2012年02月18日
【秀逸!】『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』佐々木繁範
思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、かなり本格的な「スピーチライティング」に関する1冊。本書の著者の佐々木繁範さんは、ソニーで盛田会長や出井社長のスピーチ原稿に携わっていた方だけあって、ロジカルかつ分かりやすく「スピーチ」について解説されています。
アマゾンの内容紹介から。
プレゼンのトレンドは、スライド重視から、心を動かすスピーチへ! スティーブ・ジョブズほか、オバマ大統領、TED、ブータン国王など、国内外の名スピーチを徹底解剖、重要ポイントだけを抽出。話の組み立て方から原稿作成、話し方にいたるまで、スピーチの基本がこの1冊ですべてわかる。
スピーチ原稿の書き方のイロハが、初歩から学べる良書でした!
いつも応援ありがとうございます!
【ポイント】
■1.感動のカギは、スピーチ原稿にありスピーチやプレゼンというと、多くの人が、原稿を見ずに話すこと、魅力的なスライドや小道具、効果的なジェスチャーを使いながら話すことが、成功の大前提だと思い込んでいます。
しかし、本当にそうでしょうか。
(スタンフォードでの)ジョブズは原稿を見ながら話をしています。スライドも使っていません。演台から離れず、体も手もほとんど動かしていません。それでも、心の底から聴衆を感動させました。
感動の本質は、もっと別のところにあるのではないでしょうか。
そのカギは、スピーチ原稿にあると、私は考えています。アイデアを練り、心から聴衆の役に立ちたいと思って話す内容を整理し、原稿をつくり上げていく過程で自ずと魂がこもるのです。
■2.ビジネスパーソンのスピーチで使える3つのタイプ
1つ目は、「ポイント提示型」です。これは、結論を支える主張や説明のポイントをグループ化して整理・解説しながら展開するスタイルです。あるテーマについて簡潔に意見を述べたり、説明したりするときに効果的です。
2つ目は、「問題解決型」です。これは、聴衆が関心を持つテーマについて、現状、問題点、解決策、アクションと、聴衆の思考パターンに沿って話を展開するスタイルです。聴衆を説得し、ある行動を促したいときに効果的です。
3つ目は、「ストーリー型」です。これは、出来事を主人公の主観を交えながら、時間の流れに沿って披露していくスタイルです。物語の要素があるので、聴衆の共感を得やすいのが特長です。実際の経験談とそこからの学びを伝えたいときに効果的です。
■3.3つのスピーチタイプごとの留意点
●ポイント提示型
ポイント提示型は並列的に論点を並べる構造のため、テーマに関する現状や、何を問題と認識するか、なぜそう考えるのかといった点についてはあまり触れられません。ですので、説明力は非常に高いのですが、説得力という観点では、十分ではないのです。したがって、スピーカーと聴衆の間で、テーマについてある程度の共通認識がある場合に使うことが望まれます。
●問題解決型
問題解決型は、聴衆の思考の流れを考慮した丁寧な論の展開が可能となり、聴衆を納得させ、アクションを促しやすいという利点がある一方で、論理の展開としては、少し複雑になってしまいます。ですから、この型を用いるときは、論の展開が耳で聞いてすっきり明確にわかるよう、筋道を工夫する必要があります。単純なチェック方法ですが、原稿をつくったあと、声に出して読んでみると効果的です。
●ストーリー型
ストーリー型の注意点としては、あまり長い時間を物語1本で押し切るのは難しい、ということです。途中で飽きられてしまう可能性があります。(中略)
したがって、ボディを1つのストーリーで構成する場合は長くても10分以内、構成の一部に用いる場合は3分以内に収めるのが妥当ではないかと思われます。
■4.オープニングで押さえるべき5つのポイント
聴衆の関心をつかみ、心を通い合わせる方法としては、この他にもさまざまなテクニックがあります。たとえば、『プレゼンテーションzen』(熊谷小百合訳、ピアソン桐原)の菩者であるガー・レイノルズは、次の5点を挙げています。
