「仕事」の値段
第6章 「無料」の値段
第7章 「文化」の値段
第8章 「信仰」の値段
第9章 「未来」の値段
おわりに―値段が機能しなくなるとき
【関連記事】
【オススメ】『不合理だからすべてがうまくいく』ダン・アリエリー(2010年11月26日)【ヤバ経再び】『超ヤバい経済学』スティーヴン・D・レヴィット,スティーヴン・J・ダブナー(2010年09月27日)
【スゴ本】「予想どおりに不合理」ダン・アリエリー(2008年12月15日)
【今さらでつが(汗)】「スタバではグランデを買え!」吉本佳生(2008年09月16日)
「まっとうな経済学」ティム・ハーフォード(2006年10月23日)
「ヤバい経済学 」スティーヴン・レヴィット&スティーヴン・ダブナー (著)(2006年05月07日)
【編集後記】
◆今日の本に関連して。
幸福の計算式 結婚初年度の「幸福」の値段は2500万円!?
こちらも様々なものに値段をつける本のようです。

この記事のカテゴリー:「ビジネススキル」へ
「マインドマップ的読書感想文」のトップへ
スポンサーリンク
この記事へのトラックバックURL
●スパム防止のため、個別記事へのリンクのないトラックバックは受け付けておりません。
●トラックバックは承認後反映されます。
当ブログの一番人気!
7月10日までのところ値引に移行して一部延長中
Kindle月替わりセール
年間売上ランキング
月別アーカイブ
最近のオススメ
最近の記事
このブログはリンクフリーです