・個人的:個人的な内容を話す。
・意外性:驚かせる。
・目新しさ:新しいことや人が知らないことを話す。
・挑戦:一歩引いて見た視点や、従来と異なる考えかたを提唱して戦いに挑む。
・ユーモア:ウイットに富んだユーモアを言う。でも、失敗する場合もあるので注意が必要。
プレゼンテーションzen
■5.クロージングの代表的な3つのパターン
●「要約」
最も基本的なパターンが、要約です。ここまでのスピーチで述べてきたことを、いわば箇条書き的にまとめ、改めて記憶に残してもらう方法です。
●具体的なアクションを示す
また、具体的なアクションを誘う呼びかけで締めくくるパターンもあります。主には、3章のボディの構造で紹介した「問題解決型」のスピーチなどで用います。
問題解決型のスピーチの場合、結論である解決策は少し遠い目標であるため、もっと手前の、明日からでも始められる小さな一歩を提示し、やる気を起こしてもらうというわけです。
●引用で印象づける
さらにレべルアップしたパターンとして、引用を使う方法があります。
引用の基本は、「自分の思いを人の言葉で語る」ということです。古代の賢人や著名人の言葉などを用いることで、自分の主張をバックアップしてもらうわけです。
■6.本番で使う手元原稿を工夫する
最後に、本番で使う手元原稿を準備しましょう。何が使いやすいかは人それぞれですが、一例として次のような工夫を加えることで、息継ぎやポーズのタイミングをさらに把握しやすくなるとともに、チラッと目を落とすだけで、瞬時に原稿の内容を把握できるようになります。これにより、聴衆のほうに視線を向けながら、語りかけるような話がしやすくなるのです。
・息継ぎの箇所ごとに改行する
・ポーズを取るところで、1行スペースを空ける
・話題が変わるところは、2行のスべースを空け、長めにポーズを取ることがわかるようにする
・原稿用紙の下3分の1のスぺースは、空白にしておく(こうすれば、原稿を見るときに、視線を下のほうまで落とさずに済むので)
【感想】
◆今回も引用部分のボリュームがあるので、この辺で。今まで当ブログでは、プレゼンやスピーチの本をそれなりにご紹介してきましたが、その多くが「実際のパフォーマンス中心」の内容であり、ここまで「スピーチ原稿」について掘り下げたものはなかったと思います。
思えば、本書でも指摘されているように、ジョブズのスタンフォードでのスピーチは、彼の他のプレゼンとは違って、これといったパフォーマンスはなく、「原稿勝負」とも言えるもの。
本書では、このスピーチやその他の著名人のスピーチを題材として、「原稿の作り方」を事細かく指南してくれています。
◆まず、第1章の「相手を知る ――どんな場で、聴衆は何を期待しているか」では、「場」と「聴衆」について、事前に確認しておくことを列挙。
スタンフォードの例で言うなら、会場のスタンフォード・スタジアムは「座席数5万のアメフト競技場」であり、ハナからプロジェクター等は使えません。
また、遠くの聴衆からは、自分の姿も小さく、表情も極めて見えにくい状況。
聴衆はスタンフォード大学の卒業生やその家族であり、果たしてどのような内容が望まれているのか。
以前ご紹介した『スティーブ・ジョブズ II 』では、直前まで悩んでいたジョブズが描かれていましたが、こんな風に期待に応えられるようなスピーチを練っていたのかもしれません。
スティーブ・ジョブズ II
参考記事:【神話完結】『スティーブ・ジョブズ II』ウォルター・アイザックソン(2011年11月03日)
本書の第2章では「連想マップ」を用いて、観衆の期待を洗い出す手法が紹介されていますので、ぜひご確認を。
◆スピーチの根幹をなす「ボディ」部分については、第3章にて解説が。
上記ポイントで挙げた3つのタイプを押さえておけば、ほとんどのケースで対応できると思います。
なお、これらタイプは単独でも使用できますが、組み合わせることも可能。
例えばジョブズのスピーチは、時間軸で切り分けた3つの話をする「ポイント提示型」ですが、その3つの話の中身は、それぞれ「ストーリー型」の構造となっています。
同様に、基本構造は「問題解決型」としつつも、その問題点について「3つの問題が起きています」と「ポイント提示型」を用いて説明する、といったパターンも考えられる、という。
◆もちろん、「ボディ」以外の「オープニング」や「クロージング」も、スピーチのクオリティを上げるためには大事であり、本書では第4章と第5章にて掘り下げています。
ちなみにジョブズのスタンフォードでのオープニングは、非常にシンプル。
対して、ハリーポッターシリーズの作者であるJ・K・ローリングのハーバードでの卒業式祝賀スピーチのオープニングは、開始20秒あたりからドッカンドッカン笑いを取っています(本書には冒頭部分の対訳アリ)。
一方、上記ポイントの4番目で挙げた「5つのポイント」を満たした象徴的な例として本書で紹介されているのが、ランディ・パウシュ教授の『最後の授業』のオープニング。
確かに「末期ガンのスライド」の直後に、豪快に腕立て伏せをされたら、度胆を抜かれます罠。
最後の授業 DVD付き版 ぼくの命があるうちに
参考記事:【感動!】「最後の授業」ランディ・パウシュ(2008年06月16日)
◆本来スピーチは、その全体を通して「1つのメッセージ」を伝えるもの。
ジョブズのスピーチも、「点と点をつなぐ」「愛と敗北」「死について」という3つの体験から、「今日が人生最後の日だと思って、何があろうと自分の心に従って、愛することに取り組め!」というメインメッセージを表現しています。
そして本書のメイン・メッセージは、次のようなものだそう。
「心を込めてスピーチを準備し、心を込めて話をすれば、たとえ華麗なパフォーマンスができなくとも(原稿を参照しても、ジェスチャーが地味でも)、必ず思いを届けることができる」これこそ私や皆さんにもできる、「心に残るスピーチ」ではないか、と。
すべてのビジネスパーソンに捧ぐ!
思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書
プロローグ スティーブ・ジョブズのスピーチは、なぜ、人々の心を打つのか
<Part1 スピーチの核をつくる>
◆1章 相手を知る ――どんな場で、聴衆は何を期待しているか
◆2章 メッセージを絞る ――最も伝えたいことを明確にする
<Part2 話を効果的に組み立てる>
◆3章 全体構成とボディ ――伝わりやすい構造、順番を考える
◆4章 オープニング ――聴衆の注意を引きつける導入とは
◆5章 クロージング ――記憶に残る終わり方
<Part3 原稿づくり、リハーサル、そして本番!>
◆6章 リハーサル ――原稿のブラッシュアップから前日の準備まで
◆7章 デリバリー ――壇上での立ち振る舞いから質疑応答まで
エピローグ スピーチ・ライターの仕事
【関連記事】
【スゴ本】『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』カーマイン・ガロ(2010年07月11日)【スピーチ】『口下手な人のためのスピーチ術』生島ヒロシ(2012年02月05日)
【奥義?】『スピーチの奥義』寺澤芳男(2011年05月19日)
【スピーチテク】『スピーチの天才100人』から選んだ10のTIPS(2010年11月01日)
【テク満載!】ブライアン・トレーシーの 話し方入門(2008年08月03日)
【編集後記】
◆本書の著者の佐々木さんが、クリントン元大統領のスピーチライターだったヴィンカ・ラフール女史に薦められた2冊のうちの1冊がこちら。アイデアのちから
何でも彼女自身「手元に置く本を2冊だけ選ぶならばこの2冊を選ぶ」とまで言われているそう(もう1冊はネタバレ自重、というか洋書なんで読んでませんw)。
もし、未読の方がいらっしゃったら、この機会に是非!
参考記事:【オススメ】「アイデアのちから」が予想以上に面白かった件(2008年11月25日)
ご声援ありがとうございました!
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